サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのはA's 通りすがりの魔法使い・プロローグ

選択肢の数だけ無数に存在する世界、枝分かれする未来。これは、そんな選択肢の世界の一つ。

――魔法使いが入り込んだ、始まりの前の物語。

海鳴町、広域封鎖結界内。魔力を持たない一般の人間が入り込めないそこには、赤毛の少女――闇の書の守護騎士、ヴィータが一人の少女を追い詰めていた。

「っう……」

栗色の髪を微かに揺らし、ビルの内部に叩きつけられた少女が身動ぎする。が、ダメージが思いの外大きいのか、それても破損したデバイスの影響か、立ち上がる事すら出来ない。

バリアジャケットの再構築すら出来ずに、ただ擦れた思考で考える事しか出来ない。何故、こんな事になったのか。突然襲い掛かってきた少女と交戦状態に入ったが、弾丸のような物を少女が使った途端に戦況は一変。

彼女の魔力が突如跳ね上がり、展開した魔力防壁を打ち破られ、今に至る。

(もう……駄目なの?)

思考だけで無く、視界すらもぼやけてきた。赤毛の少女が近づいてくる……そして目を閉じかけた、その時――

「……誰だ、お前」

――誰かが、目の前に降り立った。一瞬目を離した隙に、だ。ストレートの桜色の髪がなびく。その手には、炎が波打つ様な美しい刃を持った剣。後ろ姿で、さらに帽子まで被っているので顔は見えない。しかし、後ろ姿だけでも何処か気品が感じられた。

……女性が、怪訝そうに見つめるヴィータに向かって、凛々しい声で言葉を放つ。その、質問の答えを。

「――通りすがりの魔法使いだ」

――それは、歪んだ物語が始まる合図だったのかもしれない。

女性の答えに、ヴィータは露骨に顔を歪める。答えになっていない……そして、目の前の者が何処か自分の仲間と被るイメージを感じて、振り払いたかったのかもしれない。

「答えになって――ちっ!!」

「なのはっ!!」

思わず叫ぼうとしたヴィータが舌打ちを放ち、すぐさまビルの外へ離脱する。それと入れ違いで、三人の人物が少女――高町 なのはの下へ駆け寄った。

少年、ユーノ・スクライアがすぐに治癒魔法を掛け、金髪の少女、フェイト・テスタロッサと使い魔のアルフがなのはを心配しつつも、警戒を含めて目の前に立つ女性に問い掛けた。

「貴方は、何者ですか?」

「二回目だが、通りすがりの魔法使いだ」

彼女的には正直に答えたのだろう……が、二人には冗談にしか聞こえなかったのかさらに警戒を強められた。

――別に、冗談のつもりは無いのだがな……。

まぁ、通りすがりの処は即興だがマジだ。本当に通りかかっただけ……だが、それを説明する暇はないらしい。帽子の下で、女性が鋭く目を細めて言う。

「気を付けろ、もう一人来るぞ」

「あ、ちょっと待ちなよアンタ!!」

警告するだけして、桜色の髪の女性は使い魔の制止を聞かずに飛び出した。フェイト達が使う飛行魔法を行使した様子も無いのに、女性はいとも簡単に空中に降り立つ。

彼女のロングスカートがゆらりと揺れ、彼女は再び赤毛の少女、ヴィータと相対した。

「もう、お前が誰か何て訊かねぇ」

ガシャン、とヴィータが己のデバイスである『グラーフアイゼン』を構え、言った。それに、女性が帽子の下で薄く微笑みながら、答えた。

「ほう、ならばどうするつもりだ?」

「決まってんだろ――前に立つなら、ブッつぶすだけだ!!!!」『Explosion.』

ヴィータの叫びに応え、グラーフアイゼンが変化する。弾薬の様な物を排出し、グラーフアイゼンの形状が変化した。

『Raketenform.』

ハンマー状だった物がスパイクに状に変形し、もう片方からジェット噴射によりヴィータがその場で回転し加速を始める。

「ラケーテン……ハンマァァァァァァッ!!」

そして、勢いをそのままにヴィータは一気に突撃した。推進剤の噴射と回転の遠心力、この要素によって強化されたそれは、受け止める事も避ける事も困難な一撃。事実、高町なのははこの技によって敗れた。

桜色の髪の女性は、何もせずに動かない。そしてヴィータの一撃が彼女に届こうか――瞬間、何かが煌めき、軌跡を描き、凄まじい衝撃が辺りに爆せた。

衝撃と轟音が収まり、そこに在った光景は……。

「なん、だと……!?」

呆然と、目の前の光景を信じられない瞳で認識したヴィータと……炎の刃で、寸分の狂いも無くスパイクの先端部分を受け止めた、魔法使い。

それが、この光景こそが純粋な真実。爆発的な破壊力を誇るヴィータの攻撃を、魔法使いが“いとも簡単に受け止めた”という事実がそこには在った。

完全に勢いを失ったのか、女性が軽く剣で押し返すだけでヴィータはあっさりと後退を余儀なくされる。けれど、そんな事はどうでも良いとばかりにヴィータは叫び気味に女性に言葉を放った。

「テメェ……なにしやがった!?」

「なに、とは? お前の攻撃を読めた事を訊いているのなら、簡単だ。あれだけ大雑把なモーションならば、攻撃を予測‐推理‐する事も容易いからな」

「とぼけんなっ!! どうやってアタシの攻撃を“受け止めたのか”って訊いてんだよ!!」

避けられたならまだ解る……だが、受け止めた? あり得ない。あり得る筈が無い。それだけの自信を少女は持っていたのだ。

――事実、ヴィータのこの一撃を受け止める事は、かなり難しい。カートリッジシステムによって、突破力と追尾力に優れるヴィータ一撃は、躱す事も受け止める事も難しい……だが、目の前の魔法使いは薄く微笑み、またいとも簡単に驚愕の方法を言ってのけた。

「別に、大したことはしていないさ。ただ単に……お前の攻撃に“衝突する瞬間に同じだけの衝撃”を与えて、完全に相殺しただけだ」

「なっ……」

もう、ヴィータは絶句して言葉を失う他なかった。女性が言っているのは、こういう事だ。

まず、彼女はヴィータの『ラケーテンハンマー』の軌道を完全に見切り、そして当たる直前に凄まじい速度で刃を振るった。さらに、刃とスパイクが衝突する瞬間に、強化された少女の一撃と全く互角の力を“一瞬だけ”生み出し、『ラケーテンハンマー』の威力を完全に打ち消したのだ。だから、あんなに簡単に受け止められてしまった。

――こういうのを、恐らく“神業”というのだろう。一瞬で相手の技を見切る推理力。さらに、桜色の髪の女性の友人曰く、未来予測じみた驚異的な直感力と、恐るべき反射神経と動体視力。そして、驚異的な斬撃スピード。

これらの要素を駆使して、この“神業”は成り立った。何より、未来予測じみた直感力については、彼女の右に出る者はそういない。

彼女にかかれば、放たれた銃弾をも超える速度の斬撃を放ち、銃弾のベクトルを強制的に変更する事すら、可能だろう。というか、少し前にやっている。……最早、反則的なまでの戦闘スキルだ。歴戦の騎士であるヴィータですら、驚く以外にどうしろってんだ、と言わんばかりの表情で惚ける他ない。
さらには――尋常ならざる速度で、月と空が曇に覆われていく……この切り取られた空間とも言える『広域封鎖結界』内部で、だ。


「なんだよこれ……これもお前か!?」

「聞き方が断片的だな。まぁ、この天候を私が操作したかと訊かれれば、答えは“NO”だ」

ただ、彼女はその答えを知っている。曇天が支配する、この天候。その曇天すらも、支配下に置かれた物。

全ての水が彼女の武器。全ての天‐そら‐は彼女の支配下。その力の名は――

「霜天に坐せ――氷輪丸」

溢れた冷気が創り出す水と氷の竜。水色の着物を羽織った少女が、金髪のツーサイドアップをなびかせ、それを従える。サファイアブルーの瞳が、目の前の騎士を見据える。
桜の魔法使いと、烈火の将が相対した。

「……そこの使い魔くん、そこの女の子を連れて下がって」

「あ、あぁ」

視線を外さず、そう告げた少女に何故か逆らえずにアルフはビルに突っ込み、気を失ったフェイトを回収して下がった。フェイトのデバイスも、辛うじて機能を保っているだけで破損が激しい。戦闘続行は、まず不可能だろう。

高町なのはと同じく、魔導師としての実力が高い筈のフェイトをここまで追い込んだのは、氷輪丸を構える見た目は少女、さくらの前に立つ、桜色の髪をポニーテールに括った女性。

――ヴォルケンリッター、烈火の将……シグナム。

「強い……ですね」

その百戦錬磨の彼女が、小さな少女を前にして額に一筋の汗を流す。剣こそ構えているものの、斬りかかる事はしない。いや、迂闊には出来ないと言う方が正しい。

それを見て、さくらはただ微笑み軽そうに言葉を口にする。

「そうかな? 案外見かけ倒しかもよ」

「いいえ、解ります。貴方は強い……そして、不思議と心が踊るのを止められない」

そう、笑みを浮かべて言うシグナムに、さくらは少しだけ目を見開いた。シグナムが俗に言うバトルマニアだったのが、何故か少々予想外だったらしい。

シグナムが剣のデバイス『レヴァンティン』を構え、さくらは氷の刀『氷輪丸』を一閃振るい、氷の竜を従える。そうして互いが動こうか、その瞬間――


――桜色の光が、瞬いた。


「なに!?」

「……集束砲撃」

さくらが静かに呟く、と同時にそれは放たれた。圧倒的な光の束、集束砲撃『スターライト・ブレイカー』。神々しいまでの光が結界に激突し、一瞬にしてそれを打ち破った。

一ヶ所とはいえ破られた結界は、そこから崩壊を始めてゆっくりと現実空間へ回帰しつつある。

「くっ……申し訳ない。刃を合わせるのは、また次の機会に!!」

答えは聞かず、シグナムは結界の外へ向けて飛翔する。確かに心踊る戦いは魅力的だ……が、自分には遣らねばならない事がある。そしてもう一つ、“アイツ”との約束がある。

――そうして、二人は交錯する。

「っ!!」

「…………」

一人――烈火の将――は目を見開き、もう一人――烈火の魔法使い――は帽子の下で静かに見つめるだけ。

同じ色の瞳と、同じ色の髪が一瞬交錯する。それが、この歪んだ物語が加速する合図。

『ダ・カーポ』の様に繰り返す物語の、一つの合図だった――
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  1. 2012/07/30(月) 00:22:03|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第24話

過去。それは未来へと繋がる、記憶。そして、どれだけ望もうと取り戻せない物。

願い。それは誰もが持つ己の願望。そして、大切な者を失えば誰もが願うだろう……死んだ人間を蘇らせたい、過去を取り戻したい、と。

だが、やはりそれは決して叶わぬユメ。ヒトで在る限りは縛られる世界の理‐ことわり‐。しかし、もしそれに縛られない者がいるとしたならば? 差し詰め『理‐ことわり‐から外れし者』とでも言った処か。

外れし者達は世界の摂理に縛られず、存分にチカラを振るう事ができるだろう。ヒトの永遠の夢とされる『永遠の生命‐いのち‐』という物も手に入るのだろう。

――でも、それは本当に幸せなの?

過ぎたチカラは災いしか呼ばず、永遠の生命など辛い別れを繰り返すだけだろうに。

「おい!! 起きろよ、おいっ!!」

誰だろうか、誰かが必死に叫んでいる。銀髪の少年が、力なく倒れている少女を抱き上げて叫ぶ。

真っ白な雪が積もり、舞う。そんな中で、少年が抱き起こす少女の金色の髪も美しく舞う。けれど、少女の身体は全く動かない。だがそんな事は関係ないとばかりに、少年は必死に少女に呼び掛けた。

今まで呼んだ事のなかった少女の名も、叫ぶ。

「起きろよ……起きてくれ――さくらっ!!」

――ピクリ。少年の必死な叫びが通じたのか、少女の指が微かに動き、深く閉じられた瞳もゆっくりと開く。

少女のサファイアブルーの瞳が……少年の全く同じ色の瞳と彼の顔を映し出す。

「――やっ、と。名前……呼んでくれ、た……」

「ば、バカ!! 喋るんじゃねぇ、いま医者を――」

少年は医者を呼びに行こうと立ち上がる……それより前に、少女が少年の服を弱々しく手で掴み、ふるふると首を振る仕草をする。

途端、その意味を理解したのだろう。少年が怒りと悲しみが入り混じった表情になった。当たり前だ、それの示す意味は……少年にとって最も受け入れられない事なのだから。

「やっ……ぱり、何をしても、来ちゃうん……だね。ちょっと、嬉しい……か、な」

途切れ途切れだが、確かに紡がれていく言葉を聞き取り、少年の表情がさらに歪み……ポタリ、と少女の顔に雪では無い何かが当たる。
それは、少年の瞳から零れ落ちた涙。彼が泣く処なんて、初めて見た。自然と、力の入らない自分の手を動かし、指でその涙を拭う。

「泣か……ない、で」

「俺は!! お前を護るって、言ったのに!! 約束したのに!! なのに……なんで!! なんで何だよ!?」

――そうだ、俺は約束したんだ。彼女を護ると。でも、俺は何も出来てないじゃねぇか……。

溢れ出る涙が止まらない。感情が抑えきれない。幾ら力が在ろうと、自分は無力でしかないのだ。

「ごめん。ごめんな……!!」

「謝らな、いで。ごめんね――冬獅郎」

「っ……なんでだよ!?」

なんでお前が謝るんだ。約束を破ったのは俺なのに……そんな思いが少年の顔に出ていたのか、少女が困った様に微笑む。とても弱々しい笑み、だけど、彼には桜の花の様に美しく見えた。

「冬獅郎は、優しいから……きっと、自分の所為だって責めちゃう、でしょ?」

「なに言ってんだよ……」

「だって、ボクの傍に来て……くれた。ボクは何も、言わなかったのに……冬獅郎は来てくれたから――」

――それが、何よりも嬉しかったんだ。

それは言葉にはならず、唇の動きだけの物だった。もう長くない……少女には、それが良く分かっていた。前から覚悟はしていた事だ。でも、やっぱり未練はある。

彼が来る前から……彼が来てからはもっと、そう感じるようになった。

だから、これだけは伝えたい。自分の願いが叶わないのなら、言葉だけでも――

動かぬ身体に鞭を打ち、必死に身体を起こす。少年は涙を我慢しようと、目を閉じていてそれに気が付かない。

「とう、しろう……」

「なん――!?」

……少女の唇が、少年の唇に優しく触れる。触れ合うだけの、優しいキス。

ゆっくりと少女が離れ、また微笑んで――言った。

「――――――すき」

それは少女の想い。少女の全てを込めた告白。

茫然とする少年の目の前で、少女の瞳が閉じていき……ぐったりと、少年の腕に倒れた。

「お……い。起きろよ、起きろよ、さくら」

少年が茫然とした表情のまま、少女を揺すり起こそうとする。けど、彼女は動かない。まるで、死んでしまったかのように……。

――死んだ?

「――ふざけんなっ!!!!」

そんな思いを否定して彼は叫ぶ。動かない少女の身体を必死に揺すり、叫ぶ。

「俺はまだ何も言ってねぇ!! 答えてもねぇんだ!!!! 起きろよ……死ぬなよ、さくら!!!!」

それでも、少女の身体は冷たく動かない。最早、彼は溢れる涙を堪えようとはしない。

――桜が舞う。雪と共に。

「死ぬな……死ぬなよっ!!!!」

――儚く、幻想的な桜と雪。

「起きろよ――さくらぁっ!!!!」

――そのヒトヒラの桜が……さくらに触れる。

刹那、輝かしい光を放ち、辺りがそれに包まれた。

――ヒラリと、サクラユキが舞った。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「……ん」

ふと、目を覚ます。軽く力を入れ、ヒョイッと起き上がった少年……冬獅郎が見回す“世界”は現実空間では無い、切り離された幻想的な精神世界だった。

降りしきる美しい、雪。さらにそれは、瞬時に自由な形になり、可憐な雪の華を辺りに創り出している。実に自分の主らしい、自由で幻想的な空間だ。まぁ、ヒナギクに会ってからさらに明るくなった気がするが……。

『小僧……』

「あん?」

そんな彼の思考を遮ったのは、何処からか聞こえる誰かの声。それに戸惑った様子は見せないが、どこか少々めんどくさそうに眉を顰める冬獅郎。が、決して無視するような事はせずその声に応えた。

「んだよ……なんか用か『氷輪丸』?」

『ふん……小僧、お前がうなされていたから起こしてやったと言うのに、随分な言い様だな』

誰かの――氷輪丸の言葉を聞いて、何やら意外そうな表情になる冬獅郎。そうして、漸く思い出したのは先ほどまで見ていた夢の内容。
夢にしては珍しく、驚くほど鮮明に思い出せる内容。当然だ……何せ、昔の話と言えるほど過去の話では無いのだから。

「そう、か。悪かったな氷輪丸……」

『気にするな。それで、お前はどうするつもりだ?』

「何をだよ?」

『これからの事……藤原 雪華が好いている者の事についてだ』

「あぁ、ヒナギクの事か」

さらっと、雪華が聞いたら顔を真っ赤にして否定するであろう会話をする二人。しかも、氷輪丸は名前を伏せたのに冬獅郎は躊躇いなく相手を言い当ててしまった。

まぁ彼的にはそういう事……恋愛などに関しては、別に否定的では無いので構わないのだ。事務所的にも別段、恋愛禁止という事も無いのだから。

だからこそ、彼は己の主の現状を快く思っていない。

「……ま、アイツがこれ以上、自分の事を隠し続けるなら、忠告の一つや二つを入れてやるつもりだよ」

『ふむ、自分すら騙せない嘘、か……上手く言ったものだな』

「自分すら騙せない嘘なんて、辛いだけなんだよ。つく方も、つかれる方もな」

――嘘をつくなら、せめて自分を騙せる嘘をつけ……これは、冬獅郎の持論だ。まぁ、そんな嘘なんてつく物じゃない、というのも彼の持論だが。

どの道、自分の主に隠しごとなんて出来やしないんだがな……そう心の中で呟き、冬獅郎はさくらと同じサファイアブルーの瞳で、降りしきる雪の向こうの虚空を見つめる。

――結局、当人達次第なんだよな。他の人間が何を言おうと。

どれだけ口を出そうとも、決して変わらない真実。あの三人の物語が、これからどう動くのか――それは、冬獅郎にも解らなかった……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

海に沈みし町に、真紅のコートを着た女性が佇んでいる。相変わらず、摩訶不思議な精神世界やなぁ……とは、今現在この世界に居る市丸ギンの率直な感想である。

「何の用です。市丸ギン」

と、ギンがこの空間に現れた瞬間に気付いていたであろう女性が、接近してきたギンに対して溜め息が混じりそうな声で言う。

こっちも、相変わらずな対応やね。そう思うギンだったが、何だかんだで反応してくれるのだと思うと、自然と笑みがこぼれて来る。

しかし、彼はそれを抑えつつ、すぐさま本題に入った。

「3ヶ月。経ってもうたね?」

……それは、彼女の予想が外れた事に対する侮蔑の声色では決して無い。それが解っているのか、フードの下から視線だけをギンに向けた女性は、そこから一切の躊躇いも無くビルの屋上から飛び降りた。

それを見たギンも、焦る事なく彼女に続いて飛び降りる。フワリ、と綺麗に着地し、何処かへ歩き出す女性。

「私が予想した3ヶ月とは、外部的な干渉……所謂イレギュラーな事項が起こらなかった場合による物ですよ。まぁ、物事にイレギュラーは常ですが」

「ほんなら、キミが言うイレギュラーって何なん?」

ひょうひょうと訪ねるギンに、女性はまた視線だけを彼に向けながら問いに答えた。

「蒼天の資格者による干渉と、彼の心境の変化、ですかね」

「心境の変化?」

頭にハテナマークを浮かべるギン。前者の蒼天の資格者……まぁそれは、天鎖斬月・蒼天を所持する裏月。そして彼が創った、ツインリンカーコアシステムの事だろう。
だが、ヒナギクの心境の変化、という物がどうにも解らない。

う~ん、と歩きながら考えるギンに、女性はフードの下でクスリと笑う。非常に珍しい事であったが、それをギンが見る事は叶わなかったようだ。

「貴方も変な処で鈍いのですね……ヒントを上げましょう。恐らく今、最も彼の感情を左右する二人についてですよ」

「あぁ、シグナムちゃんと雪華ちゃん――なるほどなぁ。そういう事やね」

笑いながら言うギンを見て、女性もフードの下で笑みを浮かべて、そういう事です、とギンの考えを肯定する。そりゃあ、そんなヒントを出されてしまえば、よほど鈍感でない限り誰でも気付くだろう。

――好意。ヒナギクの、二人に対する気持ちがこのタイミングで変化している。様々な要因が在るのだろうが、いくら本人が否定しようとも彼の感情が変化しているのは確かだ。

「……ここからどうなるかは、もう私にも予想が出来ません」

「それは、イレギュラーな事項が多すぎるから?」

女性は、ギンの言葉を首を左右に振って否定する。そうして、ピタリと立ち止まった先に在るのは――一本の刀。突き刺さった、紅とも緋色とも見える……紅緋色の天鎖斬月。

「人の感情は、曖昧に変化する物ですから。特に……“恋”という感情は。まぁ、恋が方程式で解けてしまっては困りますが」

「キミらしい答えやね」

その言葉に、彼女はフードの下でフッと笑い……天鎖斬月を掴み取る。

瞬間、溢れ出る圧倒的な炎。海の中だろうと一切衰える事なく、他の全てを圧倒する真紅の炎が広がる。

「正に、炎の天鎖斬月……司るものは『真実の愛』。シグナムちゃんは……どうなるんやろうねぇ?」

「少なくとも、この世界がこんな状態では、私は力を貸す気はありませんよ」

こりゃ手厳しいなぁ、と呟くギンを放置して、彼女はこの世界を見上げる。

「たとえこうなっているのが、彼女の意志で無くとも……これを打ち破るか否かは彼女の意志です」

「全く、悪戯好きの魔法使いさんも面倒な事をしたもんやね。そろそろ崩天(ほうてん)くんも、じっとしとるのに飽きてくる頃やしなぁ」 続きを読む
  1. 2012/07/07(土) 00:41:44|
  2. 烈火の翼
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