サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第28話

推奨ED、ポルノグラフィティ『ゆきのいろ』


────────────────────











何もない、暗闇の世界。どこかも解らぬ、闇一色の世界。その世界に二人の同じ、しかし違う人間が相対した。

片や、今にも泣きそうな表情で相手を見上げる……ヒナギク。片や、まるで迷子の相手をする様にしゃがみ視線を合わせる……紅 刹那。

同じ容姿なのに、どこか雰囲気が全く違う、不思議な二人。当たり前だ――既に、別の道を歩み始めているのだから。

「貴方が悩んでる理由、当てて見せましょうか?」

ふと、刹那が立ち上がりヒナギクを見下ろし、今度は悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。そうして、今ヒナギクがここから出ようとしない“もう一つの理由”を簡単に言い当てた。

「大事な人に嘘ついたこと、後悔してるんでしょ?」

「ッ!?」

途端、酷く驚き、そして居たたまれない様な……そんな表情になるヒナギク。明らかに、図星のようである。

後悔、かは解らない。でも、あの時嘘をつき、今尚その事を心の奥底に隠していた。

――嫌われてしまったかもしれない。そんな、少年の様な悩みを表に出さないまま抱え込み、今の様な引きこもった状態になってしまっている。

通常なら、普通の彼ならばこうはならない。だが、それを可能にしてしまうのが“翼”の力。

自分から漏れだした“一部”の力でこれなのだから、困ったものだと内心ため息を吐く刹那。しかし、いつまでもこんな状態にしておく訳にはいかない。何せ、もう外に“迎え”が来ているし、自分が抑えて置くのにも限度と言う物がある。

――かったるい事は、あまりしたくないのに。

「仕方ないなぁ。じゃあまず感情の整理からね」

「?」

「烈火の魔法使い……あぁ、貴方には烈火の騎士か。彼女の事は、どう思ってるの?」

烈火の騎士、シグナムの事だろうか? 彼女の事……ずっと、一緒にいてくれると言ってくれた、大切な、大切な――

「……家族。よく、解らないけど、そんな気がする」

「そっか」

なんだか、目の前の人物に会ってから自分の気持ちが定まっていく……しっかりとした“自分”になっていく、そんな不思議な気持ちをヒナギクは感じた。

対して刹那は、その答えを聞いて“何故か”とても安心した様な安堵の表情を浮かべる。その理由は、やはり刹那にしか解らない。

「じゃあ……あの子は? 雪華ちゃんは?」

「……雪華ちゃん」

あの子への、想い。真っ直ぐで、天真爛漫で、でも仕事の事になると凄く必死で、凄く輝いてて。

そんな少女を、自分はどう思っているのか? 嘘偽りの無い、確固とした今の自分の気持ち、想い。

家族? いや、確かに一緒に暮らしてはいるが、何かが違う。友人? いや、これも何かが違う。じゃあ、一体何が――

『アンタ、その二人に恋してるんじゃね?』

(……あぁ、そっか)

もう、答えならとっくに出ていたのかもしれない。

出逢い、彼女の輝きを見た時、彼女と接した時間が刻まれた時、既にもう。

漸く、感情の整理がついたヒナギクが、ゆっくりと、自分にも言い聞かせていくように……言葉を紡いだ。


「――好き。私は、雪華ちゃんが……好きなんだ」


――それが彼の、彼だけの答え。出逢った時から、恋い焦がれていた。

その答えを聞き、美しく優しげな笑みを溢し、刹那はまた言葉を紡いだ。

「なら、こんな所にいないで、さっさと往きなさい。自分に嘘をつくのは、もうお終い。きっと、彼女は貴方の全てを受け止めてくれる」

「刹那、さん」

「私やさくらさん、烈火の魔法使いの『魔法』は奇跡を起こせるけど、決して万能じゃない」

そうだ、なのは達の使う魔法とは別物の『奇跡』を起こせる魔法とはいえ、決して万能などではない。
けど――

「でもね――愛や恋は、結構万能だから」

もう、彼らは大丈夫だろう。その想いさえ在れば、きっと何でも乗り越えて往ける。

だから後は……。

「でも、私は……」

「記憶がないって? 在るでしょ、ここに」

自然に、刹那が手を置いたのはヒナギクの胸。そこに詰まった、大切な物。

「なのはちゃんやさくらさん、桃子さんや士郎さん、烈火の魔法使いや……雪華ちゃん。皆との、大切な思い出はもうここに。貴方だけの、私とは違う大切な記憶が在るでしょう?」

「あ――」

そうだ、大切な記憶もう……ここに在ったのだ。何よりも大切な、皆との記憶。

もう大丈夫そうかな、と刹那は立ち上がり――純白の翼を、広げた。闇夜を照らす、純白の光はヒナギクを包み込み、外への道を繋げる。

「刹那さん……?」

「全部が終わった後でいいから、士郎さんと桃子さんの話もちゃんと考えなさいよ? さぁ――お別れです」

「待って!! 貴方は――」

「貴方に――蒼天の幸運を」

瞬間、ヒナギクは光と羽に包み込まれ――彼の“心”は、外の空間へと回帰した。

また、闇一色の世界の中で彼は一人になる。そして一つ、呟いた。

「そろそろ……潮時かな」

――その言葉を意味を知る者は、まだいない。彼の姿は暗闇へと消え失せ……歪んだ物語は、双天の魔法使いをも巻き込み加速を始めた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ドクン、ドクンと“翼”が作り出した空間が酷く震え――爆発的な衝撃が、真っ直ぐ響いた。

「くっ……!!」

咄嗟に動いたのは、やはり最強の魔導師と名高い女性、高町なのは。急ぎクロノ、そして本来は敵であるヴィータもわざわざ引き寄せて、広範囲に強力な防御フィールドを展開するワイドエリアプロテクションを作り出した。

次の瞬間、時空の翼を展開するヒナギクの更に後方。その空間に、確かな亀裂が走り――爆発的な紅蓮の業火が、一瞬にして辺り一帯を埋め尽くした。

「なっ……」
「シグナムかっ!?」

クロノが、ヴィータがその業火を見て驚きで目を見開くが、彼らの元にも炎が行き届く。そして、ワイドエリアプロテクションと炎が衝突――一瞬で、プロテクションを圧し込んだ。

(ッ……もうちょっと、加減してくださいよシグナムさん!!)

急ぎさらなる魔力を込め、辺りを包み込む炎から身を守りながら、未だ姿を見せない技を放った本人に文句を言う。

が、これでも加減は“している”のだ。この強固な歪みの結界をいとも簡単に破壊し、多少なりとも威力が落ちている筈なのに、高町なのはの鉄壁の防壁を圧し、尚広範囲に広がる業火。

――瞬発的な威力が一体どれ程であったのか、あまり知りたくはないことである。

だが、まだ終わりではない。何かが、信じられないことに業火の広がる亀裂の内部を突き進み、突入してくる。そんな馬鹿げた事を出来るのは、撃った本人を含め限りなく少ない。

だから、力の波動も含め、そして“氷結する炎”の光景を見て、誰が来たかは直ぐに理解できた。亀裂が、さらに広がる。そして、残り火とも言える業火をも氷結させ――姫君が姿を現した。

「――ヒナッ!!」

なびく“緋色”の髪。彼女そのものを表現するかのような、灼熱の炎髪。そして、己の師の名前を叫んだ事でやはりと思った。

氷雪系最強の刀、『大紅蓮氷輪丸』を展開し、氷華の翼で飛翔する氷の姫君――藤原 雪華。

残り火とはいえ、あの炎の中を突っ切って来るとは、全く予想外の登場の仕方だ。しかし、そんな事を考えている時間も惜しい。直ぐ様彼女に師の事を頼もうとし――急速に何かの力が強まって行くのをなのはは感じ取った。

「まさか……!!」

「このタイミングでか!?」

同じく、クロノも気が付いた。歪みを生み出していた力が、急速に翼へと集い出した。このままでは数秒もしない間に――この空間は、消滅する。

瞬時にそれを感じ取ったのだろう、雪華がヒナギクの元へと一気に飛翔する。が、それよりも速く……力の解放が始まった。

「雪華さん!! くっ!?」

衝撃がなのは達の元へも響き、変わらずプロテクションを解く事は出来ない。今プロテクションを解けば、自分達はたちまち吹き飛ばされてしまうだろう。

だが、雪華はその衝撃を何の防御も無しに、それどころか勢いを殺さずに迷いなく突っ込む。

当然、それによって――

「ッ!!」

『雪華!!』

雪華の受けるダメージは、その分増していく。けど――知ったことか。

氷華の翼が砕け、辺りに氷が散る――知ったことか。

衝撃に打たれ、口に血の味がする――知ったことか。

「関係……ない!!!!」

腕を伸ばす。その腕からも、血が溢れ出る――知ったことか!!

今は、目の前にいる大切な人の事だけを考える。こんな状態の自分を見たら、彼は泣くだろうか? でも、それでも、彼を救けたいから。だから、叫ぶ。

大好きな人の、名を。



「ッ……ヒナァァァァァアアアア――――――!!!!!」



……彼の表情が、辛うじて見える。驚きに染まった表情。そして、自分を見た彼の瞳は“確かな光を宿し”て――彼女の名を、呼んだ。

「ゆきか……ちゃん」

――刹那、安堵の表情を浮かべる雪華の指にヒナギクの指が触れ――強く、強く互いの身を抱き締めた。

翼が散る。二人が、そのまま離脱していく中、分離した力は……まだ生きていた。光が球体上の形となり、未だ強い光と衝撃を放っている。

「なのは!!」

「さっきよりマズいわ……このままじゃ、見境なく空間を破壊して現実空間にまで影響を及ぼしかねない!!」

ならどうする、と言うクロノの視線だけの言葉には答えず、神羅によって恐ろしく迅い思考速度を限界まで加速させる。

“アレ”を止める手段……ダメだ、今の自分達にその手段は存在しない。ならばせめて、“彼女”がたどり着くまでの時間稼ぎ――無理だ。

何か強い威力を持った力……それが在れば、僅かでも時間を稼ぐ事が出来るだろう。“彼女”が到着する、その僅か足りない時間を。

だが――手がない。今にも突撃していきそうな守護騎士のヴィータ……無理だ、彼女の攻撃が一番威力を発揮できるのは、おそらく接近戦。この障壁を常に展開していなければいけない状態では、とてもではないが接近は不可能。

クロノも、同じく無理だ。彼の場合、衝撃を貫いて尚時間を稼げる様な“火力”が足りない。

ならばその火力を持つ彼女自身――やれる物なら、とっくにやっている。

(この……己の未熟が恨めしい!!)

この空間に侵入する時に使った、転移用の魔力。さらに『ディバインバスター・エクスキューションシフト』で、温存していた魔力の半分以上を失い……今のこのプロテクション、想像以上に魔力を消費している。いや、彼女でなければとっくに崩れている、と言う方が正しいか。

衝撃を防ぎ切るだけのプロテクション、それを三人を囲み切るだけの範囲で、さらに長時間展開している。魔力が底を尽き掛け、障壁を圧し込まれ感覚が無くなり掛けている右腕を左腕で支え、そんな状態でも尚高速で動く思考を止めない。

破棄、破棄、破棄。思考しては、立案したプランを破棄して……彼女の気持ちとは裏腹に、無情にも光は輝きを増し――

「月……牙ッ!!」

刹那、響き渡るは運命を変える魔法使いの叫び。また空間に亀裂が奔り――真紅のドレス甲冑を身に纏った、芳乃シグナムが姿を現す。
天鎖斬月・緋炎から溢れる、灼熱の炎。それは、今までの牙とは比べ物にならない――烈火の刃。

鈴の音が鳴り、烈火の翼が、羽撃たく。


「天――衝ォ!!!!」


振り下ろされた刃から、真紅の牙が飛翔する。爆熱の炎が、光と激突し衝撃で空間が悲鳴を上げ――桜が包み込む。 続きを読む
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  1. 2012/11/30(金) 04:04:03|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編Ⅳ

「さくらちゃん!!」

……誰かが、呼んだ気がした。でも、今の少女にそれを確かめられる余裕は無い。ただ、思考が闇に染まって行くのを止められない。

そんな中でも、冷静に状況を把握している自分がいる……そんな自分が、少女は嫌いだ。

――少年が見せた表情を、良く知っている自分がいる。けど、冷静な彼女でもいつ見たかは思い出せない。

そして、その冷静な思考すらも途切れ――さくらの思考は、闇に落ちた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「そうか……そんな事が」

「冬獅郎くんの目的は、大体は判っとる」

戦艦アースラ、ブリーフィングルーム。彼……冬獅郎が再び姿を消してから少し経ち、ブリーフィングルームにはギン、クロノ、雪華、はやてと言ったメンバーが集まっていた。他のメンバーも、ここにはいないが事情は――気を失ってしまった、さくらを除き――理解していた。

「彼の目的は……僕たちと敵対しなければ、できない事か?」

「そうやね。ボク達に理解は出来ても、納得は出来ん方法や」

そう語るギンの表情は、珍しく僅かな怒りの感情が浮かび上がっていた。無論、身近で言うとなのは位にしか判らない表情の変化では在るが。

理解は出来る、しかし納得は出来ない。それが、刃を交えて彼の意図を読み取った市丸ギンの見解だ。

「あの子、自分で全部背負い込んで、この戦いを終わらせる気や」

「彼から何か訊いていたのか?」

「いいや、刀合わせたらそんくらいは判るし……言うてたんよ――『さくらを頼む』ってな」

彼を知る者ならば、その言葉がどれだけ重い物か判る。その言葉の意図は――自分が決着をつけるから、お前らは手を出すな――と言う意味合いも在るのだろう。だから、彼もわざわざ“敵”と言う言葉を使った。

さくらを頼む……この言葉の重さを、ギンと同じ程に理解しているであろう雪華は、目を閉じて壁に寄りかかったまま動かない。

暫く沈黙が支配していた場で、ふとはやてが口を開いた。

「強い……人なんやね」

「強くなんて無いよ」

そう、はやての言葉を切って捨てたのは、今まで沈黙を保っていた雪華だ。少し驚いた表情のはやてを見ながら、雪華は続ける。

「一人で突っ込んで、皆に心配かけて、挙げ句の果てに大切な人を泣かせて傷つけて……そんなの、強くなんか無い」

『その通りです』

ブン、と前触れも無くクロノの目の前に通信モニターが開き、雪華の言葉に同調する。慣れないはやては驚いて声を上げてしまったが、クロノは慣れているのか特に驚いた様子も無くその人物を見る。

――高町なのはと、髪型を除き瓜二つの女性を。

「シュテルか」

『はい。……一つ、教えておきます八神はやて。一人で抱え込むのが悪いとは言いません。が、それで傷つき、悲しむのは自分だけではなく、周りの人間もです。覚えて置いてください、一人で抱え込み、強がるのは強さではなく、弱さです。それを、お忘れなきよう』

「は……はい」

すっかりちゃっかり説教されてしまったはやては、もう過去に同じ様な事をした自覚が在るのか非常に恐縮した表情になる。

ふむ、流石はなのはの構築体(マテリアル)、手慣れているな……そんな良く判る様な判らない様な事を思ったクロノが、シュテルの後ろに映る光景――無限書庫――を見て、そこから何気ない疑問を感じた。

「シュテル、なのはは居ないのか?」

『はい、今は白河家当主とその妻(他者命名)と共に、予測地点の検証を行っています』

「ちゅうことは、判ったんやね? 完全融合をする際、最も適していると思われる場所が」

『その通りです、ギン。このミッドチルダに於いて、あらゆる魂が彷徨い、集う場所……これが、ユーノが出した検索結果です』

後は、その場所に心当たりがあるなのはが調べに行くだけだったのだろう。相変わらず、凄まじい検索能力だな、とクロノも舌を巻く。
幾らギンからの情報が有ったとはいえ、僅か数時間で必要な物を検索する能力は、広い次元世界の中でもユーノ程に優れている人物は少ないだろう。

「で、そのユーノは何処に行ったんだ?」

『先程、クーゴに連れて行かれました。まだ何かないかと検索しようとするユーノに、人間ってのは休憩しないとな疲れて脳の動きが鈍くなるんだよ、だから休め……的な発言でユーノを説得し、ただいまお昼ご飯を食していますよ』

さらっと声真似までして、クロノの質問に応えるシュテル。……意外に思うかもしれないが、クーゴも案外常識人である。まぁ、無限書庫に来た理由は『暇だから』の一言なのだが。

「そ、そうか……とにかく、僕たちも今からミッドチルダに向かう。合流し、戦力を整えよう」

『了解しました。では、後程』

シュテルとの通信が途切れ、クロノは再び三人へ向き直る。

「さて、僕達はこれからミッドチルダに行き、なのは達と合流するが……君たちは、どうする?」

「私は一緒に行く」

真っ先にそう答えたのは、雪華だった。ただ、その表情はどこか……強がっているようにも見えた。

しかし、それをフォローするのは自分達ではない。だからクロノは何も言わず、はやてと……そしてギンへと視線を移した。

「私は、クロノ君の補佐官や。一緒に行くのは当たり前やろ?」

「そうか」

微笑みを浮かべ、迷いなく言うはやてに、クロノも少し笑みを溢し頷いた。そして、後一人……市丸ギンの答えは――

「悪いんやけど、ボクは一緒に行けへんわ」

「そう、か……」

落胆、と言う感情をクロノは僅かに表情に現した。それを見たギンが、少し笑みを浮かべ言葉を続ける。

「勘違いせんといてな。さくらちゃんがまだ起きんから、一緒に行けへんだけや。もし、さくらちゃんが動ける様になったら、ボクらも追い付く……一発、殴らなアカンからな」

誰を、とは敢えて言わなかった。とはいえ、クロノには言わなくても解った事だろう。冗談めかしく言ったギンに対し、クロノは頷き了承する。

ある意味、この三人に訊いた事で、残りのメンバーがついてくるかどうかも、決まっていたも当然だった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

戦艦アースラ、その展望室。まぁ展望室とは言っても、今は異次元に待機しているだけなので何が見えると言う訳でもないのだが。

そこには一人の女性が座り、瞳を閉じて微動だにもしない。鞘に入った刀を軽く肩に乗せ、まるで瞑想するかの様に……ふと、彼女が――烈火の魔法使い、芳乃シグナムが目を開いた。

「お前、大丈夫なのか?」

その問いかけに答えたのは、ただシグナムを見つめていた、女性も羨む美しい容姿の青年……紅 刹那。

「あぁ、あの子の事なら心配ないですよ。無理に私がいなくても、特に何かある訳じゃないですし、今は私がいない方が――」

「違う。そうじゃない」

刹那の言葉を遮ったシグナムが、視線だけを彼に向ける。それに対し刹那は、僅かに首を傾げた。

はて? 自分がここにいる事で彼女が心配するのは、てっきり彼女の主の事だとばかり思っていたのだが……彼の思考の合間に、ブスッとした表情のシグナムが溜め息を吐いたかと思うと、相変わらず真っ直ぐな言葉の続きを放った。

「主じゃなく、私はお前の事を言っているんだ。分かれ、バカ者」

一瞬、彼女が何を言ったか理解し損ねた刹那だったが、その言葉の意味を理解すると、ふとあまり見せた事のない優しげな微笑みを見せた。

嬉しかったからだろうか、それとも――そこまでは解らないが、壁に寄りかかっていた刹那がシグナムの隣へ座り、少し言葉のない――しかしどこか、心地よい――時間を跨ぎ、そして言った。

「まったく、心配性な人ですね」

「お前には、心配性なくらいが丁度いいと思っているからな」

シグナムの言葉に刹那が、貴方に言われたくないですよ、と憎まれ口を言いながらも、二人の雰囲気は全く悪くない。

だがそれは……遠くもなく、しかし近くもない摩訶不思議な距離感。

「貴方は……どうするんです? これから」

「さくら姉さんの傍にいるさ。今の姉さんを放っては置けん……それに今は、二人きりにした方がいいだろう」

まぁ、そうだろうとは思っていた。雪華は、恐らく今頃ヒナギクがフォローに行っているだろう……方法は、最近の彼から察するに、どうなるかは保証できないが。

「…………」

「…………」

舞い降りる沈黙。互いに違うタイミングで視線を向けたと思えば、特に何を言う訳でもなく視線を逸らす。

「「なぁ(あの)……あ」」

そして、いざ話したかと思えば全く同じタイミングで声を掛け、何故か気まずくなり再び沈黙が舞い降りる……何というかまぁ、凄く初な二人だ。

だが、いつもならこんなに会話が続かない事はない。いつもなら、シグナムが会話を切り出して刹那がそれに口癖を加えながら応える、と言う感じか。


なのに、こんな微妙な雰囲気になっているのは……やはり、さくらと冬獅郎の事があったからだろう。

「……お前だったら、どうする?」

「え?」

結局、切り出したのはシグナム。それも、要領を得ない質問だった。戸惑う刹那に、シグナムは言葉を続ける。

「お前がもし、さくら姉さんと同じ立場だったら……どうする?」

「私……が?」

――もし、自分がさくらさんの立場だったら……信じていた大切な人が、自分の目の前から突然いなくなってしまったら。

あくまでも仮定の話……しかし、どこか他人事には思えなかった。もしシグナムが――仮定の話だから、深い意味はない、と思う――自分の目の前から突然いなくなり、今の二人のようになったら。

スッと瞳を閉じ、答えを決めた刹那がシグナムの瞳を見る。吸い込まれそうな強い、美しい瞳。もし彼女がいなくなったら――

「多分、今のさくらさんと同じ。でも――絶対に追い掛けると思うよ。私も……さくらさんも」

――だから、大丈夫だよ。案に、彼女の姉は大丈夫だと元気付ける為に言った刹那の表情は、誰もが御惚れる様な美しい花のような微笑み。

それを見たシグナムが、本能的に刹那の事を引き寄せようとして――

「――ッ!!」

「? どうかした?」

「な、何でもない。気にするな!!」

ギリギリの所で正気に戻り、恥ずかしくなって顔を背けた。変なシグナム、と可愛らしく首を傾げる無自覚な刹那はそう言ったが、それによって今のシグナムの心臓はバクバクで顔は真っ赤だ。

……こんなになっているのに、自分の持つ感情が何なのか理解ができないのだから、驚くべき事だろう。

(…………ヘタレ)

ふと、刀からはっせられた頭に響く声に反論できなかったのは……何ともまぁ、情けない話である。

天下無敵の姉も、どうやら色恋沙汰については、教えてはくれなかったらしい。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

緋色の髪が、広いベッドの上に広がる。しっとりと濡れたその髪は、タオル一枚と言うあれもない姿、彼女の――藤原 雪華のスタイルの良さもあり、酷く煽情的だ。

彼女に気のある男がいたら、間違いなく襲い掛かるレベルである。……いつもなら、はしたないやら髪を拭けやらのお小言が飛んでくるのだろうが、今はその兄もいない。

って言うか、ここはアースラの個室の一つなので、誰も入れる訳が――

「やっほー、そんな格好だと風邪ひくよ、雪華ちゃん」

「へ――にゃああああ!?」
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  1. 2012/11/15(木) 22:58:48|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編Ⅲ


「おおおぉぉぉぉ――らぁ!!」

「うおおぉぉぉぉ――はぁ!!」

闇夜の天(そら)を刃が弧を描き、金属音と共に火花が散る。一度互いが離れ、再び力強く刃を打ち合う。

天鎖斬月が横凪ぎに振るわれる――氷輪丸がそれをいなす。

氷輪丸が左斜め上段から振るわれる――天鎖斬月がそれを難なく受け止める。

一進一退の攻防を繰り返し、戦いを彩る火花が数え切れない程に散り行く。

「月牙……天衝ォ!!」

「往け……氷輪丸!!」

互いに距離を取った瞬間、戦いは停止する事なく動く。天鎖斬月から溢れた奔流が型を成し、弧を描く白い斬撃が飛翔する。氷輪丸から溢れた冷却が型を成し、氷と水の竜が天を疾走する。

先に喰らいついたのは竜……が、その優劣はすぐに別れた。月牙が竜を砕いて往き、そのまま男に襲い掛かった。竜との衝突でタイムラグが在り、それは避けられたが、その隙を狙って崩天が特攻し天鎖斬月を殴る様に叩きつけた。

少し圧され気味の少年に対し、崩天は笑う。

「ハッ、人様乗っ取って力引き出しといて、その程度かよ!?」

崩天の言う通り、氷輪丸は少年の身体を乗っ取り……そして、自らの力を引き出している。例えそこに、資格者との信頼が無くとも。ならば何故、氷輪丸が崩天に圧されているのか?

理由の一つには、まだ氷輪丸が通常解放状態で在る事が関係している。常に完全解放状態と言っても過言ではない天鎖斬月を相手に、通常解放で挑むなど普通はナンセンスなのだが……少し違う、氷輪丸は全力を出さないのではなく“出せない”のだ。

氷輪丸の刀を圧し続ける崩天が、言う。

「違げぇな……まだそのガキと融合しきれてねぇんだろ!?」

「フッ――なら、少し強がってみよう」

「なに……ッ、チィ!!」

突如、崩天が自分に優勢だった鐔競り合いを崩し、その反動で後方へ飛ぶ。その時、先ほどまで彼のいた場所に巨大な赤と青が入り交じった球体が落ちて来た。無論、後方へ飛び球体を避けた崩天だったが、彼をさらに追撃するように上空からもう一つ球体が迫り来る。
再び飛び退き、それをやり過ごす崩天――

「卍解……大紅蓮氷輪丸」

――が、その背後に凄まじい冷気が集い、駆け巡るのを彼は確かに感じ取り、すぐさま後ろに振り返る。しかし、それより速く刃は振り下ろされた。

「氷竜旋尾!!」

巨大な竜を纏った様な姿の少年が刃を振り下ろし、崩天を名の通り尾の様な斬撃が包み込んだ。その氷自体にはすぐに罅が入るが……。

「千年……氷牢」

その上から、さらに氷の柱が集い、重なり合い崩天を封じ込めた。流石の崩天も、二段の囮に対しての対処で反応が遅れた所為で、完全解放への行動が一瞬遅れた。

決着はついた……そう言わんばかりに勝ち誇った笑みを浮かべていたのは、氷輪丸を持ったではなく、氷の牢を見下ろす二人の女性だ。

「ははっ、主に逆らうからこうなるのさ!!」

「噂の天鎖斬月も、所詮はこの程度――」

『――調子扱いてんじゃねぇぞ、ザコ虚(ホロウ)が……!!』

「「ッ!?」」

響く声は、氷の牢からの物……バカな。あり得ない、あの氷の中では指一本動かせない筈だ。そんな思いとは裏腹に、氷の牢に罅が入りそこから白い奔流が溢れ――瞬間、白い奔流が爆せ、氷の牢をいとも簡単に吹き飛ばす。

「主から能力(チカラ)貰っただけのクソガキが……」

白い奔流と冷気が晴れると、そこからダブり声が貫くように響き、圧倒的な重圧が空間を支配し、ただ立っているだけで空間が震えているように思えてくる、崩天がいた。

右半分が血の紋様で染まっている仮面……何処か禍禍しい雰囲気を出すそれは、幾千もの虚(ホロウ)が束ねられた存在である二人をも本能的に畏縮させる程の物だった――だからこそ、二人の反応は明確に遅れた。

「不意討ちの一回は一回です――月牙天衝・双牙」

「なに……ぐぁ!?」

「ヤン!! うぁ!!」

彼女達の真後ろから掛けられた声と共に、まずヤンと呼ばれた赤い虚が月牙の直撃を受け、殆ど差が無いタイミングでもう一人の虚にも蒼い月牙が直撃。二人とも月牙に呑まれ、そのまま地面に激突した。

二人を一瞬で倒した者……蒼天が、同じく一瞬で仮面を着けた崩天の隣に移動する。

「んだよ、高見の見物じゃなかったのか?」

「そう思っていたのですが、貴方の戦いに手出しする者がいましたので」

「あんなザコ、お前が手出ししなくても俺が一瞬で倒してたっつーの」

「私がそうしたかったので」

あーそうかいそうかい、と崩天がしれっと答える蒼天に呆れにもにた表情(仮面を着けているが)で言い、再び天鎖斬月を片手で氷輪丸に突き付けた。

「相変わらず仲が良いな、崩天」

「うるせーよ。テメェ、まだ続けんのか」

「クククッ……いいや、今は“まだ”虚化(ホロウか)したお前と戦う気はないよ」

今は“まだ”……そう不敵に笑い、完全解放状態――冬獅郎と違い、紫色の竜――を解除する氷輪丸。その隣に、先程の月牙を何とか耐えたのか二人の虚も睨み付けながら並ぶ。

「俺が逃がすとでも、思ってんのか?」

「そうせざるを得ない、とは思っているよ。この少年を身体を案じている、ならね」

「あぁそうだな――けど、ムカつくから一発喰らっとけ」

瞬間、崩天の天鎖斬月から仮面を着ける前とは比べ物にならない程の、圧倒的な白い奔流が溢れ出し、加速し――解き放たれた。


「――月牙天衝」


それは、斬撃という枠には収まり切らない物だった。崩天と氷輪丸の距離は、10メートルも無く、放たれた月牙は一瞬で彼らの姿を呑み込んだ。いや、それだけでは無い。圧だけで辺りの物が砕け、吹き飛ぶ。白い月牙は、辺りの天の一帯全てを覆い尽くす程の大きさ。

もはや爆発と呼んでも過言ではなく、天を崩す者の放った白い奔流はまさに、敵を喰らい尽くす“牙”だ。

凄まじい暴風と共に、漸く白い奔流が晴れて行く。そこには……誰もいなかった。跡形もなく消し飛んだ、と言う訳では無い事は撃った崩天と隣に控える蒼天には良く分かっていた。

「……まったく、無駄だと分かっていたでしょう」

「言ったろ、ムカつくツラに一撃入れたかったんだよ」

と、崩天が自らの仮面に軽く触れる。すると、重い重圧を放っていた仮面があっさりと消え失せた。そんな崩天を尻目に……蒼天がボソッと呟いた。

「…………ガキ」

「……オイコラ、今お前ガキって言ったよなぁ!?」

「いいえ。貴方がツンデレのガキとは、言いましたが」

「誰がツンデレだコラ!? テメェの方がツンデレだろうが!!」

「愛していますよ」

「心がこもってねぇ!!」

……なんか段々バカップルみたいになって来たので、以下の会話は割愛。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「んで、何から訊きたい?」

「じゃあ全部!!」

「……俺は何から、って訊いたんだがな、クイントさんよ」

崩天と蒼天がコントじみたやり取りをしているのとほぼ同時刻、首都防衛隊ゼスト隊隊舎。同じく、裏月とクイントも本当の意味でコントなやり取りをしていた。

それはさて於き、だ。

「しゃーねぇな。順を追って説明するか。まず、今回の一連の事件は――間違いなく、『理(ことわり)から外れし者』……その一人が起こしている事件だ」

「……それは、先程の救援に来た者達の事を言うのか?」

「はい。彼らは基本的に、人の前に姿を現す時は『資格者』と認めた人間と共にいるのです」

「さっきの二人の場合、俺とリインだな」

ゼストの質問にリインフォースが答え、さらに裏月がフォローを入れる。理から外れし者……彼らは、自らの意思で己が力を貸す――いや、力を共にするに相応しいと決めた資格者と共に在る。

ただ、性格や相性などの問題も在り一度に集結する数は多くない……そういう意味では、現時点で七人もの――候補や“例外”を入れれば九人――資格者がおり、その人物達の全員が互いの存在を認知している、と言うのはかなり珍しいと言えるだろう。

「で、ここからが重要だ。アイツらはな……管理局の法じゃ裁けない」

「「!?」」

裏月の言葉に、混乱を避ける為にゼストとクイントの二人だけに説明されていたのだが、その両人ともが驚きで目を見開いた。

「ど、どうして!? 少なくとも、このミッドで起こった犯罪なのよ!?」

「一つは、理から外れし者……つまり、“世界”と言う物から外れてるんだからその世界の法で裁くのは可笑しい。と言われてるな」

「もう一つは――彼らは関わっているんです。時空管理局……その、創設に」

……驚愕。というよりは、唖然として反応に困っていると言う感じの二人。まぁだろうな、と他人事のように裏月は思っていた。

話が飛躍し過ぎているとは、まさにこの事だろう。

「時空管理局創設……百年以上前の事にか?」

「あぁ。まぁ、生まれた時代が個人個人でバラバラらしいから、結構最近の奴もいるみたいだが……古代ベルカ時代程度なら、知ってる奴は多そうだな」

「て、程度って……」

「程度なんだよ。アイツらにとってはな」

そう、一部――最近の事だと言っているさくら、彼女と深い関わりが在る冬獅郎――を除き、古い歴史とされるベルカ戦乱時代も彼らにとっては“程度”でしかない。

しかも、表向きには知られていないが、彼らはベルカ戦乱時代に参加している。ただし、最後の辺りだけ……しかも理由が、あんまりにも五月蝿くて騒がしかったから、と言う後世にはとても語り継げない物なのだが。

誤解しないでもらいたいのは、この介入理由は一部の者でしかない事だ。公開されていない資料の中には、その圧倒的な力で戦乱の世を収めたとされる。ただ、戦争が収まったとき、彼らは表舞台から姿を消したとされ、ベルカの戦乱は表向き『勝者なき戦争』となっている。

一部記述には、一本の『刀』と共に戦乱の世を収めた者、その家系が在ったとされるが……これは、かなり有名な物では在る。この記述を踏まえると、ある意味この家系こそ戦乱の“勝者”なのかもしれない。今となっては、この戦乱の真実を知る者は彼らしかいないので定かでは無いが。

「んでもって、ベルカ戦乱に介入した奴らもいた訳だが……」

「再び彼らが表舞台に姿を現したのは、時空管理局創設の時と言う事です。彼らは、代々『刀』を受け継ぐ家系とされる『白河家』と共に管理局創設に尽力した、とされています」

「だから、管理局の法では裁けない?」

でもそれは、暗に彼らの犯罪行為を見逃す事になる。そう言いたげなクイントに、リインフォースが静かに首を振る。

「確かに、管理局創設から今まで何一つ問題は在りませんでしたが……彼らは、自分達の中で害を成す存在が現れたとしたら、自分達があなた方に協力し裁く。と言い残していたのです」

「つまりだ、レジアスのオッサンも動いている今……みんな動くぜ。刀を持つ者達も、処刑人(エグゼキューター)も、白河家の当主様も、俺たちもな。そして、切って落とされたこの戦いのタイムリミットと決戦までの時間は――三日だ」

三日……たったそれだけの時間が、彼らに残された世界のタイムリミット、及び決戦までの時間。

――歪んだ舞台の幕は、既に切り落とされている。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ごめんねギンくん、付き合ってもらって……」

「いやいや、お安い御用やって」 続きを読む
  1. 2012/11/15(木) 22:43:35|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編Ⅱ


溢れだす虚(ホロウ)。停止した世界の“時”。その混乱の中で、凄まじい斬撃音が響き渡っていた。
二つの刃が光りを反射させ、煌めきを放ち、ぶつかり合い火花を散らす。時には互いの場所を入れ替え、時には黒髪の男がジャンプし上から振るった刃を、銀髪の人物があっさりと受け止め、再び高速の剣戟が始まる。

弾き、弾かれ、ぶつかり合っていたそれは、両方が一度距離を取った事で終わりを迎えた。

「――貴様、虚(ホロウ)だな?」

白銀の剣を構えた、女性の様な容姿を持った銀髪の少年――ジャンヌ・ダルクが男に問い掛ける。

男は……答える代わりに、一気に距離を詰めて再び剣を振り下ろした。素早く反応したジャンヌが、その刃を剣で受け止めた事で、先程とは打って変わって鐔競り合いになった。そんな状態でも、ジャンヌは平然と話を続ける。

「それも普通の虚じゃない。何百……いや、何千もの虚が融合して創られた個体だな」

刃を交えただけで、すぐに解った。様々な“魂”の感覚、明らかに人間では無いと解るそれは――同時に、男の刃に何の“心”も無いと言う事さえも、ジャンヌは感じ取る。

そして、敵をも萎縮させる彼のサファイアブルーの瞳が男を射ぬく。

「貴様の狙い……違うな。貴様の主の狙いは何だ?」

「……お前は、主の計画の邪魔になる」

言うなり、男が剣を弾き再び距離を取る。大きく飛んだ男が着地すると、剣を持っていない方の腕を掲げ――空中に何本もの“剣”を成形した。その光景を見れば、誰もが男が普通の人間では無いと理解出来るだろう。

「成程、大した曲芸だ」

「……消えろ」

ジャンヌの、称賛にしては幾らか感情がこもっていない言葉を無視し、男が空中に停滞させていた剣を解き放つ。

放たれた剣の総数は、六。それが一気に、ジャンヌに向かって飛翔する。それに対して、ジャンヌは動ずる事も無く動く事も無い。いや、動いてはいた。左手に持った剣を、右手に持ち変えただけだが。
そのまま、剣はジャンヌに突き刺さると思われた。当たり前だ、ジャンヌは何も“構えていない”のだから。

……普通の思考をした人間なら、そう考えるだろう。だが違う、ジャンヌは“構えている”。ただし、無形の構えで。

――瞬間、六本の剣が火花を散らし、金属音と共に全て撃ち落とされた。ほぼ、同時に。

「大した曲芸だが、所詮はこの程度か」

透き通る、白銀のクリスタルの様な刃を持った剣を再び構え直したジャンヌが、平然と言う。先刻、ジャンヌの目の前を飛翔していた剣は、他ならぬジャンヌによって“撃ち”落とされた。そう、撃ち落としたのだ、彼は。

証拠に、落ちている剣の近くには六つの銃弾が落ちている。魔力で創られてはいるが、形は普通の銃弾と何の変わりもない。そして彼の騎士甲冑(の様な物)の、コートの様に後ろ足辺りを隠すスカート部に隠された銃も在る。

だが、いつどうやって――そんな考えは、男には浮かばない。ただ自分は、目的を果たすだけだと言わんばかりに、また剣を構える。

再び剣劇の嵐が再開される……そう思われた刹那、在る変化が起こり、その予想は覆された。

ドクン!! と凍結した空間が震えたかと思うと、穴が……虚が溢れ出ていた空間の穴が閉じて往く。

「空間が……!!」

「…………」

それが合図だったのだろう。男が無言のまま一歩下がり、そこから一気に撤退を開始した。追うか追うまいか……ジャンヌがそう思案した時には、男の姿はなかった。恐らく、転移の類を使ったのだろう。

――結局、敵の目的は判らずじまいか。謎も謎、謎だらけだ。これだけの虚、彼らの存在を知っている者ならば人為的な物だと簡単に想像できる。そしてこの、凍結した空間。自分たちが動ける理由は何となく解るが、それ以外は本当に謎だらけだ。

「ジャンヌ~~」

「……リリィか」

非常に甘い声、と言うか何というか、そんな感じの声がしたのでジャンヌが後ろを向くと、一言で言えば美少女がいた。そりゃあもう、この場に合わないくらいの。

ふわりと揺れる、ツーサイドアップに括られた天然パーマの金髪。あと、言っては何だがなのはとは対照的な大きな胸に、かなり小柄な体型をしている。所謂(?)、一定の層に人気そうな少女だった。

「無事だったか……と、訊くだけ無駄だな」

「あ、ひっどーい!! そこは無事だったかの後に、安堵の表情で“良かった……”って繋げる処だよ!!」

「注文が長い」

バッサリ、一刀両断と言う文字のままに言うジャンヌに、リリィは暫く文句を言っていたが、状況が状況なのですぐにおふざけモードから切り替わった。

「ねぇねぇ、どうするの?」

「他の者と合流だな。じっとしていても始まらん」

「ラジャー!!」

ビシィ、と上目遣いで敬礼をする器用なリリィが少し可笑しく思えて、ジャンヌは微笑を零す。

緊張感の無い奴だ……そう思うジャンヌだが、それがリリィの良さなのかもしれないと、思い直してまた微笑する。

「それにしてもさぁ、何だか大変な事になったね」

「まぁそうかもしれんが――遺伝子バカの吸血鬼と会うよりは、大分マシだと思うがな」

ジャンヌの言い回しに、キョトンとなるリリィだったが、すぐに言っている事が解ったのか、ポンっと手を叩いて歩きながら会話を続けた。

「ああ、ブラドの事かぁ。ホント、ジャンヌってアイツの事が嫌いだよねー」

「ふんっ、嫌いになる要素しかないからな。まぁ、最後は自分が引っこ抜いた柱の下敷きになったまま捕まったのだから、どうしようもなく好い気味だったよ。聞こえていたかは知らんが、ついでにいろいろ言って遣ったしな」

ついでって……呟き、若干苦笑するリリィ。が、ジャンヌはマジで嫌っているのか、ハッハッハと笑う。

そりゃあもう、悪い顔で笑う。今さらだが、彼の弟とはまた違う感じでSな感じである。

「確かに、当たり前だけど好かれる要素は無いよね。遺伝遺伝うるさかったし、アリアや理子を欠陥品呼ばわりするし……」

「まぁ、その欠陥品呼ばわりした人間達に倒されては、世話ないがな」

皮肉げに言うジャンヌに、リリィは少し曖昧に笑う。ここまで相手を嫌うジャンヌと言うのも、少々珍しいからかもしれない。まぁ、ジャンヌが一番嫌う性格なのだから、当たり前なのかもしれないが。
そんなこんな、まるで夫婦の食卓の様な会話をしながら、二人はシグナム達と合流。ここから、この歪んだ物語は本格的に動き出す――

「……夫婦漫才か?」

「違う!!」

「漫才はともかくぅ、夫婦って処は肯定しても――」

「するかぁ!!」

――のかもしれない、多分。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……よし、揃ったな。早速始めよう」

アースラの会議室にて、クロノが真剣な声色で周りの人間を見回して言う。集まっている人間は、フェイト・テスタロッサ。八神 はやて、その守護騎士のヴォルケンリッター三人のうちの二人、ヴィータとザフィーラ。少し離れた場所には、虚出現時に駆け付けたさくら、そしていつもの真っ白な服を着た市丸 ギンの姿も在る。

「もう言うまでも無いだろうが、キミ達に集まってもらったのは第97管理外世界“地球”……そこで起こった異常の為だ。一つは、謎の時間停止。もう一つは、虚(ホロウ)の大量発生についてだ」

「――ぶったぎる形で悪いんだけどさ、虚(ホロウ)って何なんだよ? あの変な化け物……」

いきなり疑問と投じたのは、赤毛の少女、ヴィータだ。その表情は平淡としているが、その心境は穏やかでは無い。当たり前だ、訳の分からない事が多すぎる。

「そうだな、キミ達にはまずそこから説明しなければならないか。……虚とは、簡単に言えば彷徨う魂が形になった物だな」

「本当に簡単に言(ゆ)うと、そう言う事やね。まぁ、厳密に説明すると面倒やけど」

「……全然わかんねぇ」

苦い表情で呟くヴィータに、クロノも内心同意する。彼とて、全て理解している訳では無いし、虚の情報もなのはから少し聞いたことが在るだけだ。

取り敢えず虚の疑問が解決……する訳がなく、次に疑問を投げ掛けたのははやてだった。

「ちゅう事は、虚の大量発生は自然現象なん?」

「ううん。こんな形で虚が現れるなんて、普通はあり得ないよ」

「へ?」

はやての論をあっさりと否定したさくらに、フェイトがそれを引き継ぐ形で言葉を紡ぐ。

「そう、虚は本来“ヒト”に取り付いて、強い『感情』に呼応して目覚める。だから、虚が個体で身体を持つなんて事、あり得ない」

「……つまり、人為的に創られた物か」

「うん。今回みたいに例外的に身体を持ったとしても、虚単独での力は弱いから、虚にとっても良いことは無い。ザフィーラ君の言う通り、自然現象じゃなくて、誰かが虚の魂を集めて強引に創ったと考えるのが普通だね」

だからこそ、敵は虚を大量に出現させた。例え個々の力が弱くとも、千もの数が集まればそれは脅威となる。つまりは、そういう事だ。ただ、ここで疑問となるのは、やはり虚を操る人物の存在になる。

「問題は、誰が何の目的で虚を生み出し、操っているかだな。そして、時間停止の件も――」

「――厳密には、時間停止ではなく空間凍結ですね」

クロノの言葉を遮る凛とした事が響き、会議室の扉が開いた。全員が視線を向けると、そこには五人の人物がいた。堂々と入って来るジャンヌに、不法侵入紛いの行為に若干申し訳なさそうな表情のリリィ。いつもと大して変わりは無い様に見える、シグナムと雪華。

そして、最後は――

「ヒナギ……ク、じゃねぇな」

「あら、やっぱりヴィータちゃんも分かっちゃうんですね。それはそれとして――申し遅れました。私は紅 刹那です。以後、お見知りおきを」

ふわり、金の髪を揺らし、そんな些細なことさえも優雅に見える動きで、彼は……紅 刹那はお辞儀をした。それだけなのに、元からいた者のヴィータを除いた全員が見惚れてしまう。そして、彼が頭を上げたのと同時に、ヴィータが問いかけた。

「んで、何でアンタが出て来てんだよ。ヒナギクは?」

「私が出てきた方が説明しやすいと思って、ちょっと眠ってもらって変わりました。まぁ、遣る事をやったら戻りますよ、かったるいですし」

「……簡単に言うがな、お前が戻った後、主を相手に誤魔化すのは私なのだが?」

「あら、主のサポートは騎士様の役目ではなくって? まぁ私がかったるいだけですけど」

ジト目で言うシグナムに対し、刹那は笑みを浮かべて平然と返す。外面だけ見れば、ヒナギク相手にいつも敬語のシグナムがタメ口と言う、かなり珍しい光景に刹那を初めて見た一同が唖然となる。

その空気を取り払ったのは、二人のやり取りを呆れ顔で見ていた雪華だ。

「ちょっと刹那、説明するならさっさとしたら?」

「ん、それもそうですね。それじゃあ、まずはこの事象ですけど――これは、地球と言う世界“そのもの”が凍結しているんですよ」

結構あっさりと、特に前置きも無しに言う刹那だが……当然、それだけで解る人間は殆どいない。ほぼ全員が「?」を浮かべていて、シグナムと雪華は何となく、ジャンヌ、そしてギンとさくらはだいたい解っていると言う感じだ。

「まぁ分かりやすく言いますと、地球と言う“存在”が凍り付いてしまっている、と言う感じですかね」

「……それ、時間停止と変わらないんじゃねーの?」 続きを読む
  1. 2012/11/15(木) 22:35:26|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編Ⅰ

ミッドチルダ、首都クラナガン。地球からすれば異世界だが、気候に変わりがある訳では無く、日が完全に沈んだクラナガンでは土砂降りの雨が降り注いでいた。

――この雨を、今の今程に恨んだ事はなかった。せめて雨が無ければ、せめて通信機が壊れていなければ、少なくとも人がいて必死に逃げる自分に気付いてくれたかもしれない。

「はぁ、はぁ……くそっ!!」

走る、走る、ひたすら走る。最早、雨など気にならない程に彼は必死になって逃げていた。そうしなければ、彼自身の無事が保証できない――だが、その努力は全くの無駄に終わる。

「おい、どこに行く気だよ?」

「なっ……うわっ!?」

立ち止まった……いや、突如“氷結”した地面により立ち止まる事しかできなかった。降り注ぐ雨の中、それでもしっかりと聞き取れるその声。立ち止まった彼に対し、刀を突き付け言う男は……言うなれば、彼にとっての“死神”だろう。

「何なんだ……何なんだよ、お前は!?」

「俺か? 俺は――」

彼の問い掛けに男は答えた……が、その答えは強い雷の音によって掻き消され、誰にも届く事なく消え失せ――彼の全ては、凍り付いた。

やがて、二つの人影は一つになり、雨に濡れていたその場は、全てが氷結している。

「……はは、あははは――フハハハハハハハッ!!!!」

笑う。刀を持った、彼だった者が笑う。天に響く、その不気味な笑い声は……この事件の、幕開けだったのかもしれない。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

首都クラナガン。前日の雨も降り止み、見事な晴天となったのだが……時空管理局にとっては、心は晴天とはならなかったらしい。

忙しく動く局員たちの挨拶に返事を返しながら、一般人は立ち入りを禁止されたその場所に二人の人物が現れた。

「これは……酷いな」

「うわぁ、ホントに氷の世界って感じやなぁ」

一面が銀世界、全てが氷結したその現場に到着したのは執務官のクロノ・ハラオウンと、その臨時補佐の八神 はやてだ。

氷の世界……そう称したはやての言葉は、的確に現場の状況を表していた。この晴天の中でも、全く溶ける気配も無く、それどころか空域一帯の気温を大幅に下げる程に巨体な氷結世界。吐く息が白く見え、バリアジャケットが無ければ凍えてしまいそうな気候だった。

「これまでも何件か見てきたが、これが一番酷い状態だな。今回の被害者は……」

「状況と、今までの被害者から推察するに、昨日から行方不明のソウジ・クサカ三等空尉や。魔導師ランクは極めてAAAランクに近い、AA+。そして珍しい属性変換『氷結』の持ち主――ただ、今までと被害者との相違点は、やっぱり“行方不明”と言う点やね」

「あぁ。今までは、全員が重症を負わされていたのだが、今回は行方不明か……」

それに加え、今までに無い程の高ランク魔導師が行方不明。前までの同一犯と思われる事件は、『氷結』の魔力変換を持っているとはいえ、比較的魔導師ランクが高い人間はおらず、言い方は悪いが重症だけで済んでいた。そしてそこには、全員が犯人を見る前に倒されており、それなりの実力者と言う見解だった。

――しかし、今はその評価を上方修正せざるを得ないと言う事だ。この氷結世界に加え、極めてAAAに近い魔導師を倒せるだけの者……普通の局員には、太刀打ちすらできないと考えても良いだろう。
はやてとの会話の中で、情報を整理しながら思考するクロノが、ポツリと呟き、はやてもそれに反応する。

「たったこれだけの情報では、無限書庫と言えど動けない。完全に後手に回っているな……」

「そうやね……これ以上、大きな事件に成らんとええんやけど……」

だが、はやての願いも虚しく……この事件は、様々なチカラを巻き込み――歪んだ物語と共に、加速する事になる。

数日後、私立聖祥大学付属小学校の屋上。時刻としてはお昼時。つまりはお昼休みの時間帯である。もちろん、小学校としては当たり前のお昼休みに、はやて達は屋上でお昼ご飯を食べている真っ最中だった。

「――って言う感じなんやけど、まぁ大変なんよ」

「へぇ~、やっぱり忙しいんだね、はやてちゃん」

「……いや、そもそもそんな事をアタシ達に話して平気なの?」

「ん、はやてが話したのは事件の概要だけだから、全然平気だよ」

もぐもぐ、もぐもぐとお弁当を食べ、たまに他の三人……はやてとすずかとアリサの弁当からおかずを強奪する、白い髪止めで金髪をポニーテールに括ったフェイトが、一度手を止めアリサの質問に答えた。

はやてが話した事件と言うのは、ここ最近多発している魔導師――それも氷結の変換資質を持つ――が襲撃される事件の概要。あくまで概要なので、簡単に言うとニュースで放送される様な内容と変わりは無い。

「うんうん。それに、こっちに魔法に関わる何かが起こるなんて、本当に例外的な事なんよ。だから平気や」

――まぁ、その本当に例外的な事が起こってしまったのが、過去のジュエルシード事件や闇の書事件などなのだが。本当に、呪われてるんじゃないかなぁ、なんてかなり失礼な事を考えながら、フェイトは再び弁当へ箸を伸ばし……ピタリ、と動きを止めた。

「? フェイトちゃん、どないしたん?」

いきなり不自然に動きを止めたフェイトに、はやてが声を掛けるが……フェイトはそれに反応する事なく箸を置き、じっと思考の海に入り込む。

(なに……この感じ。“何か”が近づいて来る変な感覚……)

険しい表情で思考に没頭するフェイトを見て、アリサとすずかも同じく声を掛ける。が、やはりフェイトは気付かない。

それほど、彼女は感じた“何か”に集中している証で、同時に彼女の感覚が強い警告を鳴らす。

(知ってる……私は、この“何か”を知っている。思い出すんだ)

瞳を閉じて、フェイトは必死に記憶の糸を手繰り寄せる。思い出せ、自分はこの“何か”を知っている筈だ。強い『感情』に引き寄せられる、彼らを――

(そうだ……これは――!!)

漸く記憶の糸を掴み取り、手繰り寄せたフェイトが立ち上がり強く虚空を睨み付ける。その先に在るのは、海鳴の丁度中心に当たる空。
そして、その青空が一瞬黒く歪み――世界の“時”が停止した。

「……ね、ねぇ、やけに静かじゃない?」

フェイトを除く三人の中で、最初に違和感に気付いたのはブロンドの髪を持つ少女、アリサだった。

他の二人もアリサの疑問を聞き、漸く気が付く。そう、先程とは違い何の音もしない。自動車が走る音も、誰かが会話をする声も何もかも。まるで、自分たちだけが世界に取り残されてしまった様な、そんな状態。

この異常事態の中、はやては展開前のデバイスを取り出し、アリサとすずかを守るように動き、フェイトは変わらず虚空を見つめる……いや、ただ見つめているだけでは無い。

バチッ、と前髪が火花によって跳ね、彼女の姿が純白のコートを羽織った、もう少し成長すれば似合いそうな姿に変わる。ただの火花だったそれも、徐々に強力な電撃へと変化し、スパーク音を鳴らし出す。完全に戦う準備を整え、迎撃状態にフェイトは入る。

「ふぇ、フェイトちゃん……これ、何が起こってるのか解るん?」

「少しだけね――来るよ!!」

「来るって……!!」

フェイトの警告に疑問を感じながらも、彼女が見つめる方向に視線を移した時……はやては、絶句する事しかできなかった。

『オオオオオオオオオオッ!!!!』

フェイトが睨み付けていた空。それが突如にして歪み、巨大な黒い穴を生み出し、その中から見たことも無い生物が飛び出して来たのだ。

人型もいれば、獣型の生物もいる。だが、確実に解るのは人から外れた生物であること。そして、その数は一体や二体ではない。百、二百……いや、下手をすれば千は下らない。

得体の知れないそれに、アリサとすずかは悲鳴を上げ、はやても二人を守りながらも怯むしかない。

――けれど、フェイトは少しも怯まない。知っているのだ……この生物達を。一時とはいえ、彼らのチカラをその身に宿した事が在るのだから。だから彼女は知っている、彼らの名前を。

「やっぱり『虚(ホロウ)』……はやては二人を守って!! この数が相手じゃ、下手に動いても逃げられない!!」

「う、うん!!」

言いながら、迫る虚(ホロウ)の大群を睨み付け狙いを定め、さらに電撃の集束率を高めるフェイト。
そして、先ずは一撃。

「いっけぇっ!!」

額に電撃を収縮、それを一気に解き放った。放たれた閃光は、光り如きの速さで一筋の“槍”となりて虚の大群に到達、そのまま電撃の槍を横凪ぎに払い次々に爆炎を上げていく。しかし、やはり数が桁違いに多い。フェイトの一撃で大量に倒した筈なのだが、それを物ともせず虚の大群がさらに迫る。

「まだまだ!!」

だがしかし、物量戦ならばフェイトも負ける気は無い。右手に電撃を集束――そう思った瞬間、彼女が右手を虚に向けて突き出す。

バチバチ、バチィ!! と言うスパーク音を鳴らし、フェイトが右手の電撃を解放する。放たれたのは、先程の槍よりもさらに大きい“砲撃”サイズの電撃が虚に襲い掛かり、呑み込み、後続の虚もろとも消滅させた。

「やった!!」

「――まだだ」

フェイトの圧倒的な力に、はやてが歓喜の声を上げる……が、そのフェイト本人が否定し、まだ爆炎を睨み付ける。

そして数秒程度の時間で、爆炎から次々と虚の大群が再び進撃を始めたのだ。多勢に無勢とは、まさにこの事だ。千を超える虚の大群が、別な場所にバラけて進撃しているにしろ、その数が圧倒的な事には変わりは無い。

流石のフェイトにも、少しずつ焦りが生まれる。幾らフェイトが強かろうと、多勢に無勢に加え、守る対象が後ろにいるのだから下がる事もできない。

――そしてこの虚を“操る”敵の正体も、全く解っていないのだから。

それでも、フェイトの心に“諦め”と言う文字は無い。何故なら彼女は……一人ではないのだ。

「――散って、千本桜」

響く声、舞い散る桜。それは、フェイトが待ち望んでいた人物がたどり着いた合図であった。

桜の刃が煌めきを放ち、フェイト達に接近する虚を蹴散らし、その魂すらも浄化させて往く。

「大丈夫、フェイトちゃん?」

「さくらさん!!」

千を超える虚に対し、まさに名の通り千の桜にて対抗する。その刃を操る着物を羽織った少女、さくらがフェイト達の近くに現れ、金色のツーサイドアップの髪を揺らし、フェイトと合流した。

その間にも、桜の刃は縦横無尽に駆け巡り、いとも簡単に虚を消滅させる。

「来てくれたんですね!!」

「まぁこれだけの異常事態だと、ボクだけが動かない訳にはいかないからね」

これだけの異常事態……『刀』をその身に宿すさくらでさえも、そう称するだけの状況。当たり前だ、虚の大量発生現象など自然現象では“あり得ない”。

「取り敢えず、この虚を片付けよう。話はそれからだよ」

「はい!!」

力強く答えたフェイトが、再び電撃を集束させ虚を蹴散らしに掛かる。さくらも千本桜を操り、それに続くが……その表情は、どこか不安げだ。

同時刻、別な場所でも虚との戦闘が行われていた。とは言っても、フェイト達の所へ向かった虚ほど数は多くなく、決着は一瞬でついた。 続きを読む
  1. 2012/11/15(木) 22:23:50|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第27話


ただただ、闇だけが広がる世界。水面が揺れるように闇が揺る。そんな世界に一人、ヒナギクはいた。
もはや、なんでも良い。ギュッと膝を抱えて、涙で腫れた顔を隠す。寂しい、寂しい、でもどうしようも無い。大好きな人も出来た……けど、言える訳が無い。どうして、大好きな人にこれから自分は死にます、なんて言わなければいけない?

様々な想いが彼の中を駆け巡り、そして蝕んで行く。

『主、私はあなたの騎士です。あなたが望むなら、いつまでも共に歩みます』

「……いてくれるって、言ったのに」

誰に向けた訳でも無い、ただ無意味に空を切る言葉。しかし――

「――なら、一緒に居れば良いじゃないですか」

彼しかいないこの孤独な世界に、声が響き渡る。“誰かが”降り立ち、先程とは違う形で闇の水面が揺れる。

「小難しく考えないで、さっさと会いに行けば良いんですよ、かったるいですね」

「……?」

闇の水面を揺らして、ヒナギクの元へ歩み寄る“誰か”。誰なのだろう、どうでも良い筈だったのだが、ふと気になったヒナギクが顔を上げると……その人物を見て、彼の瞳が大きく見開かれた。

「貴方……は?」

「私は貴方、けど貴方は私では無い……名前を訊いているならば、お答えしましょうか」

ふわり、手で“金色”の髪を跳ね上げ、“蒼色”の瞳はヒナギクを映し出す――瓜二つの、相手を。

「『双天(そうてん)の魔法使い』……紅(くれない) 刹那(せつな)です、よろしくね」

しゃがみ込み、まるで迷子の子供に目線を合わせるかのように刹那は言う。

歪んだ物語は、本来あり得る筈の無い出逢いまで生み出して行く。

時空の双剣士が、遂に動き出す。それは……この歪んだ事件の終焉が、近い事を予期していたのかもしれない。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「何者だ……何故、私の名前を知っている?」

通常結界内、時空の歪みの影響もありアースラにすら感知されていないそこには、天鎖斬月を構えるシグナムと、闇の書の守護騎士一人、シャマルが相対していた。

油断なく天鎖斬月を構えるシグナムだが、目の前の人物に攻撃を仕掛ける気は一切起きなかった。

何か、言い様の無い違和感が彼女の中を駆け巡る。必死にその正体を探り続けるが、まるでもって解らない。そしてそれ以外にも、誰かに……主に呼ばれた様な気がしてならない。

しかし、目の前の女性を放置して行く事も出来ない……その迷いにより、天鎖斬月が一瞬だが震えた事にシグナムは気が付かなかった。

「そう……ヴィータちゃんの言う通り、覚えて無いのね」

彼女の問い掛けを訊いて、少し寂しげな表情になるシャマルに、シグナムはまた違和感を感じる。

まただ、何なのだこの違和感は……そう、正体を探るが変わらず解りはしない。

「シグナム。貴方は闇の書の守護騎士……ヴォルケンリッター・『烈火の将』よ」

「な……に?――グァッ!!」

守護騎士、ヴォルケンリッター、烈火の将。“闇の書以外”の全てのキーワードに、シグナムの違和感はさらに強くなり、仕舞いには頭を強く鋭い刺す様な痛みが奔る。
痛みに耐え切れず、左手で頭を押さえるシグナムに、様々な想いが駆け巡る。騎士、守護騎士……それは、自分に守らなければならない人物がいたのかもしれない。ならば今の自分は――

『……全く、世話の焼ける事です』

――瞬間、彼女の世界は変化した。

「!?」

声を出さずに驚いたのは、変化が突然だったのと自分が入り込んだ場所が“海の中”だと理解したからだ。だが、直ぐにしっかりと息が出来る事に気付き、辺りを見回して状況を把握する。

先程まで相対していた女性は、当たり前かもしれないがこの場にはいない。そして、単純に息が出来る海の中だと思っていたが、よく見ると自分の下には、普通の住宅街などがあり、明らかに現実空間では無い事を示唆してした。

「呼吸が出来る事に気付きましたか。案外、冷静ですね」

上から聞こえた声に反応し、シグナムが顔を上げると……そこには、真紅のコートに身を包みフードで顔を隠した女性がいた。見覚えの無い、が不思議な事に何処か見覚えがある、と言う矛盾した思いをシグナムは感じる。

「……何者だ、お前は?」

「言葉より、此方の方が解りやすいでしょう」

言いながら、真紅のコートの女性は右腕を振るう――するとその手には、紅緋色の刀が風を切る音と共に出現した。その刀を見て、シグナムは驚愕で声を静かに荒げ、同時に女性の正体をも理解する。

「天鎖斬月……!! ならばお前は……」

「そう、私は貴方が天鎖斬月と呼ぶ物の内部人格――」

女性が、顔を隠すフードを手で掴み、バッと自ら剥ぎ取った。それによって、女性の“金色”の髪が水の中で優雅になびく。

露になった女性の顔を見て、シグナムは驚愕で言葉すら出てこなかった。何故なら、その顔は――真紅の瞳を除き、己の主と瓜二つだったのだから。

「ある、じ……」

「同じなのは当然です。貴方の記憶に強く刻まれている人物の姿を、私は借りていますからね。まぁ彼と違い私は女性の人格ですので、多少の違いは在りますが――これ以上は、刃を交えながら語りましょう」

「なにっ……ッ!!」

その刹那、女性の姿がシグナムの視界から消え失せる。天鎖斬月を持ったシグナムをも超える速度のそれに反応出来たのは、彼女の天性の直感力と反応速度が成せる技だろう。

強引に純白の天鎖斬月を己の背に構えた時には、女性はシグナムの背後で既に紅緋色の天鎖斬月を振るう処で、反応こそ出来たがシグナムは振るわれた天鎖斬月の衝撃に、受け止めた己の天鎖斬月ごと吹き飛ばされてしまう。

何とか水中の中の空中で受け身を取り、天鎖斬月を構え直すシグナムは理解する。目の前の、内部人格と名乗った女性は自分より強い、と。一瞬刃を交えただけで解る……彼女は自分とは違い、この『天鎖斬月』の能力(チカラ)を全て引き出せている。

「大した直感力です。己以上の速力を持つ相手に、ここまで反応が出来るのですから。では、これはどうでしょう?」

タン、と空中を蹴り、今度はシグナムも反応出来る速度で接近し、真っ正面から斬り掛かる内部人格。それに合わせてシグナムも天鎖斬月を振るい受け止め、火花を散らし鐔競り合いが起こる。その鐔競り合いで互いの顔を見合せる中、シグナムが内部人格に問い掛けた。

「何故だ!? お前は何を目的として、こんな事をする!?」

「知りたければ、まず刃を交えなさい」

「くっ!!」

内部人格が力を込めた事で均衡が崩れ、シグナムは下に吹き飛ばされながらもビルの屋上に着地する。
仕方がない……そう呟き、天鎖斬月を両手で持ち力を込めるシグナム。今まで反応すらなかったのに、なぜ自分がここに呼ばれたのか、それは解らない。が、解らないなら相手の言葉を信じる他に道は無い。

決意したシグナムが、天鎖斬月を斬り上げるように振るい、己の必殺技と呼ぶに相応しい物を放つ。

「月牙天衝ッ!!」

放たれた必殺の斬撃は、純白の軌跡を描きながら猛然と内部人格に迫る。加減も何も無い一撃、当たればただでは済まないだろうその斬撃……だが、内部人格は表情を変えることなく、紅緋色の天鎖斬月を首元まで引き、そして振るった。

「――月牙……天衝」

猛然と突き進んでいた純白の月牙が、“何か”に衝突する。……それは真紅の、“炎の月牙天衝”。一瞬の間拮抗を保っていた二つの斬撃は――いとも簡単に、真紅の月牙が押し返し、そのままシグナムすらも呑み込んだ。

「ガハッ!!」

ビルに身体を叩きつけた所為で、大きく咽せながらもどうにか炎を振り払い立ち上がるシグナム。しかし、これでもう力の差は歴然だ。本来は同じ刀でこの差なのだから、如何に己が未熟者か良く解る……そう“的外れに”自嘲するシグナムに、もう攻撃の意志がない内部人格が問い掛ける。

「今、貴方の月牙が私の月牙に敗れた理由……解りますか?」

「何を……」

「純粋な力の差、と言うのは的外れです。そういう意味では、貴方は天鎖斬月を持つに相応しい技量が在りますし、その才もまだまだ伸びる余地が在りますから」

ならば何だ……そう瞳で問い掛けるシグナムに、内部人格はあくまで冷静に、的確に彼女の心を指摘した。

「シグナム、今の貴方の剣には迷いが在ります――貴方の、お婆さまに……“姉”に会うより前の記憶が、戻ろうとしているからですか?」

「っ!?」

言われた事が図星だったのか、彼女は少し目線を逸らして考える。そう、ヴォルケンリッター、烈火の将。

シャマル、ヴィータ、ザフィーラ。前者は己の事、後者は“仲間”だった者の名前。まだこれだけしか戻っていないが、これだけでも彼女の心を揺らすには十分すぎた。

「――それがどうしました?」

「……なん、だと?」

「貴方のお婆さまと――姉と過ごした時間が、偽りだったとでも?」

「なっ、違うっ!!」

「ならば、貴方の月剣‐ツルギ‐は、このような事で揺らぐ程に弱かったのですか? それとも貴方は――目の前の約束一つ果たせない騎士に、成り下がるつもりですか?」

このような事。自分の過去の記憶を、そのように断ずる彼女に戸惑いながらも、シグナムは後半の言葉に反応する。

――約束一つ果たせない騎士……約束?

「答えなさいシグナム。貴方は戦いたいのですか? 勝ちたいのですか? ただ生きたいのですか? どれです」

「私、は……」

――違う。私の求める物はどれでも無い。ならばなんだ? と自問自答し、思考の海に沈む。
様々な記憶が再生され、彼女の中を駆け巡る。そしてたどり着いたのは――言葉‐誓い‐。

『ねぇ、シグナム。もし良かったら……私と一緒に居てくれないかな?』

『お願い……お兄ちゃんを護って上げて』

「――そうだ」

そうだ、約束したではないか。戦いたい、勝ちたい、生きたい……否、どれでも無いだろう。

「……護りたい」

「聞こえませんね。答えなさい、貴方が護るべき人は誰? それを迷わないければ、貴方はもっと強くなれる」

「――私は……主を護りたいから戦う!! 例え何が在ろうと――それを、迷う事など無い!!」

シグナムの決意の叫びが世界に響き、世界が揺れる。まるで、主の成長を喜ぶかのように。そして、内部人格が初めて笑みをこぼす。その笑みの答えを知る前に、内部人格はシグナムの前に現れ、彼女の胸に指を置く。

「せいぜい50点……けど、ギリギリ合格です。今だけ力を貸して上げます……その大切な信念、忘れないでくださいね」

置かれた指から炎が燃え出し、シグナムの身体と天鎖斬月を包み込む。

「往きなさい、その信念のままに。そして、我が名を呼びなさい。決して引く事なく、決して消える事の無い我が『真実の愛』……我が名は――」

「――天鎖斬月・緋炎(ひえん)!!!!」

シグナムが叫ぶ。その護り刀、『天鎖斬月・緋炎』の名を。そして彼女は……現実世界へ回帰した。

「っ、シグナム?」

現実空間からすれば、僅か一秒にも満たない時間だった。だがその間に、シグナムの纏う空気が変わった事にシャマルは戸惑う。一瞬前までとは違う……戸惑いが、迷いが無くなっている。

瞬間、シグナムの姿が変化する。炎が巫女服を包み込んで姿を変える……肩と背中部分が露出し、スカートもミニスカートの上に、もう一枚彼女の足が見え隠れする物を着て、何処かドレスを思わせる真紅の騎士甲冑に。 続きを読む
  1. 2012/11/15(木) 22:13:16|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第26話

翼がはためき、時空が歪む。それは、地球から近くも遠い異世界にいる住人にも感じ取れる程に強大な力だった。

研究室にも見えるその部屋では、壁に寄りかかっている一本の蒼い刀が何かを感じ取るかの様に震えていた。その刀の持ち主たる人物が、不思議げに刀の……天鎖斬月の名を呼ぶ。

「蒼天……?」

また別の場所……とある家の道場では、黒髪の男性が座禅を組み目を閉ざしていた。だが、膝の上に置いた長刀が震え出すと同時に、瞳をゆっくりと開き、その力の名を呟いた。

「時空の……翼か」

同時に、『刀』をその身に宿す人物達も確かに“それ”を感じ取っていた。

「お兄ちゃん……」

さくらが、呟きと共にその表情を引き締め、力の波動の発生源へと地面を蹴って急ぐ。

「これは……!!」

「あらら……こりゃ難儀な事になってもうたね」

冬獅郎が驚愕の表情で発生源を見つめ、ギンは表情さえ変えないものの、その声色は何処か真剣さを帯びた物になる。

そして――

「……主?」

「――ヒナ?」

烈火の魔法使いと氷の姫君も、彼の異変を感じた。

動き出した運命が、歪んだ物語をも巻き込み――加速する。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

機動戦艦アースラ、そのブリッジ。時空管理局の技術がふんだんに組み込まれている情報機器……しかし、その技術力を以てしても現状観測されている“空間”の情報は全て『Error』の文字を表すだけだった。

「なにこれ……一体、何が起こってるの?」

幾らキーを叩いても、その事実は変わりようが無い。自然と震える手を押さえて、通信主任であるエイミィ・リミエッタがそう言う。

その問いに答えられる人間はアースラクルーの中にはいない……だが、アースラクルー以外の協力者が答えられる人物だ。

「なのは、今起こっているこの現象……君は知っているんじゃないか?」

「…………」

何とか今起こっている現象――空間の歪み――から逃れた人物であるクロノが、壁に寄りかかるなのはに問い掛ける。彼女は腕を組み、見定める様な瞳でクロノを見つめるが、やがて堅く閉ざされたその唇を動かした。

「歪みの現象の原因だけを答えるなら、時空の翼……別名『神の翼』が原因よ」

「時空の翼?」

執務官で知識が豊富なクロノも、その名前には全く聞き覚えが無く、首を傾げるしかない。まぁ知らなくて当然なのだ……普通は人間レベルで、干渉できる物ではないのだから。

彼の疑問を的確に読み取ったなのはは、そのまま言葉を紡ぐ。

「知らなくて当然よ。本来、人間レベルが干渉できる代物じゃないんだから」

「そ、それほどの物なのか?」

「えぇ……“時空”の翼。その名の通り、時空間を自在に操る翼よ。崩壊する空間をつなぎ止める事も、逆に空間を崩壊させる事だって、時空の翼にとっては造作もない事なの。空間を――世界を創る事もね」

彼女の説明に、クロノは驚きを隠せず、そして幾らなのはの言う事でも信じられないと言う思いが強かった。ただそれは、ある意味当然とも言えた。

世界を創る……もはやそれは神の領域なのだ。まるで神さまの真似事が出来、世界の理をいとも簡単に崩壊させる。

「当然、その翼の持ち主を転移させる事だって出来るわね……例えば、可能性の世界である平行世界への移動も可能よ」

「……なんだか、今まで関わって来たロストロギアが可愛く見えるな」

「言ったでしょ。人間レベルが干渉できる代物じゃないのよ――ま、私はそろそろ行くわ」

話す事は話した、まるでそう言うかの様にアースラブリッジを立ち去ろうとするなのは。それを見たクロノは、考え込んでいた思考を急いで変えて彼女を止める。確かに話す事は話したが、相対的に彼女の謎が増えた気がする。が、彼が言いたいのはそこではない。

「行くって……まさか、空間の歪みの中にかっ!?」

「当たり前でしょ。なに寝呆けたこと言ってんのよ」

「危険すぎる!! だいたい、転移魔法が使えないのにどうやって……」

「一応、持って来といて正解だったわ」

クロノの問いには答えず、そう言いながらなのはは何処からか宝石を取り出し、それを投げて遊ぶ。それは――かつて、シグナムをミッドチルダに転移させた事のある宝石。

「それは……?」

「あの空間の歪みの中でも転移が可能な物……まぁ、一回きりだから一方通行だけどね」

「なら、僕も着いて行く」

――なんですと? 正直、彼女がクロノに驚かされたのは、これが初めてだったのではないだろう。それくらい、なのはは驚いてしまった。と言うか、自分の話を聞いていたのだろうか、彼は?

「……ちゃんと話し聞いてた? 一度突入したら、戻って来れないかもしれないのよ?」

「関係ないな。もう僕は決めたぞ」

「なんで、そうまでして?」

「――泣いていたんだ、あの人。とても、寂しそうな目をしていた」

そう言うクロノに、なのはは驚愕を隠せなかった。彼が己の師匠に接触したのは、ほんの数十秒。その間にそれを――自分ですら気付いても入り込めなかった、師匠の本質を見抜いたと言うのか……。

「最初は、迷子のような目をしていると思った……けど、転移する瞬間、少し違うと気付いた――あの人は、不安に押し潰されそうになってるんだ。だから、と言う訳じゃないが、助けたい」

「……もう一度訊くよ。戻って来れない可能性の方が大きい、それでも着いて来る? 君には執務官として、これからするべき事だって……」

「――目の前で泣いている人を見捨ててまで、執務官を名乗るつもりは無い!!」

「ッ!!」

――彼の決意を聞いた刹那、なのはの記憶の中に蘇ったのは……

『決めたよ、ギン。これから私は……“出来損ないの魔法使い”として進む。だから何が起こっても、絶対に挫けない!!』

……かつて、『出来損ないの魔法使い』として進む事を決めた、己自身。救う事は出来ずとも、助ける事は出来る。だから、己の信じる道をただ進む。

同じなのだ、その時の自分と……今のクロノの瞳が。絶対に、その心に決めた己の信念を曲げない強き瞳――ギンから聞いた話が確かならば、だが。
クロノの瞳を見つめ、そしてはぁと溜め息を吐くなのは。それは、彼女がある意味降参した合図でもあった。

「まったく、どうして私の周りはこう頑固者が多いのやら……」

「なに、みんな君ほどじゃないさ」

相変わらず、自分の事を入れない彼女に対してクロノが鋭く突っ込みを入れた。すると、なのははムッとした顔になり、クロノはまさに“してやったり”と言う表情になる。

今の二人の瞳には、絶望など微塵も存在しない。在るのは――未来へと繋がる、希望。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

アースラの機器ですら観測不能の、空間の歪みの内部。そこは既に、別の空間と化していると言っても過言ではなかった。正確には、元の空間を基にして新たに創り出された空間……と言うのが正しいのかもしれない。

「いつぅ……」

と、地面に崩れ落ちた瓦礫の中から赤毛の少女、ヴィータが痛む腕を押さえながら這い出る。痛みに耐えて見上げる先は、空間の歪みの中心。つまり、ヒナギクが止まる上空。

表現が難しい程に歪んだ空間、その中心に佇む穢れの無い純白の光。以前、ヴィータがほんの少しだけ見た“何か”とはまた違う。
……あの時とは違う感じで『別次元』の力を感じる。

「悪いザフィーラ……」

スッと目だけを動かし、地面に倒れ伏せピクリとも動かないザフィーラにそう言う。自分が先程の衝撃波――ビルがいとも簡単に倒壊する程の――を喰らい、腕を負傷する程度の怪我ですんだのは、間違いなくザフィーラのお陰だ。

そして、こうなったのもある意味自分の所為とも言える。自分がしっかりと、今のシグナムの状況を伝えていればこんな事には……そう後悔するが、誰もヴィータを責める事はできない。こんな事になるなど、誰にも想像ができなかったのだから。

「ヒナギク……」

彼の名を呟き、飛行魔法を行使して一定の高度へ浮かび上がった。そうして滞空した先には、純白の翼から神々しい光を放ち、蒼い瞳は虚ろで何も映す事の無い……ヒナギク。

今の彼を力で抑えるのは『不可能』であり『無意味』だ。だから、言葉で説得するしかない。

「聞いてくれヒナギク。シグナムは無事なんだよ。さっきのは、アタシの所為で誤解があって……」

「…………?」

ヴィータの言葉に微かに、本当に微かにヒナギクが首を傾げる。その瞳は、変わらず誰も捉えていない。反応したのも、シグナムの名前だけだった。

その事に少女は嫌な予感に捕われる。

他の物を捉えず、まるで外部の全てを拒絶するかのような――

『そんな事してたら、アンタは“独り”になっちまう』

『そうだね。でも、人に必要の無い迷惑を掛けるくらいなら、その方が良い――』

「あ……」

思い出したのは彼との会話、それを皮切りにキーワードが繋がり出す。

独り……そうだ、今の彼は全てを拒絶している。確証は無い。ただの妄想か推測に過ぎない。が、少女のこの推測を裏付けるかの様に歪んだ空間が変化を始める。

「うわっ!?」

再び衝撃波が放たれた。ただ、先程とは違い物理的な威力がなかったのが幸いし、ヴィータは辛うじてその場に踏み止まる事が出来た。

しかし、状況はさらに悪化する。捻れ、歪んだ空間が“動き出している”。それも、中心であるヒナギクに向かって……まるで、この空間が“閉じ始めている”かのように。

「……ヤバいな」

ガシャン、と己の武器であるグラーフアイゼンを構えるが、それで何か変わる訳でも無い。力で抑えられない、と言うのはもう理解しているし、そもそも自分が勝てる筈が無いと言うのも十分に理解している。

――でもそれは、何もしない事の言い訳にはならない。きっとシグナムなら、そんな事を言うんだろうな……こんな状況でもそんな事を考える自分は、案外余裕が在るのかもしれない。いや、もうやけくそ気味なだけか?

「っと、余計なこと考えてる場合じゃねーな」

そうしている間にも歪みは加速し、翼の光が増しているように感じられる。

「こうなりゃ……なるようになれだっ!!」

もう、自分の頭でとやかく考えても答えは出ない。だったら、一か八かでも力ずくでヒナギクを正気に戻す!!

実に単純で、実に純粋な答え。まぁ、このまま何もしないよりはマシだ……そんな考えの下だろう――そしてそれは、決して間違った選択では無いのが恐ろしい。

「そこの子、退かないと怪我するよ!!」

「は――んなっ!?」

ヴィータへの警告と共に、翼の光に負けない程にまばゆい桜色の光が見え、出かけた足を止めて上空を見上げると――数十を超える星々が光り輝き、その中心には一人の女性が腕を掲げ滞空していた。

「クロノくん、ちょっくら技借りるよ!!」

もう何度目だろうか、とてつもなく嫌な予感がしたヴィータはおもいっきり方向転換し、その場を離脱する。それより半秒遅れる形で――なのはは右腕を勢いよく振り下ろした。

「ディバインバスター――エクスキューションシフトォ!!」

数十の光から一斉に放たれたのは、巨大な魔力砲撃。それはまさに――聖なる流星。降り注ぐ断罪の光は、先程までヴィータがいた辺り一帯の全てを呑み込み、凄まじい爆発と粉塵を巻き上げた。

「……って!! 遣り過ぎだろそこのバカ!!」

「誰がバカよ!?」 続きを読む
  1. 2012/11/15(木) 21:16:10|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第25話

「それでは主、私はまた明日来ますので」

「私も明日――」

「お前は仕事だろう」

ズバッと言われたシグナムの言葉に、雪華はグッと言葉に詰まる。ヒナギクの病室にてその会話は行われ、現在の時刻は面会時間ギリギリ。つまり、シグナムと雪華はこれから帰宅と言う訳だ。

二人が繰り広げる仲良さげな会話を見て、ヒナギクは夜の時間を一人で過ごすのかと、最近はなかった寂しさを感じながらも、それを表情には出さず口を開いた。

「あはは、そんなに無理しなくても良いよ。どうせ直ぐに退院できるんだし」

笑顔で言うヒナギクに、シグナムはそうですね、と同じく笑みを見せながら応えたが……何故か、雪華は真剣な表情でヒナギクを見る。
そうして、何かを決心したかのように、シグナムに言った。

「シグナム。私ちょっとヒナに話があるから、先行っててくんない?」

「ん? なんだいきなり……」

「いいから!! 私はアンタと違って、明日はヒナに会えないから話したい事があるの!!」

雪華の反論は許さん、と言う感じの口振りにシグナムも押されたのか、まぁ別に良いが……と言った後に、あんまり遅くなるなよと忠告を入れながら病室を後にした。

それをしっかりと確認した雪華は、病室の扉を閉めてヒナギクの方に向き直る。

「それで、話ってなあに?」

無邪気で、偽りの無い笑顔で問うヒナギクだったが、雪華は珍しく何も応えずにただ彼の傍に近づき、置いてある椅子に座る。

そして、彼女の行動にとても不思議そうな表情のヒナギクを見ながら――彼の手を自分の手でギュッと握った。

「あ……」

途端、ヒナギクの顔にほんのりと赤みが差し、鼓動が高鳴る。その感情の名を、彼は知らない。いや、知っては……認めてはいけない。認めてしまっては駄目だ、絶対に。

そう自分に言い聞かせ、高鳴る鼓動を抑えようと努力する。が、彼女の暖かい体温を感じてしまい、それは全く意味をなさない。

ついには、彼女の手から逃れようと手を引くが、もちろん雪華は全く放す気は無い。それどころか、平然と会話を始める始末だ。

「……ねぇヒナ、私達に“嘘”ついてない?」

「え……?」

「正直に答えて、本当に直ぐに退院できる病気なの?」

……雪華の捕える様な視線に、ヒナギクは先程とは全く違う意味での鼓動の高鳴りを感じる。目を逸らそうにも、彼女の瞳がそれを許さない。じっと見つめられ、逃れられない様に――彼からすればだが――手を握られている。

どう答えれば良いか……いや、何を言っても同じなのかもしれない。彼女はもう、確信を持っている表情なのだから。ならば、いっそのこと正直に言ってしまえば……。

(――ダメだよ)

しかし、彼は己のその考えを即座に否定し、必死に笑顔を作り取り繕う。まるで、何かを恐れるかの様に。

「う、うん、本当だよ。本当に……大丈夫だから」

少し言葉に詰まったが、普通に言えた自信はある。けれど――

「――そっか」

そう呟いた、雪華の悲しげな表情が、ヒナギクにはとても印象に残った。スッと手を離し、立ち上がって病室から出ていく雪華。ヒナギクはそれを見ながらも、何も言わない。ただ、何かを堪える様な表情で彼女を見つめるだけ。

雪華が病室から出ていった後、残るのは沈黙だけ。そして、病室から出て直ぐの壁に寄りかかった雪華にとっても、それは同じだった。
ヒナギクが強くベッドのシーツを握り、雪華が壁に頭を置く。申し合わせた様に呟いたのは、どちらが先だっただろうか。

「何も……言ってくれないんだね」

「言えるわけ……ないよ」

知られてはいけない真実。知られてしまっている真実。

二律背反の思いが彼を苦しめ、その精神すら蝕む。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

夜道。それは女性が一人で歩くのには、危険な道である。暗闇で人気が少なければ、特にその危険性は増す。ストーカーやら何やらが居るかもしれないからだ。

と言う訳で、雪華に追い出される形で帰宅していたシグナムが、そういった心配をされているかと訊かれると……否である。寧ろ、彼女を知っている人間ならば、まず最初に確認するのは“犯人の安否”だろう。

――何か一切、女扱いされていない気がするのだが、とはシグナムの悲しい呟きである。

雪華はアイドルフィルター(シグナム命名)が上手い具合に発動し、自分に似た性格ながらしっかり女性扱いされているのに……とは、やはりシグナムの悲しい呟きだった。

そんな訳で、一人の夜道でも一切心配されないシグナムではあったが、生憎(?)実は一人ではなかった。

「で……わざわざ私と一緒に帰るなど、何か用でもあるのか? さくら」

「にゃはは、確かにボクとシグナムちゃんって言う組み合わせは珍しいけど、その言い方はどうなのかなぁ」

少々困った様な笑みを浮かべ、シグナムの隣を歩く金髪の少女、さくらが共に居る。確かに、珍しい組み合わせではあった。大抵、この二人が一緒に居るときはヒナギクが居る筈なので、二人きりと言うのは珍しい。

とはいえ、身長が30㎝程離れている二人は、並んで見ると似ていない姉妹と思う事も出来る――実際、似たような物なのだが。

「まぁそれは良いとして――ちゃんと思い出せた? どうせ、おばあちゃんがなんか企んでるんだと思うけど」

「そうだな、主の元に来た理由以外は思い出せたよ。にしてもよく解ったな、おばあ様の事を私は一言も言っていないのだが……」

「解るよ。だってボク達の『魔法』を教えたのはおばあちゃんだし、こんな悪戯するのは『悪戯好きの魔法使い』しかいないからね」

確かにそうだな、と同意して笑うシグナム。この会話の意味は、恐らく『魔法使い』であり『悪戯好きの魔法使い』に育てられた彼女らにしか解らない。

歩きながら、二人は魔法使いとしての会話を続ける。

「……いやその前に、なぜ私の記憶が戻って来ている事が解ったのだ?」

「そりゃあ解るよ~。だって、おばあちゃんが君に掛けてる『魔法』は記憶を一時的に封じる為の物みたいだし、それが解けかけているのもボクには解る」

「私には一切解らないのだが……」

「そこは……ほら、掛けられた本人には解らないんじゃないかな?」

そう言うさくらにも、別に確信があるわけでは無いらしく困った様な表情だ。まぁシグナムとしても、特にしっかりとした答えを望んでいたわけでは無いので構わないのだが。

「まったく、おばあ様も何を考えてこんな物を私に掛けられたのだか……さくら、他に私に掛けられた魔法はあるか?」

「う~ん……見た限りだと、強く鍵のかかった様な魔法が一つあるよ。勿論、ボクにも解けそうに無い物が。これが何なのかは、解らないけどね」

さくらの見解に、シグナムはそうか、と軽く返事をしただけだった。本人的には、おばあ様の掛けた物だからどうせ悪戯の範疇なのだろうと考えていたりする。何せ、相手は『悪戯好きの魔法使い』なのだから。

――まぁ実は、もう一つ重要な記憶の鍵が、掛かっていたりするのだが。

「――さてと」

フワリ。風が吹いたかの様に前に出たさくらが、シグナムの方へ向き直る。その表情は何時もの子供の様な無邪気な物ではなく、『魔法使い』としての真剣そのものな表情。

「さくら?」

「……今、お兄ちゃんのこれからの行方は、君と雪華ちゃんが握ってると言っても良い」

「なに?」

話が読めない。そう言いたげな表情になるシグナムだが、さくらは視線だけで彼女を制す。解らないのも無理はない。彼女はまだ、何も知らないのだから。

それでも、言っておかなければならない事がある。

「これは『桜の魔法使い』のボクとしての言葉でもあり、同時にお兄ちゃんの妹のボクとして貴方に――『烈火の魔法使い』にお願いする言葉でもある。お願い……お兄ちゃんを護って上げて」

ボクには……いや君たち以外には、もうどうしようも無い処まで来てしまったから。さくらは、心の中だけでそう呟く。

今お兄ちゃんに何かあった時、恐らく自分の言葉ですら彼に届かない。だから、頼むしかない。

「勝手な事だとは思う……でも――」

「愚問だな」

さくらの言葉を遮ったのは、シグナムの強気な言葉。え、と下を向いていた視線を戻すと、どこまでも曇りの無い瞳で少女を見るシグナム。

遮った勢いのまま、シグナムは得意げな顔で言う。

「誰に言われるわけでもなく、主を護ると私は誓ったんだ。誰でも無い――私の、この烈火の魔法使いの魂にな」

声を荒げる事さえしなかったが、強く、曲がる事の無い真っ直ぐな言葉‐誓い‐。それに呼応してか、チョーカーの鈴がリリンと音を鳴らす。あぁ、“相変わらず”どこまでも真っ直ぐで、どこまでも暖かい。

その心は、まるで烈火の様で……まぁ、お兄ちゃんが――いや、“彼”がか――惚れるのも無理はないかな、と思ってしまった。








◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……シグナム、遅いなぁ」

翌日。時刻で言えば、お昼にはまだ少し早い時間、と言ったところか。そんな時間に、病室で大人しくしているヒナギクが少し寂しさを含んだ呟きを漏らす。

時間を厳守するシグナムにしては珍しく、こんな時間になっても訪れる様子は無い。昨日のお見舞いは朝早くから来てくれたのに……。

何か予定が入ったのかもしれない。彼女にだって、自分の都合があるのだから。何時もの彼ならば、そう思った事だろう。だが、今の彼は表面上普通に見えるが、内面はとても不安定だ。

――彼の感情を左右する二人。それは当然、悪い方へと転じる可能性もある。そして、それに拍車を掛ける事が偶然にも起こってしまう。

「アレって……結界?」

展開されたドーム状の結界。魔力を秘めた者にしか認識できない物だ。少し魔導師としての知識があるなら、直ぐに解るくらい強力な結界だ。恐らく複数人で展開した物。強度で言えば、特大の巨大砲撃で漸く破壊できるレベルと言えば分かりやすいか。

――シグナムが、あそこに居るかもしれない。彼女は何から何まで首を突っ込む体質だし、もしかしたら……。そんな思いが彼の中に浮かび、直ぐに結界の向かって飛ぼうとする――一瞬、さくらとなのはが口煩く言った、絶対に無断で外に出るなと言う言葉が頭を掠めたが……シグナムへの思いが勝り、彼は結界へと飛んだ――


同じ時、結界内の上空には二人の人影、ヴィータとザフィーラ。その二人よりさらに上空には、一人の少年が杖を掲げていた――百を超える処刑の刃を従えて。

「スティンガーブレイド――エクスキューションシフトッ!!」

クロノが叫び、杖を振り下ろす。同時に、静止していた全ての魔力刃が一斉に動き出す。急加速したそれは、広範囲に降り注ぎ躱す事すら叶わない。

着弾する直前、男の方が少女の盾になる様に前に出たのが見えたが、その瞬間、次々と魔力刃が着弾。爆散によって白い煙が上がり、視界攪乱の効果をもたらす。

見た目からして、かなり魔力の消費量が多い魔法だったのだろう。クロノが荒い息を整える……そうしていると、彼の耳元から口辺りに装着された小型の通信機から通信が入った。

『第一陣……ダメージ、入ったと思う?』

「恐らくだが、大して効いてはいないだろうな」

通信の先に居るのは、エグゼキューター、高町なのは。そんな彼女の問い掛けに、クロノは確信を持った様な口調でそう返す。

確信の理由は……彼の守護騎士との戦闘経験だ。幾らフェイトや武装局員との戦闘で消耗があったとはいえ、彼は守護騎士と戦い、撤退に追い込んでいる。そして、煙の向こうの守護騎士の能力も把握しているのだ。

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  1. 2012/11/07(水) 14:32:43|
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桜の想い

「どうしよう……」

後に『最強無敵の電撃姫』と名の通る事になる少女、フェイト・テスタロッサはとあるアパートで絶賛、現在進行形で困っていた。

今、彼女の目の前にあるのは、夏休みの魔物……宿題である。とはいえ、フェイトは天然な所はあるが普通に頭が良い。あの親にして子はあり、だ。

だがそれでも、地球に来たばかりの少女は文法……まぁ平たく言えば国語を苦手としていた。漢字はてこずったがどうにか解けた。しかし、文章問題が訳が解らないよ、と言う状態なのである。

うーん、と唸り解決策を考えるフェイト。簡単な話、解る人に教えてもらえばいいのだが、生憎一緒に住んでいる人間は留守であり、自分が信頼する二人の師(片方は認めていないらしいが)も……。

『俺は今日、ちょっとした手伝いがあるからな。指導は夕方からだ』

『ごめーんフェイトちゃん。私、今日ちょっと依頼が入ってるのよ』

……と言う訳で、夕方まで帰って来ない。そしてそれまでに、自分は課題を終わらせておきたい訳なのだが、そう簡単にはいかない――

(……あ、そうだ!!)

こんな時、頼りになりそうな人がいる。自分の師(本人は教えるのが苦手と言って、そうは思っていない)も、何か有ったらその家の人達に頼れと言っていた。

それを思い出したフェイトが、さっそく必要な物を纏めて家を出る。しっかり鍵も掛けた、さぁ出発!!

今ここに、フェイトの大冒険が始まった!!――まぁ、それなりに近いのですぐに着くのだが。

と言う訳で、フェイトが少し歩いてたどり着いた場所は高町家でも八神家でもなく、どことなく和風のお家。実は、大人気のトップアイドルが住んでいたり魔法使いが住んでいたりと……考えてみるととんでもない家。

この家の家主を考えると『芳乃家』と言う事になるのだろう。

よし、と何故か気合いを入れてから、フェイトは芳乃家のチャイムを慎ましくならした。

『はいはーい。今行きまーす!!』

インターホンから聞こえてきたのは、どこか聞き覚えのある元気な子供の声……子供?

はて、と疑問に思う間もなく扉が開き、その人物が姿を見せた。

「どちら様で――フェイトちゃん?」

「えっと、さくら……さん?」

「あ、覚えててくれたんだ!!」

それはもう、よく覚えている。第一印象は、自分の師(だから、本人は認めていない)によく似ている。その後の印象は、とてつもなく凄い人。

自分と同じ金色の髪をツーサイドアップに括り、背は自分と変わらないのに雰囲気の所為か子供には見えず、それなのに浮かべる笑みは子供の様に無邪気。

そして何より――芳乃シグナムの姉。

桜の魔法使い……芳乃さくら。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ごめんねフェイトちゃん。今シグナムちゃん、ちょっとロンドンに行ってて家にいないんだ」

「い、いえ、別に大した用じゃないので……」

……ロンドン? ロンドンってちょっとなのだろうか、なんて疑問が浮かんだが一先ず置いておく。

何だかんだ家の中に案内してもらったフェイトは、和室の(リンディの様な、それを見た高町なのはがブチ切れる物ではなく、しっかりとした)茶の間でシグナムがいるか訊いた……のだが、どうやらタイミングが悪く留守のようだ。

どうしようか、と頭の中で考え込んでいると、少女のカバンの中身をチラッと見たさくらが、ははーんと状況を把握し、ふと懐かしげに笑みを溢して言葉を放った。

「ふふっ、何ならボクが教えてあげようか?」

「……え?」

と、言う訳で、何だかんだ教えてもらう予定だった人の姉に教えてもらえる事になりました。

「うーんとね、この文章はこう考えて――」

「な、なるほど!! 凄い解りやすい……」

「にゃはは、これでもボクは教員免許を持ってるからね~」

教員免許……つまり、やろうと思えば学校の先生も出来ると言う事になる。

そうなると、とても気になってくるのが――

(……さくらさんって、今幾つなんだろう?)

外見は当たり前だが当てにならない。身長は自分と大して変わらないのに、中身は全くの大違いなのだから。

だからこそ、人間気になる物なのだ。だからといって、女性に直接年齢を訊くのは流石にどうなのか……。

「どうしたのフェイトちゃん?」

「いや、さくらさんって何歳なのかなって……」

「ボク? 今年で19歳でござるよ~」

――へぇ~、19歳かぁ……19歳? いつもの天然パワーで無意識に訊いてしまった事はさておき、19歳……?

「――えぇ!?」

「そ、そんなに驚かれるとちょっと傷つくかな……あ、ちなみにシグナムちゃんは17歳だよ」

「うそぉ!?」

二人共、もう成人してる歳だと思っていたのだが、意外と違っていたらしい。特に、外見から判断ができないさくらはともかく、シグナムはかなり意外だった。

まぁ、本人に言ったら、そんなに私は老けて見えるのか……と、凄く落ち込まれそうではあるが。

ふと、また気になる事が一つ。では、よく目の前の人と親しげに話している少年は、一体幾つなのだろうか、と。

「そ、そういえば、冬獅郎くんは幾つなんですか?」

「冬獅郎? う~ん……ボクも知らないや」

「え?」

思わず、キョトンとなるフェイトを尻目に、さくらは相変わらず無邪気に笑う。だが、その笑みは先程より……どこか寂しげに見えた。

「にゃはは、あの人とは……うん、十年近く会ってなかったから、ね」

「十年!?」

「そ、十年。ずっと待ってた……ううん、正確には今も待ってるのかな。あの人の――言葉を」

……ある意味、少女の時計は止まったままだ。けど、それでも待つ。魔法使いとしてではなく、一人の“女の子”として――

はっとしてフェイトを見ると、何だか困惑した表情で自分を見ている事にさくらは気付いた。

「あ、ごめんね!! 関係ない話になっちゃって。あの人……じゃなかった、冬獅郎ってばボクには明るくなれやら、綺麗だから髪を伸ばせやら言うのに、肝心な事とか自分の事は言葉にしない人だから――」

「辛くないんですか?」

え? と思わず言葉を返すさくらに、フェイトはただ悲しげな瞳で彼女を見る。多分、人の悲しみを自分の事の様に考えているのだろう。

一度、俯いて少し考える。辛いか、辛くないか何て言えば、それは――

「辛いよ。ずっと、ずっと待ってるだけだから……」

いっそのこと、愛想を尽かせば楽だったのだろうか。大体、待っててくれ何て言葉もなかったのだ、それくらいしても文句は言えない。と言うか、女の子をこれだけ待たせて文句など言える筈がない。っていうか、言わせてなるものか。

でも、それでも――


「……でも、待つよ。ずっと、いつまでも。ボクは――あの人が、ずっとずっと大好きだから」


それは、ただ一つの“言葉”を待つ少女の想い。ちっぽけだけど、大切な言葉を待つ。

――一人の“女の子”としての、小さな願い。


サクラとユキが交じり合う。けれど、その想いまでは交わらない――歪んだ運命は、新たな旋律‐物語‐を奏で始めた――










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……なんかごめんなさい。本編書くとか言っておいて、結局さくら編のプロローグ見たいなのを書いてしまった。

いやまぁ、これを書くにしても烈火の翼を全部移して、もう一つの氷輪丸編を完結させないといけないのですがww

どうでしたでしょうか?未だ謎の多い少女、さくらの想いに焦点を当ててみた烈火の翼の外伝。ちなみにさっきも書いた通り、さくら編のプロローグみたいな物です。氷輪丸編でフェイトがさくらと認識が有ったのも、この話があったからだったり。

まぁ、ぼちぼち感想待ってます。
  1. 2012/11/06(火) 17:52:31|
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