サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編・マジカルトーナメント(仮)――旅の魔法使いVS烈火の守護者・そのニ

「ヒステリア・サヴァン・シンドローム……ですか?」

「そうだ。HSS……ジャンヌは『ヒステリアモード』と呼んでいるらしいがな」

――ヒステリアモードは天下無双。そうジャンヌが言った辺り――実は、彼女達だけ結界内の会話を聞き取れる――で、フェイトがなのはに視線を向け説明を求めたが……なのはは『私だって万能じゃない』と言わんばかりに肩を竦め、聞いた事が無いというアピールをした。

そこで口を開いたのは、この中で唯一その正体を知る人物……つまり、ジャンヌから能力を聞いた事のあったシグナムだ。続けて、名称だけでは当然ながら疑問を感じる全員に向け、彼女は語った。

「本来、遠山家と言う家系の人間が持つ特異体質だそうだ。発動に必要なトリガーは『性的興奮』 発動すれば、思考力・判断力・反射神経などが通常の30倍にまで向上する……代わりに、男の持つ子孫を残す本能の下、女性を守ったり優しくしたりするらしいがな」

「で、出鱈目な能力ですね……でも、どうしてそれをジャンヌさんが?」

“性的興奮”辺りでハテナマークを浮かべていた子供二名を敢えて無視し、なのははそう訊く。なのはの疑問は当たり前かもしれない。何せ、遠山家の家系に発現する能力と言うのだから、遠山家の人間ではないジャンヌがヒステリアモードを使用できるのは辻褄が合わない。

それについてもシグナムは知っているらしく、目は結界内から離さず言葉を続けた。

「……ジャンヌは前に、そのHSSの能力者である遠山 金一から血を輸血された事があったらしい。私の“推理”では、その血液を創造主(クリエイター)が解析し、ジャンヌの意思に関係なく取り入れた、と考えている」

それで合っているか、と言う意味合いを込めてシグナムが刹那へ視線を向けると、刹那はそれに小さくだが頷いた。

彼の翼もそうだが、この能力は“本人の意思に関係なく、本当に有益だと判断した物を取り入れる”と言う非常に面倒な知能を持っている。

つまりは、創造主(クリエイター)がHSSがジャンヌに“必要”だと判断したのだ。

そこで、ヒステリアモードの特性を把握していたフェイトが、一つある事に気が付いた。

「あの、ヒステリアモードが女性を守る物なら、ジャンヌさんはリリィさんに攻撃できないんじゃ……」

「そうだな。が、それは『ヒステリア・ノルマーレ』での話だ」

ヒステリア・ノルマーレ……普通の“性的興奮”でなるHSSでは、フェイトの考察は間違っていない。しかし、今ジャンヌが発現させたヒステリアモードは、ノルマーレではない。

「今のジャンヌが発動しているのは『ヒステリア・ベルセ』 女性を“奪う”ヒステリアモードだ」

「女性を……奪う?」

「そう。ベルセの状態では、女性に対しても荒々しく、時に力尽くでその全てを奪おうとさえする。発動には、他の男に対する憎悪や嫉妬といった悪感情が加わる事が条件――つまりアイツ、居もしない男を想像してベルセを発動させたな」

……沈黙。何だか居たたまれない沈黙。そりゃあ、シグナムの言っている事は“想像するだけでベルセになる、リリィ――アリス――に対する凄まじい独占欲”と直訳される様な物だ。

それでいて、中々素直になれないツンデレ気質な性格をしているのだ。どうやら普段の冷静な彼からは考えられない、難儀な性格をしているらしい。

コホン、とわざとらしく咳をし、シグナムが気まずい空気を吹き飛ばす。

「まぁともかく、ベルセの戦闘能力はノルマーレの1.7倍。先程も言ったように、女性に対しても荒々しく攻撃的になる。ただし、ノルマーレと違い思考が攻撃一辺倒になる、いわば諸刃の剣」

「で、でも!! それじゃリリィさんが危ないんじゃ……」

「まぁ、とんでもない戦いになっているのは、確かだな」

シグナムが視線で戦いの場を見ろ、と言う事を示しフェイトがそれに素直に従うと……そこには、思わず目を疑う光景があった。

ジャンヌが凄まじい数のマズルフラッシュを瞬かせ、アリスは右手の刀を振るい続け閃光を閃かせる。
しかし両人――その動かす腕は、見る事も見切る事も出来ない。

見えないのだ。ジャンヌは銃を構え、アリスは刀を持っている筈なのに。

ジャンヌが放つ銃弾は『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』 名の通り、目に見えぬ程に早く繰り出される銃弾。それは、銃弾を見てから回避できる人間ですら、閃光としか表現できない……この時点では、ジャンヌが使っている銃の種類すら認識できない程のスピード。並の者には、マズルフラッシュすらも見えずに終わるだろう。

その常識はずれの銃技を、ジャンヌは今ひたすら放っている。放たれた不可視の銃弾は、全てアリスへと迫り――しかし、届きはしない。残らず全て、たたっ斬っている。目に見えぬ銃弾を全て……だ。
不可視の銃弾は、不可視の斬撃によって残らず斬り飛ばされる。リリィの斬撃は、閃く一瞬の軌跡が残されるだけ。同じく、見切る事など出来はしない。

(ッ……まだだッ!!!!)

敗けない、敗ける訳にはいかない。その一点だけを力に込め、ジャンヌは銃弾を放ち続ける。

バラ、と6発の銃弾が空中にばらまかれ――ジャンヌが銃を一閃させると、その回転弾倉(リボルバー)にはきっちり6発の銃弾が収められていた。

空中リロード……この手品みたいな技は、彼やその相棒くらいでないと実戦では使えない。無論、リロードの動きが見えた観客などいない。

瞬間、ジャンヌの前方で6つの閃光が連なる。6連射の『不可視の銃弾』 さらに、もう一つの銃から6連射。12連射――だけではない。空中にバラ撒いていた12の銃弾を……空中でリボルバーに再装填(リロード)。

そして両腕をクロスさせ――不可視の銃弾を12連射した。

神業とも言える24連撃の『不可視の銃弾』が、同時にアリスへと襲いかかる。

しかし――その全てが、空中で火花と金属音を上げて斬り裂かれた。不可視の銃弾が……残らず全て。

フッ、と口元を僅かに吊り上げ、アリスが不敵に笑う。

「チィ……!!」

ベルセの彼だからだろうか。アリスの表情を見て荒々しく舌打ちし、だが手だけは休めずに不可視の銃弾を放つ、放ち続ける。

――城壁だ。アリスの超神速の斬撃は強力な城壁となり、全ての銃弾の行く手を遮っている。

リロード、連射、リロード。その城壁に対抗すべく、ジャンヌは不可視の銃弾をひたすら連射しアリスへと襲いかかる。だがしかし、城壁は全く揺るがない。暫くの間、何が起こっているか観客には理解できない均衡状態が続く。

「凄い……」

「あぁ。だが、ジャンヌの方が不利な事には変わりない」

フェイトには事の殆どは見えていない。だが戦況が拮抗していると言う事は何となく判った……しかし、シグナムはそれを肯定しつつも否定する。

「アイツの本来の動きは、あらゆる策と武器を使い、そこから戦況の流れを自分の下に引き寄せるオールラウンダーだ……だが、それはリリィに通用しない」

「な、なんで……」

「――リリィは、ジャンヌの全てを知っている……ジャンヌの巡らす策、その全てがリリィには通用しない。だからこそアイツは、リリィと同じ“一芸特化”で対抗しているのだ」

ベルセの影響も在るのだろうが……それでも、いつものスタイルを捨てて、彼が一芸特化と言うリリィの独壇場に乗り込んでいるのはそういう理由があった。

ずっと一緒にいたアリスだからこそ、策士ジャンヌの姿では勝てない。ならば、彼女になんとか対抗できる力――ヒステリア・ベルセと不可視の銃弾を以って、この戦況を創り出し、そして勝利への道を模索しているのだ。

(だが、相手を知っていると言う意味では――)

シグナムの思考を遮る様に、均衡状態だった戦況が動き出す。その均衡状態を生み出していた……他ならぬアリスの手によって。

タイミングをずらし発射された、一発の不可視の銃弾。その見えぬ筈の銃弾を――アリスは、左手の二本指で挟んだ。その左手には、いつのまにかオープンフィンガーグローブが嵌められており、特注品のそれは指毎に覆っている長さが違う。

チタンを焼結させたコバルト合金のグローブが、銃弾を挟み火花を散らす。火の玉の様に輝くそれを、可能な限り速度を保ち、アリスは自分の身体ごと180度回転し――なんと、銃弾をUターンさせ撃ち返した。発砲からこの瞬間まで、コンマ一秒も経っていない。

(銃弾返し(カタパルト)か――!!)

とんでもない曲芸。だが、ジャンヌも既に曲芸を放っているのだ。

――返された不可視の銃弾が、再び放たれた不可視の銃弾によって弾かれた。


銃弾撃ち(ビリヤード)――しかし既に、均衡状態は消え去っているのだ。銃弾が弾かれ火花を散らした瞬間、アリスはジャンヌの目の前に現れていた。形としては、最初の時と同じ……しかし、速さは比べ物にならない。

「――閃華(せんか)・瞬(またたき)」

その声が聞こえた時には、ジャンヌの身体は後方に吹き飛ばされていた――ただし、その両手には白銀の剣を持って。

受け止めたのだ、アリスの抜刀術を。その両方の剣を地面に突き刺し止まり、いつの間にか投げ放っていた2丁の銃を受け止め見えない場所へしまい込む。

先程のシグナムの思考を繋げるならば――相手を知っていると言う意味では、ジャンヌとて同じ事だ。

漸く一旦の終わりを迎えた攻防戦……そして、一休みとばかりに二人の会話が始まった。

「ふぅん、双剣双銃(カドラ)……ね。双剣双銃のジャンヌとでも名乗るの?」

「いや、アリアとあっちのジャンヌと被るから、遠慮しておこう」

「だよねぇ~……でも、意外だよ。ジャンヌがこんな賭け、乗ると思ってなかったし」

まぁ正直、どれだけ煽っても乗って来ないとばかり思っていたから、この様に強引な手段を用いてジャンヌを引きずりだしたのだが……思いの外、あっさりと乗って来てしまいこの状況だ。

だがジャンヌは、アリスの言葉に何処かムッとした表情になりながら応えた。とてもヒステリアモードらしい、かなりこっぱずかしい物で。

「当たり前だ。お前を他の男に奪われるくらいなら、私がお前を押し倒してでも奪い取る……あぁ、言ってたら、今すぐお前を押し倒して――風穴をあけたくなったな」

瞬間、アリスの顔が凄まじい……それこそ神速の勢いで真っ赤に染まる。ちなみに、唯一この会話が聞こえている場所では、なのはとクロノがそれぞれフェイトとはやての耳を塞いでいたりしている……まだ、子供にはちょっと早い口説き方らしい。

仕方がない、本人だって止まらないのだ。ノルマーレならともかく、ベルセでは。けれど、アリスの表情は一変悲しげな物となり……同じく、悲しげに言葉を紡いだ。

「でも――この関係を進めなかったのは、ジャンヌだよ?」

「ッ……」

僅かに、ジャンヌが息を飲むのが判る。そうだ、このぬるま湯の様な関係を進めなかったのはアリスではなく――自分だ。

「あぁ、そうだな――」

そうだ、そうだとしても……。

「――だが、今進んでみるのも悪くはないだろう?」

怖がってばかりでは、もう前には進めない。

瞬間、バラ撒かれたのは裕に50を超える弾丸。そしてピクリとジャンヌの指が動き――また 『不可視の銃弾(インヴィジビレ)』 が神業な量で放たれた。

アリスが再び城壁を……展開しない。その刀は、鞘に収められたまま。 続きを読む
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  1. 2012/09/30(日) 04:16:07|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編・マジカルトーナメント(仮)――旅の魔法使いVS烈火の守護者・その一

「お疲れ様。流石だな、なのは」

「どうも。まぁ、このくらいだったら余裕よ」

エキシビションマッチ終了後、そんな会話をしていたのは彼らだけ指定席と言うかVIP席と言うか、まぁ権力は使い様だなと言う感じの観客席にいる、クロノと今さっき戻って来た高町なのはだ。

よいしょと席に座り、適当な飲み物を貰いリラックスするなのは。ちなみに、実は彼女達の席にだけ特殊な結界があり外からは見えないし会話も聞こえない……てか、なのはの知名度を考えると妥当ではあるが。

「そういえば、クロノ君は本登録してないけど参加しないのかしら?」

「冗談は止してくれ。誰が好き好んで、デタラメ人間の万国ビックリショーに突撃したいと思うんだ」

「言うわね……でも、隣の子を見てもそれを言えるかしら?」

なに? とクロノが隣の席を見ると……キラキラと、瞳を輝かせてクロノを見る八神はやての姿――そう、それはまるで“クロノの出番を楽しみにしている”ようだった。

「なぁなぁクロノ君!! 私、クロノ君のこと応援するから、頑張ってな?」

「……待て、落ち着くんだはやて。さっきの戦いを見ただろう? 僕が隣のお姉さんに当たったら、悪魔の一撃でボロカスの様に沈められてしまうんだ!! それでも良いのか!?」

「張っ倒すわよクロノ君」

若干青筋を浮かべながら、言うようになったわねこの子も……とかなのはが思っているのは秘密だ。

しかしまぁ、背丈はともかく実年齢は六歳ほど差のあるクロノが、はやての両肩を掴み正面から説得しているのを見ると何だか――

「ロリコンね」
「ロリコンだな」
「ロリコンですね」

「なん……だと!?」

なのは、シグナム、刹那の三人満場一致で断言され、わざわざ振り向いて反応するクロノ。まだ幼いはやては判らなくて当然だが、なぜクロノがロリコンと言う言葉を知っているのだろうか? その答えは本人のみぞ知る……非常に、どうでも良い事ではあるが。

「なにコントしてんだよお前ら……」

「あらクーゴ。それにフェイトちゃんも」

黒のジャケットにオールバックの髪の青年と、はやてと同年代程の身長に金髪をポニーテールに括った少女……クーゴとフェイト・テスタロッサが、前者が手を上げ、後者は丁寧にお辞儀をしてそれぞれがなのはに応えた。

それなりに揃って来たな、なんて思いつつなのはは何となく人数確認を行う事にした。

「えっと、守護騎士さん達とかは、運営の手伝いに行ってるから良いとして、ユーノ君も少ししたら来るって言ってるし……ん? 師匠達がまだ来てないみたいだけど?」

「あ……受付で雪華さんの事、冬獅郎さんと一緒に止めてましたよ。なんだか、雪華さんが『私もトーナメントに参加するのよ!!』 って言って暴れてました」

「あ、うん。ありがとうフェイトちゃん」

道理で、さくらがいつの間にかいなくなっている筈だ。恐らくだが、なかなか来ないヒナギクの様子を見に行ったのだろう。

密かにため息を吐くシグナムは……まぁ、相変わらずの親友に呆れているのか、それても主の苦労に同情しているのか、もしくは両方か。

一方その頃、噂のトーナメント受付前。殆どの観客は席に座り、大会の開始を待っている為そこは非常に静かな――訳がなかった。

「離してよ冬獅郎!! なんでシグナムが良くて、私は出たら駄目なの!?」

「馬鹿かお前!? 職業を考えろ!! しょ・く・ぎょ・う!!!!」

「アイドルよ!! なんか文句ある!?」

「文句はねぇが問題はある!! 怪我したらどうすんだお前!?」

ウンタラカンタラアーデモナイコーデモナイショクギョウヲカンガエロアイドルダケド――ループしているし、片言で表現しているので読み辛く面倒だから省くが、見慣れた光景なので何だか笑みを溢しているヒナギクが、二人の喧嘩をただ見つめていた。

冬獅郎の背丈を考えると、姉を背中から頑張って押さえる怒り気味な弟だが……実際の関係は逆なので、世の中不思議な物だ。

とはいえ、時間が時間なのでそろそろ行かないと間に合わない……ので、いい加減“まとも”に止めに入ろうと、己の金色の髪をなびかせ、ヒナギクは動いた。

「雪華ちゃん……」

驚く程スムーズに冬獅郎と入れ代わり、雪華の身体を背中から押さえる。しかし、あくまで優しくしなやかに、抱き締める様に。ちょうど雪華の視界に入る様に、瞬間沸騰した彼女の可愛い顔を自分の視界にも納める。さりげなく、雪華の柔らかい髪を撫でる。

そして、優しく柔らかく、彼女の名前を呼ぶ。それだけで、ヒナギクはもう雪華の心を完全に掴んだ。

「ひ、ヒナ? どうしたの……?」

「あ、動揺してるんだ? ねぇ、なーんで?」

「な、なんでって……!!」

ちらりと目を向ければ、そこにはヒナギクの綺麗な顔と瞳が映り、慌てて反対方向へ顔を背ける雪華。だが、ヒナギクはそれをも予想済だったのか、さらに雪華を抱き寄せ、しかしあくまで優しく抱き締める。一歩、また一歩と雪華を捕えて離さぬように。

――あ、ちょっとからかう筈だったのに、本気になってきちゃった。

「ねぇ雪華ちゃん……こんな大会出ないで、私とデートしよ?」

「で、ででで、デート!?」

「そ。今日は、ずっと一緒にいよ。私……雪華ちゃんのこと大好きだから――私と“いいこと”……しよ?」

「――にゃ、にゃい」

雪華、陥落。些か、いやかなり遣り過ぎな気がする。絶対、途中から本気になってたし。ちなみにヒナギクの言う“いいこと”とは、普通に観戦しながら二人でお話したりする事であり、決して!! 断じて!! お子さまお断りは方向ではない……帰った後は、保証できないが。

(……褒めれば良いのか、呆れれば良いのか、凄く反応に困る対処の仕方だな)

少し離れた場所でヒナギクの行動を見ていた冬獅郎は……非常に、苦い飲み物が飲みたくなった。まぁただ、方法はともかく雪華をああも簡単に止めた事に関しては素直に感心する。

実際、あんな方法はヒナギクと同じ容姿の刹那やその兄では絶対に無理だろう。特に、地味にツンデレ気質が高い兄の方では。

――しかし冷静に考えると、ヒナギクが俺の将来の弟か……もしかしたら、甥を抱く日も近いかもな、と若干外れた事を考える冬獅郎だった。

「うにゃにゃ? 冬獅郎、何を考えてるの?」

「……別に何でもねぇ。あと、いきなり出てくるんじゃねぇよ、さくら」

驚きはしないが、いろいろと反応に困ると思いながら振り向くと、そこには先程まで戦っていた金髪ツーサイドアップの少女、芳乃さくらがやはり気配もなく立っていた。

冬獅郎の言葉に、さくらは相変わらず人懐っこい笑みを浮かべて応えた。

「にゃはは、ごめんごめん。次からは気をつけるって」

「どうだか――っと、一回戦の組み合わせ……決まったらしいな」

「見たいだね……大分、面白い事になりそうだよ」

二人が見つめる先には、一つの電光ボード……そこには、参加登録名でこう記されていた。

『ジャンヌ・ダルクVSリリィ』

さらにそれは会場でも同じく、大歓声も下に巨大な電光ボードに記されていた。そして、その二人の人物が舞台へと上がる。

片や、金色の天然パーマのかかった髪を揺らし、楽しげに歩いて来た美少女……リリィ。

片や、銀色の明るめの銀髪を2本の三つ編みにし、つむじの辺りで結ったロングストレートの髪を揺らし、何処か不機嫌そうに歩いて来た“見たい目は”絶世の美女な青年……ジャンヌ・ダルク。

対照的な表情の二人が、全く同じ瞬間に立ち止まり、また対極的な瞳で互いを見つめる。

時を同じくして、結界が辺りの空間を覆い尽くす。その空間は切り替わり、何処かの学校、そしてグラウンドと言うまた妙な趣味の場所になった。

『あー、今回は管理外世界“地球”の学校をイメージしてみた。ま、取り敢えず――』

『両者、準備がいいようなので……始めてくれ』

開始の合図。先に動いたのは――一瞬にしてジャンヌの目の前に飛んだ、リリィだ。実力のある者ですら容易には見えぬ速度接近、そのまま刀を鞘から抜刀しジャンヌの上段から斬り掛かる。

対するジャンヌはそれに素早く反応し、一瞬にして出現させた白銀の“鎌で”刀を受け止めた。

――そのジャンヌの行動に、なのは達の何人かが表情を変える。特に、ジャンヌの戦闘スタイルを知っている人間が。それはリリィも同じだった様で、僅かに表情を曇らせると鎌を弾いてジャンヌから距離を取る。

瞬間、ジャンヌは左手を地面に叩きつける。その左手から、一瞬目に見えぬ光が迸り――土が硬化な物質となり数多もの槍の様にリリィへと迫る。

「な、なんですかアレ!?」

その光景に酷く驚いたのはリリィではなく、観客席にいるフェイトだ。魔力は感じられない、何か彼女の知らない力なのだろうと言う事は判る。

しかし、その中身までは――

「創造主(クリエイター)」

「え?」

「お兄ちゃんの能力の名前、ですよ」

その言葉の主は、立って観戦しているシグナムの横に立つ、ジャンヌの弟でもある紅刹那だ。さらに、刹那は表情を変えずに言葉を続ける。

「中身を説明するのはかったるいので、物質変換の一種だとでも思ってください」

本質的には、そんな物では収まり切らない能力なのだが。刹那はかったるいと言っているので、全く説明する気はないらしい……ただ、ついでとばかりに言葉を続けた。

「私の『翼』と似たような物、と言えば判る人には判るでしょう。まぁただ――あの程度の攻撃が通じない事くらい、お兄ちゃんが一番判ってるでしょうに」

閃光の様に光が閃き、無数の槍が紙の様に斬り裂かれたのは、その言葉が言い終わった瞬間だった。さらにリリィが瞬速の勢いで駆け抜け、槍を斬り裂きジャンヌに迫り――ルビーレッドとサファイアブルーの瞳が交錯する。

次の瞬間には、二人の位置は入れ代わりまた視線を交わし、漸く言葉を交わすに至った。

「本気、出さないんだ? 出してくれないと、私も戦う意味がないんだけどなぁ」

「お前と戦う理由が無い。それだけだ」

只でさえ、訳も判らずリリィの所為でこの大会に出ざるを得なくなったのだ。こう言った場で目立つ事を自分が好まない事を、目の前の少女は良く知っている筈なのに。

「そう――じゃあさ、賭けをしようよ、ジャンヌ」

ただ平然と、何を考えているか判らない笑みを浮かべてリリィは言う。益々、少女が何を考えているか理解が出来ない……だが、その賭けの内容を知った瞬間から、ジャンヌはそんな事どうでも良くなってしまう。

「貴方は私に勝ったら、私の事を好きにしていいよ。でも私が勝ったら――私は、貴方の傍からいなくなる」

「な……に?」

初めて、冷静だったジャンヌの表情から余裕が消え、焦りにも似た感情が浮かび始めた。

――同時に、彼の身体の底から熱い何かが込み上げてくる。

「そろそろ私もね、男の一人いない様じゃつまらなくなる年頃だからね……ジャンヌの目的は達成されてるんだし、私はもういらないでしょ?」

リリィが何を言っているか、今のジャンヌには殆ど聞いていなかった。しかしただ一点、“男”と言う言葉はしっかり聞き取っていたが。

(男……他の男が、アイツを“奪い取る”?)

ふざけるな、ふざけるなふざけるな――フザケルナ!! あぁ、自分の身に何が起こっているかは理解できている。 続きを読む
  1. 2012/09/28(金) 04:27:59|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 番外編・マジカルトーナメント(仮)

人が凄く一杯入りそうな、ミッドチルダに立てられた超巨大なドーム。企画の当日だからか、祝いの花火が上がっているそのドームには、でかでかとこう掲げられていた――

『時空管理局主催!! 第一回マジカルトーナメント(仮)』

――正直、そのネーミングセンスはどうよ? とツッコミを入れたくなる看板である。

事実、一人の少女がドーム真っ正面から静かにツッコミを入れていた。

「……クロノくん、私はネーミングセンスって大事だと思うんよ」

「言わないでくれ……これでも、上層部が知恵を絞って考えたと言っているんだ……」

ツッコミを入れた少女の名は、八神 はやて。そしてそのツッコミに、片手で頭を抱えフォローにならないフォローを入れたのは時空管理局執務官の少年、クロノ・ハラオウンである。

車椅子に座るはやての脳内には、愉快に名前の候補を出す上層部と言うこれまた愉快な光景が描かれていたが、流石のクロノも少女の脳内にツッコミを入れる才能は無く、彼女の車椅子を押してドームの中へと入っていった。

係員に二人分のチケットを渡し、適当な食べ物と飲み物を買って二人は観客席へと入る。ドームの大きさから予想はしていたが、やはり規格外にデカい。しかも、まだ開始まで時間が在るのに殆ど満員御礼ときている。

これでは流石に、二人の座る場所は無い……と思いきや、なにやらデカデカとかなり空いている席が在った。クロノはさも当たり前のようにそこへ行き、さも当たり前のようにはやてをお姫様抱っこで持ち上げ席に座らせるが、当のはやては――クロノに恥ずかしいことを平然とやられ、赤面した表情で――疑問に思い、隣に座ったクロノに質問した。

「なぁクロノくん、なんで私らの席だけ確保されとるん?」

「あぁ、なのはと裏月さんが『コネと権力は使う物』と言って、僕達や他の皆の席を確保したらしい」

「……なんか、しょーもない使い方やなぁ」

まぁ、黒いことに使われるよりは遥かにマシである。と、そんなやり取りをしている間に時間が来たのか開始が近いと言うアナウンスが入る。それにより、会場のボルテージは一気に上昇し、まるでアイドルのライブでもやるのかと言う様な盛り上がりになった。

――若い者は娯楽が必要とはいえ、此れ程の盛り上がりを見せるとはなぁ。なんて感想を抱いたクロノだったが、彼もまた十分に若者である。ちなみに、なんで彼がはやてと共に行動しているかと言えば、はやては暫定的とはいえクロノの補佐役であり、まだ戦闘経験が少ない彼女にとって、こういった物は少なからず参考になるだろうと彼が判断したからだ。


……何故か母のリンディと友人のエイミィに頑張れ、と力強い視線で送り出されたのは、まぁ気にしないでおこう。

『さぁ始めるか。ネーミングセンスは気にすんな、時空管理局主催・第一回マジカルトーナメント(仮)!!』

『あー……まずは、エキシビションマッチを開始させてもらう』

かなり聞き覚えのある、ハイテンションな声とかなり冷静な声の二人の司会だが、まぁやはり今は気にしないでおこう。

と、その宣言と共に中央のステージに登場した女性により、会場のボルテージはより一層激しさを増した。クロノとはやても、その人物の登場に驚きながらも、同時に確かに妥当だなと考える人物。
純白のロングコートが揺れ、二つのお団子に束ねられた栗色も微かに揺れる。

そして、黒の天使と対をなす『出来損ないの魔法使い』

『他の魔導師の圧倒し、時空管理局創設以来、最強の魔導師と名高い。処刑人(エグゼキューター)――高町なのはの入場だ』

「はーい。どうもどうも~」

あらゆる人間を魅了する笑みを浮かべ、観客席に手を振りながらステージへと歩むなのは。その姿に、管理局員ならずとも男は誰もが魅了されていた。まぁ、彼女の身内を除いて、と言う言葉がつくのだが。

「まったく、大したキャラ作りだな」

「あ、魔法使いさん!!」

「……子供に正面向かって言われると、些か恥ずかしい物だな」

凄く、今さらだと思います、と心の中からのクロノのツッコミを受けつつ少々赤みが差した表情で登場したのは、“美しい”とか“凛々しい”と言う表現が良く似合う桜色の髪をポニーテールに括った女性――『烈火の魔法使い』、芳乃シグナム。

彼女の“姉”と趣味が似ているのか、ロングスカートも含め何処かふわふわと服装は凛々しいシグナムの雰囲気には合わなそうで、しかし意外と似合っていた。

「なぁなぁ、魔法使いさんはこの大会に出ぇへんの?」

「さて。まぁ裏月が身内全員を仮登録しているから、トーナメント開始ギリギリまでに本登録を済ませれば出れるが……」

正直、今の彼女に出る気は全くなかった。そもそもよく勘違いされるが、シグナムは別段戦いは好きではない。戦いの最中は集中し、必要の無い思考を廃する為に楽しんでいる様にも思えるが、所詮シグナムにとって戦いとは“護るための手段”でしかない。

だから、言葉では迷っている様に見せながらも内心は出るつもりはなかった――この瞬間までは。

『さて続いては……正体不明の美少女――芳乃さくら殿の入場だ』

「……なに?」

解説と共に、その人物が入場した瞬間に会場の盛り上がりは一気に静まったと言っていい。そしてそこから、戸惑いや騒めきといった声が大半となった。

なにせ、出てきたのは小学生程度の背丈しかない少女だったのだ。“あの”処刑人(エグゼキューター)の相手をあの少女が……? と言うのが、大半の観客の意見だろう。

(なにを考えているのですか……さくら姉さん)

しかし、シグナムだけは別の事を考えていた。なぜ、こういった事には見る事はするが出る事には興味がなかった姉が、今あの場に立っている?

だが、頭脳明晰なシグナムでも直ぐには理解できない。

「…………」

「さくら姉さん?」

ただ、目の前のなのはではなく自分に意識を向けるさくらに、漠然とだが何かを感じた気がした。

なのはが『エクスシア』を起動させ、機械的な翼を展開する。さくらは、己の金色の髪が揺れた一瞬の内にその手に刀を手にしていた。

瞬間、ステージを結界が包み込み内部の空間が変化する。普通とは違い結界のそれは、果てなく白い空間……俗に『バーチャル空間』とも言える様な空間だ。

『さて、今展開した結界は少し特殊な奴でね。その空間内なら、自由に風景とか建物とかを持ち主の意思で弄れる。ま、今回はシンプルにさせてもらったぜ』

『では、緊急のエキシビションマッチなので制限時間は5分とさせてもらう――開始してくれ』

存外あっさりとした開幕。それを聞いて先に動いたのは、翼で一気に天へと舞い上がった高町なのはだ。

滞空したと同時に、その手には長身型の大型ビーム砲、マギリングガンポッド『ルシファー』を持ち構え、砲身の部分が横に2分割された単射モード……その間から魔力が迸りスパークが散る。

そしてトリガーを引き、放たれたのは比較的細い砲身からは似合わぬ極太の砲撃。それは間違いなくさくらに直撃し、広範囲に爆風を上げた。

……終わった。どういう仕組みなのか、結界の外からもよく見えるその状況を見ていた観客は皆、そう思ったことだろう。まぁ、相手が彼の有名な処刑人(エグゼキューター)なのだ、仕方がない……そう、失望感にも似た感情を殆ど全員が抱いた。

――ただ一人を除いて。ただ一人、さくらの妹……芳乃シグナムだけは、未だ“戦う時の”厳しい表情で爆風を見つめていた。クロノとはやても彼女の様子に気付き、まだ戦闘経験の少ないはやては不思議がっていたが、クロノは直ぐに気付いた……“まだ戦闘は終わってなどいない”事に。

「散って……千本桜」

響く、妹と同じ凛々しい声が。そうして一瞬の間に、爆風から“桜”が飛び出した。美しく、光を浴びて輝く千本の桜はまとまり、束となってなのはへ加速する。

魔力が爆せる。それは、白き翼が粒子を吹き出し加速した証拠。が、飛行魔法の数倍の速度のそれでも、千本桜は同速以上のスピードで追い縋る。

(相変わらず鮮やかね……でも)


――私も、敗けるつもりは無い。その心中を表へと出すかの様に、なのははエクスシアをさらに加速させ、千本桜を強引に振り切った。
同時に、砲撃によって巻き上げられた爆風が晴れて行く――ただ一歩も動かず、全くの無傷でなのはの動きを捉えていた。

高町なのはの砲撃を受けたにも関わらず……だ。が、なのは本人は不思議には思っていない。自分自身の戦闘技術……そのあらゆる物を叩き込んだのば誰か、身を以って知っているのだから。

ガシャン、とルシファーを構えたなのはは、展開した翼で姿勢制御を行い、放つ瞬間だけ動きを止め再び巨大な砲撃を解き放つ。

桜色の砲撃は少女に迫り――同じ色の桜が、その砲撃の行く手を阻んだ。しかし、この程度の攻撃では通じない事などなのはは百も承知。そして既に砲撃を放った彼女は、その場から消え、目に見えぬ程の速度に少女の後ろに周り込む。

その勢いのまま、なのははマギリングサーベルを引き抜き、さくらに向かって右手を一気に振り抜く。ここからなら、いくら千本桜でも防御するには間に合わない――その筈だった。

会場にいる殆どの者は見切る事が出来なかったであろう、たった一瞬の交錯。渇いた鋭い音を立て、なのはが後退し距離を取った。

対して、相変わらず“無傷の”さくらが悠然と振り返り、何処か気品を漂わせていた。可憐、とか凛々しいという言葉がよく似合う。

(……ホント、後ろに目でも付いてるんじゃないかしら?)

展開していたバタフライナイフの刀身を閉じ、密かに左腕の袖に隠しながら彼女は思った。思った次の瞬間、目の前の少女はあの妹の姉なのだと思い返し、今更かと結論付けていたが。

ヒラリ、流れる“一枚の”桜を見て、なのはは人知れず小さなため息を溢す。

――確かに、小さな武器でも使い方とタイミング次第で強力な力となる、とは教えてもらってはいたが……未だたった一枚の桜で、回避行動に移る事を余儀なくされるとは、相手の実力を知ってはいるが少し落ち込む。

あの一瞬……何処からか飛翔した一枚の桜が、なのはの攻撃を簡単に遮った。だが、恐らく並の者ならば、知らず知らずに動きを封じられているそれを、彼女は咄嗟に反応して隠し武器のバタフライナイフで弾いたのだ。

けれど、弾いたとはいえ体勢を崩されたなのはは後退を余儀なくされた。と言うか、退くのが一瞬でも遅かったら、今ごろ自分は桜の刃に呑み込まれていた事だろう。

因みに、なのはの動きを読んで滞空させていたであろう、一枚の桜に反応できていなかったら……視界を潰され、あっという間にさくら本人に鎮圧されていたと予想できる。てか、昔よくやられていた事だったりする。

――思い出したら、なんだか妙にイラついて来たわね……。

しょうがない事とはいえ、何だか無性に腹が立ち『デモンストレーション』の意味合いが強いのは判っているが、せっかくなので意地でも一矢を報いたくなった――が、さくらが刀を何処から出した鞘に納めたのを見るに、どうやら時間切れらしい。

結界が解除され、二人は現実空間のよく在る闘技場の様な場所に回帰する――その瞬間、会場は割れんばかりの歓声に包まれた。

「ま、デモンストレーションの役目は果たせたかしら?」

誰に言う訳でもなく、武装を解除しながらなのはがポツリと呟く。今頃、満足気に頷いているだろうこの大会の主催者を思い浮かべながら。 続きを読む
  1. 2012/09/27(木) 04:21:52|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 外伝『出来損ないの魔法使い』その一

『高町なのは』

その名を聞けば、どんな犯罪者でも震え上がりひれ伏すと言う、最強の魔導師とも名高い女性。別名“処刑人(エグゼキューター)”……そんな彼女の魔法使いとしての名は、己自身も認める『出来損ないの魔法使い』

最初に聞けば皆が不思議に思う……それだけの実力を誇っていながら何故“出来損ない”なのかを。

――これは、この世界の『高町なのは』の生き方の証そのもの。ならば、見てみようではないか。彼女自身が語る事の無い、見てきた者達にしか判らない彼女の貫く意志を。

――これは、一つの歪んだ物語。ただ、己の選んだ道を突き進む魔法使いの物語――









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

後に『最強無敵の電撃姫』として名を馳せる事になる少女、フェイト・テスタロッサが己の人生を本当の意味で“始めた”事件“ジュエルシード事件”……その約3年も前。

時空管理局・首都防衛隊。通称『ゼスト隊』はこの時代でも健在であった。多少の違いは在れど、その実力は確かに本物である。

そんなゼスト隊の訓練場では、隊のぼぼ全員が目を丸くして目の前の少女を見ていた。自分達は確か“ある人物と模擬戦をする”と言う事で集まった筈……だが、今目の前にいるのは紛れもなく“少女”だった。

その少女が、隊の騒めきを気にした様子もなくにっこりと笑みを浮かべ自己紹介をする。

「初めまして皆さん。この度、皆さんと模擬戦を行う事になりました、高町なのはです」

「……あの君……じゃなくて、貴方が俺達の相手を?」

「はい。何か問題でも?」

戸惑い。彼らがその感情を持つのも無理は無い。彼らの目の前にいるのは、せいぜい九歳か十歳そこらの少女。その少女が、自分達“全員を纏めて”相手をする。

まぁ、己の実力に自信を持つ彼らが少女を侮るのも無理はなかった。そしてそれは、流石のゼスト・グランガイツと言えども例外ではなかったと言える。

親友より与えられた資料を見ながらも、部下のクイントと共にさっそく模擬戦の準備を行っているなのはを逃さず観察していた。

「高町なのは……暫定オーバーSランクの実力を持つ、レジアスも太鼓判を押す程の魔導師……か」

「はっきり言って、危ないですよ。あの歳でそれだけの力を持つのは……」

「あぁ。かもしれんな」

そう、正確な年齢は入って来てはいないが、あの歳でオーバーSなどという強大な力を持ってしまってはどうなるか……下手をすれば、自分の力に溺れてしまう事だってあり得る。

注意するに越した事はない――部下のクイントとそう結論付けていたが、ゼストは少し違っていた。彼の“親友”たるレジアスが“太鼓判を押した”と言う部分に引っ掛かりを感じていた。

果たして自分の親友は、自分の力に溺れる様な人間に太鼓判を押すような人間だっただろうか? ……否、断じて否だ。

だから、ゼストには少女が“単なるオーバーSの魔導師”とは思えなかった。


――そして、その予感は的中する事となる。


模擬戦開始から僅か3分……その状況を逃さず見ていたクイントは唖然と、ゼストは目を大きく見開き驚きを隠せずにいた。

「……戦闘終了、ですね」

土煙が晴れる。何人もの人間が倒れ伏せ、痛みに呻くその中心に――高町なのはは、白いコートをはためかせ傷一つ負わず立っていた。
その表情に先程の様な笑みはなく、感情の起伏が少ない表情がただ終わった戦場を見つめ……ふと、なのはとゼストの目が合った。僅かばかりの交錯――瞬間、ゼストは出口に向かって歩き出した。向かうは無論、少女の待つ訓練場へ。

「隊長!?」

「どうやら、俺は彼女を見誤っていたらしい」

「え……?」

それだけ言い残し、ゼストは扉の向こうへと消える。数分もしない内に訓練場にたどり着いた時には、倒れ伏せていた隊員達も立ち上がっていた。

「た、隊長!?」

「下がっていろ、俺が出る」

既にバリアジャケット展開、己の槍を持ち首都防衛隊隊長、ゼスト・グランガイツ自らが少女と相対する。

白と茶色のコートがはためき、二人の視線は再び交錯する。ゼストの鋭い眼光を見ても、なのはは一瞬も怯まない。その強き瞳は、強者たるゼストを鋭く見つめていた。それを見て彼は、彼女の“強さ”を確信した。

「一つ詫びよう。お前のその瞳……力に溺れる様な物ではない。何か、強い覚悟を決めて突き進む者の瞳だ。お前の強さを見誤った俺の未熟を、今ここで詫びる」

「ではその詫びの代わりに、私と全力で戦ってもらえますか?」

「心得た。全力を以って、お前と闘おう」

言葉と共に、ゼストが己の得物たる槍を構える。それだけでも、戦士としての強き重みが感じられる。
対するなのはは、背中に機械的な白い翼を展開……その時、ポツリと呟いた。

「さて――貴方は私に何をもたらしてくれますか?」

その問い掛けにならない問い掛けは、一陣の風へと流され消える。しかし、『強き信念』を宿す瞳は躊躇う事を知らない。

「時空管理局・首都防衛隊、ゼスト・グランガイツ」

「……出来損ないの魔法使い、高町なのは」

なのはの翼からは白い魔力粒子が。ゼストの身体からは彼を中心とした魔力による暴風が。

――同時に、爆せた。

「いざ、参る!!!!」

「目標を、殲滅します!!!!」

互いが叫んだ直後に爆せたそれは、一瞬にして距離を零とし激突した。ゼストが槍を、なのはは瞬間的に引き抜いた魔力で刃が構成された武器、マギリングサーベルを振るい鍔競り合いを起こす。

圧倒的な暴風が起こるその中心で、一瞬の拮抗の後に圧され出したのは……なのはだ。いくら今のなのはが超人的な戦闘能力を有しているとはいえ、ゼストとの体格差による力の違いは埋めきれない。

「……ッ!!」

「ウォォ!!」

激しいスパークの光りが瞬き、その瞬間空中に吹き飛ばされたなのは。いや、吹き飛ばされたと言うよりは、翼で後方にブーストし距離を取ったと言う方が正しいだろう。

そこから一度体勢を立て直す様に旋回し……また、閃光が瞬いた。それでも、今まで培った勘も在るのだろうゼストは、障壁を展開し大きなダメージを負う事だけは防ぐ。

魔力式亜音速弾頭加速砲‐レールガン‐。腰のブースターと兼用されているそれは、僅か半瞬で放たれ避ける間もなく着弾した。爆風が吹き荒れ……それをまた、新たな風が中心から吹き飛ばした。

圧倒的な威力を叩き出す、ブースト魔法が行使されたゼストの槍はあっという間になのはが片手で展開したシールドに到達。轟音を放ち、激しい火花を散らす。

息を吐く暇も見えない攻防……それが一旦止まったのは、なのはが自らのシールドを爆破させ互いを吹き飛ばした時だった。ゼストは飛行魔法を行使した己の足で強引に踏み止まり、なのはは空中で回転しながら翼で体勢を立て直す。

……僅か一分足らずの攻防。それだけな筈なのだが、局員達には目を逸らすことが出来ない戦いとなっていた――そう、“局員達には”だ。

「さくらちゃん、今のなのはちゃんの攻防……どんな感じや?」

「そうだね、まだまだ甘いよ。一見、拮抗してる様に見えるけど、ものの見事に圧されてるもん」

「厳しいなぁ」

もう1つの見学席。そこには戦いの行く末を見据える、二人の人物がいた。金髪の少女は戦いの行く末を既に予測し、糸目の青年は飄々としながらも同じく結果までも理解している。

「このままやと、なのはちゃんは――」

「勝てないね、確実に」

そう、極めて冷静な瞳で断言するさくらには、確かな確信がある。少女、高町なのはの戦闘技能……そのあらゆる物を叩き込んださくらだからこそ、断言できてしまうのだ。

体格の差も在るが、今のなのははまだ成長途中。この段階では、市丸ギンの言う通り“このままでは”敗北は必至だ。

――だからこそ、少女は動く。己の願いの下……勝利へ。

グッ、と指が出るグローブ、真っ白いオープンフィンガーグローブを両手に付け、なのはは瞳を閉じ、開いた。

「――ッッ!!」

刹那の瞬間に、なのはの纏う気配がまるで違う物に変化し、ゼストが驚きと戸惑いに目を見開く。
少女の中で何かが弾け、少女の思考はクリアに澄み渡る。

これは一枚目の手札……しかし、これだけではまだ足りない。

「エクスシア、フルドライブ起動。出力20%で固定」

『Yes Master.mode(モード)・unlimited(アンリミテッド) Drive(ドライブ)――Limit Break』

なのはの指示で瞬時にシステムを立ち上げたエクスシアにより、展開していた白い翼が最大出力で無いにも関わらず――眩しい黄金の輝きを放ち出す。

だが出力20%……己に全力での闘いを望んだ少女が、数字だけ見れば加減した状態で挑むのは些か不自然だとゼストには思えた。そしてその疑問は、直ぐに氷解する事となる。

「――往きます」

そう言い、少女の翼から黄金の粒子が輝き放たれ……少女の姿は、輪郭すら残さずゼストの視界から消え失せた。


そして次の瞬間――ゼストの身体は滞空していた空中から吹き飛ばされた。


(なん……だとっ!?)

まさか、と言う表現した出来ない。全くもって、反応すら出来なかった。警戒していた、油断はなかった、なのはからの予告が在ったにも関わらず、最強と名高い部隊の隊長たる、ゼスト・グランガイツが、だ。

本能的に全身に魔力障壁を張り巡らせ、何とか体勢を立て直そうとしたゼストが一瞬、両手でマギリングサーベルを引き抜いたなのはの姿を見た。だが、本当に一瞬だけだった。

「グッ!!」

次の瞬間には、マギリングサーベルがゼストの肩に叩きつけられ、一瞬待たずに別の箇所へ蹴りを叩きつける。

また、また、またまたまたまた。十、二十、三十、四十。姿なき天使が、目に追えぬ凄まじい連撃を加え、追い詰めて往く。

「はああああああぁぁぁぁぁっっ!!!!!!」

戦姫の叫びと共に、また次々と蹴りとサーベルを交えた攻撃を展開。そしてそれは、超速から繰り出される事により一撃一撃が強力な物へと変化している。

ゼストですら、防御に徹する事しか出来ず、例えカウンターを行えたとしても、今のなのはの超反応はそれすら見切るだろう。

もはや、勝負は決した……そう、ただ一人以外は思っていた。ただ一人、なのはの動きを“完璧に目で追っている”少女、さくらだけは、勝負はまだ判らないだろうと予測していた。

(……そろそろ、か)

唯一――ギンもやる気になれば出来るのだが――なのはの表情を見取る事が出来たさくらは、そこからさらに答えを広げる。そして同時にそれは、なのは本人にも判っている事だった。

(まったく、いくらなんでもタフ過ぎる……!!)

また一撃を放ち、離脱し加速をつけて突撃するなのはが、行動を選択する毎に段々と焦りを感じ始めていた。いや、正確には二十五手目辺りで既に焦りを感じていたのだ。

決して軽くは無い一撃……その攻撃をこれだけ喰らい、未だ両足で立ちその戦意は微塵にも薄れてはいない。いくら防御に徹しているとはいえ、異常な迄の耐久能力。

正直、自分も見誤っていたようだ……ゼスト・グランガイツの実力を。自分をサポートしてくれている人物から、彼の事はよく聞かされていた筈なのに。

既に少女の全身が悲鳴を上げ、嫌な音を立て始めている。しかし、それでもまだ少女は止まらない。目に見えぬ速度で右手のサーベルを振り上げ――その時、なのはの左腕は限界を迎えた。

「――づッ!!」 続きを読む
  1. 2012/09/25(火) 22:12:24|
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