サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 外伝『出来損ないの魔法使い』その一

『高町なのは』

その名を聞けば、どんな犯罪者でも震え上がりひれ伏すと言う、最強の魔導師とも名高い女性。別名“処刑人(エグゼキューター)”……そんな彼女の魔法使いとしての名は、己自身も認める『出来損ないの魔法使い』

最初に聞けば皆が不思議に思う……それだけの実力を誇っていながら何故“出来損ない”なのかを。

――これは、この世界の『高町なのは』の生き方の証そのもの。ならば、見てみようではないか。彼女自身が語る事の無い、見てきた者達にしか判らない彼女の貫く意志を。

――これは、一つの歪んだ物語。ただ、己の選んだ道を突き進む魔法使いの物語――









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

後に『最強無敵の電撃姫』として名を馳せる事になる少女、フェイト・テスタロッサが己の人生を本当の意味で“始めた”事件“ジュエルシード事件”……その約3年も前。

時空管理局・首都防衛隊。通称『ゼスト隊』はこの時代でも健在であった。多少の違いは在れど、その実力は確かに本物である。

そんなゼスト隊の訓練場では、隊のぼぼ全員が目を丸くして目の前の少女を見ていた。自分達は確か“ある人物と模擬戦をする”と言う事で集まった筈……だが、今目の前にいるのは紛れもなく“少女”だった。

その少女が、隊の騒めきを気にした様子もなくにっこりと笑みを浮かべ自己紹介をする。

「初めまして皆さん。この度、皆さんと模擬戦を行う事になりました、高町なのはです」

「……あの君……じゃなくて、貴方が俺達の相手を?」

「はい。何か問題でも?」

戸惑い。彼らがその感情を持つのも無理は無い。彼らの目の前にいるのは、せいぜい九歳か十歳そこらの少女。その少女が、自分達“全員を纏めて”相手をする。

まぁ、己の実力に自信を持つ彼らが少女を侮るのも無理はなかった。そしてそれは、流石のゼスト・グランガイツと言えども例外ではなかったと言える。

親友より与えられた資料を見ながらも、部下のクイントと共にさっそく模擬戦の準備を行っているなのはを逃さず観察していた。

「高町なのは……暫定オーバーSランクの実力を持つ、レジアスも太鼓判を押す程の魔導師……か」

「はっきり言って、危ないですよ。あの歳でそれだけの力を持つのは……」

「あぁ。かもしれんな」

そう、正確な年齢は入って来てはいないが、あの歳でオーバーSなどという強大な力を持ってしまってはどうなるか……下手をすれば、自分の力に溺れてしまう事だってあり得る。

注意するに越した事はない――部下のクイントとそう結論付けていたが、ゼストは少し違っていた。彼の“親友”たるレジアスが“太鼓判を押した”と言う部分に引っ掛かりを感じていた。

果たして自分の親友は、自分の力に溺れる様な人間に太鼓判を押すような人間だっただろうか? ……否、断じて否だ。

だから、ゼストには少女が“単なるオーバーSの魔導師”とは思えなかった。


――そして、その予感は的中する事となる。


模擬戦開始から僅か3分……その状況を逃さず見ていたクイントは唖然と、ゼストは目を大きく見開き驚きを隠せずにいた。

「……戦闘終了、ですね」

土煙が晴れる。何人もの人間が倒れ伏せ、痛みに呻くその中心に――高町なのはは、白いコートをはためかせ傷一つ負わず立っていた。
その表情に先程の様な笑みはなく、感情の起伏が少ない表情がただ終わった戦場を見つめ……ふと、なのはとゼストの目が合った。僅かばかりの交錯――瞬間、ゼストは出口に向かって歩き出した。向かうは無論、少女の待つ訓練場へ。

「隊長!?」

「どうやら、俺は彼女を見誤っていたらしい」

「え……?」

それだけ言い残し、ゼストは扉の向こうへと消える。数分もしない内に訓練場にたどり着いた時には、倒れ伏せていた隊員達も立ち上がっていた。

「た、隊長!?」

「下がっていろ、俺が出る」

既にバリアジャケット展開、己の槍を持ち首都防衛隊隊長、ゼスト・グランガイツ自らが少女と相対する。

白と茶色のコートがはためき、二人の視線は再び交錯する。ゼストの鋭い眼光を見ても、なのはは一瞬も怯まない。その強き瞳は、強者たるゼストを鋭く見つめていた。それを見て彼は、彼女の“強さ”を確信した。

「一つ詫びよう。お前のその瞳……力に溺れる様な物ではない。何か、強い覚悟を決めて突き進む者の瞳だ。お前の強さを見誤った俺の未熟を、今ここで詫びる」

「ではその詫びの代わりに、私と全力で戦ってもらえますか?」

「心得た。全力を以って、お前と闘おう」

言葉と共に、ゼストが己の得物たる槍を構える。それだけでも、戦士としての強き重みが感じられる。
対するなのはは、背中に機械的な白い翼を展開……その時、ポツリと呟いた。

「さて――貴方は私に何をもたらしてくれますか?」

その問い掛けにならない問い掛けは、一陣の風へと流され消える。しかし、『強き信念』を宿す瞳は躊躇う事を知らない。

「時空管理局・首都防衛隊、ゼスト・グランガイツ」

「……出来損ないの魔法使い、高町なのは」

なのはの翼からは白い魔力粒子が。ゼストの身体からは彼を中心とした魔力による暴風が。

――同時に、爆せた。

「いざ、参る!!!!」

「目標を、殲滅します!!!!」

互いが叫んだ直後に爆せたそれは、一瞬にして距離を零とし激突した。ゼストが槍を、なのはは瞬間的に引き抜いた魔力で刃が構成された武器、マギリングサーベルを振るい鍔競り合いを起こす。

圧倒的な暴風が起こるその中心で、一瞬の拮抗の後に圧され出したのは……なのはだ。いくら今のなのはが超人的な戦闘能力を有しているとはいえ、ゼストとの体格差による力の違いは埋めきれない。

「……ッ!!」

「ウォォ!!」

激しいスパークの光りが瞬き、その瞬間空中に吹き飛ばされたなのは。いや、吹き飛ばされたと言うよりは、翼で後方にブーストし距離を取ったと言う方が正しいだろう。

そこから一度体勢を立て直す様に旋回し……また、閃光が瞬いた。それでも、今まで培った勘も在るのだろうゼストは、障壁を展開し大きなダメージを負う事だけは防ぐ。

魔力式亜音速弾頭加速砲‐レールガン‐。腰のブースターと兼用されているそれは、僅か半瞬で放たれ避ける間もなく着弾した。爆風が吹き荒れ……それをまた、新たな風が中心から吹き飛ばした。

圧倒的な威力を叩き出す、ブースト魔法が行使されたゼストの槍はあっという間になのはが片手で展開したシールドに到達。轟音を放ち、激しい火花を散らす。

息を吐く暇も見えない攻防……それが一旦止まったのは、なのはが自らのシールドを爆破させ互いを吹き飛ばした時だった。ゼストは飛行魔法を行使した己の足で強引に踏み止まり、なのはは空中で回転しながら翼で体勢を立て直す。

……僅か一分足らずの攻防。それだけな筈なのだが、局員達には目を逸らすことが出来ない戦いとなっていた――そう、“局員達には”だ。

「さくらちゃん、今のなのはちゃんの攻防……どんな感じや?」

「そうだね、まだまだ甘いよ。一見、拮抗してる様に見えるけど、ものの見事に圧されてるもん」

「厳しいなぁ」

もう1つの見学席。そこには戦いの行く末を見据える、二人の人物がいた。金髪の少女は戦いの行く末を既に予測し、糸目の青年は飄々としながらも同じく結果までも理解している。

「このままやと、なのはちゃんは――」

「勝てないね、確実に」

そう、極めて冷静な瞳で断言するさくらには、確かな確信がある。少女、高町なのはの戦闘技能……そのあらゆる物を叩き込んださくらだからこそ、断言できてしまうのだ。

体格の差も在るが、今のなのははまだ成長途中。この段階では、市丸ギンの言う通り“このままでは”敗北は必至だ。

――だからこそ、少女は動く。己の願いの下……勝利へ。

グッ、と指が出るグローブ、真っ白いオープンフィンガーグローブを両手に付け、なのはは瞳を閉じ、開いた。

「――ッッ!!」

刹那の瞬間に、なのはの纏う気配がまるで違う物に変化し、ゼストが驚きと戸惑いに目を見開く。
少女の中で何かが弾け、少女の思考はクリアに澄み渡る。

これは一枚目の手札……しかし、これだけではまだ足りない。

「エクスシア、フルドライブ起動。出力20%で固定」

『Yes Master.mode(モード)・unlimited(アンリミテッド) Drive(ドライブ)――Limit Break』

なのはの指示で瞬時にシステムを立ち上げたエクスシアにより、展開していた白い翼が最大出力で無いにも関わらず――眩しい黄金の輝きを放ち出す。

だが出力20%……己に全力での闘いを望んだ少女が、数字だけ見れば加減した状態で挑むのは些か不自然だとゼストには思えた。そしてその疑問は、直ぐに氷解する事となる。

「――往きます」

そう言い、少女の翼から黄金の粒子が輝き放たれ……少女の姿は、輪郭すら残さずゼストの視界から消え失せた。


そして次の瞬間――ゼストの身体は滞空していた空中から吹き飛ばされた。


(なん……だとっ!?)

まさか、と言う表現した出来ない。全くもって、反応すら出来なかった。警戒していた、油断はなかった、なのはからの予告が在ったにも関わらず、最強と名高い部隊の隊長たる、ゼスト・グランガイツが、だ。

本能的に全身に魔力障壁を張り巡らせ、何とか体勢を立て直そうとしたゼストが一瞬、両手でマギリングサーベルを引き抜いたなのはの姿を見た。だが、本当に一瞬だけだった。

「グッ!!」

次の瞬間には、マギリングサーベルがゼストの肩に叩きつけられ、一瞬待たずに別の箇所へ蹴りを叩きつける。

また、また、またまたまたまた。十、二十、三十、四十。姿なき天使が、目に追えぬ凄まじい連撃を加え、追い詰めて往く。

「はああああああぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

戦姫の叫びと共に、また次々と蹴りとサーベルを交えた攻撃を展開。そしてそれは、超速から繰り出される事により一撃一撃が強力な物へと変化している。

ゼストですら、防御に徹する事しか出来ず、例えカウンターを行えたとしても、今のなのはの超反応はそれすら見切るだろう。

もはや、勝負は決した……そう、ただ一人以外は思っていた。ただ一人、なのはの動きを“完璧に目で追っている”少女、さくらだけは、勝負はまだ判らないだろうと予測していた。

(……そろそろ、か)

唯一――ギンもやる気になれば出来るのだが――なのはの表情を見取る事が出来たさくらは、そこからさらに答えを広げる。そして同時にそれは、なのは本人にも判っている事だった。

(まったく、いくらなんでもタフ過ぎる……!!)

また一撃を放ち、離脱し加速をつけて突撃するなのはが、行動を選択する毎に段々と焦りを感じ始めていた。いや、正確には二十五手目辺りで既に焦りを感じていたのだ。

決して軽くは無い一撃……その攻撃をこれだけ喰らい、未だ両足で立ちその戦意は微塵にも薄れてはいない。いくら防御に徹しているとはいえ、異常な迄の耐久能力。

正直、自分も見誤っていたようだ……ゼスト・グランガイツの実力を。自分をサポートしてくれている人物から、彼の事はよく聞かされていた筈なのに。

既に少女の全身が悲鳴を上げ、嫌な音を立て始めている。しかし、それでもまだ少女は止まらない。目に見えぬ速度で右手のサーベルを振り上げ――その時、なのはの左腕は限界を迎えた。

「――づッ!!」
バリアジャケットの能力を加速負荷軽減に集中させているとはいえ、今のなのはの身体では限界が来る。

また嫌な音を立て、なのはの左腕から血が吹き出し、純白のコートの袖を赤く染め上げる。同時に、一瞬だが痛みで動きを止めてしまう――だがなのはの思考は、この時致命的なミスを理解していた。少女が動きを止めたのは、よりによってゼストの攻撃射程圏内。

当然、一瞬とはいえこの致命的な隙をゼストが見逃す訳が、なかった。

(しまっ――)

「オォッ!!!!」

一瞬の隙を狙った、ゼストの渾身の一撃。僅かな時間だったからか、魔力を纏わせる暇がなかったのだろう。魔力を伴わないそれはしかし、今のなのはのバリアジャケットでは致命的な一撃だ。

苦し紛れ、とも言えるなのはの行動は、痛みに耐えて左手のサーベルで槍を受け流そうとする他ない。

だが所詮、苦し紛れの行動。槍はサーベルをいとも簡単に吹き飛ばし、なのはの左腕を跳ね上げ――少女の左脇腹を斬り裂き、血飛沫を上げるのだった。

それを見て、瞬時に己のミスを悟るゼスト――だが、その思考が今度は彼に隙をもたらす事になった。

「づっ、ア゛ぁあ!!」

生き残った右手のマギリングサーベルで、渾身の一撃を放ちゼストを再び吹き飛ばす。完全に不意を突かれた形になったゼストは、地面へと凄まじい勢いで叩きつけられた。

しかしそれですらまだ、ゼスト・グランガイツは数秒で立ち上がるだろう。


――だからこれが、この数秒が、少女のラストチャンス。最後の賭けだ。


「はぁ……はぁ、はあぁっ!!」

バンッ!! と力強く、痛む身体に鞭を打ち両手を合わせ、少しずつ合わせた手を放していく……その中心には、桜色の球体が魔力を凄まじい速度で吸収していた。

巨大化する桜色の球体。激しいスパークを散らすそれは、まさに断罪の一撃に他ならない。

その状態に気付いていたゼストは、既に行動を起こしている。ブースト魔法を二重、いや三重にも重ね掛けし加速を始めている。

――集束砲撃。ゼストが結論付けたその解答には、何の間違いも無い。なのはは戦闘中、いやそれよりも前に魔力をばら撒いていたのだ。この一撃の為に、もう一枚の手札を。

「はぁ、はぁ……」

しかし、その傷ついた身体では只でさえ遅い集束シークエンスが、さらに遅くなり集束を妨げる。

それによって、先に準備が整ったのは――やはり、ゼストであった。

「……いざ、勝負ッ!!!!」

ゼストの両足と風が地面を叩き、彼がなのはに向かって直進する。その一瞬後に、なのはも右腕を振り上げた。まだ集束は完了していない、しかしこれ以上距離を詰められてはさらに威力が減衰する。

なのはが拳を振り下ろし――巨大な魔力球へと渾身の力で叩きつけた。

「エグゼ――キュータアアアアアァァァァァァァ――――ッッッ!!!!!!」

戦姫の絶唱。処刑人の一撃は、圧倒的な光の束となりて放たれた。

「ウオオオオオォォォォォォォォオオオオオッ!!!!!!」

貫く、貫く、貫く。ひたすら直進し、桜色の光の中で叫ぶゼスト。

「はああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああっ!!!!!!」

呑み込む、呑み込む、呑み込む。ただひたすら力を込め、ゼストを撃ち落とさんと叫ぶなのは。

集束砲撃があちこちに飛び火し、壁を砕き地面と砕き、まるでこの世の終わりかと言う程の振動が全体に鳴り響く。

――結果は、味気ない物だった。集束が不十分だった砲撃は、ゼストの槍によって引き裂かれた。無論、ゼストとて無傷ではない。だがまだ、彼の勢いは衰えず先程とは違い魔力の通った一撃は、なのはの意識を一瞬にして刈り取る事だろう。

集束砲撃の反動と負った傷でなのはは動けず、驚異的なスピードで迫る槍を避ける術など無い。

故にチェックメイト――だから少女は、その事実を覆す。その為の手札は、何十手も前に打たれているのだ。

今のなのはは阿修羅をも凌駕する、『神羅(しんら)』


そして――御神の剣士の欠陥品だ。


「――――!!」

カッ!! と目を見開いたなのはの瞳には、全てがスローモーションに見えた。ゼスト本人の動きも、彼の持つ槍の動きも。だがそれでも、回避する術など、やはり無い。けれど、少女の両腕はまだ死んでいない。

少女は動く両腕を動かし、グローブを付けたその両手で――



「――ッ――!!」



――槍の切っ先を、確かに掴み、受け止めた。

真剣白刃取り。流石に、今までになく唖然とするゼスト……そんな彼を見ながらも、なのはの行動はまだ終わってなどいなかった。

負傷などまるで無いかの様に、なのはは左手を槍の先端へ叩きつけた。無論、それはただの掌底などではない。


――――御神流 徹――――


御神二刀流の打・斬撃の打ち方。『徹(とおし)』 威力を表面ではなく“内側”に通す、御神流の中でも初歩に覚える技。そしてこの技は、人間だけでなく剣や槍などの武器にも効く。

いくら堅かろうが、この闘いで急速に損傷した状態で内部の弱い部分にそんな技を喰らえば――砕け散るのは、自然の道理だ。

刃が粉々に砕け散る……しかしそれでも、ゼストの闘志は消え失せはしない。今度は右の拳を振るい、なのははそれを微かに動く左腕で受け止めた。

「うぁ!!」

だが、やはりここでも体格の差が大きく出て、なのはは地面へと一気に叩きつけられる。しかし、なのはとてまだ終わらない。一瞬意識が飛び掛けた頭を振るい、意識をはっきりさせて立ち上がった。

もはや、左腕は動かない。ポタリ、ポタリと血を地面へと流してダラリと下げられている。けれども、右腕はまだ動く。そう言わんばかりに、残ったマギリングサーベルを再び引き抜くなのは。

身体はボロボロ。動かす毎に鋭い痛みが走る……それでも、高町なのはは止まらない。

己の身などどうでも良い。ただ、不屈の闘志で闘い強くなり、敵を打ち倒す。

――だからこそ少女は、出来損ないの魔法使いなのだから。

「……はああああぁぁぁぁっ!!!!」

「オオオオオォォォォッ!!!!」

何処からその闘志が溢れるのか……その疑問に答えられる人間は、本人であるゼスト・グランガイツと高町なのはしかいない。

ただ再び、二人は拳と剣を交錯させ――

「――そこまでだよ」

――一陣の桜が、二人の間を遮った。いくら二人が闘いに集中していたとはいえ、気配もなく二人の間に降り立った少女。サファイアブルーの瞳が、息の荒いなのはとは対照的に静かに見つめる。

未だサーベルを手放さないなのはが、ある意味彼女の師とも言える少女の名を、呼んだ。

「何のつもり……さくら」

「判らない? 判らないなら、無理にでもキミを連れ帰るけど?」

その言葉を聞き、鋭く少女に睨み付けるなのはだが、さくらはそれを平然と受け流す。やがて……なのはが一つため息を吐き、漸くマギリングサーベルを納めた。同時に、なのはが先程まで纏っていた鋭い空気が一瞬にして霧散した。

「すみませんゼストさん、ここまでみたいです。粗方の修繕は私が手配するので、そちらは模擬戦の結果報告を適当にお願いします」

「……あぁ、心得た」

それだけ伝え、なのははゼストの隣を悠然と通り過ぎる。翼を消し、羽織っていたコートを右手で肩に担ぎ歩く。その姿はボロボロだが、何処か気品に思えてくる。

高々、小学生程度の少女が、だ。完敗だな……扉の向こうへ消える少女を見て、ゼストはそう思うのだった。

「どうやった?」

「どうも何も……あのままやってたら、良くて引き分け。悪けりゃ敗けてるわよ」

一方、ギンと共に帰路に着くなのはは、ゼストとはまるで逆の結果を叩き出していた。確かに、いくら武器を破壊したとはいえ、ゼストの体力とやはり体格差と言う物もある。

なのはからすれば、己が子供だとかそんなのは関係ない。己の今の実力、切り札を全て正確に把握し、全力であの闘いに望んだ。次に闘ったら、など今は重要ではない。ある意味、刹那主義の人間なのだ、少女は。

まぁ捕捉するならば、ゼストの武器を破壊した時点で、模擬戦としては少女の勝ちだったのだ。だからこそ、この闘いは“公式記録上では”ゼストの敗北と言う形で記録されることとなる。

……この記録から、処刑人(エグゼキューター)と言う名が広がったのかもしれない。

「たくっ、切り札三つも切ってこれって……割に合わないよ」

エクスシアのフルドライブ、なのは本人の『神羅』 さらには集束砲撃……ここまでやって、決着がつかなかったと言うのは本当に割に合わない。思わず、無意識に素の口調が出てしまう程に。

「で、怪我の具合はどないなもん?」

「平気。まぁ夕方までには治癒してる――」

かな、と言うなのはの言葉は続かず、またもや気配なく近づいたさくらが、なのはの脇腹をツンツンをつっつき、一瞬痛みに動きを止め、そのまま地面に膝をついた。

「っ~~~~~~!? なにすんのよさくら!!」

「これで平気だなんて、よく言えるね。今日はもう帰って、さっさと休んでね」

「だから平気だって……」

「それとも、ボクが無理やり動けなくしてあげようか? 1週間くらい」

「エ、エンリョシテオキマス」

……外見だけは両人小学生程度だと言う事を考えると、この会話は非常にシュールであると言える。なのはの強ばった笑みを見て、さくらはまぁ大きなため息を吐く。

さくらが止めに入った理由は、二つ程ある。一つはゼスト隊の事を考えて、だ。あのまま続けていれば、勝敗はどうあれ隊長であるゼストの負傷が深くなり、業務に支障が出る可能性があった。ギリギリの範囲を見極めた、といった所か。

もう一つは……これ以上闘っても、少女が得るものは何もない。そう判断したからこそ、さくらはあの場に割って入ったのだ。実力差が在る中、あの状態から切り返せただけで今は十分だろう。

――本人は、そう思っていないのだろうが。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

深夜、12時を回った辺り。高町家では当然皆が寝静まり、深い眠りに入っている頃だろう。

だが、高町家の道場には一つの人影があった。その人影は、吊り下げられていた左腕の布を取り、何度か確かめるように手を動かす。

そうして確かめてから、少女はその手に木刀を手にして、息を吐き集中し――直ぐにそれを隠した。

「なのは……」

「お、お兄ちゃん……どうしたの、こんな時間に?」

「それは、俺の台詞だと思うが?」

高町 恭也。御神小太刀二刀流の継承者にして、何より高町なのはの掛け替えのない兄。扉を開くまで自分に気配を悟らせないとは、相変わらず人外じみていると思いながら、なのはは口を開いた。

「鍛練だよ鍛練。他に何かある?」

「お前、怪我は……」

「――自分の身体は、自分がよく判ってるよ」

言いながら、なのはは恭也の横を通り抜けてその場を立ち去ろうとする。どうせ、これから鍛練をしようとしても止められてしまうだろうから。

恭也はそんな彼女を止めない。ただ、通り過ぎる瞬間、一つ問答を放った。

「なのは、お前は何の為に力を振るう? 何の為に、力を求める?」

「……約束。そして私自身の願いの為、かな。まぁ、そんな事を言ってる時点で、魔法使いとしても、御神の剣士としても――出来損ないなんだろうけど、ね」

だからこそ、なのはは振り返る事を……止まる事をしない。ただ、ひたすらな迄に突き進む。


――これは、一つの歪んだ物語。出来損ないの魔法使いが紡ぐ歪んだ物語は――加速する。
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  1. 2012/09/25(火) 22:12:24|
  2. 外伝
  3. | トラックバック:0
  4. | コメント:2
<<魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編・マジカルトーナメント(仮) | ホーム | 魔法少女リリカルなのはA's 通りすがりの魔法使い 第2話>>

コメント

ふと気になったのですが、烈火の翼本編のなのはの年齢って12才でしたっけ?

ジュエルシード事件の3年前に9才位だとするとそうなるんですが……合っているなら済みません。

戦闘描写についてですが、概ね良いかと。

只2人(今回の場合なのはとゼスト)が相手とぶつかり合うまでの『動き』、それと『戦闘中の2人の心理描写』がやや少なかったせいか

相手と相対する→火花を散らし激突している

の繰り返しな様に感じました。

もっと回避や2人の思考が入ると良いかもしれません。

済みません、何か偉そうで……

P.S.誤字ですが、

「傷一つ『追』わず」→「傷一つ『負』わず」

「威力が減『水』する」→「威力が減『衰』する」

です。
  1. 2012/09/26(水) 08:07:55 |
  2. URL |
  3. フルカスタム #G7LvmW4Y
  4. [ 編集 ]

>フルカスタムさん

感想ありがとうございますm(__)m

なのはの年齢は、“外見では”九歳程度と言う事です判りにくくてすいません。


回避や二人の思考ですか……成る程、確かに見返すと足りてませんね。どうにも自分の描く戦闘が短く感じると思ったら、そういう面も在ったのかもしれませんね……。

偉そうだなんてとんでもない!!凄くタメになります!! わざわざ意見をいただき、本当にありがとうございました。
  1. 2012/09/27(木) 04:30:15 |
  2. URL |
  3. いかじゅん #3/2tU3w2
  4. [ 編集 ]

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