サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第30話

人には誰しも、物事に対する“慣れ”と言う物が存在する。本人が絶対に慣れないと思っていても、案外簡単に慣れてしまう物なのだ。

海に没した街並。普通なら常識を逸した光景なのだが、この世界では常識となる世界の風景。

では、そんな世界のビルの上でテーブルを置き、平然と茶を飲む市丸ギンと言う人物がここに居る事は、果たしてこの世界の日常風景なのだろうか?

――そんな訳はない。そんな訳はないのだが……。

(……なぜ、こんなにも心が乱されるのか)

自分で自問自答しても、答えは出ない。大体、生前では男とこんなにも話した事はなかったのだ、仕方がないではないか、と相変わらず顔を隠す真紅のフードを被る女性、緋炎は動揺を表す様に、フードの下の灼眼の瞳を知らず知らずに揺らす。

――無視すればいいだろうに。

言葉が頭を過るが、それが出来たら苦労はしていない。無論、最初は彼の事など無視していた。が、勝手に人の世界に入り込んで勝手に話して勝手に居座る人に、そんな事では通用しない。

そうして、許可もなく勝手に上がり込んで来る彼に、いちいちいちいち注意していたら……まぁなし崩しこういう事になっていると言う訳だ。

「まぁでも、ここに来るのも久しぶりやなぁ。元気にしとった?」

「……久しぶり、と言うのは長い時間が経過している事を言います。貴方の久しぶりは、たった1日程度来ない事なのですか? 市丸ギン」

「いやぁ、緋炎先生の享受は頼りになるなぁ」

ほら、自分が皮肉を言ってもヘラヘラとした笑顔で返されてしまう。

――その笑顔の下に、一体どんな過去を秘めているのだろうか?

向かい合い、こうして茶の湯を共にしても皆目見当もつかない。別に興味がある訳でも……。

「そう言うたら、緋炎ちゃんはこの前まで何しとったん?」

――なかったのに、先に訊かれてしまった場合はどうすれば良いのだろうか? とりあえず、言葉を濁すことにする。

「……どういった意味で?」

「そのまんまの意味、やね。別に無理に聞こうとは思わんけど」

だが、それも彼にはお見通しなのだろう。そういう処が、気に入らないのだ。勝手に、スルリスルリと人の心に潜り込んで来るのに、自分の心はなかなか明かそうとはしない。

やはり、こういったタイプは初めてだからか、大分やりにくい。けれど、なかなか嫌いにはなれないのは、自分が思いの外他人との関わりが苦手ではなかったのか、それでも彼だからなのか……これも、考えても解らないことだった。

が、一応質問には答えねばなるまい。別段、隠す様な事でもないのだから。

「……聖職者ですよ、こんなんでも」

「聖職者って……シスター? なんや、緋炎ちゃんって何か崇めてたん?」

「いいえ。私は神様も信じていませんよ」

は? と流石のギンもこれには面食らう。シスターは基本的に何か……例えばその宗教の“神様”などを崇めている印象なのだが、緋炎は聖職者なのに神様すら信じていないと言っている。まことに、不思議な事も在るものである。

「じゃあ、緋炎ちゃんは何を信じてたん?」

「『愛』ですかね。親愛、敬愛……まぁいろいろと在りますが、未だに“恋愛”のファクターは不確定で興味深い物があります」

信じるのは、己の『愛』のみ……とでも言った処か。何にせよ、彼女がこの『天鎖斬月・緋炎』を宿す人物になった理由も、そこにあるのかもしれない。

かなり冷めてしまった茶を啜り、ギンはその事について尋ねてみる事にした。

「キミがこの天鎖斬月を宿す者に選ばれたんも、それが原因?」

「さぁ? 私を選んだのは蒼天ですから、今すぐ彼女に訊きに行けばよろしいのではないでしょうか」

さらっと、さっさと出ていけと遠回しに言った緋炎だったが、ギンは相変わらず飄々と答えた。

「うーん、ボクが気軽に出入りして話しとるのなんて、緋炎ちゃんくらいやしなぁ」

ピクリ、とギンにも解らないくらい微かに指を動かし動揺した緋炎だったが、それを気取らせない様に平然と茶を飲み干し話を続けた。

「言っておきますが、私とてこれだけの時間話をしたのは生前を含め貴方が初めてですよ」

――いや、あんまり動揺を隠せていなかった様である。これでは、貴方は“特別”ですよと言っている様な物だ。それに気付き、フードの下の顔を真っ赤に染める緋炎。
しかし幸い(?)にも、ギンはそれに気付く事なく、別の話題が気に掛かったらしい。

「初めてって……話し相手とかいなかったん?」

「……私がいたのは確か“聖王”とやらを崇める教会でしたが、そういう物を信じていない、などと言えば近づく人間はいないに決まっているでしょう」

確か、と曖昧に記憶している時点で本当に神様に興味がなかったのだろう。ただまぁ、聖王もギン達からすれば所詮はただの“人間”でしかないのだから、神様のように崇めているのは未だに違和感がある。

それはそれとして、要は彼女は煙たがられていたのだろう。そりゃあ、ある意味で聖王を侮辱しているのだから、そこに所属する聖職者としては大問題である。

「せやけど、何で信じてもない教会にいたん?」

「一応、拾ってくださった親代わりのシスターがいた教会でしたので」

「教会への恩返し?」

「いえまったく。一応教会で育ちましたが、生憎あの教会は好きでもなかったので」

……言いたい放題である。しょうがない、好きじゃない物は好きじゃないのだ。嫌いな物を今すぐ好きになれなど、到底無理な話だ。

――とはいえ、別に嫌なことばかりではなかったのだが。

「先程、話し相手はいなかったのか、と貴方は問いましたね?」

「言ったけど……なんや、誰かいたん?」

「まぁいるにはいました。彼女が勝手に話し掛けて来ていただけ……でしたが」

それに、付き人の様な少女には嫌われていた――まぁ、教会で自分を知っている人間は大半自分を嫌っていたが――ので、話し掛ける度に注意されていたが。

しかしまぁ、教会の異端児だった自分が、今やその教会で神聖化されている武具の内部人格。一方的に話し掛けて来たその少女は、今や教会の偉い人になっているときた。

運命とは、いやはや不思議な物だと思う。それを言ったら、こんなに長い間、陰口以外で男性の話を聞く事など前は思いもしなかった。
まぁただ、決して心地が悪い物ではないと――

「まぁでも、ボクはあの教会嫌いやないよ。美人さん多いし」

――その時、この世界の温度が一気に冷え込んだと言う。凍り付く空気。緋炎と言う名とは真逆に、彼女の周りは氷点下までまで冷え込みそうな勢いである。

(……あれ?)

ある意味その状況を作り出したギンが、ようやく雰囲気が変わった事に気付いた。特に、目の前の女性は何だか初対面の時より好感度が低くなった気がする。つか、好感度ってなに?

「あの、緋炎ちゃん?」

「知りません」

「は? なに――」

「知りません」

「え、いや」

「知りません」

「……もしかして拗ねとる?」

「知りません」

「や、冗談よ冗談。緋炎ちゃんが可愛いのは事実やけど」

「この――うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁいッ!!!!」

キレた。結局めんどくさくなったのかキレた。

ダン!!と拳をテーブルに叩きつけ、彼女にしては珍しく感情を表に出して叫んだ。

「そもそもお前はもう私に訊く事なんて無いでしょ!? もう心配事は解消されたんだから、さっさと帰りなさいよ!!」

「あ、やっと素になってくれた。見た時から猫被ってるって思うとおたんよ」

「うるさいうるさいうるさい!! 聖職者は色々とめんどくさいの!! お前は何回不法侵入してると思ってるの!?」

「聞きたい? しっかり数えとるけど」

「……いい」

――こうして、僅かばかりの平和な時間が過ぎて行く……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

暴れ狂う雷撃。既に半壊状態の訓練場を破壊し、それでも尚止まる気配を見せない。いや、本人が止めていないのだ。

「っ……うぁ!!」

狂う雷の中心の少女……フェイト・テスタロッサが制御しようと必死に思考を動かすが、電撃は制御するどころかさらに暴れ狂い、一人の男へと強力な一筋の雷が向かい――何かに阻まれたように弾かれ、男は……クーゴは平然とフェイトに向かって叫んだ。

「さっきから言ってんだろ、頭で制御しようとすんな!! 先ずはお前自身の力に慣れろ。話はそっからだ!!」

「は、はい!!」

――その二人を中心に、遥か後方。出入口の近くに立つ、背の高い女性と年齢の割に背の低い……ゲフンゲフン、些か育ちが悪い少年がその異常な光景を普通に会話しながら見学していた。

「……こういった光景に短期間で慣れると、些か悲しくなるな」

「そうかしら、良い経験になるわよ。クロノ君」

時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンと処刑人(エグゼキューター)、高町なのは。

まぁ、あんな命懸けの事を経験すれば嫌でも慣れるだろう……一生涯、慣れたくはない物だが。

……あの誰にも知られることのなかった騒ぎから、既に一週間が経過しようとしていた。その間に、短い期間とはいえ物事は次々と変化を続けていた。

「で、クロノ君はこの前のことはどう上に説明するつもりかしら?」

この前のこと、とは勿論“闇の書事件”の最中に起こった『時空の翼』による出来事――一つ選択を間違えれば、なのはを含めた強大な戦力全てを敵に回すことに成りかねないことだ。

だが、クロノは平然と……当たり前のようにその問い掛けに答えた。

「何のことだ? ただ僕達は消えようとしていた人ひとりの命を助けようとし、無事に救出を完了。その中で“何故か”守護騎士の一人が協力をしてくれた……が、この出来事には証拠がなに一つとして無い。事実確認が出来ない“空想”は、報告する物ではないさ」

「……待ちなさい。あの翼のエネルギーは次元が違い過ぎて遠くからじゃ観測不能だけど、アースラの機器はエラーとはいえ観測していた筈よ?」

確かに、他にも結界内部にてクロノとなのはが守護騎士を追い詰めたが、彼らが観測不能の“何かを使い”あと一歩の所で取り逃がした、とでも“空想”を言えば言い訳は利く。

しかし、アースラのデータには言い訳できないレベルの理解不能なデータが残っている。明らかに守護騎士の仕業ではない上に魔法技術ですらないそれを、一体どうやって言い訳するのか。

するとクロノは困った様に肩を竦ませ、こればかりはどうしようも無いとばかりに言葉を放った。

「それがな、この一週間いろいろと忙しかったから言っていなかったが、あの時のアースラのデータは綺麗さっぱり消えていた」

「それって……」

「勿論、僕ではないさ。そんな権限は僕にはない。だが確かに、あの日の出来事のデータが、“まるで最初からなかったかのように”綺麗さっぱり消えていた。するつもりも無いが、僕がいくら声を荒げたところで、上の誰も信じないだろうな」

――時空管理局が誇る技術の結晶たるアースラの機器が、何の形跡も無く侵入され、剰えデータまでいじくり回されていた。

無論、そんな事を出来る人間は殆どいない。なのはが知ってる中でまず候補に上がるのは、管理局の技術者の誰一人として叶うものはいないと言われる天才、裏月だが……彼は個人的な案件で忙しいらしく、この一件には無関係だろう。 続きを読む
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  1. 2012/12/29(土) 03:53:33|
  2. 烈火の翼
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活動報告

的な物を書いてみることにした。

まぁ年末ですし、これからの予定でも書こうかなと。取り敢えず今は二次創作は『烈火の翼』を中心に更新していこうと思ってます。他は気が向いたらとか気分転換に更新ー、とかでしょうね。

ちなみに、自分の活動はツイッターを見れば分かります。『いかじゅん』で登録してあるしすぐ分かると思います。フォローとかも待ってます(笑)

ではでは、また次回の更新でお会いしましょう。多分近々、烈火の翼の最新話が完成すると思うのでー
  1. 2012/12/26(水) 17:27:41|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第29話

イメージOP、嵐『Face Down』
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世界は回る。例え、世界の危機が迫ろうとも、起ころうとも、世界は変わらず回り続ける。

物語は動く、歪んだ形だろうと、確かに終曲へと旋律を奏でる。ただ、確かなのは――物語は終わりと始まりを繰り返す。まるで『ダ・カーポ』の様に、繰り返す旋律‐物語‐。

物語の終わりと、物語の始まりは、すぐそこに迫っていた。その事を知っている者は、ほとんどいない。

だが確かに――歪んだ物語は、ゆっくりと加速していた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「主、もう10時ですよ」

「……頭痛いから、もうちょっとねかせてよ~」

ちなみにこのやりとり、家ではなく病院の病室内でのやり取りである。

季節が季節なので仕方ないが、病院の毛布を離さず潜る様は、いつもの彼からは想像も出来ない姿である。毛布の所為で姿は見えないが、誰かは言わなくても解るであろう。現在進行形でアイドルと付き合っていると言う、冷静に考えると凄いことをしている、ヒナギクだったりする。

そんな布団の中の彼を、まぁあんな事があったのだから仕方がないか、とお見舞いの花を花瓶に生けながら考え、微笑みと共に見つめる女性は、先日までとはどこか雰囲気の違う魔法使い、芳乃シグナム。

たまには、寝坊助な主と言うのも良いのだろうが、どのみち次の一言で勢い良く起きるのだろうと彼女は“推理”していた。

「そうですか……ですが、そろそろ雪華が見舞いに訪れる頃ですよ」

アイツは今日、オフの日ですから――とシグナムが言葉を放つ頃には、毛布とシーツは既に整えられた後。その間にも、恐るべき速度で髪を整え身嗜みをしっかりと整え……ともかく、雪華が来ることに万全の状態で備えていた。

ちなみに、雪華が朝一で来ない理由はおそらく、見舞いの品をどうするか迷っているのだろうとシグナムには容易に想像が出来た。

なんだか初々しい二人の姿に、無意識のうちに笑みがこぼれてくる。
そんな彼女の雰囲気に見て、この前から疑問に思っていたのか、ヒナギクが少し考える仕草をしてから、言った。

「シグナム、なんか雰囲気変わった?」

その問いに、花を整える手を止めて僅かに瞳を見開き驚きを表すシグナム。

あの後、彼に付きっきりだったとはいえ、気付かれるとは思っていなかった。と言うより、思った以上に自分は顔に出やすい性格なのか……どちらにしろ、隠し通すことでは無いが、かといって言い振らすことでもない。

――せっかくなので、曖昧に答えて誤魔化して見ようか。

「……まぁ、変わったと言えば、変わりましたよ」

変わったと言うより、“戻った”と言う方が正しいかもしれない。それでも、姉にまで“変わった”と言われてしまったのだが。

明らかにはぐらかした返答にも、ヒナギクはふーんと特に気にした様子もない。何にしろ、シグナムはシグナムだと思っているのだろう。要は信頼しているのだ。

――さて、それはそうと。一つ、一応だが言って置こうと思い、扉を開く前に口を開いた。

「主、雪華が来ますから私はそろそろ帰りますが――病院では、昼間に“そういった事”は出来るだけお控えくださいね?」

「へ――えぇ!? そ、そそそんな雪華ちゃんとなんて私!!」

「おや、私は雪華とは言っていませんよ」

「ッ……う、うるさいうるさいうるさい!!!! さっさと行きなさい!!」

墓穴を掘ったヒナギクが顔を真っ赤にし、まるでツンデレの様な台詞――おそらく、中にいる人間の影響――を吐いてシグナムを追い出した。

明るくなったものだな、と扉を閉めて可笑しそうに……いや、嬉しそうにシグナムは微笑む。

――変わった。そう言いたかったのは、寧ろシグナムの方だった。明るくなった、何かを吹っ切ったと言う様にも思える。

それもこれも、命をかけて主を救ってくれた“友人”のお陰……そう考えた時、ふと気が付いた。

(……そういえば、友人が出来たのは初めてだったな)

記憶がなかった時は不思議にも思わなかったが、こう姉と過ごした十年近くの記憶が全て戻ると、なんだか不思議な気分になる。

――天才少女の“妹”。流石はあの人の“妹”……そんな言葉を聞かなかったのは、本当に久しぶりだったから。

「……さて」

記憶の戻った自分の想いに浸るのは、ここまでにしておこう。ふと彼女は桜色の髪を揺らして――不審者三名の後ろに回ることにした。

……不審者三名。赤毛の少女、守護騎士ヴォルケンリッター鉄槌の騎士、ヴィータ。まぁ彼女はいい。

頭に帽子を被った男、盾の守護獣、ザフィーラ。まぁ彼もいい。帽子は犬耳(?)を隠す為の物だろう。

しかし、しかしだ。コートとサングラス……明らかに間違った刑事知識を持ったヴォルケンリッターの最後の一人、湖の騎士、シャマル。

――目立つ。少なくとも病院の人々に怪しい目で見られるくらいには、凄い目立っている。

階段近くの壁辺りに隠れているつもりだろうが、全く隠れていない。そして、一番目立っているであろう人物が、全くそれを自覚していないと言うのが、一番厄介な事だろう。

「……ザフィーラ、やっぱお前シャマル連れて帰れ。アタシ一人で行く」

「だが……」

「お前ヒナギクと面識ないだろ、余計混乱させるだけだ。シャマルは……いると目立つ」

「え? 完璧な変装だと思うんだけど……」

それで完璧な変装なら、全国で変装を必要としている方々は苦労していないだろう。って言うか、楽になってもらっても困るのだが。

もう時間がない筈の守護騎士が、何故三人揃ってこの場にいるかと言えば――

「それで? お前達は何の用だ?」

「何の用って……ちょっと余裕が出来たから、この前の事をヒナギクに謝りに……」

「そうか、殊勝な事だな」

言いながら、ヴィータは気付いた。待て、今話しているのは一体誰だ、と。ザフィーラは勿論、いなかったシャマルにも事情は話している。

本来ここに来る余裕はなかったのだが、イレギュラーな事態があった事で余裕が出来た。

話を戻そう、今自分と話していたのは誰だ? いや、問う迄もない。その声を聞き間違う筈もないし、答えは目の前にあった。

桜色の髪をポニーテールに、彼女の意思の強さを現す様な、透き通る美しい瞳。何処か不思議な雰囲気を纏った彼女は、もう名前を問う迄もない。

「な、なな、なんでお前がここにいんだよ!?」

「主が入院しているからな。大体、私が病院にいて何が悪い」

それは、いつかと同じヴィータの問いかけ。が、シリアスの欠片もなく、あっさりとシグナムの正論によって切り捨てられた。

問いかけたヴィータも、冷静になるとそりゃそうだよな、と思ってしまう辺り、やはりシリアスの欠片もない。

そんなヴィータを尻目に、シグナムは酷く驚いているシャマルとザフィーラに視線を向け、そして再びヴィータに視線を戻しながら言った。

「……ザフィーラにシャマル、それにヴィータ、で合っているか?」

「合っているかって……貴方、“思い出した”んじゃなかったの?」

「思い出した、と言うのは語弊がある。私の記憶にない記録を、外部から叩き込まれた様な物だからな」

シグナムの言葉を聞いてもちんぷんかんぷん、といった風の三人。そりゃそうだ、これは彼女と記憶を封じる『魔法』を使った“姉”にしか分からない。

『……キミが全てを思い出した時、この記憶……いや、記録がキミの中に流れ込む。その時どうするかは、キミ次第だよ』

流れ込んだ記録は、そう多い物ではない。“前の自分”が目の前の三人とどういう関係だったのか、そして“夜天の魔導書”と言う本。

――だからといって、別にどうこうする気はない。自分は『烈火の魔法使い』。そして何より、あの方の“妹”である『芳乃シグナム』なのだ。

今の自分の記憶は、確かにそう。例え姉やおばあ様に会う前、どういう状態だったとしても、残酷な言い方だがまったく関係ない。

――烈火の魔法使いは、今まで確かにこの世界で姉と共に生きてたのだから。そしてこれからも、芳乃シグナムとして生きていく。流れ込んだ記録を見ても、シグナムは意志を変えず、そう選択したのだから。

(しかしまぁ、思い返すと姉さんも役者だな……)

何が自分では解けない、だ。掛けた本人が解けない訳ないし、さらっとおばあ様に責任を転嫁していた。まぁおばあ様もそう言われても仕方のないことをしているし、記憶が戻ったらすぐにバレる嘘だったのだから、よしとする事にしよう。

「それはそうと、主は今取り込み中……いや、取り込み中になる処か」

「は?」

「ほら、あれだ」

シグナムに顔の動きだけで促され、三人は揃ってヒナギクの病室を見た。

……そこに居たのは、一人の超絶美少女。帽子を被っていても、そのオーラは消せはしない。

そしてヴィータは、彼女に見覚えがあった。緋色の髪をなびかせ、業火の中から現れた彼女の姿を忘れる訳もなく、それ以前に“テレビで見た”記憶が――

「あぁ!! もしかして藤原ゆき――ふがっ」

「はいはい、言いたいことは分かるし、最近忘れていた正しい反応だが、病院では静かにな」

彼女の名を思わず叫ぼうとしたヴィータの口を、すぐさまシグナムが手で塞ぐ。

確かに、普通に身近にいるので忘れていたが、藤原 雪華とは今をときめく現役トップアイドル。本来テレビの向こうの人物なのだ。ヴィータの反応は凄く正しいし、ここで騒ぎが起きないことの方が奇跡に近い。

まぁそこは、使用する人達のマナーの良さ故だろう。病院の先生やナースの人に、サインを求められたりはしたが。

バシバシ、とシグナムの手を叩くヴィータ。分かったと言うことなのだろう、シグナムも大人しく手を離してヴィータを自由にしてやる。そこで当然の如くテレビの前での雪華を知るシャマル(はやてと揃ってファンだったりする。ちなみに口数が少ないザフィーラも)が、部外者の人間からすれば当たり前の疑問を持ち出した。

「な、なんで雪華ちゃんがその……ヒナギクさんの病室に?」

「なんでと言われてもな……主の“彼女”であるアイツが、見舞いに来てはいけない理由があるのか?」

沈黙、そして三人揃って目を見開き超絶の驚愕。なんだか、シグナムが目の前に現れた時より驚いている気がする。いや、確かに現役トップアイドルが現れて、果てには目的の人物の彼女などと言われれば、当然の反応かもしれない。

シグナムにとっては今さらだし、アイドルである以前に雪華個人の友人であるので、特に問題はない。
二回言うが、今さらなのである。

その当本人、藤原雪華はもう何回目かの手鏡を取り身嗜みをチェック。そして見舞いの品だろう物を持ちながら、入った時のシミュレーション。そこから再び身嗜みを――ループに入っていた。

が、そんな事をしている間に後ろにいた少年が迷わず扉を開き、雪華を強引に押し込んで手早く扉を閉めた。

まさに早業。そして目が物語っている……なんでこんな事してんだろ俺、と。静かに黄昏る少年……冬獅郎がシグナムの存在に気が付き、ふらりとシグナム達の下へ到達した。

「お疲れ様です、冬獅郎殿」

「なんで俺がこんな事……つうかお前がやれよめんどくせぇ」

「いえいえ、冬獅郎殿が一番適任でしょうから」

にこやかにそう告げるシグナムは、冬獅郎はめんどくさそうに、そうかよ、と言って静かに諦める。まぁ仕方がない。二人の会話に付き合う必要がないだけマシだろう。 続きを読む
  1. 2012/12/17(月) 17:49:03|
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