サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第23話

記憶。それは、その人物を成形する為の大切なオモイデ。これがなければ人格は成り立たず、無くせばその人格は消滅する。

「完璧……か」

何もない、その空間には何もない。丘だけが聳えるの空間で、金髪のストレートの髪をなびかせる誰が呟く。

記憶。大切なオモイデ。しかし、その大切なオモイデも、人によってはそう成り得ないのだ。

「完璧って何ですか? 完璧だと、人に頼ってはいけないの? 完璧って、人と触れ合う事もできないの?」

“彼”は完璧だった。誰よりも強かった。誰よりも才能があった。

――だから、誰にも頼る必要は無い? いいや、その答えは“否”だ。どれだけ完璧だろうと、一人では出来ない事が絶対にある。人は独りでは生きられない。それが“ヒト”なのだから。

そして同時に、ヒトという種族はどうしようも無く愚かだ。外面だけで判断し、勝手に“評価”を下す。無論、そうではないヒトもいるが。

『なに言ってるんだ、■■くんならそのくらい簡単に出来るだろう? 何せ“完璧”なんだから』

『■■くんは一人でも平気だよね? “完璧”なんだから』

『じゃあこれは■■くんに任せよう。大丈夫だよね? “完璧”なんだから』

気付いた時にはそうだった。たとえ自分から頼ろうとしても、誰も相手にせず“完璧”だからと、一人で出来るだろうと、そう言って頼る事もできなかった。

――いつしか、頼る事を忘れた。

「待ってたって、泣いたって誰も助けてくれない? だから助けを呼べ、手を伸ばせ? それが出来る人は良いですよ。――手を伸ばしたって、誰も助けてくれなかったら、どうすれば良いんですか?」

――それは……もう、自分を殻に閉じ込めるしかないんですよ。

だから願った。完璧なんていらない。今までのオモイデだって必要ない。普通が良い

でも、彼は“普通”という物を知らなかった。忘れていた。己が完璧だった故に“普通”には成れなかった。

けれど、時空を統べる翼は応えた。己の主の歪んだ願いを……叶えた。

キオク。大切な筈のオモイデ。

「私は貴方、だけど貴方は私ではない――貴方は、私と違って愚かでは無いから」



















◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「お兄ちゃんはもうちょっと自分の身体をだねぇ――ちょっと聞いてるの、お兄ちゃん!?」

「はいはい聞こえてるよ、さくら。そのお説教、もう何回目だと思ってるの?」

「何回も言わないとお兄ちゃんが言う事をきかないからでしょ!?」

まるで噴火しかけの火山……いや、もう噴火した火山か。病院の一室に響く叫びの声の主は、金髪の少女さくらの者。そして彼女のお説教をさらさらっと受け流しているのは、病室のベッドに座るヒナギクだ。

彼の言う通り、さくらの説教はもう何十回と繰り返されていた。それもそのはず……何せ、先日ヒナギクは自分の身体の事を全く気にせず病院を抜け出し、大騒ぎになったばかりなのだから。

しかしそれでも、これ以上は他の外に迷惑が掛かるだろう、とベッドの脇の椅子に座るシグナムと雪華が助け船を出した。

「ま、まぁまぁさくら。主も反省しているだろうし、これくらいにしたらどうだ?」

「そうよさくらちゃん。それに、ヒナを休ませてあげましょ?」

「うにゃぁ……」

意外という程でも無いが、予期せぬヒナギクへの助け船にさくらが唸る。そうして少し悩んむ素振りを見せたさくらが、ため息を吐いて再び言葉を放った。

「……分かった。でも本当に、無理だけは絶対にしないでよ、お兄ちゃん」

「分かってる」

真剣な表情のさくらに、ヒナギクもふざけた表情も無く応える。それを聞いたさくらが、今度こそ諦めた様にため息を吐き、シグナムと雪華に一言かけて病室を出ていった。

「……ふぇぇ。ありがとう二人とも、助かったよ」

「どういたしまして。でも――」

「私達も心配していたのをお忘れなく」

雪華の言葉に続けて言うシグナムに、ヒナギクは苦笑しながら、分かってますよ、と応えた。ヒナギクが病院を抜け出したと聞いた時、シグナムはまだ何とか冷静さを保っていたが、雪華なんて聞いた瞬間に仕事を放り出して反射的にヒナギクを探しに行こうとした程だ(無論、電話口のさくらとその場に居た冬獅郎によって説得されたが)

「本当に心配したんだからね。こんな事はもう無しにしてよ……っと。案外難しいわね……」

「全く、貸してみろ。こんな物はな、こうして簡単に……出来ないな」

二人揃ってあれ? となりながら頑張ってリンゴを剥いている雪華とシグナム。相変わらず不器用な二人に、自然と笑みを隠せないヒナギク。

こういう不器用な所もまた、変わらず愛おしい。そんな事を考えながら、ヒナギクは危うい手付きの二人からリンゴとナイフをスッ、と取り去る。

「「あ……」」

「二人とも不器用すぎだよ」

言いながら、ヒナギクは二人とは比べ物にならない程に無駄の無い手付きでリンゴを剥き、はいっとお皿を二人に差し出した時には、リンゴが見事にウサギ型に出来上がっていた。

思わず、シグナムと雪華は「おー」とぱちぱちと拍手をした程に手際が良かった。本当に、ヒナギクの器用さには素直に評価するしかない。

「はぁ、相変わらずヒナは器用よね~……羨ましい」

「そうだな。流石です、主」

「あはは、誉めても何も出ないよ」

……相変わらず、シチュエーションの役割が逆な気がする事にはもう突っ込まないで置こう。

それはそれとして、雪華はともかくシグナムは完全に不器用という訳では無い。ヒナギク程では無いにしろ、器用になる方法はある。

――同性の雪華相手ならまだしも、ヒナギクを前にしては恥ずかしくて絶対に出来ない方法だが。

まぁ、主が帰って来るまでの間なら家事をこなしてやろう。そう心に決め、シグナムは雪華と同じタイミングで最後のリンゴを口に入れた……。

「「って!! これはヒナ(主)の見舞いの品だ(です)よ!?」」

「あれ? そうだっけ?」

「「そうだ(です)よ!!」」

可愛らしくキョトンと小首を傾げるヒナギクに、思わず揃ってツッコミを入れる雪華とシグナム。

さらっと渡されたので、さらっと食べてしまった二人である。だが、二人のツッコミにも何が可笑しいのか楽しげにヒナギクは笑う。

「ふふ、いいよ別に。そんなにお腹も減ってない――」

瞬間、お約束と言わんばかりに、きゅう~と可愛らしくお腹が鳴る。
誰の物かは……顔を真っ赤にしたヒナギクが言うまでも無く示していた。

「…………もう、お嫁に行けないよぅ……」

「へ、いやいや、この程度で結婚には関係しないから!! あと、お嫁になら私が貰ってあげるからね!!」

「お前な……」

さりげなく入れた雪華の言葉は、どうやらヒナギクには聞こえなかったらしいが、隣に居るシグナムにはきっちり聞こえてらしく、彼女はため息混じりに呆れ気味な言葉を放つ。

が、見舞いの品を食べてしまったのは自分でも在るので、この状況はどうにかしなければいかんな、と暫し思考し……。

(やはり、これしかないな)

シグナムは己の右腕をヒナギクからは見えない角度に隠し、ギュっと握り拳を作る。

それに気付いた雪華がシグナムを見ていたが、全く気にする事もなく形をしっかりとイメージして拳を開くと……ポンッ、という音が出そうな程に見事な桜餅が現れた。

「はい主。桜餅、お好きでしたよね?」

「ふぇ……ありがとうシグナム!! どこから出したの!?」

「ふふふ……ひ・み・つ、です」

桜餅を受け取りながら興奮気味に訊くヒナギクに対して、人差し指を唇につけて可愛らしくそう言った。

――隣で雪華が盛大に吹き出し、笑いを必死に堪えているのは、正直悪くないと思います。

そんなこんなでヒナギクが桜餅を美味しそうに食べている間に、先程の光景を見た雪華がこっそりシグナムと小声で会話する。

「ちょっとシグナム、今の何よ?手品とかの部類じゃないわね」

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  1. 2012/03/26(月) 23:57:36|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第22話

「おいおい、来てやったのに遅かったは無いだろ」

「実際遅かったじゃない。大体、アンタが面白そうって判断したから来たんでしょ?」

なのはの呆れ気味な言葉に、クーゴはまあなと同意しつつ、突然右手を前に突き出す。

その瞬間、彼らに向かって放たれた雷撃は何かに弾かれ消滅した。が、そんな事は知ったことかとばかりに雷撃を放ち続けるのは……金髪の少女フェイト、を操る虚(ホロウ)だ。

「『オオオアアアアアアァァァァッ!!!!』」

無視するな、そう言わんばかりの叫びを放ち、雷撃を二人に連続で飛ばす。

だが、クーゴはそれを涼しい顔で防ぐ。防ぎ続ける。虚の音圧と雷撃の爆音、さらには生み出される煙と爆炎は最早“戦場”と言っても差し支え無いだろう。

「おい……あのガキの力」

「察しが良くて助かるわ。多分、アンタのレアスキルがあの子に移って、あの子風に変わった物よ」

虚の攻撃を防いでいたクーゴの表情が変わり、フェイトの力を見抜いたのとほぼ同時になのはも自身の推測を口に出した。

クーゴのレアスキル『瞬間魔力放出』……その力がフェイトに移っている。

巨大な力によるメリットも……無論、デメリットも。

「……レアスキルって、人に移るもんなのかよ?」

「前例は無いわね。ただ、あの子の出生の関係で、そういった“チカラ”を自分の身体に取り込み易い体質なのかもしれない」

フェイト・テスタロッサの出生……それはつまり、アリシア・テスタロッサの『クローン』であるという逃れようの無い事実。

どこまで技術が進歩しようと、クローンという物は科学の力で生み出された物に他ならない。

母――人の身から生み出された“ヒト”の魂より、クローンとして生み出された“ヒト”の魂は小さい。だから、様々な物を取り込み易い……と、なのはは推測していた。

「まぁ今回の場合、上手くフェイトちゃんの中に入り込んだ虚が彼女にもっと強い力を与える為に、アンタのレアスキルを取り込んだ……と考えて良いわね。で、大して力がデカくなかった虚は機会を待って、そしていま暴走した」

暴走した要因は、確実に魔力を奪われた事によるフェイトの意識の低下だろう。フェイトの中に虚が入り込めたのは、いま暴れている虚が“小さい”為だ。

普通、虚が成長した人間に入り込むのは不可能なのだ。今回の様な例外――もしくは、生まれた時から虚の力を持っているか、内部に虚の力を“持った”武器を使いこなす……例外を除きこの二つしか、虚の力を使いこなす方法は無い。

……例外的に虚の力を持った人物は、基本的に“例外無く”暴走するだろうが。今のフェイトの様に、虚に意識を乗っ取られて。

「そうかい。まぁ理由なんて、あのガキの出生に何か興味は無ぇからどうでも良いとして、どうすんだよ。あのガキ倒すだけなら、わざわざ俺を呼ぶ必要なんざ無ぇだろ」

今も変わらず放たれる雷撃を防ぎつつ、クーゴが言う。そうだ、フェイトを“倒す”だけならクーゴを呼ぶ必要性は一つも無い。

如何に今のフェイトの力が強大でも、所詮はただ闇雲に暴れる“獣”だ。

なのはの力を以てすれば、いくらでも“倒す”方法など在る。それこそ、処刑人(エグゼキューター)の名のままに。

しかしそうしないのは……虚に操られたフェイトを傷付けないため。事実、なのははフェイトに“傷一つ負わせていない”。唯一反撃と呼べたのも、砂鉄の剣を破壊した時だけだ。

――変わりに、彼女の左腕はこの戦闘ではもう使い物にならないだろうが。

「クーゴ、一瞬でいい。フェイトちゃんの動きを“完全”に止めて。攻撃も、指一本動かせない様に」

「……無茶苦茶言うなお前。あのガキの動きを完璧に止めろなんて」

「出来ないなら良いわ。成功率は下がるけど、私一人でやる」

言うなり、最初ほど多くは無いが血が流れる左腕を無視して前に出ようとするなのは――を器用にも右手で魔力の壁を作り雷撃を弾きながら、左手で肩を掴んでクーゴが止める。

その表情は、まてまて逸るな、と言っている様に見えた。

「誰も出来ないとは言って無ぇよ。ただ、完璧に止めるには少し時間が掛かる。大雑把に止めるなら簡単だが、完璧に止めるとなると少しばかり制御する時間がいる。その間、俺は完全に無防備だ」

「10分在れば十分よね。その間、私があの子を足止めするわ」

「――出来るのか?」

それは、その左腕で“足止め”をこなせるのか、そうなのはに問い掛けていた。

しかし……彼女は愚問ね、とばかりに薄い笑みをこぼし応える。

「切り札、一枚切らせてもらうけどね。合図は私が飛び出したら、良いわね?」

「なのは――」

返事はせず、なのはの名前を呼ぶクーゴに彼女は何よ、と応えて彼を見ると……そこには、自信満々という表情のクーゴがいて、なのはが見ると同時に言葉を放った。

「――10分もいらねぇ。4分で十分だ」

「……了解」

ただ、そう返事をするなのはも、さらに笑みを深めて瞳を閉じた。

――瞬間、なのはの中で何かが弾けた。

本当に刹那の時で、なのはが纏う空気がまるで違う物に変化する。
静かに冷たく、だが何処か熱く、彼女の胸がドクン、ドクンと鳴る。
なのはが瞳を開く……彼女の中で弾けた何かによって、彼女の思考はクリアに澄み渡り、雷撃も、爆炎も、視界に映る何もかもがスローに見えた。

覚醒した彼女は……阿修羅をも超え、『神羅』となりて――敵の全てを凌駕する。

「ギン――言葉はいらないわね」

『当たり前や。何年キミと一緒にいる思うとんの』

ただ、虚を見据えるなのはの言葉に、ギンは然も当然とばかりに応える。

そうだ、二人の間に言葉はいらない。隠し持っていた切り札を解き放ったなのはが――動いた。

「『アアアアアアアアァァァァァァッ!!!!』」

爆炎を切り払い、突っ込んで来る者を……高町なのはを認識した虚が、クーゴから彼女へ標的を戻し、電撃の槍を撃つ。

それは、凄まじい速度と威力を以ってなのはに迫る殺意の電撃。その電撃になのはは走る速度を――落とさない。その速度を維持したまま、己の額に迫る電撃の槍を難なく避けた。

「『!?』」

虚の表情が今までの様な愉悦の笑みから、驚愕の物へと変わる。

今までの様に切り払った、もしくは大きく飛び退いたのならまだ分かる。しかし、なのはは電撃の槍を“避けた”のだ。紙一重で、ほんの少し顔を右に反らしただけで、最小限の動きで雷撃の槍を回避した。

あり得ない、自分が支配しているこの人間の力は、普通の人間では太刀打ち出来ないはず――

『キミ、戦ってる途中にボケッとしとる暇あるん?』

気付いた時には、もう遅い。虚の間近に迫る刀……つまり今の思考の一瞬でなのはに接近されていた事を示していた。

虚の仮面に迫る刀。だが、虚は強化されたフェイトの身体能力を発揮し、なんとバク転で横凪ぎに振るわれる刀を回避、そこから再び電撃の槍を撃つ。

けれども、やはりそれも当たらない。なのはは“紙一重”で電撃の槍を回避しながら、全く速度を落とさずに虚に迫る。

理解が出来ない。虚の攻撃は、全て当たらない。先程までとは明らかに違う、なのはの動きに戸惑いを隠せない虚。

最短距離で虚に迫り、牽制の攻撃を放ち、反撃は最小限の動き……何一つ無駄の無い動きで避ける。

今のなのはに、フェイトを操る虚“程度”の攻撃など当たらない。当たる筈が無い。

――全て“見えている”のだから。どう動けば良いかなど、考えるまでもなく頭に浮かぶ。

今の彼女はまだ未熟ながらもその身に御神の血を持つ者……『神羅(しんら)』のチカラを扱う者なのだから。

「『オオオオオアアアアアアァァァァ■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!』」

虚が吠える。音圧が強化ガラスを粉々に砕き、爆風を巻き起こし、雷撃が出鱈目に放たれる。

しかし、それすらもなのはにとっては“無駄”でしかない。落とされる落雷の間を擦り抜け、時に身体を回転させ、全く無駄の無い動きで避ける。

そうして、何度も攻防を繰り返した時、何故か距離を取ったなのはが、

「……4分」

小さく、だが確かにそう呟き、神鎗を静かに構えた。周囲の音が消えた様に、ゆっくりと、右腕を上げ、止めた先に在るのは――虚の仮面。

神鎗を構えたなのはに漸く気が付いた虚が、その身を翻し切っ先から逃れ

「『!?!?』」

――られない。その場に縫い付けられた様に、動けなくなった虚の周りには……目には見えない、一瞬だけ敵を拘束する魔力の塊が在る。

だから動けない。一瞬、高が一瞬。しかし、然れど一瞬。

そう、なのはには“一瞬”在れば十分だ。狙う標的は、刀で正確に貫かなければいけない仮面の“額”。1ミリのズレでも、それは失敗を意味する。

だがしかし――今のなのはにとって、それは一瞬あれば造作もない事だった。

神鎗を突き付けた彼女の唇が、言葉を紡ぐ。

「――――卍解」

それは……小さき虚が破滅へと向かう一言。

無音の一瞬。そこから少しの間を置き、強烈な風が吹き荒れる。

なのはと虚の間にあったのは、刀の長い刀身。それが虚の仮面を一瞬で……音の“五百倍”の速度で空間を斬り裂き、仮面の額“だけ”を貫いていた。

仮面が砕け散る。虚にとっての幸運は、小さき彼を消滅させた物が、彼が相手どるには分不相応すぎた物という、何の慰めにもならない事だったのかもしれない。

“神”をも“殺”すその“鎗”に。

「…………神殺鎗(かみしにのやり)」



既に刀を納めたなのはが、聞こえていない事を知りつつも、虚への祈りの様に……そう、呟いた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「んで? 結局、何の為にそのガキの動きを止めたんだよ?」

使用しなかった太剣をしまい、ビシっとクーゴが指を差したのは、器用にも片手だけでなのはが背中に背負う、内部の虚が消滅し気絶したフェイト。

それを見たなのはは、説明するのめんどくさいな~、とか思いながらも、彼を呼び出したのはなのはなので説明しない訳にもいかない彼女は、一度疲れた様に――実際、疲れているのだが――溜め息を吐いてから応えた。

「今回の虚は、小さい分再生能力が優れてるタイプだったからね。確実に“核”を貫かないと駄目だったのよ」

「あー、成程な。だから動きを止めて、確実に消滅させたかった訳か」

「そういう事。まぁ、普通の強い虚には弱点になる核が無いから、その分再生能力が優れていた……ってとこかしら。どちらにしろ、フェイトちゃんの中に隠れられたら手出しが出来ないから、逃がしたくなかったのよ」

つまりは、小さい分再生が容易だったのだろう、あの虚は。倒された今となっては、どちらでも構わないのだろうが。

説明に納得した様な様子のクーゴを見るなり、なのはが訓練場の瓦礫を退かしながら出口に向かう。

「どこ行くんだ?」

「決まってるでしょ、フェイトちゃんを医務室に運ぶのよ。ただでさえ負担掛けちゃいけない状態だったのに、これだけ無理やり暴れさせられたとなると、暫くは目覚めないだろうしね」

「ほんなら、なのはちゃんもついでに治療受けんとやね?」

「面倒ね……こんなの放っといても治る――ッ!!」

――しまった!! なのはがそう思った時には、もう遅い。振り向いた彼女の視線の先には、携帯電話で何処かに電話をかけるギンの姿。

「させるかぁっ!!」

「おっとっと」

瞬間、なのはが右腕の服の袖の裏から折り畳み式ナイフ、所謂バタフライナイフ――何でそんな物を仕込んでんだ……というクーゴの疑問は最もだ――を取り出しながら紅い刀身を展開し、ギンの携帯電話めがけて迷いなく投げつけた。

そんな行動が迷いなく一瞬で出来る彼女にも驚きだが……投げ付けられたナイフを空いている手であっさり止めるギンにも、驚きを通り越して呆れるしかない。

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  1. 2012/03/25(日) 14:28:17|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第21話

「『オォォ……アアアアアアァァァァッッ!!!!』」

狂喜の叫びと共に解放されたのは、空中に一旦は滞空させていた電撃の塊。

それが圧倒的な電撃の槍……というより、もはや“落雷”と称した方が良いだろうか。そのレベルの威力の電撃が落ちる。勿論、人が喰らえば即死、運が良ければ重傷になる代物だ。

だからこそ、標的となっている人物は当たる様なヘマはしない。足を止めず、即死級の落雷を避ける。

『当たったら死ぬんちゃう?』

「見りゃ分かるでしょうが。ギン、分かって言ってるでしょ」

疑問形で問いながらも、本人は確実に分かっているだろう事を言うのは、一本の脇差しサイズの刀になっている市丸ギン。
彼に応えるのは、その『刀』の資格者である高町なのは。

時空管理局本局の訓練場にて繰り広げられている戦いは、普通の魔導師が戦うには馬鹿らしい状態だった。

虚(ホロウ)に身体を乗っ取られたフェイト・テスタロッサが放つ雷撃は、無論の事で加減など知らない。雷撃は彼女の力だが、やっているのは彼女の意志ではないので当然だ。

一撃一撃が致命傷に繋がる電撃……そんな物を相手にしながらも全く恐れず、雷撃に砕かれ、破壊されていくフィールドを縦横無尽に駆け巡る者がいる。

何が面白いのか、愉悦の笑みを浮かべたフェイト――虚が額から電撃の槍を放った。ほんの一瞬で放たれたそれにも、かなりの威力が込められている事が分かる。

「ふっ!!」

だがそれは、標的であるなのはに到達する前に彼女が刀を振るい斬り払った。霧散する電撃、普通ではあり得ないが、確かにそうなった。

「『アアアアアアァァァァッッッ!!!!』」

自身の攻撃をあっさりと防ぐなのはを見て、再び虚が叫ぶ。防がれた怒り……いや、違う。愉悦の笑みは更に深まり、狂喜の叫びは止まる事を知らない。

ダブり声で叫んだまま、今まで動く事すらしなかった虚が……動く。
バチバチ、とスパーク音を鳴らし右手に電撃を集束させた――と思えたのは一瞬。

その右手をなのはに向けて突き出すと……それは、電撃の槍が可愛く見える程に巨大な雷撃となって彼女を襲った。

「チッ!!」

流石にこれは捌けない、そう判断したなのはは素早く大地を蹴り、雷撃の範囲内から離脱する。

標的を失った雷撃は、訓練場の壁にぶち当たり……爆音を上げて堅固な壁を破壊した。その光景には、なのはでも冷や汗を流す。

「反則レベルね……殆どチャージのタイムラグも無しに、こんな威力の攻撃を出せるなんて」

先程の攻撃は、魔導師で言うと砲撃の部類に属する物だろうが、それをチャージ時間も無く放ったのが問題だ。

タイムラグ無しにこれだけの攻撃が出来る。そのくせ、大して消耗した様にも見えない。

――これを生み出しているのが、虚の力ではなく“フェイト自身の力”というのは、もっと問題だが。
クラス的には『刀』の資格者クラスにも匹敵するだろう、今のフェイトの力。だが、なのははこの力に見覚えがあった。

タイムラグ無しでふざけた威力の攻撃を放ち、大した消耗も無くそれを振るえる。

似ている、彼の――クーゴのレアスキル『瞬間魔力放出』に。

『なのはちゃん!!』

「っ、分かってる!!」

ギンに警告される迄も無く、着地したなのはが直ぐ様再び大地を蹴って後方に飛ぶ。

瞬間、直前まで彼女が居た場所に直撃したのは……この訓練場の地面に張り巡らされた鉄板。上位クラスの魔導師の戦いにも対応する為、かなり強固に作られていた鉄板は、見事に同じ地面の鉄板に衝突して両方が砕けた。

一方、後方に着地したなのはが見たのは、虚が鉄板をひっぺがし、下の土を露出させていく光景。

「な、なんつーアホな出力してんのよ……」

幾ら戦闘の影響が在ろうが、その戦闘の為に張り巡らされた鉄板は、剥がすにはそれなりの力が必要な筈だ。

それを苦もなく触らずに剥がす……恐らく、というか確実に磁力を操ってひっぺがしているのだろうが、本当にふざけた出力である。

こりゃあ足止めも面倒くさい……と、なのはが考えていると浮遊していた鉄板が適当に投げ捨てられた。

すると今度は、鉄板をひっぺがした事で露になった土から黒い粒の様な物が吹き出てて来る。一瞬なのはも何か判断がつかなかったが、彼女の聡明な頭は直ぐに答えを叩き出した。

「成程、地中の砂鉄を操って……でも、一体何を――」

する気なのか、という彼女の考えは言葉にならなかった。空中にバラ撒かれていた砂鉄が、虚が操るフェイトの右手から電撃が出たのと同時に集い始める。

集った砂鉄が型を成し、鍔の無い剣……言うなれば『砂鉄の剣』となり――

「『アアアアアアアアアアァァァァァァッッ!!!!』」

相変わらずの凄まじい音圧を放ちながら、虚がなのはに向かってもうスピードで突進する。

「へぇ……上等じゃない!!」

対するなのはは、面白くなって来た、と言わんばかりに笑い、虚に向かって疾走する。

二人が互いの獲物をぶつけ、激しい火花を散らす。

それが……この戦い、第2幕の始まりの合図だった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あれ、ヴィータちゃんアイスは嫌い?」

「いや……嫌いじゃねーけどさ」

どうしてこうなった。かつて、烈火の騎士が思った事と全く同じ事をヴィータは考えていた。

ヴィータの返答に、良かった~っと気楽に返してアイスを食べ始めたのは金髪の自称男の子、ヒナギク。

状況を整理しよう。確か自分は、のろいうさぎを譲って貰った。そして、何故か連れられるがままに喫茶店に突入して、彼の奢りでこうしてアイスを――

(だから、どうしてこうなった?)

奇しくも、烈火の騎士も状況は違えど同じような思考をした事が在るのだが、当然ヴィータは知る由も無い。

まぁこんな感じで混乱しながらも、ちゃっかりアイスを戴くのはヴィータらしい。

ふと、少女が思い返したのは数日前の目の前の自称男の子との邂逅。
確か血を吐いて、シグナムに連れ出されてたよなコイツ……と、ある事が非常に気になったヴィータは、口に出して訊いてみる事にした。

「なぁ、アンタ身体は大丈夫なのかよ?」

「ん? ヴィータちゃん、心配してくれてるんだ」

「う、そりゃあ……まぁ」

笑顔のヒナギクに対し、ヴィータが言葉を濁しながら応えたのは罪悪感からか。

病気だとは本人が言っていたが、もともと自分が襲わなければあんな事にならなかったのかもしれないのだ……我ながら、自分勝手だと自嘲してしまう。

「大丈夫だよ。元々こういう体質だし、大丈夫だからこうやってここに居るんだもん」

けれど無邪気に笑い、そう言ってくれるヒナギクにヴィータは少し救われ……そういう問題じゃねーだろ、と再び自己嫌悪。

因みに、大丈夫と言っているヒナギクだが――あれだけ血を吐いて、大丈夫な訳が無い。

今頃、病院はてんわやんわの大騒ぎだと言えば、かなり分かりやすいだろう。

こういう時、一番に飛んで来そうな烈火の騎士と氷の姫君は今は仕事中なので、ヒナギクが病院に居ない事は当然ながら知る由も無い。

「でもさ……なんでアンタ、あんな下手くそな顔で笑うんだよ」

少し安心したから、なのだろうか。ヴィータがヒナギクと会って、一番気になっていた事を言葉にした。

直球ど真ん中、遠慮などしないのは少女の真っ直ぐな性格を表わしている様に思える。

「そんな下手くそだった? 私的には自信あったんだけどなぁ」

「あぁ下手だよ。今だって、アタシが訊いたら急に“あの時の”笑い顔になったじゃねーか」

あの時――ヴィータが見た、嫌でも記憶に残る『仮面』の笑み。

冷静に思い返せば、あんな笑顔は笑顔と言わない。あんな物……少し前の自分達、感情を押し殺していた自分達と同じ……いいや、もっと質が悪い。

そして、それを見抜けたのはその感情を押し殺していたヴィータだからなのかもしれない。彼女自身、意外に鋭い人間な所為も在るのだろうが。

「そっかぁ。どうして笑うかって訊かれると、前にも言った様に他の人を心配させない為だけど」

「それだけじゃ無いだろ。アンタの言い方だと、病気の事は身内にバレてる見たいだからな」

今更だろ、と付け足すヴィータにヒナギクは鋭いなぁ……と呟き、苦笑する。

ただ、ヒナギクが言った理由も本当の事だ。要は強がり、心配を掛けたくないのは本当だから。

でも、所詮は本心を隠す為の理由。言うつもりは無かったのにな、そう思いつつもヴィータちゃんならいっか、と何となく思い……ヒナギクは静かに語り始めた。

「未練……残したく無いから、かな」

「未練?」

「うん。もうすぐ私、死んじゃうから。人と触れ合ったらきっと、もっと生きたい、って思っちゃうから。だから……仮面を被って距離を取る」

――それは、もう彼が諦めてしまったいるという事。簡単に、ただ淡々と語るヒナギクに、ヴィータは怒りとも悲しみとも分からない感情を抱く。

ヴィータは出会って間もないが、ヒナギクの性格を何となく理解出来ていた。

何でもかんでも、彼は自分で背負って完結しているのだ、ヒナギクは。自分は辛い筈なのに、周りにそれを言ったりはしない。

――人に、迷惑を掛けたくないから。

「……そんな事してたら、アンタは“独り”になっちまう」

「そうだね。でも、人に必要の無い迷惑を掛けるくらいなら、その方が良い――でも、ちょっと不思議な事があるんだよね」

不思議な事? 脈略の無い突然の言葉に、ヴィータはそう言いながら首を傾げた。それに頷き、ヒナギクは話を続ける。

「うんうん。あのね……病気の事を知らない二人が居るんだけど、その二人の前だと偽れない、って言うか笑顔を偽りたくないのかな? 上手く言えないんだけど、その二人の前だと笑顔でいたい……けど、迷惑は掛けたくないんだよね~。それも、他の人とはなにか違う気がするし……」

「あー」

この彼の症状、どっかで見た事が在るなぁ。なんて思い、ヴィータは記憶を掘り返して見る。

そう、家でテレビドラマを見ているとき、こんな状態の登場人物がいた気がする。何かを自覚してない状態だったんだよな……と暫く悩み、漸く分かった。

――恋だ。

「アンタ、その二人に恋してるんじゃね?」

「ふぇ――えええええぇぇぇぇっ!?!?」

……やっぱ自覚無しか。顔を真っ赤に染めて叫ぶヒナギクを呆れた目で見て、やはり呆れた感じで思うヴィータ。

つまりだ、先程のヒナギクの言葉を直して見ると――

笑顔を偽りたくない=好きな人の前では、素直な気持ちでいたい。

迷惑を掛けたくないけど、他の人とはなにか違う=好きな人に変な我が儘(?)を言って嫌われたく無い。

――という事だろう。……今更な気がするが、相変わらずの乙女思考なヒナギクである。

「いやいやいやいや、そんなわけ無いって。きっと一時の気の迷いだよ、うん!!」

「……まぁ、アンタがそう思うなら、それで良いけどさ」

しかしまぁ、何でコイツは信用出来る人間にすら頼らないんだろうな、とヴィータは不思議に思ってしまう。

確かに辛い事を溜め込む人間はたまに居るが、ここまでのは初めて見た。もう、いつ死んでしまうか分からない……そう本人が言っているのに、なんで人を頼らないのか?

――違う。 続きを読む
  1. 2012/03/25(日) 14:17:03|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第20話

時空管理局本局、そのとある空間。
本局という事もあり、あらゆる場所がそこには在るが……ここは、そのどんな場合より特殊だった。

まず重力が無い、無重力空間。そこは円筒形の形状で、縦に長く伸びており、通路と思われる部分がその内部を縦横に走っている。

そして何より――本。ただ本が在るだけだが……規模が違う。気の遠くなるほどの規模で本棚が並んだ書庫、言うなれば“無限”。

そう称するに相応しい規模だ。果てが見えず、この場所を所有している管理局も中身を殆ど把握していない。

無限、無限の書物がある書庫。
だから――無限書庫。
そんな管理局すら管理を諦めている筈の場所で、一人の少年が座り数十の本を周りに回転させ情報を読んでいた。

普通ではあり得ない、というか無理な光景だった。本来この無限書庫は、目的の物を探す事は“不可能”とまで言われている。例え探せたとしても、年単位での捜索になる何て話もあるのだ。

だが、その“不可能”という事実が一人の少年――ユーノ・スクライアがあっさりと覆してしまっていた。

パタン、と彼が検索に掛けていた本が閉じ、元の場所に戻って行く。
ちょっとした休憩なのだろう、息を吐いて身体を楽にするユーノ。

「ヤッホー、ユーノくん」

と、無重力空間を利用してか、リラックスするユーノの上からゆっくりと降下して、フレンドリーな挨拶をする髪を小さなお団子頭に括った女性――高町なのは。

突然目の前に、それも逆さまで現れた彼女に対して、ユーノは極めて普通に挨拶を返した。

「やぁなのは。って、なにその本?」

そう少年が目を付けたのは、なのはの手の中にある古びた書籍。彼は純粋に興味を持った……まぁなのはが興味を持つ様な本だし、普通では無いというのは誰でも解るだろう。

「あぁこれ? ちょっと面白そうだから、ゆっくり読むために持ち出そうと思って。しっかし、何でも在りそうだね、ここ」

「そうだね。ちゃんと探せばどんな物でも在ると思うよ」

探せばどんな物でも……ユーノの言うことは、決して過大評価ではない。実際、この無限書庫にはそれだけの“知識”が納められているのだ。それを披露する機会が無かっただけで。

「そう見たいだね。まぁ私は行くよ、クロノくん待たせてるし。あと、頼んだ私が言うのも何だけど、無理はしないでね」

「うん、分かってる」

「じゃあ家への転送ポートも設置したから、夕飯には帰って来てね~」

タンっと通路を蹴って、無重力空間の出口を目指すなのはに軽く返事をして、検索を再開するユーノ。
……彼はツッコミを入れなかったが、個人用の転送ポートを用意する処とか、相変わらず彼女のポケットマネーがふざけた額をしているかがよく解る。

「なのは」

「あらクロノくん。待たせちゃったかしら」

「いいや。行こうか」

無限書庫を出て通路を歩くなのはとそう会話を交わし、彼女の隣を歩くクロノ。

図らずも、今回の『魔導師襲撃事件』の解決の為に組む事になったなのはとクロノは、基本的にこうして行動を共にする事にしていた。
無論、何かあった時は別行動という可能性も在るが、この事件の間は互いが“相棒”という立ち位置に近いかもしれない。

「それでどうだった、無限書庫は?」

「ん~、流石はユーノくんって感じね。探せば何でも出てくるそうよ」

「その本は? 闇の書と関係があるのか」

「これは違うわよ。『刀』の事が載ってる書庫。勿論、私みたいな資格者が使う……ね」

本の中身をさらさらっと読み流しながら、そう応えるなのは。その応えに、クロノも少なくない驚きを隠せない。

「そんな物まであったのか……」

「言ったでしょ、探せば何でも在るって。ま、ちょっと古いみたいだけど……」

言うなり、なのはは真剣に本の中身を読み耽り始めてしまう。先ほどまで読み流していたのだが、彼女はちょっとした違和感をこの本に感じたのだ。いや、この本に対してというより、現在の『刀』に対してと言った方が正しいかもしれない。

(見たところ、さくらの『千本桜』が無いのは……まぁこの本が古いし、本人が『ボクはかなり最近だからね~』とか言ってたから解る)

本を見ながら、彼女は器用に思考に頭を割く。さくらに関しても違和感は残るが、今は良い。問題はもう1つの方……とさらに思考を巡らせるなのは。

(問題は冬獅郎くんの『氷輪丸』……能力とかの違いは殆ど無い様に見えるけど、明らかに“違う”能力以外が今の冬獅郎くんと“違い”過ぎる。これは一体……)

書籍が古いという事を差し引いても、なのはにとって無視しきれない“矛盾”が残る。だが、幾ら聡明な彼女が思考を巡らせても、この答えは一向に出ない。

情報が足り無すぎる、そう結論付けたなのはは書籍を閉じて、取り敢えず目の前も問題から片付ける事にした。

「それはさておきクロノくん、増援の方はどうなったのかしら?」

「あぁ……グレアム提督、そしてキミの口利きのお陰で武装局員の一個中隊の指揮権を貰えたよ」

「まぁ提督自ら言ってくれたんだし、それくらいは貰えないとね――グッ!?」

――衝撃。何かが、なのはの頭の直接干渉……いや、なのはがその存在を感じ取ったと言う方が正しいかもしれない。

予期せぬ痛みにも、本を持っていない方の手で頭を押さえながらその正体を探るなのは。

しかし、彼女の素早い行動も虚しく事態は予想以上のスピードで進む。突如頭を押さえたなのはを見て、困惑しながらも何事かと問い掛けようとクロノが動いた時、それは起こった。

「な、なんだっ!?」

「この地震、訓練場から……!!」

「あ、おいなのは!!」

突然起こった強い振動。本局での異変に戸惑うクロノだが、なのはは冷静に振動の震源地を把握する。
ここから然程離れてはいない場所、そこまで彼女が把握出来たのには先程の頭痛が関係していたのだが……今はそれどころでは無い、とばかりになのはは震源地――本局の訓練場に走る。

フェイト・テスタロッサのいつもの“数倍”の魔力反応と微かに感じた――虚(ホロウ)の力。

幾つものチカラが重なり合い……物語は動き出す。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

地球、海鳴市。同じ時、時空管理局本局では巨大なトラブルが起こっているのだが、この街は今は極めて平和だ。

それを証明するかの様に、とあるゲームセンターのクレーンゲームにて、一人の少女がぬいぐるみを羨ましそうに眺めていた。

眺める少女は赤毛……つまりヴィータなのだが、ぬいぐるみは彼女が大好きな『のろいうさぎ』という物なのだ――が、ヴィータはクレーンゲームなどした事は無いし、無駄遣いする様なお小遣いも無い。

ここはベルカの騎士らしく――関係あるかは知らないが――大人しく諦めよう……そう考え家に帰ろうとすると、ヴィータの目の前には『のろいうさぎ』があった。

「え?」

「これ、欲しいんでしょ?」

「い、良いのか!!」

とか言いながら、もうヴィータは『のろいうさぎ』を掴んで離しそうにない。少女のそんな行動に、ぬいぐるみを譲った人間は“金髪”の髪をなびかせクスリと笑う……金髪?

「な、なななな――」

ギギギ、とまるでブリキの人形の如くゆっくりとその人物を指差すヴィータ。

まぁ、少女がそうなるのもしょうがない。今、ヴィータの目の前にいるのは、

「なんでアンタがここにいるんだよぉぉぉぉぉぉっ!!!!」

ついこの前、自分が魔力を奪う為に襲い掛かった――ヒナギクなのだから……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

轟音と閃光……それを訓練場の中心から放たれる“チカラ”が生み出す。

二つのチカラを生み出しているのは、訓練場の制御室に駆け付けたなのはとクロノが見たこと無い程の出力の雷撃。

その雷撃の中心には――“仮面”を着けた少女、フェイトが佇んでいた。彼女は動いてすらいない……ただ電撃を放ち続けているだけ。

だが、その出力がふざけている。通常、魔力変換で生み出せる属性魔法の領域を明らかに越えた出力……もうすでに、訓練場の電気機器‐システム‐はダウンしている。

最早普通の魔導師は近づく事すら馬鹿らしくなっている状況に、なのはは舌打ちを禁じ得ない。

「虚(ホロウ)の仮面に、それ以外にももう一つの“何か”か……面倒な事になったわね」

「クロノ……かい?」

「っ! アルフっ!?」

なのはとクロノが状況を把握するとほぼ同時、システムのダウンした制御室の扉を無理やりこじ開け、侵入して来たのは、暴走しているフェイトの使い魔のアルフだった。が、その右腕は痛ましく焼け焦げ、辛そうに顔を歪めていた。

今にも倒れそうなアルフの身体をクロノが支え、なのはが彼女に情報を求める。

「これ、どうなってるか説明出来ます?」

「詳しくは分からないよ……眠ってたフェイトが突然目覚めたと思ったら、変な仮面が着いて暴れだすし、何とか訓練場に放り込めたと思ったら」

「突然、今までに無い出力の電撃を放ち始めた」

なのはの予想した言葉に、当たっているという意味合いを込めて頷くアルフ。

礼を言う間も惜しく、見た情報を聞いた情報を合わせて、なのはは打開策を練り始めた。

(突然目覚めて暴れ始めたってのは、確実に虚(ホロウ)の力。でも、この電撃は虚が生み出してる物じゃ無い。見たところ虚の力自体はデカくないし……そもそも、途中から人に入る虚なんて普通はあり得ない――)

「『アアアアアアァァァァッ!!!!』」

「……ゆっくり考えるのは後かな」

そう言うなのはが見たのは、彼女の存在を感じ取った仮面を着けたフェイト。

ただの音圧だけで、訓練場と制御室を遮る厚いガラスにヒビが入る……出鱈目だな、と思わずクロノが呟くのも無理は無い。

――チンタラしてる時間は無い。思考を切り替え、一瞬で考えを纏めたなのはが動く。

「クロノくん、アルフさんの治療を宜しく。あと、この番号に連絡取って。私が面白い事があると言ってるって言えば、確実に飛んでくるだろうから」

「分かった。キミはどうするんだ? あの状態のフェイトだと、幾らキミでも止め切れるか……」

流石は執務官のクロノだ。冷静に状況を見極めている。そうだ、幾ら処刑人(エグゼキューター)のなのはと言えど、たった一人でこのふざけた力を振るうフェイトを“止め切れるか”と言われれば、難しいと言わざるを得ないだろう。

倒せるか……と訊けば、別の答えが返ってくるだろうが。

「“止め切れるか”と訊かれると、まぁ少し難しいかしら」

結果は、クロノの想像通りだ。彼女は自信家だが、決して自分の実力以上の見栄は張らない。それが、彼から見たなのはの性格だ。

しかしクロノはもう一つ、彼女の性格の特徴を知っている。

高町なのはが、こうして“自信満々”で不敵な笑みを浮かべながら言う事は……全て勝算がある事だ。

「――魔導師としては、ね。行くわよ、ギン」

「ハイハイ。ほな、そのお嬢ちゃんの手当て、よろしゅうな~」

いつの間にか現れたギンを連れ、なのはが訓練場に突入する。

彼女のあの表情……それは即ち、なのはにはフェイトを“止める”だけの勝算があるという事。

「よし……」

それを確信したクロノは、今自分がすべき事の為に動き出した。

同時刻、訓練場を所構わず破壊していた電撃が、一ヶ所に集束して現れた標的に向かい放たれた。

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  1. 2012/03/25(日) 13:21:16|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第19話

「……主」

何かを祈るようにそう呟いたのは、桜色の髪をポニーテールに括り、じっと瞳を閉じて病院の前に佇む女性、シグナム。

月夜の光に照らされ、いつも以上に凛々しく、そして美しい彼女だったが……そんな事は何の慰めにもならなかった。

「シグナムちゃん」

「ギン、それにさくらか」

ただただ立ち、待つしかない彼女の前に現れたのは市丸ギン。その隣には冷静に見えるが、何処か不安げな表情のさくらも居る。

「お兄ちゃんは?」

「私が結界を脱出した後、なのはがこの病院に連れて行った。心配しないで良いとは言っていたが……な」

一番ヒナギクと付き合いが長いのだろう、なのはにそう言われてしまえば信じるしかない。しかし、それでも心配なのはどうしようもない事実。

だから、シグナムは何も出来ないと解っていても、こうして主の無事を祈っていた……が、いつまでこうしている訳にはいかない。

結界に雪華を残して来たままだ……そう考えたシグナムは、ここからでも見える巨大な結界に向かって歩き出す。

「どこ行くん?」

「雪華の所だ。アイツを結界に残したままだからな」

「必要ないと思うよ」

そんなシグナムを止めたのは、力強くそう断言した少女、さくらだ。
足を止め、さくらの瞳を見たシグナムは気付く。言葉と同じく、その瞳からは強い信頼が溢れている事に。

「雪華ちゃんには、冬獅郎が一緒にいるからね。ほら」

「っ! これは……」

言葉と共に示されたのは、凄まじい速度で曇に覆われていく月と空。普通ではあり得ない、尋常ではない光景。

ならばこの光景を生み出しているのは、結界内部に残った雪華に他ならない。

「例え結界に阻まれようと関係ない。全ての水は雪華ちゃんの武器。四方三里……ううん、全ての天‐そら‐は――雪華ちゃんの支配下だよ」

曇天に支配された天候。それは、結界の内部とて例外ではない。
広域封鎖結界内部、そこには刀を構え氷の竜を従える者と、赤毛の少女の前に立つ一人の男性が相対していた。

男性の方は、狼の姿から人間の状態へと姿を変えたザフィーラ。氷の竜を従える者は無論、氷の姫君、藤原 雪華だ。

『グオオオオオオオォォォォォッ!!!!』

雪華が出現させた氷の竜が、主の『敵』を威圧するかの様に叫ぶ。ただそれだけで、結界内の地面や辺りの建造物が氷結していく。

それはまるで、今の雪華の感情を彼女の代わりに表に出している様で……その感情を作り出す大元の想いを今は胸の奥にしまい込んだ。

(そう……今はいい、ヒナにはシグナムがついてる。だから私は――)

目の前の“敵”を倒すだけだ。刀を一陣振るい、刃を二人に突き付ける。冷気が刃を通して、二人を貫いた。

常識を超えた光景……しかし、ザフィーラは退かない。彼は仲間を護る盾の守護獣なのだから。

拳を構えるザフィーラを見た雪華が――空中に飛んだ。

「下がれヴィータッ!!」

「くそ……悪いザフィーラ」

叫び前に出る守護獣に対し、まだ戦える状態ではない少女は、自身の身体を歯痒く思いながらも大人しく下がる。無理に戦って、逆に足手まといになりたくはない。

そしてザフィーラも、思いの外冷静だった少女を見て安堵する。

確かに彼は盾の守護獣――だが、一目で強い者と判断出来る相手に、全力で戦えない者を護りながら戦えると思う程、彼は自信過剰ではなかった。

彼の判断は正しい。空中を飛ぶ雪華……彼女を護る様に飛ぶ、溢れた冷気が創り出す水と氷の竜。

さらに天候さえも支配する、氷雪系“最強”の刀。そんな称号を恣(ほしいまま)にするチカラ、それが――氷輪丸。

「いくよ、氷輪丸!!」

『オオオオオォォォッ!!』

叫び刀を振るう雪華。それを聞いた竜は主の命に応え、標的に向かって天‐そら‐から疾走する。

その速度は――

(迅い!!)

ザフィーラを驚愕させるには、十分だった様だ。しかし避けきれない迅さではない……そう判断したザフィーラは、突進してくる氷の竜を避けるため一気に空中に躍り出た。

結果、竜は標的のいない地面を衝突し、一瞬にして地面を広い範囲で氷結させて行く。確かに凄まじい力……それでも当たらなければ、そう彼が思ったのも束の間、目の前には刀を振り上げる雪華の姿があった。

「はぁっ!!」

「むんっ!!」

袈裟懸けに振るわれたそれを、ザフィーラは無論ただ受ける様な事はしない。

腕に障壁を発生させ、盾の守護獣に相応しい強度で刀を完全に受け止めたザフィーラ……が。

「なんだと!?」

刀身を受け止めた障壁が、その場所から氷結していきザフィーラの腕おも凍り付かせていく。

何とか障壁を切り離し、体勢を整える為に下降するザフィーラだが、それを雪華がただ許す筈も無い。

「いって、群鳥氷柱!!」

水から創り出した無数の氷柱が、雪華の周りに出現する。それが雪華が刀を振るうと同時に、ザフィーラに向かって放たれた。

小さい氷柱はの氷の竜より当然威力は落ちるが、迅さは圧倒的に上だ。それを証明したのは、先程氷の竜を避けたザフィーラ自身だった。

下降する彼にあっさり追い付いた氷柱は、それだけで無くザフィーラに容赦なく突き刺さる。彼も全身に障壁を張り巡らせ氷柱を防いでいくが、やはり障壁は殆ど意味を成さず凍り付き、ザフィーラを無防備なまま地面に叩き落とした。

これが『氷輪丸』のチカラ……触れればどんな物だろうが関係なく、例え強固な障壁だろうと氷結させる。氷雪系“最強”と呼ばれる所以の一つ。

「……まだだ!!」

しかし……そんな氷雪系“最強”のチカラを受けても、ザフィーラは倒れない。仲間を護る為、そして自身の主を悲しませない為にも倒れる訳にはいかないのだから。

正面の少し離れた場所に立った雪華も、少々驚いた様になる。
煙りが晴れ、ザフィーラが姿を現す。彼は力強く拳を構え、放った。

「縛れ、鋼の軛!!」

白い魔力刃が真っ正面にいる雪華に向かって、一気に地面から突き出て行く。

捕獲系拘束魔法『鋼の軛』

地面から魔力刃を出す特性上、空中などには出現させられないが、数十メートルまで伸びるその刃は敵が空中に居ようと逃さず、敵を突き刺し動きを止める、敵が逃げる道を塞ぐなどの攻守ともに優れた能力を持つ魔法だ。

雪華に迫る鋼の軛……先も言った通り空中に逃げる事も出来ず、遠距離からの攻撃は他ならぬ魔力刃によって防がれてしまう。

ならばどうする? 後退する……いや、しない。雪華は――魔力刃の中に突撃した。

これにはザフィーラも、もう何度目かの驚きを隠せない。そんな事をすれば、この無数の魔力刃の餌食になる。

が、雪華は魔力刃の間をあっさりと擦り抜けていく。それこそ、慣れたダンスでも踊るかの様に、美しく。どうやら、これも彼女達にとっては想定内――

『ちょっと待てこのバカ主!!』

――でもなかったらしい。魔力刃を避ける雪華にそう叫んだのは、彼女が持つ氷輪丸から……つまり冬獅郎だ。

「何よ冬獅郎、今忙しいんだけど!? って危なっ!!」

それに応える雪華も、そこまで余裕が在るわけでは無い様で、今も突如飛び出た魔力刃が脇腹辺りの服を切り裂き彼女の肌を露出させる。しかし、それでも雪華は進撃を止めない。

『ちったぁ自重しろバカ主!! お前が怪我した時、いちいち言い訳考えてスタッフの人に頭下げるの俺だぞ!!』

「そりゃあ悪うございましたね!! って言うかバカバカ言わないでよ!?」

『何度言っても自重しないからだこのバカ主!!』

この二人の関係……まるで兄妹の様なこの関係は戦いの中だろうと変わらない。

魔力刃を次々と突破する雪華――その服は、特にヒナギクとかには見せられない状態になっていたりするのだが――の前に立ち塞がったのは、一ヶ所に固まった魔力刃。躱して突破は出来ない……ならば、奥にいるザフィーラごと攻撃するだけだ。

「氷竜旋尾(ひょうりゅうせんび)!!」

氷輪丸の刀身に氷が集い、雪華が刀を横薙ぎに振るうとそれが氷の斬撃となって魔力刃を砕き、ザフィーラを襲う。

だが彼は盾の守護獣、氷の斬撃を上に飛んで避け後方に着地して、斬撃を放ち無防備な雪華に対し直接鋼の軛を――

「な……これは最初の――!!」

放つ前に、彼の足を地面の氷が氷結させる。そう、ザフィーラの言う通り、これは最初に雪華が放った氷の竜が激突した場所。消えて尚、その氷結能力は失われない……そこまで気付き、ザフィーラは愕然となる。

「気付いた?」

クス、と子供が悪戯に成功した時の様に笑う雪華。彼女が氷輪丸の切っ先を真っ直ぐザフィーラに定めると、彼を囲う様に氷の柱が成型されていく。

「ごめんなさいね。貴方、見るからに堅そうだったから、ちょっとした小細工を使わせてもらったの」

最初の竜の一撃……アレはザフィーラを狙った物ではなく、地面の凍結を狙った物。同時に、初撃を無駄にさせたと誤認させる為でもあった。

もう理解出来ただろう。今までの雪華の攻撃全てが、この為の布石。そして、それは見事達成された。

「その程度の凍結じゃ、貴方を短時間しか止める事は出来ないでしょうけど……十分よ」

そうだ、彼女にとってはそれで十分。全ての天‐そら‐は彼女の支配下。大気に在る全ての水が……彼女の武器だ。

ザフィーラの周りに展開された、氷の柱の葬列。それは彼を捕える“牢”に他ならない。

「捕えて――千年氷牢(せんねんひょうろう)」

雪華が言葉と共に氷輪丸をくるりと倒すと、氷の柱が一ヶ所に集いザフィーラを捕える堅固な“牢”となった。

捕らえられた者は、恐らく指一本動かせない……筈なのだが、雪華の表情は何処かすぐれない。

その理由を彼女自身がポツリと漏らした。

「……もしかして逃げられた?」

『見たいだな。補助の奴がかなり優秀らしい。ギリギリで今の奴を転移させたな。どうする、追うのか?』

「止めとく。……ヒナの方が心配だし、そういうのは“本職”の人がやってくれるでしょ」

そう言う雪華の視線は、空中に浮かぶ一つのサーチャーに注がれていた。巧妙に偽装されているが、雪華の戦いを監視――言い方は悪いが――していたのだろう。まぁ誰も好き好(こ)んで、凍り付けになる可能性のある戦闘に突撃したくはない。それ以外にも理由はあるのだが……。

でもやっぱり、ちゃんと説明しないと駄目なのかなぁ……とか雪華が思っていると、その後者の“理由”を作った人物が彼女に連絡を取ってきた。

【雪華さん、聞こえます?】

【なのはちゃん……どうしたの?】

【ここの事情説明は私がするので……行ってあげてください】

なのはの言いたい事は解る。彼女らしい気遣い……雪華は短く礼を言って、病院に向かって一気に飛んだ――









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「第一級捜索指定遺失物、ロストロギア『闇の書』と“三人”の守護騎士……まーた面倒な物が来たもんね。ハラオウン執務官とも、因縁があるみたいだし」

「知って……いるだろうな、キミなら」

アースラ、ブリーフィングルーム。先程の雪華の戦闘から30分程度たったその場所には、フェイトとリンディを除いたアースラクルー、そして高町なのはが集まっていた。

理由は無論の事、今起こっている『魔導師襲撃事件』――延いては『闇の書』に関する事の為だ。

「そりゃあね。しっかし、フェイトちゃんも襲撃されて戦闘不能。ついでにデバイスまで破壊されてるとわね」

「済まない。僕のミスだ」

「別にキミの所為じゃないでしょ。寧ろ、フェイトちゃんとの戦いで消耗していたとはいえ、守護騎士二人を相手に単独で撤退に追い込んだのは流石だよ」

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  1. 2012/03/24(土) 23:52:13|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第18話(A's編スタート)

季節は秋から冬に変わろうか、という11月。

そんな寒い時期でも、処刑人(エグゼキューター)として名を馳せる『出来損ないの魔法使い』、高町なのはの朝は早い。

朝 04:00。時期の関係もあり、朝日が昇るどころかまだ暗闇の夜道で、高町なのはは息も切らさずランニングをしていた。これは、彼女の何時もの日課である。

早すぎるだろ、とも思えるが彼女が自主的にやっている事なので誰も文句は言えない。

ランニングを終えたなのはが次に訪れたのは、街から少し離れた桜台。

「さてと……」

グググっとリラックスして身体を伸ばしたなのはは、足下に魔法陣を展開。そして桜色の球体を出現させていく。

「取り敢えずこれくらいかな」

誘導弾の制御訓練。普通の魔導師なら誰でもやる事だが……彼女の場合、その数がおかしかった。
おおざっぱに数えるだけでも、その数は優に二十を越える。

「よっと」

そして、今度は何処からか取り出した空き缶の束を空中に投げ捨て――瞬間、総勢二十六のシューターが動いた。

的確に、全ての空き缶を地面に落とさず誘導弾で撃ち抜いていく。通常これだけの誘導弾は、制御するだけで精一杯の筈だが、なのははそんな様子も見せずに涼しい表情でシューターの制御をこなす。

と、いきなり後ろを向いて、いつの間にかベンチに座っていた男性に声を掛けた。

「それで、私に何の用なの? クーゴ」

無論、その間も誘導弾の制御は少しも乱れていない。後ろを向いたままで……だ。

ここまでくると、才の無い魔導師が彼女に嫉妬するのも馬鹿らしくなる様に思えた。

「……あのさ、俺はそれだけの数のシューターをデバイスも無しに操ってるのを突っ込めば良いのか、それとも後ろを向きながらシューターを操ってるのを突っ込めば良いのか、どっちだ?」

どっちも突っ込めば良いと思います。というツッコミは、当然ながら彼らに聞こえる訳も無く、クーゴは呆れた表情のままで、なのはは涼しい表情のままだ。

「どっちでも良いんじゃない? それより、何の用なのよ」

「へいへい、急かすなよ。――お前、最近起こってる『魔導師襲撃事件』……何か知ってるか?」

『魔導師襲撃事件』、その言葉を聞いたなのはの視線が、途端に鋭くなる。そして、操っていたシューター同士が衝突し、全て相殺する。それによって、打ち上げられていた複数の空き缶がゴミ箱の中に落ちた。どうやら、話を聞く気になった様だ。

……これを見ないでやっている時点で、彼女の空間認識能力の高さが見て取れる。

「最初は、管理外世界の魔力生物達から魔力が奪い取られていたの。その程度なら、管理局は小さな事だと大事にせず解決しようとしてたんだけど……」

「最近になって、魔導師も襲われるようになった、か?」

クーゴの言葉に、彼の隣に座ったなのはは小さくコクリと頷き、一度間を開ける様にスポーツドリンクに口をつける。

そうして、再び口を開いた。

「そう。AAランクの魔導師まで襲われるようになって、管理局も無視する事は出来なくなった。嫌でも耳に入るわよ」

「流石は処刑人(エグゼキューター)か。で、お前はどうするんだ? 『出来損ないの魔法使い』さんよ」

「……どうするも何も、私は依頼がなきゃ動かないわよ」

「嘘つけ。お前、絶対こういう事には自分から首突っ込んで行くタイプだろ」

「アンタに言われたく無いわよ」

この二人何というか、変な所で似た者同士というか、お互いが突撃思考をしているというか。
ただ、そんな二人でも気が付かなかった。この『魔導師襲撃事件』が、彼ら達の極めて身近で起こっている出来事だと言う事に……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

夜 19:00。時間的には、部活などを終えた学生達が家に帰宅する時間帯か。

そんな海鳴市の市街地上空に、二つの人影があった。片方はゴスロリチックな服装で、ハンマーを肩に担いだ少女。もう片方は、青と白の毛並みを持つ一匹の狼だ。

「どうだヴィータ。見つかりそうか?」

「いるような、いないような……」

狼の問い掛けに、ヴィータと呼ばれて赤毛の少女は何かを探る様に瞳を閉じたまま答える。そして、閉じていた瞳を薄く開き、再び言葉を放った。

「この間から時々出てくる妙に巨大な魔力反応……そいつが捕まれば、一気に20ページくらいはいきそうなんだけどな」

「分かれて探そう。“闇の書”は任せる」

飛び去る狼に向かって軽く返事をした少女は、同時に肩に担いだハンマーを下ろして“三角形”の魔法陣を展開する。すると、辺りを包む結界が出現した。

それは人払いだけではなく、範囲内の魔力を詮索する能力を持つ結界。

「――見つけた!!」

ほどなくして、魔力反応を感知した少女が“目標”に向かって一気に飛翔する。見つけた標的は、先程まで探していた物とは違ったが、大きさ的には殆ど変わらない。

――当たりだ!! そんな想いが少女、ヴィータの頭に過る。だが、ヴィータは気付いていない――自分が引いたカードが彼女達にとって、如何に最悪なJOKER‐ジョーカー‐かと言う事を。

「広域封鎖結界……ですね」

同時刻、結界に捕われて――まぁ彼の力を持ってすれば、脱出など簡単に出来るのだが――いる一人の人間は、展開された結界の正体をいとも簡単に言い当てる。

金髪の髪をなびかせ、別段焦った様子も見せない者、ヒナギクは同時に別の反応も感知していた。

接近する一発の誘導弾……確実に囮だろう。そう判断したヒナギクは、飛来した誘導弾を“何か”で切り裂く。

だが、やはりそれは囮だった。誘導弾を斬り伏せたヒナギクの後ろに、ハンマーを力の限り振り抜いたヴィータがいた。

取った。少女はそう確信する。この距離ならば避けきれないし、人一人昏倒させる程の威力は優にある――

「テートリヒ・シュラっ!?」

――だから、正直寒気がした。振り向いた金髪の女性――ヴィータから見れば、だが――と目が合う。
その蒼の瞳……場数を踏んでいる少女だから解る。アレは、自分を『敵』と思っている目では無い。ならば、何を思っているのか。ヴィータにはワカラナイ。感情をヨメナイ。

「消えっ……!?」

困惑するヴィータの視界から、ヒナギクの姿が消える。それを認識した時には、少女の身体は後方に吹き飛ばされていた。それが、蹴り飛ばされた物だと判断出来たのは、遥か後方で止まってからであった。

騎士甲冑が無ければ、今ごろ自分の意識はなかった事だろう……そんな威力の蹴りに愕然としながらも、何とか立ち上がるヴィータ。

「な……」

「私、弱い者イジメ、嫌いなんですけどね」

しかし、そんなヴィータを嘲笑うかの如く、自身が遥か後方に吹き飛ばした筈の少女に追い付き、悠然と立つヒナギクの姿が少女の視界にいた。

ヒナギクの瞳……感情が全く読み取れないその瞳を見る度に、言い様の無い恐怖が少女を支配する。
その所為で、ヴィータは気が付かなかった。ヒナギクの右腰には、彼の刀の片方が鞘に収まっていた事に。

「あ――うあああああぁぁぁぁっ!!!!」

何の策も無く、ただガムシャラに自身のデバイスであるグラーフアイゼンを振り上げ、ヒナギクに突撃するヴィータ……だが、そんな少女の動きは、ヒナギクにとっては止まっているも同然だった。

だから――もう、終わらせた。

「氷華(ひょうか)……一閃」

直後、ヴィータの耳に聞こえたのは、チン、という何かが“収まる”音。ヒナギクが刀を抜く音? いや違う、収める音。

そんな馬鹿な。目の前の奴は、何かを呟いただけ……目の前? 目の前には誰もいない。
何が起こっているのか、解らない、わからない、ワカラナイ。

――ガシャン、という“氷結した”地面に人が倒れこむ様な音。それが、自分の物だと理解したとき、ヴィータは指一本動かす事が出来ずに……意識を失った。



「う…………え?」

「あ、気が付いたんだ」

「んなっ!?」

ヴィータが意識を取り戻す。何が起こった……一体、どれくらい意識を飛ばしていたんだ――そんな疑問を頭に浮かべる少女だったが、少女の隣に座る金髪の人間、つまりヒナギクが視界に入った瞬間、自分の身に何が起こったかを漸く思い出し起き上がり飛び退こうとし――

「あ、あれ?」

「かなり加減したけど、まだ身体は動かない筈だよ」

身体が動かない……というか、上手く力が入らない。まるで、自分がもの凄く寒い場所にいた様な、そんな感覚だった。

っていうか、アレで手加減かよ。そう状況も関係無しにヴィータが思ってしまうのは、彼が少女を『敵』と判断していないからなのだろうか。

「一応訊いてみるけど、貴方が『魔導師襲撃事件』の犯人さん?」

「は……な、何でそれを!?」

「あはは、やっぱり。っていうか、それじゃ自白してる様な物だよ」

何が面白いのか、ケタケタと笑い出すヒナギク。本当に、コイツはさっき戦った奴と同じ人間なのか……そう考えてしまう程、今の彼は無邪気に笑う。

――本当に?

「う~ん、別に私の魔力で良いなら分けて上げたいんだけど……それだと私、死んじゃうんだよね~」

「――え?」

今、彼は何と言った……死ぬ? 何で、なんで、ナンデ?

それなら、何でそんなに、笑っていられるんだ?

――ホントウニ?

「どうして……?」

「うん? ああ、私ね、変な病気にかかってて――」

「ッ、違ぇよ!! 何で死ぬかもしれないのに……そんなに笑ってられんだよっ!?」

なぜ、少女は自分にとって『敵』である筈の者に、こんな事を言っているのだろうか。

いつかの、自分の記憶に刻まれた“誰か”と被るから?

ヴィータの叫びを聞いたヒナギクが、その表情をまた読み取れない物に変えた。だって、と言った後に、ヒナギクはヴィータが絶句する様な一言を放った。

「――その方が、みんな心配しないでしょ?」

……漸く解った。ヴィータには理解出来てしまった。ヒナギクの笑顔、“無邪気”な笑顔の違和感。

――『仮面』だ。ヒナギクの表情そのものが『仮面』なのだ。

そして、その仮面の下は……。

「お前……!!」

「あらら」

何かを、自分でも解らない何かをヴィータが叫ぼうとした時、二人しかいなかった空間に変化が起きた。

ヒナギクを捕らえんと地面から突き出た、白い無数の魔力刃。無論、ヒナギクはそれに捕われる様な愚策は犯さず素早く飛び退く。

その隙にヴィータの傍に降り立ったのは、ヴィータがヒナギクを発見する前に飛び去った狼だった。

「無事か、ヴィータ」

「ザ、ザフィーラ……ちょっと待って――」

「ゲホッ!! っ……ゴホッ、ゴホッ!!」

狼、ザフィーラに思わず制止を掛けたヴィータは、ベチャベチャっと何かが地面に落ちる様な、そんな嫌な音を聞きヒナギクが飛び退いた方を見て――驚愕で目を見開いた。

ヒナギクが血を吐き出している……必死に口元を押さえているが、全く意味を成さず地面には血の溜まりが広がって行く。

暫く、ヴィータは呆然として何も出来ずにそうしていた……が、唐突にまるで糸が切れた様にヒナギクが倒れこみ――

(ゆき……か……ちゃん)

――その一瞬、頭に余儀ったのは一人の少女の笑顔。だが、彼の意識はなすすべもなくブラックアウトした。

彼の金髪の髪を真紅の血が染めていくのを見て、ヴィータは思わず駆け寄ろうとし、

「月牙天衝ッ!!」

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  1. 2012/03/24(土) 23:43:05|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第17話

「変わって無いわね。色んな意味で」

「ったりめぇだ。そんな簡単に人の性格が変わるかよ」

そうして軽口を叩き合うのは、長身の女性と男性……なのはとクーゴだ。なのはの手にはより鋭利的となった天鎖斬月が、そしてクーゴがフェイトの時とは違い自分の武器を出現させた。

彼の首に掛けられた十字架のネックレスが輝き、一瞬で身丈程の大剣が彼の隣に突き刺さっていた。近接戦の細かい動きに対応する為か、刀身の下にも柄が付いており、恐らくこの大剣が彼の愛用する武器なのだろうという事が見て取れる。

が、なのはの後ろに立つフェイトに取って、今はそんな物は些細な事だ。自分の目の前に立つ女性……彼女は本当に、自分を助けてくれた少女なのだろうか?

まず、身長が全く違い過ぎる。前にフェイトが出会った時は、彼女より10㎝ほど高く少し年上程度だった筈だ。しかし今は……少なくとも170は在る様に見えた。

それでも全く違和感が無いのは、なのはがもともと大人びていた所為か。だが、フェイトは一つだけなのはに違和感を持った。

それは――

「胸がな――」

そう呟こうとした、瞬間。フェイトの顔面に純白の刀が音もなく突き付けられてた。恐る恐るフェイトが前を確認すると……視線こそ自分に向けていないが、オーラが、大事な事なので2回言うがオーラが、なのはが今どんな感情を抱いているかを物語っている。

「フェイトちゃん、それ以上言ったら――ハゲるよ」

「イ、イエッサー」

流石にこの歳でハゲたくないフェイトは、辛うじて頷きながらそう応えた。因みにフェイトが言いたかった事を代弁すると、なのはには胸の膨らみが無いのだ。もはやペッタンコなどと言うレベルではなく、板のレベルである。

「くくっ、はははっ!! 良いコンビじゃねぇか、お前ら」

二人のやり取りが可笑しかったのか、声を上げて笑うクーゴ。それに対し、ため息を吐きながらなのはが刀をクーゴの方に戻して言葉を放つ。

「うっさいわね。……始めましょうか、前の続き」

言うなり、なのはの姿が衝撃と共に消える。それはクーゴも同じで、大剣を手に掴むと一気に上空に舞い上がった。

長刀と大剣……種類の違う武器を構えた二人が、空中で相対する。

「あぁ、始めようぜ」

「そうね――」

なのはが天鎖斬月を横に一閃……それだけで、風を切る音と共に音を立て巨大な衝撃波が散る。

そして、クーゴを鋭く強い瞳で見て、言う。

「かかって来なさい、クーゴ。さっさと片を付けましょう」

「そう言うなよ、じっくり燃え上がろうぜ」

「残念だったわね。私は学者タイプの方が好みなのよ」

それは暗に、ユーノみたいなタイプと言っているのだろうか? そう思ったフェイトだったが、やはりまだハゲるのは嫌だったので口には出さない。

だがやはり、フェイトにとってはそんな軽口などどうでも良い事だった。自分が手も足も出なかったあの二人のいったいどちらが勝利するのか……少女にとってはそれが大事で、同時に結末が全く予想できない。

「へっ、そうかよ。往くぜ――『出来損ないの魔法使い』」

「――勝負よ、クーゴ」

出来損ないの魔法使い? 言い方からしてなのはの事なのだろうが、呼ばれる理由がフェイトには理解できなかった。

なぜ、彼女が出来損ないなのか……やはり理解できない。純粋な実力も一流で、魔導師としても非の打ち所がない彼女が、何故?

――フェイトも、そしてクロノやリンディ達もそうだが、そもそも前提条件が間違っている。なのはにとって……“魔導師”と“魔法使い”は全くの別物なのだから。

斬撃音がフェイトの思考を遮る。見ると、互いの武器の刃をぶつけ合っている二人。

なのはとクーゴ……二人の“二度目”のケンカの火蓋が切って落とされた。

そのケンカの行方は――誰にも予測出来ない。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「でさ、何でコイツらはお前の料理見て落ち込んでんの?」

「さ、さぁ? 私が帰って来たら、もうこんな感じでしたけど……」

時間は少々戻ってヒナギクの家。裏月がヒナギクにそう訊きながら指を差す先には、ヒナギクが作った料理人にも負けないだろう料理を見てズーン、と言った感じでガチへこみしているシグナムと雪華。

まぁどうしてこうなったかは……前回のお話を見てお察しください。

「……まぁ良いや。ほら、これ持っとけ」

「持っとけって、これデバイスですよね?」

落ち込むシグナムと雪華を軽く無視して、相変わらず物を投げ渡す裏月。受け取ったヒナギクは、渡された純白の首に掛けるタイプの小さな宝石を見て、普通に疑問を浮かべる。

何故なら……。

「私、デバイス持ってますよ?」

そう、彼は“一応”デバイスを持っている――一応と言うのは、殆ど使う機会が無いのと基本的にさくらが居るから使う必要が無いのである。

そして、そのデバイスが魔法らしいかと言えば……まぁ微妙と言わざるを得ない。

「解ってるよ。だから、お前はそれを持ってるだけで良い。絶対に、肌身離さずな」

言うだけ言って、裏月はヒナギクの家を後にした。そして、結局よく解らなかったヒナギクは疑問に思いながらも、自身の首に掛けられた小さな紅と蒼の二本の刀のアクセサリーと一緒に、純白の宝石を首に掛けるのだった。

「あーくそ。やっぱ一回ミッドに戻らねぇとダメだな」

家に戻った裏月……その彼が、何かの資料を見ながら一人愚痴る。いや、一人というのは語弊があった。彼の後ろには、何処からか帰って来た少し上機嫌に見える斬月がいるのだから。

裏月の独り言を聞いた斬月が、壁に背中を預けながら唐突に口を開いた。

「良いのか?」

「何がだよ」

「ヒナギクの事だ。まぁお前の事だから、やれるだけの事はしたのだろうが」

斬月の言葉に笑いながら、解ってるなら言うなよ、と返す裏月。

そうだ、もう自分に出来る事は全てした……けれども、やはり笑える、と裏月は考えてしまう。

「傑作だよな。天才と呼ばれた人間が、もう賭けに頼るしかないんだから」

「『ツインリンカーコアシステム』……だったか?」

「ああ。デバイスに組み込まれたリンカーコアと、持ち主のリンカーコアを同調させ、単純に二倍じゃなく二乗……いいやそれ以上の出力を叩き出す事が出来る」

ヒナに渡したデバイスには、そのシステムが組み込まれている。そう続ける裏月だったが、単純にそれだけなら渡す必要性は全く無い。
だから、彼があのデバイスをヒナギクに渡したのは他の理由がある。

「……けど、それによって持ち主にもたらされる影響は未知数。出力も、今の状態では安定しているとは言い難い。俺からすれば、未完成作品も良い所だ」

「だが、それしか方法が無い、だろう?」

ああ、と返事をしながら荷物を纏め始める裏月。どうやらミッドに行く為の荷物の様だが、先ほど決めたばかりな筈だったのに随分行動が早い。

「それで……ミッドに何の用があるのだ? まぁ私も一度家に戻らねばならんから、丁度良いが」

「――助けたいんだ。泣いてる奴を」

だから動く。動かなければ、何も始まらないのだらから。

絶望に泣く者と天才と呼ばれし者が出逢うまで……あと、少し。

時間は戻りミッドチルダ、深夜の公園。

「おらよぉっ!!」

「チッ……はっ!!」

暗闇に支配されたその空間で、激しく火花を散らす二つの影。散るのは一瞬でしかないが、それが連続で起これば見る者と聞く者を魅了する乱舞のメロディとなる。

片や――クーゴが敵を撃砕する大剣を振るい、片や――なのはがそれを紙一重で回避し、お返しとばかりに右手に持った刀を槍の様に突き出す。が、相手は刃に付いたもう一つの柄を握り、大剣の巨大さを利用して突きを受け止めた。

――ガキンっ!! と鋭い音が響き渡る。普通の剣なら、この時点で終わっていただろう。しかし、驚くべき事にクーゴの大剣には傷一つ付いていなかった。

「天鎖斬月で傷一つ付かないって、その剣どういう作りしてんのよ!?」

「わりぃな! 生憎コイツは特注品だからよっ!!」

会話を続けながらも、二人は動く事を止めない。クーゴが大剣を力強く振り下ろすが、そこにはもうなのははいない。前方に残像を残したままクーゴの真後ろで天鎖斬月を自身の首元まで溜め、一気に振るった。

だがそれすらも、クーゴは刃の方の柄を掴み強引に身体を振り向かせ防いで見せた。

「相変わらずふざけた反応してるのね……」

「そいつぁお互い様……だっ!!」

刀を受け止めたクーゴが、大剣を左に振るってなのはを弾き飛ばした。対するなのはは、それを想定していたのか冷静に空中で受け身を取り……クーゴを見て少し目を見開く。

クーゴの攻撃は終わっていない。切っ先を受け身を取ったなのはに向けていた。その刃の先に魔力球が集束し、本当に一瞬で巨大な黒い砲撃となりなのはを襲う。

砲撃がなのはを呑み込んだ……様にフェイトには見えた。

黒い砲撃が消える――そこには、左手で砲撃を“握り潰した”なのはが無傷でクーゴを見据えていた。

「やっぱ、こんな小細工じゃお前には通用しねぇか」

「レアスキル『瞬間魔力放出』。通常の魔力放出に掛かるチャージ時間をまるっきり無視して、術者の耐え切れる範囲での瞬間的な魔力の放出を可能とするレアスキル、でしょ?」

「当たりだ。まぁ、相手に遠距離で戦わせない為の物でしかねぇがな」

「はぁ……アンタらしいわね」

小細工。その言葉が戦いを見ていたフェイトに突き刺さる。自分はそんな小細工にも、全く手も足も出なかった。そして、例えレアスキルがなかったとしても、今のフェイトでは彼に勝つ事は不可能だった事だろう。

あの二人との距離が、フェイトには果てしなく遠く見えた。

(強く……なりたい!)

フェイトが拳を握り締め、今の自分には果てしなく遠い二人を見上げる。

(もっと――強く!!)

少女の前髪が跳ね、バチッと火花が散り、それを皮切りに身体中から電撃が溢れ出る。いつもの魔力変換の電撃ではない……出力が違い過ぎだ。
そのままフェイトの感情と共に爆発しようか、そう思われた時――

「ひゃあ、派手にやっとるなぁ」

「きゃあっ!! あ、貴方はあの人と一緒に居た……」

「市丸ギンや。よろしく」

突如フェイトの後ろに現れた糸目の男、ギンによって彼女は現実に引き戻された。

先程まで溢れていたフェイトの電撃も消えている……狙ったのか、それとも偶然か。どちらにしろ、相変わらず神出鬼没な男だった。

ひらひら~と手を振り自己紹介を終えたギンが、再び視線を上空に向ける。視線の先には、己の技を放つ為に力を溜め出したなのはとクーゴ。

「あの二人、やっぱり似とるねぇ」

「似てるって、あの二人が……ですか?」

「まぁ、普通に見とったら正反対なんやろうけど――」

――ある意味似とるんよ、その『信念』が……そうギンは続ける。

純白の刀、天鎖斬月・白天を両手で持ち、力を高めて行くなのは。

――ただ、ひたすらに他の人間を救おうとする者。


己の大剣に魔力を龍の形をした魔力を集束させ、なのはに対抗しようとするクーゴ。

――ただ、ひたすらに己の闘争を満たそうと、強き者との戦いを求める者。

一見、対になる様に真逆の二人だが……確かに共通している物がある。

なのはとクーゴの信念は……どちらも真っ直ぐで“純粋”なのだ。

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  1. 2012/03/24(土) 22:30:44|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第16話

海鳴大学病院。海鳴市の病院でも、かなり大きな規模の病院であり、重い病気の患者などはここに通う事が多い。

そんな大きな病院の一室、診察を終えた患者が礼儀正しく扉を開けて出てきた。長い金髪の髪に、夏らしく麦わら帽子を被り、確実に女性と見違える程の顔立ちの……ヒナギクが。

「終わったか」

「あら、冬獅郎くん」

診察を終えたヒナギクを待っていたのは、律儀に扉の隣で寄りかかって居る銀髪の少年、冬獅郎だった。

彼を見つけたヒナギクは、彼が待っているのは……そもそも誰も待っていないと思っていたので、当然のように疑問を口にした。

「どうして冬獅郎くんが?」

「さくらに頼まれたんだよ。ボクは用事があるから、お兄ちゃんを迎えに行ってくれ、ってな」

「ああ……冬獅郎くん、ゾッコンってやつですか」

――ゴツンッ!!

……こんな何処かに頭をぶつけた様な――というか後ろの壁に頭をぶつけて痛々しい音を出した冬獅郎は、恨めしそうに頭を抱えてヒナギクを見る。

対して冬獅郎をからかったヒナギクは、少々笑いを堪えた様子だったが、しっかり両手を合わせて謝罪した。

「ごめんごめん。まさか、ここまで反応するとは思わなくて」

「たくっ……行くぞ」

これ以上ツッコンでも自分がからかわれるだけと思ったのか、それとも純粋にめんどくさいと思ったのかは分からないが、ヒナギクに一言入れて歩き出し、ヒナギクも彼に歩幅を合わせて歩き出した。

因みに、この二人の関係はだいたいこんな感じだったりする。冬獅郎が何だかんだ言いながらもヒナギクに付き合い、ヒナギクは冬獅郎をからかったりするのである(主にさくら関連で)

性格がまるで違う二人なだけに、なぜ普通に仲良く出来るか実に不思議だ。

どうでも良いが、今ごろ料理と格闘中であろう騎士とアイドルは、お互いかなり性格に似通った部分があるので――まぁ言ってしまえば男勝りな性格とか――すぐに打ち解けていた。

「で、どうだったんだ?」

「どうだったって……ああ、診察の結果ですか? どうだったも何も普通でしたよ。ただの定期検診――」

「とぼけんなよ。今は俺の主もお前の騎士もいねぇんだ」

ヒナギクの冗談めいた声を遮った冬獅郎の表情は、いつに無く真剣そのもので……彼に真実だけを求めているという事が読み取れた。

冬獅郎の表情を見てどうやら観念したのか、ヒナギクはその感情を読み取らせない――そんな風な表情で言葉を放つ。

「いつも通り普通ですよ。ただ、原因不明の病気が進行しただけですから」

「チッ……お前はどうも思わないのかよ? 自分の身体の状態を」

「別に思いませんね。もう慣れましたから。なのはや裏月くんには悪いですけど……」

――もう慣れた。まるで、自分の身体をどうでも良い様に言うヒナギク。

彼はいつもそうだ、アルフとの戦いの時も、時の庭園のときも、いつも、いつも。

けれど、本当にもう慣れたのだろうか? 本当に慣れたならば――なぜ、シグナムと雪華だけに自分の身体の事を言わない?

ふと、冬獅郎がその場に立ち止まり、ただ歩くヒナギクを見て……呟いた。

「自分すら騙せねぇ嘘、簡単に付くんじゃねぇよ……」

――その呟きがヒナギクに聞こえたかは、彼には解らなかった……。


「……これ、どっちの勝ちだと思う?」

「……私よ。私の方が焦げてない!!――多分」

「何を言う。私の方が焦げていない!!――果てしなく多分」


人はこの光景をこう呼ぶ――五十歩百歩……と。

前回、ヤル気満々で台所に入り料理対決を繰り広げたシグナムと雪華(尚、内容は正直見ていられないので割愛)

そうして出来た二人の料理は……見事、期待通りに真っ黒焦げにしてくださいました。まぁ、消し炭とはいえ真っ黒焦げと認識出来るだけマシである。

オムライスとしては、マイナス百点も良いところだが。

「わ、私ったら私なのよ!!」

「いーや私だ。この焦げ具合からして私だ!!」

――不毛で五十歩百歩な争いを続ける二人が、お昼を作る為に帰宅したさくらに揃って説教されるまで……あと2分。って言うか、ヒナギクが大変な時にいったい何をしているのだろうか、この主人公たちは……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「少し久しぶりだね、スミレちゃん」

場所と時間は変わり、深夜のミッドチルダ。いくつものお墓が立つ場所で、一人の女性がそう言った。
彼女が立つ墓に刻まれた名前は、彼女が呟いたものと同じ。つまり、先程の言葉は生者ではなく……死者に捧げられたもの。

けど、そんな事は関係ないように左右の髪を小さな団子状に括った長身の女性――高町なのはは花を墓に添える。なのはの表情は、とても寂しげで……しかし、もしその表情が見れたものがいたとするなら、ほんの一瞬だっただろう。

「この魔力反応、片方はフェイトちゃんだけど……もう片方は、まさか――」

唇に手を当てながら、考える様に呟くなのは。彼女が感知した魔力反応は、どうやら両方に覚えがあったらしい。

と、思考をまとめたのか彼女が考える仕草を止めて、唐突に瞳を閉じる。数秒ほど、だっただろうか?

なのはが再び瞳を開くと――一本の漆黒の刀が地面に突き刺さっていた。その刀の前に立ち、力強く柄を握り、言う。

「往くよ……『天鎖斬月』」

刹那、暗闇に包まれていた墓地に純白の光が輝き……それが消えた時、なのはの姿はそこには無かった。


「フォトンランサー、ファイアッ!!」

ミッドチルダ、深夜の公園。そこでは何時もと違う二人の人影が存在した。片方は漆黒の鎌を振るい、空中から四つの雷撃の槍を放つ少女、フェイト・テスタロッサ。

もう片方は、少女が放った高速の槍を涼しい表情で自分に到達する直前で“何のモーションも無く”一瞬で消滅させた男、クーゴだ。

「何度も言わせんな。テメェの小細工なんて通用しねぇんだよ。とっとと直接来い」

「ッ……バルディッシュ!!」

クーゴの挑発に悔しげに呻くフェイトだったが、すぐさま自身のデバイスに指示を出し、魔力を一気に練り上げて術式を構築する。

――遠距離攻撃が効かないのは解ってる、けど!!

「サンダー……スマッシャー!!」

――目眩まし程度にはなる!!

そんな思いでバルディッシュのデバイスフォームから放った雷撃は、やはり彼に到達する前に弾かれてしまったが、弾かれた雷撃が爆発し、彼の視界一体を覆う煙となった。

それが少女の狙い。相手の視界が覆われた今なら、自分のスピードには対応出来ない……この時のフェイトは、自分の役職など何の関係も無かった。ただ、彼に勝つ。そんな思いで自分に出来る最大速力を出し、一気に彼の背後に踊り出て、彼を倒す漆黒の鎌を振るった。

「なっ!!」

――筈だった。彼の意識を奪う筈だった一撃は、そうなり得ない一撃だった……まるでそうとでも言うかの様に、振るわれたバルディッシュは男に到達する直前で“何かに”衝突し、そこから1㎜も押し込む事が出来ずに沈黙していた。

呆然となるフェイト……だが、こんな状況になって漸く彼が展開する“何か”の正体に気付いた。

(この防壁、純粋な魔力で出来てる!?)

あり得ない。そんな思いが頭を過る。そうだ、普通は無理だ。通常、魔力防壁は術式を組み強固な防壁となるはず。しかし、彼は術式も何も無しに、ただ単純に自分の周りだけに魔力を固めているのだ。
そんな事をすれば、本来は魔力が拡散するだけだし、術式を組んだ防壁にも劣り燃費も悪い。

だから彼の展開する防壁は、その様な常識を覆す物だった。そして、その驚愕が少女に致命的な隙をもたらした――

「しまっ――!!」

気付いたときはもう遅い。いや、例え油断が無かったとしても間に合わなかっただろう。振り向きもしないクーゴ……その真後ろに魔力球が出現し、一瞬で砲撃となりフェイトを呑み込んだ。

砲撃の集束シークエンスも何も無く、ただ純粋に瞬間的に魔力を砲撃状に放出した……そう言えば一番正しい表現かもしれなかった。

「ぐっ……ゲホッ、ゲホッ!!」

為す術なく地面に叩きつけられたフェイトだったが、辛うじて砲撃を受ける瞬間魔力をその身に纏わせ気絶だけは免れた……が、戦闘には確実に支障が出るだろう。特に、少女にとって格上の相手に対しては致命的だ。

「お前、何で俺がお前の事を『弱い』って言ったか、解るか?」

「……?」

けれど、クーゴは隙だらけになった少女を気にもせず突然話しを切り出す。どうにかバルディッシュ杖にして立ち上がったフェイトが質問の内容に疑問を感じるが、生真面目な性格の所為かもしくは天然なのか律儀に質問に答えた。

「それは……私が貴方より弱いからじゃないんですか?」

だから、こうして自分は情けない姿をさらしている。そう言いたげなフェイト。

だが――

「違ぇよ。そういう意味だとお前、そこそこ強い部類に入るだろうからな」

クーゴは首を振りながら否定し、フェイトにとって意外すぎる評価を下した。そう、単純な強さという点では彼も戦って見なければ解らなかった。

彼が言っているのは、そういった強さではない。

「空っぽなんだよ。お前」

「空っぽ……?」

「あぁ。戦う人間ってのはな、なにかしら『信念』ってのを持ってる。そして、信念が強ければ強いほど折れねぇし、本当の意味で強えぇ。外見からは、判断出来ねぇもんだ」

人は誰しも想いや願いがあり、その想いが人間を動かす原動力にもなる。

クーゴが言っているのは、そういった『強さ』だ。言うなれば己の願いを刃に乗せる、という事だ。

「例え義務だとか使命だとかで刃を振るおうが、その奥底にある自分の『信念』ってのは刃を合わせりゃ解る。けどテメェにはそれが無かった。刃を合わせなくても、それくらいは解るんだよ」

「………………」

フェイトは、何も言い返せなかった。彼の言う通りだったからだ。

ただ、母親の為と言われた事をこなしていた自分には、言い返す事など出来ない。それこそ、プレシアに『貴方と好きにしなさい』と言われなければ、疑問にも思わなかった程に自分には何も無いのだから……。

しかし、少女は忘れている。自分はなぜ、母親を止めに行ったのか。そして、自分を動かした言葉はなんだったのか……それを呼び起こすかの様に、クーゴが再び言葉を放った。

「けどな、お前が忘れてるだけで、在る筈だぜ」

「なに、が……」

「お前にも、自分を動かす『信念』ってやつがな。自分がどうしてここに立っているのか、思い返して見ろよ」

――私を動かす、信念?

そんな物、在る筈が無い。大体、それを指摘したのは他ならぬ彼なのだから。

(私に、生きている意味なんて……)

ない。そう少女が思った時、フェイトの脳裏に閃光の様に“誰かの”言葉が蘇った。

『意味の無い生命(いのち)なんて無い。それを否定することを――私は認めない』

瞬間、ハッとフェイトの瞳に生気が戻ったように思えた。少なくとも、その変化を感じ取ったクーゴの目付きが鋭くなる。

『変わろうよ、フェイトちゃん』

(そうだ、何で忘れてたんだろう……)

決めただろう、あの時に。そうして、自分は立ち上がったではないか。

「決めたんだ。変えるって……」

「……何をだ?」

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  1. 2012/03/24(土) 20:35:22|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第15話

何処か薄暗いバー。そこのバーカウンターに、一人の男がグラスを持って座っていた。と、黒髪のオールバックヘアーの男が持ったグラスの中身をおもいっきり口に飲み込み、力強くグラスをバーカウンターに叩きつけ……。

「マスター。お代わり」

「却下です。飲み過ぎですよ、クーゴさん」

酒のお代わりを要求したが、即刻でグラスを拭く一人の老人がそれを却下する。老人の言い方から察するに、カウンターに座る男性はクーゴという名前らしい。

「……いやいや、客の要求断んなよマスター」

「クーゴさんだからですよ。だいたい、つまらないならそこら辺の強い人に勝負でも挑んだらどうです」

「挑む奴が居ねぇんだよ……もともと断られた奴は論外だし、戦って倒した奴らは、自分はまだ修行がたりない、とか言いやがるし」

そう言って、だらしなくカウンターに顔をくっ付けるクーゴ。完全に脱力状態……老人もといマスターは諦めた様にグラスを入念に拭き続ける。まぁ、この光景はここ最近はしょっちゅうだったりするので、仕方ないのかもしれない。

暫くすると、クーゴが顔を上げた。のだが、やはりその表情は完全に脱力状態だ。

「あーあ。やっぱりアイツしかいねぇんだよなぁ、俺とまともに戦えんの」

「あぁ。クーゴさんがしょっちゅう話している女性ですよね」

「うんな話してた?」

「因みに、これで話題に上がるのは四十回目ですよ」

そんなに……てか律儀に数えてたのなマスター、なんて思いながらため息を吐くクーゴ。実際、彼が満足いくような戦いが繰り広げられるのは、その女性くらいしか彼は出会ったことが無い。

ただ、それだけに――

「くそっ、やっぱり決着付けたかったな……」

「仕方がないのでは? だいたい、クーゴさんが本気を出す様な相手と場所の許可無しで戦って気付かない程、管理局も無能では無いでしょう」

「まぁ、解ってるけどよぉ……」

世界とは、やはり思い通りにはいかないものだと改めて彼は思う。いやまぁ、盛り上がり過ぎた自分も悪いのだが。

それでも大して大事にならなかった理由は……まるで図った様にマスターが口を開く。

「少しは自重してくださいね。殆ど大事にならなかったのも、その相手の女性が管理局相手に顔が利いたからなのですから」

「わーてるよ。はぁ……何か面白れぇ事、無いもんかねぇ」

本当に解っているのだろうか、この男は? それはともかく、その男、クーゴが何となく呟いた言葉が実現されるのは――もう少しなのかもしれない。


「困ったな」

「うん。困ったわね」

一人の女性が呟いた言葉に、もう一人の女性が合わせた様に呟き返す。そして、二人同時に仲良くう~んと唸った。

8月。そんな夏真っ只中の日に仲良さげに会話をするのは、この家の主ヒナギクの騎士、シグナムと絶賛居候中の人気アイドル、藤原 雪華である。

そんな二人が、一体何を悩んでいるかと言えば……。

「お昼……どうしよっか?」

「主が居ないと、なぁ」

直面しているお昼という名の食糧難であった。どうしてこうなったのかというと、シグナムの言うようにこの家の家事全般を受け持つ人間、つまりヒナギクが諸事情により外出中のため留守なのだ。

何時ものヒナギクならお昼くらい用意していくのだろうが、今日はそれも無い上に冬獅郎やさくらも外出中。

――ここまで言えば解るだろうが、この騎士とアイドル……生活能力的な物が低かったりする。二人共、しっかり努力はしているのだ。
ただ、それがなかなか実らないというか……まぁそういう事だ。

「――作るか」

「何を?」

ポツリ、と呟いたシグナムの言葉に雪華が素早く反応する。しかし、会話の流れから雪華も何を作るか解っているようだ。

「当然、料理をだ……料理一つ出来ないなど、騎士の名折れっ!!」

正直、特に関係ないと思います。が、そんなツッコミを入れてくれる人間はこの場にいない。つまりは、立ち上がったシグナムを止める者はいない。

そして、同じく立ち上がり挑戦的な笑みを浮かべる雪華を、それは同じだった。

「上等ね……料理一つ出来ないなんて、アイドルの名折れよ!!」

だから、別に料理に騎士もアイドルも関係ないと思います。なんてツッコミを入れる人物は、やはり居るはずも無い。

「フッ……面白い。ならば――」

「そうね。さすれば――」

「「勝負だ(よ)!!」」

――この時点でオチが読めたという人達は、多分当たっていると思われる。とりあえず、これから調理されるであろう食材達に……合掌。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

全てが海。海に沈んだ町。それが、この世界を表現するにふさわしい言葉。

そして、その現実とは掛け離れた世界に佇むのは、恐らく一人の女性。恐らく、というのは彼女が真紅のコートと顔をスッポリと覆うフードを着けているため、体つきでしか判断できないからだ。

女性は、自分一人しかいない世界をビルの上から見渡し――

「おぉ、お久やね~」

――訂正しよう。今は二人だけがいる世界を見渡し、ため息を吐きながら振り向く。もし、フードの下の表情を見ることが出来たならば、彼女は今確実に疲れ気味な表情を浮かべている事だろう。

「勝手に入って来ないでください、私はそう言いましたよね? 市丸ギン」

「えぇやないの。そない固い事言わんでも」

女性の諌言に対して、気にした様子も無く平然と言葉を返す市丸ギンは、何処からか取り出したちゃぶ台を設置し、またまた何処から取り出した湯飲みを二つ取り出し両方にお茶を注ぐ。

どうでも良いが、場所を考えるとかなりシュールな光景である。

「ほらほら、美味しいお茶や。それと、ボクの事はギンで良い言(ゆ)うたやろ?」

「…………戴きます、市丸ギン」

女性は礼儀正しく座り、お茶を飲むがギンの呼び方は直さない。しかし、やはりというかギンは特に気にした様子も無く薄笑いでお茶を飲む。

暫く言葉を交わす事なくそうしていた二人だったが、唐突に女性の方が言葉を放った。

「それで、何の用ですか?」

「遊びに来たに決まっとるやん。それと、敬語口調やなくてもえ……「帰ってください」……ちょっとした冗談やないの、後半以外」

ちゃっかり冗談の中に本気を入れるのが、彼らしいというか何と言うか。

……もう一度お茶を飲んだギンが、いきなり真剣な表情になり糸目の瞳を薄く開く。これは、彼が冗談無しの話をする時の状態。

「単刀直入に訊くわ。あの子、あとどんくらい保つと思う?」

「貴方の主に……訊ける訳が無いでしょうね」

「キミが一番客観的に言ってくれそうやから、キミに訊くんよ」

ギンの真剣そのものの言葉を聞いた女性が、もう一度お茶に手を付け、フードの下で息を吐き……極めて冷静に告げた。

「保って3ヶ月。それが私の見立てです」

「やっぱり、そんくらいなんやね……後は、裏月くん次第か」

全く、相変わらず世界は優しくないわ、そうぼやくギンを見ながら、彼女はフードの下で一瞬悲しげな表情を見せる。それにどんな意味が込められていたかは……彼女にしか解らない。

そんな彼女に呼応してか、緋色とも紅とも見える刀――天鎖斬月は海に沈んだ町でも煌めき、突き刺さっていた――









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

深夜のミッドチルダ市街地。深夜という事もあり、問題が起こりやすいその場所は、ほぼ常に管理局員が見回りをしている。

なぜ、唐突にそんな事を言うかと言えば……。

「ここも異常無し、だね」

今まさに、時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサが深夜のミッドチルダを見回りしているからである。

今から4ヶ月前に起きた、ジュエルシード事件。事件の容疑者とされるフェイトの裁判は既に終了して、管理局への奉仕活動という形で決着が付いている。まぁ情状酌量の余地があり、処刑人‐エグゼキューター‐が関わっていたというのが大きいのだがここは割愛しよう。

そしてプレシア・テスタロッサ。彼女に関しても、過去の記録が掘り返されてやはり情状酌量の余地がある。が、ジュエルシードを発動させた事もあり、いろいろてこずっているらしい。そこはやはり、少年執務官君の活躍に期待しよう。

「ん……?」

辺りを見回し、異常が無いと判断したフェイトだったが、突然何かの物音が聞こえる。そして、音の発信源だと思われる公園に足を踏み入れた。

その場所は、昼はかなり人気のある公園だが、夜には全くと言っていいくらい人気が無くなる場所だった。

クロノもそう言っていたが、何か異常があると悪い。そう思ったフェイトが公園に足を踏み入れると……木の近くに一人の男性が居た。
何をしている訳でも無い。ただ、そこに一人佇んでいるだけ。しかし、こんな深夜にこんな人気の無い公園にいるのは流石に怪しい。

「あのすいません」

「あん? 何だよ」

取り敢えず話だけでも訊こう。そう考えを纏めたフェイトが男性に話しかけると、男性がまるで不良の様な返事をする。

そんな返事に少しだじろぎながらも、フェイトは続けて言葉を放つ。

「ここで、何をしているんですか?」

「……別に何もしてねぇよ」

一瞬、男性が答えに迷った様にフェイトには見えた。ますます怪しい……また疑念を深めたフェイトは、しっかり話を訊こうと自分の役職を告げた。

「私は時空管理局嘱託魔導師、フェイト・テスタロッサです。話を訊かせてもらえますか?」

「やだよ。めんどくせぇ」

言うなり、フェイトに背を向けて立ち去ろうとする男性。これには流石に、驚愕で目を見張るフェイト。当たり前だ、地球でいえば警察に当たる人間の言う事を軽く無視して立ち去ろうとしているのだから。

「ちょ、待ってください!!」

立ち去る男に向かってそう言いながら――何と威力を弱め牽制程度とはいえ、フォトンランサーを一般人に向けて放ってしまうフェイト。放った瞬間、しまった、と考えるフェイト。

――この時のフェイトは、言ってしまえばかなり焦っていた。嘱託魔導師と言ってもなりたて、しかも自分は元犯罪者。

……だから、迷惑を掛けてしまった皆の為にも人一倍頑張らないといけない。そんな風に、少女は考えてしまっていたのだ。

「え……?」

――パスン。そんな音を立てて、フォトンランサーが男の近くで消滅した。突然の出来事に、何が起こったか理解が出来ないフェイト。
そして、少女の魔法を消したと思われるオールバックの髪の男は、立ち去ろうとする足を止めて振り向き、フェイトと相対し……口を開いた。

「お前――『弱い』な」

ただ平然と、そう口にする男性の表情は、とてもつまらなそうに見えたが、何処か期待しているようにも見えた。

「気が変わった。来いよ、相手になってやる」

これが彼らの出会い。

――記録上、あの処刑人‐エグゼキューター‐と引き分けたとされる男、クーゴと。

――後に『最強無敵の電撃姫』として、処刑人‐エグゼキューター‐と同じく世界中の犯罪者を震え上がらせる執務官、フェイト・テスタロッサとの。

少女のちょっとした誤解が入った、初めての出会いだった。
  1. 2012/03/24(土) 20:19:32|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第14話・後編

「大丈夫!? しっかり!!」

「か、カリム様……危険です、離れて……!」

同じ頃、聖王教会は大きな攻撃を受けていた。処刑人(エグゼキューター)という通り名を持つ高町なのはがいない時を狙ったのか、そうで無いのかは分からないが、そのテロ予告の手紙を送って来た人物――と言っても、まだ姿を見せている訳では無いが――攻め入って来たのだ。

攻め入って来た相手の戦力は、全て機械兵器。丸い形状に二本足が付いており、先端が槍の様に尖った複数のアームの様な物が主な武装らしい。1機1機の戦闘能力は飛び抜けて高い訳では無い……が、いかんせん数が多く、さらに今この聖王教会にはお世辞でも優秀と呼べる騎士は――シグナムが教会に転移した時に会った、シャッハ・ヌエラが未熟ながら一番それに近いか――居ないと言っていい。

そんな状態で敵に攻め入られればどうなるか……結果は、火を見るより明らかだろう。そして教会の主と言えどもまだ若いカリムは、機械兵器にやられて行く若い騎士たちを見ていられず、こうして無謀にも姿を曝してしまった。

「あ――」

「カリム様!!」

機械兵器のアームの一つが、カリムの身体を貫こうと襲い掛かる。それは、カリムの命など一瞬にして奪い去る無慈悲な刃。怪我をした騎士がカリムだけでも助けようとするが、到底間に合わない。

無慈悲で想いの無い刃が彼女の身体を――

「たくっ……世話の焼ける奴やなぁ」

――貫く事は無かった。貫かれる筈だった彼女の身体は、誰かの手によって抱えられ、一瞬にして怪我をした騎士の近くに置かれた。

何が起こったか分からないカリムだったが、直ぐに我に返って自分を助けてくれた“誰か”を見た。

「真子……さん?」

「何や。悪かったなぁ、愛しの騎士様やお兄様やのうて」

拗ねた様なからかっている様な、そんなどちらとも取れる言葉をカリムに掛けるのは、ジュエルシード事件にて、面白そうだから、という理由で裏月に着いて来たおかっぱ髪の青年……真子。その彼が、鞘に入った刀を手に持ち何故かこの場にいた。

「ど、どうして真子さんが……」

「なのはちゃんに頼まれたんや。もしもの時の為に教会に来てくれませんか、ってな。ま、ここは裏月に関係の深い場所やし、オッケーしたんや。まぁ、このガラクタどもと遊んだりしとったから、暇潰しにはなったちゅうとこやな」

ここで考えて見よう。幾ら身内の事情とはいえ、なのはが何の策も無しに依頼場所を離れるとか。まぁあり得ないと言おう。

事実、こうして保険とも言える人物に声を掛けていた訳だ。

「さて、そろそろなのはちゃんも戻って来そうやし、ちゃちゃっと終わらすか」

そして、残るは彼の実力なのだが……未熟とはいえ教会の騎士が苦戦している機械兵器をガラクタと称し、処刑人(エグゼキューター)が緊急を任せる人物――言うまでも無いだろう?

「悪いなぁ、ガラクタ」

真子が顔を手で覆い、その動作で地球で言うツタンカーメンを思わせる仮面を出現させ、それを被る。
彼は仮面を被っただけなのに、いつの間にか自分の身体が震えている事に怪我をした騎士は気付いた。
それは自分とは全く違う力を振るう相手に対する、生物としての本能とも呼べるだろう。だが、感情を持たない機械兵器たちは相手がどれだけの格上で在ろうと、それを知って無謀だと思う事は無い。

ただ、信念の無い暴力の刃を振るうだけ。だからこそ、真子は機械兵器をガラクタと称しているのだが、そんな事すらも解る筈が無いのだろう。

仮面を着けた真子が、鞘から出した刀を平行に構えた。すると、拳に光が集束していく。

それは……全てを虚無に返す閃光――虚閃(セロ)。

「面倒やから――加減は無しや」

光りが瞬き……機械兵器たちは閃光に呑まれ消えた失せた――

『マスター。やはり、あの巨大な2機が司令塔のようです』

「まぁだろうね。解り易いったらありゃしない、っと!!」

戦場に駆け付けた高町なのは。その力は、少なくとも若い騎士たちの記憶に刻まれ続ける程に強力だった。

まず、投入されていた機械兵器の3分の一を――残りは真子と微妙に不機嫌な烈火の騎士が――破壊。
後に成長した騎士たちは語る……所詮噂は噂。本物はもっと凄まじい物だった、と。

しかし大量の機械兵器を投入した人物は、元より数にこだわる気はなかったのか、そうそうに切り札らしい機械兵器を投入した。

投入された新たな2機……片方は聖王教会の騎士、シャッハが既に交戦状態に入っていたので、なのははもう片方の機械兵器を破壊するべく交戦状態に入り、今に至る。
そんじょそこらの機械兵器ならば、なのはにとって敵にすらならないだろう。

なのはが一本のアームを軽がると避け、手に持ったライフルで反撃の一線を放つ。上手くアームを避けて放たれた熱線――しかしそれは、機械兵器の胴体に直撃する事なく何かに阻まれる様に“屈曲”した。

「成程ねぇ。魔力を“受け止める”んじゃなくて“逸らしてる”訳か。まぁそれなら余計な力は必要ないし、強い砲撃にも耐えられる」

『加えてあの四十を超えるアーム……攻守ともに完璧に仕上げたつもりなのでしょうね』

作った人間の切り札だろうそれは、機械兵器たちの親玉と言えば一番良いだろうか。今までの物より数倍大きいそれは、完璧に動きが制御された鋭いアームに遠距離攻撃を無効化する防護フィールド。
単純ながら強力――なのだが、一名+1機は全くの余裕らしく、最初と先程のたった二回の打ち込みで単純とはいえ機械兵器の能力を把握する。そして……それに対する対処法も浮かんでいた。

『如何なさいますか、マスター?』

「決まってるでしょ? そもそも遠距離でチマチマ砲撃を撃つのは性に合わないんだよね、私は」

彼女の砲撃がチマチマかと言えば……まぁ否定せざるを得ないが、そこは於いておくとしよう。

兎にも角にも彼女のこの発言、彼女の魔導師としての戦闘スタイルを的確に現している。本来、砲撃魔導師とは堅固な防御と遠距離による砲撃によって成し得るのだが……高町なのはは違う。

彼女は“遠距離型”砲撃魔導師ではない――“近接型”砲撃魔導師だ。

「行くよ、エクスシア」

『Yes Master.』

言葉と共に、少女が一気に天を翔る。凄まじい加速を物ともせずに、数十の殺傷能力を持ったアームを恐れる事無く掻い潜って機械兵器の本体に接近していく。

無駄な動作など一切なく、ただ加速だけを実行してアームを美しく避ける。それは彼女の実力が成し得る技。並みの魔導師では戦う事すらままならない、高町なのはのチカラ。

背中から出たアームの全てを避けられた巨大な機械兵器が、最後の悪あがきとばかりに胴体から二本のアームを射出した。通常のアームの数倍の速度のそれは、奥の手に相応しい物。確実に接近した敵を仕留めるための物であり、並大抵の者では反応すら出来ない――しかし、それすらも少女を仕留めるには分不相応……過小評価だった。

射出された二本のアームの間を縫う様に通り、瞬時に右手でサーベルを抜き放ち回転し、一閃。結果、アームは鋭い槍の部分だけが切断され、最後の悪あがきは無力化した。なのはからすれば、この切り札級の機械兵器は……弱点丸出しなのだ。

そしてそれは、砲撃に対して鉄壁の防御を誇るフィールドも同じ。

『ドライブ・オン。武装コード、マギリングガンポッド『ルシファー』起動』

完全零距離まで接近されてしまえば、この機械兵器は全くの無防備。さらに、作った人間は砲撃ならどんな物でも防げると思っているであろう屈曲フィールド……確かに、外部からの砲撃に対しては鉄壁だ。

エクスシアから転送されたのは、長身型の大型ビーム砲。迷い無くなのはがそれを掴むと、砲身の部分が横に2分割された単射モードに移行した。

「せぇいっ!!」

少女が掴んだビーム砲を……強引に胴体に突っ込む。当然だが、それによって機械兵器の胴体には大型ビーム砲の砲身が内部にめり込む

外部からは鉄壁――ならば、屈曲など出来ない内部からの砲撃ならどうなるか……答えなど、訊くまでもなかった。

「私の砲撃はね……遠距離からだけじゃないのよっ!!」

なのはが一切の躊躇いも無く、ルシファーのトリガーを引く。砲身から溢れた砲撃が、機械兵器の内部を破壊し、数秒の間を置いて……爆せた。

破壊された機械兵器の倒れる様を見ても、高町なのはの表情は変わらない。変える必要など無い。

破壊。それが少女が処刑人‐エグゼキューター‐と呼ばれる所以でもあり――何より、少女が『出来損ないの魔法使い』と名乗る意味(りゆう)でもあるのだから。

『あははは!! この程度かい、聖王教会の騎士は?』

「くぅ……」

時間は少し遡り、もう一つの巨大機械兵器と戦闘に入ったシャッハは、騎士甲冑もボロボロの状態で片膝を着いてしまっていた。

大量の機械兵器たちを打ち倒し、司令塔と思われる巨大機械兵器を破壊する為に戦いを挑んだまでは良かった。だが、シャッハのフットワークを駆使した戦闘スタイルと、この機械兵器を開発したと思われる科学者が搭乗したそれは、相性が最悪だった。

戦闘中には数え切れない程に多い、機械兵器の全身から射出されている槍のアーム。その動きは全て搭乗者によって統制が取られて、攻撃と防御が完璧とも思えた。

あれだけの数のアームを統制の取れた動きで操られては、如何にシャッハと言えども為す術が無く攻撃を何とか受け流すのが精一杯。

だがそれも限界……。

『どうやら、もうお終いのようだね。なら用は無いよ』

機械兵器の中からその声が聞こえると、数十のアームが一斉にシャッハに襲い掛かる。

もはやこれまで――そんな考えが頭を過り、覚悟を決めるシャッハ。

「妨景(ぼうけい)・千本桜景厳」
……しかし、シャッハが覚悟した現実は形にはならなかった。

『なん、だと?』

「……綺麗」

科学者は驚愕し、シャッハは自分の瞳に映る光景に我を忘れて魅入れる。

起こる筈だった現実を遮ったのは、美しさの中に力強さを感じさせる、桜の花弁。その花弁がシャッハの前に咲き誇り、鋭いアームの攻撃を受けても散る事など無い。

――桜の花弁が突如舞い散る。散らされた訳では無く、自ら舞い散ったのだ。圧倒的な量の桜に、思わず顔を両腕で覆うシャッハだったが、またもや突如それは収まった。

目を開いたシャッハの目の前に居たのは……桜の妖精。と言っても間違いでは無い程に、その例えが似合っていた。数億にも及ぶ桜を従え、金髪の髪をツーサイドアップに纏め、和の着物を羽織り、何時もの蒼の瞳を紅に変えた桜の妖精は――

『何者だい、君は?』

「……『通りすがりの魔法使い』、かな」

静かな、魔女の様な笑みを浮かべて、答えた。


「――今度はボクが訊いて良いかな?」

少しの間を置き、『通りすがりの魔法使い』……つまり、さくらは口を開き言葉を放つ。勿論、相手は機械兵器の中に居る科学者に向けて放った物。科学者は突然現れた少女に対する動揺を隠して、何事も無いように応える。

『何かな?』

「何で、この教会の人達を狙ったの」

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  1. 2012/03/23(金) 23:35:30|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第14話・前編

幾多もの斬撃音が響き渡り、その度に衝撃波が発生し訓練場を揺らしている……そう表現しても、決して大げさな事では無いだろう。

激しい火花が舞い散る、芸術じみた斬撃の応酬。それを生み出しているのは、刀を得物とした女性と槍を得物とした男性。

卍型の鍔を持った刀、天鎖斬月を持つシグナムが持ち前の超スピードで残像を作り出しながら攻め立てる……しかし、アームドデバイスの槍を持った人物、ゼスト・グランガイツも負けてはいない。

超速で繰り出される無数の斬撃に対し、的確に槍を振るって時には弾き、時には受け流す。

「はぁっ!!」

さらには、天鎖斬月を受け止めると同時に、力を込めた槍を強引に振るってシグナムを吹き飛ばしてしまった。

当然、シグナムはただ吹き飛ばされるだけでは無く、上手く振るわれた力を逃がしながら空中で着地、再び刀を構える。

それに応じる様にゼストは槍を構え……二人はまたも斬撃の応酬を繰り広げ始めた。天を縦横無尽に駆け巡り、加速しながら零距離戦闘を繰り広げる。

隊舎でその戦闘を見ていた人間たちは、殆どが彼らが何をしているか理解できない者達ばかりだったが、それでも目を離せないのは確かだった。

その中で、辛うじてその戦闘の内容を把握できていたクイントは、本当に驚愕していた。まさか、彼女が自分の隊長と互角に渡り合える実力を持つ人物だったとは……と。

――だが、それは全くの逆である。実際、普通の魔導師がシグナム達の様な刀の使用者に喰らい付くという方がおかしいのだ。まぁ、方法が無い訳ではないのだが。

ここで少し、天鎖斬月の能力(チカラ)について説明して見よう。
普通……例えばさくらが持つ『千本桜』を例にして見ると、その本来の姿である『千本桜景厳』は、刀剣とは思えぬ巨大さだ。それは千本桜自体の能力でもあるのだが、その解放された力を小さく押し留める事が難しい、という理由がある。勿論、出来ない事はないのだが、あまり長時間は難しいという事だ。

しかし天鎖斬月は違う。解放状態の力の全てを小さな形に凝縮する事が出来る巨大な“器”があり、それによって解放状態最大戦力での超高速戦闘を可能にした――それが『天鎖斬月』の能力(チカラ)の一つである。

ならば近接戦闘に於いて、圧倒的な力を発揮する天鎖斬月に対抗する為にはどうすれば良いのか? 簡単だ、その超高速戦闘に対応出来る者を戦わせれば良い。

そもそも、さくら達の刀の力に於いて大して優劣は存在しない。せいぜい相性が多少あるくらい……それは特殊と言われる天鎖斬月とて例外ではない。

そして、刀の力は持ち主の技量などによって変わる。幾ら刀が良かろうと、使う人間がお粗末ならば刀の力はその1割も発揮されない。
つまり、逆に言えば持ち主によっては手が付けられない程に化ける、という訳である。

なので、結局さくら達が持つ刀は持ち主を自身の能力でサポートしているだけ。そこは魔導師が持つデバイスと変わりは無い。

話が少し逸れたが、要は天鎖斬月に対抗するには近接戦闘に於ける能力が、斬り合いだけでもトップクラスの者――ほぼ零距離に於ける斬撃を防ぐ培った勘や技量など――がいれば良いのだ。ただ、その人数が本当に一握りというだけで。

今シグナムと拮抗しているゼストですら、まだ天鎖斬月を扱い切れていない彼女を相手するのがやっとなのだから、この異常性がよく解る。しかも、超速で斬り掛かって来た天鎖斬月を何とか防ぎながら反撃しているだけで、ゼストから攻撃できている訳では無いのだ。

本当にどこまでも異常な刀……少なくとも、この天鎖斬月に真っ正直から零距離戦闘で渡り合える者など――

「私の身内を除くと、アイツくらいしか見た事ないんだよねぇ~」

「わきゃぁ!? な、なのはちゃん、いつの間に!?」

「変な声出さないでくださいよ、クイントさん。因みに質問に答えると、戦闘開始辺りからいましたよ。クイントさんが集中していて、全く気付かなかっただけで」

本当に全く気が付かなかった……と、何気に落ち込むクイントを余所に、ただシグナムとゼストの戦いを静かに見守るなのは。それを見たクイントは、あれ? 自分より年下の少女――とは言っても、今のなのはの身長は150㎝前半はあるのだが――に見切れて、私は見切れないの? と、再び落ち込んでいるのは……取り敢えず置いておこう。

何故に彼女が此処に居るかと言うと……そりゃ、シグナムが迷子と解って自力で捜し出したからだ。どうせ近くに居るだろう、と強盗に遭った銀行に行ったりなんだりだったのだが、特に苦労もしていない様なので省略しよう。

で、見つけたシグナムを連れて、後はさくらにでも迎えに来させようと思っていたのだが、何故かゼスト隊長とシグナムが戦っていて、今に至る。

話は変わるが、なのはもゼストと戦った事が在ったりする。だからクイントとも面識があるのだ。

因みにその時の勝敗は、実は付いていない。と言うか、付ける前に戦闘の影響で訓練場が崩壊しかけたからなのだが……序でに言うと、訓練場の修理費は結構砲撃をブチかましていた少女がポケットマネーから支払ったらしい。そのお陰か、かなり設備が良くなった訓練場であった。

その時、少女の貯金額を見て色んな意味で落ち込んだ青い髪の女性がいたとかいなかったとか。

まぁそれはそうと、今の状況なら模擬戦が終わってからでも良いかな~とか思っていたなのはだったが――数秒後に来た電話により、その考えはあっさり覆された。

「はぁ!!」

「ふっ!!」

シグナムが刀を振るい、ゼストが返しに槍を突き出す。そんな行動を何度繰り返しただろうか。

それは定かでは無いが、幾度と無くそれを繰り返している内に、二人の思考は同じ答えに辿り着いた。

「……そろそろ、ケリを付けるか」

「えぇ」

ゼストの言葉に、短くも確かに応えるシグナム。これ以上、同じ事をしても時間の無駄だと……ならば一撃の元に、決着を付けよう、そういう事なのだろう。

先に動いたのはゼストだった。彼の足元に三角形の中で、剣十字の紋章が回転している形の魔法陣が展開される。恐らく、必殺の一撃を放つ為の推進用の魔法。

対するシグナムは、天鎖斬月を両手で握り右後ろ辺りに構える。
瞬間、天鎖斬月から純白の奔流が溢れ出る。

『月牙天衝』……本来で在れば、この技は“斬撃そのものを飛ばす”物であるが、今からシグナムがする事は違う。斬撃そのものを刀身に止める――つまり纏わせているのだ。

この技の特性の一つには、距離が近ければ近い程に威力が増すというものがある。無論、遠距離からでも十分な破壊力があるが、その特性を上手く生かせばさらに真価が発揮される。状況に応じて戦略を変更できる……それが月牙天衝の強味なのだ。

ならば、その破壊力だけを最大限に生かすにはどうするか――その答えが、今シグナムが行っている行動。近ければ近い程に威力が増すなら、飛ばす斬撃を敢えて飛ばさずに、直接叩き込めば良いのだ。
その他の利点を消す事にもなるが、ただ破壊力だけを求めるならそが一番有効な方法だ。

対峙する二人の力が高まり、ほんの少しの間だが動きが止まる。

――動いたのは全くの同時。

「はああああぁぁぁぁっ!!」

「うおおおおぉぉぉぉっ!!」

一気に踏み出した二人から衝撃が爆裂し、その衝撃を置き去る様に二人は加速した。

互いに得物を必殺の一撃の為に溜め、そしてその一撃を振るおうとした――瞬間、

「射殺せ、神鎗」

……二人の間を一本の刀が遮った。
突如現れたそれを避ける為にシグナムが刀の上、ゼストが下に軌道修正したため、ギリギリで二人が己の一撃を激突させる事は無くなった。

「何だと……!?」

「これは……」

体勢を整えた二人は驚いた表情になったが、その意味合いは少し違う。ゼストの場合は、この訓練場で予期せぬ妨害が入った事による驚愕。

そしてシグナムの場合は……見覚えのある刀と聞き覚えの在り過ぎる少女の声が聞こえたからだ。

「勝負の途中にすいませんゼストさん。悪いんですが、シグナムをちょっとお借りしますね」

「なっ!? おい待てなのは!!」

まさしく問答無用。言い放った言葉の返事を聞く前に、シグナムを掴んで急いでその場を後にするなのは。

「ちょっと止まれなのは!! まだゼスト殿との決着が――」

「すいませんが後回しで。ちょっとした仕事が入ったので、手伝ってください」

当然ながらシグナムが反論してくるが、速攻で却下しながら彼女を連れ出した目的を話す。

ついさっき、聖王教会が謎の機械兵器によって攻撃を受けている、という電話をなのはが受けたのだ。勿論、相手は明日襲撃すると予告した相手だろう。何も、相手が律儀に約束を守るとも思っていなかったなのはだが、だからといって自分が離れた一時間足らずの時に襲撃しなくても……と思わず愚痴るなのは。

しかし、シグナムは彼女の話を聞いても何か釈然としなかった。

「それならば、わざわざ私を連れて行かなくても良いのではないか? お前一人でも十分そうなのだが……」

そうだ、わざわざ自分を連れて行く理由が無い。なのはの実力なら、自分を連れて行っても大して変わりは無いだろう。それを、何で今回に限ってシグナムの意思を無視して連れ出したのか……その疑問に対して、なのはは何故か溜め息を吐きながら応えた。

「因みにあのまま止めなかったら、ゼストさんのデバイス壊してましたよ、シグナムさん」

「え゛」

「……シグナムさん、天鎖斬月の強度とか解ってないでしょ? 天鎖斬月は『決して折れる事が無い』とまで言われる刀。それを月牙天衝を纏わせたまま、あの勢いで衝突させれば……まぁ幾らアームドデバイスでも粉々ですね」

なのはの言葉を聞いたシグナムの額に、一筋の汗が流れる。そして天鎖斬月を見て思う、そんなにも凄い刀だったのか……と。いやだって、普通とは違うとは思っていたが、投げ渡された物だったし、とか誰に言い訳しているのか分からない事を考え始めるシグナム。

――だが、なのはの言った事は半分本当で半分は嘘だった。決して折れない、というのは本当だ。が、相手は完全に接近戦に特化されたアームドデバイス。まぁヒビくらいは確実に入るだろうが、一回の衝突で砕ける事は無い。

ならば何故なのはは戦闘を止めたのか。本来、彼女はあの衝突で決着が付かなかった場合に止める予定だったのだ。

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  1. 2012/03/23(金) 23:25:31|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第13話

「ふぇー、そう言うことだったんだ。全く、端折り過ぎだよ冬獅郎」

「……すまん」

まだ顔が赤いさくらの言葉に、冬獅郎は返す言葉が無く素直に謝るしか無い。

とことんまで端折った彼だったが、一から説明して誤解を解いた事でとりあえずは収まったらしい。まぁ、あんな言い方をすれば余程察しが良くなければ誤解するのは避けられなかっただろう。

「んで? 俺の主共々お世話になれるのか?」

「まぁこの家はお兄ちゃんのだから、お兄ちゃんに訊かなきゃ解らないけど……多分オッケーじゃないかな? だってお兄ちゃんだし」

どういう理論だ、なんて冬獅郎はツッコミそうになるが、一度ヒナギクに会った事のある彼は何となく理解した。見ただけで解る、アレは確実にお人好しの人種……しかも自分の主とも知らぬ仲ではない。

そして何より――もう自分の主のトラブルに巻き込まれている。

「まぁ、お前の主……もう巻き込まれてるけどな」

「うにゃあ、お兄ちゃんも相当だけど、冬獅郎の主さんも相当だよね」

それはつまり、トラブル要素満載な人種だよね、とさくらは言いたいのだろう。

それを否定する材料を持たない冬獅郎は……

「……ノーコメントだ」

――黙秘を貫くのであった。

一方、そのトラブル要素満載の主二人はと言うと……何かSPっぽいのに追われていた。正確に言えば、ヒナギクがお姫様抱っこで抱えている雪華を追っているのだが、彼女を抱き抱えているのはヒナギクなので彼を追っているも同然だった。

何故こんな状況になったかと言えば……まぁ前回の雪華の行動から大体は解るだろうが、あの後、

「い、所謂、許婚よね!!」

とか、彼女が言い出した事でさらに事態が悪化していたりする。

因みにその瞬間、ヒナギクはと言うと……。

「……私は何処からツッコミを入れれば良いのかなぁ?」

当然、色んな意味で困っていたりする。地味に素の口調になっている事から、彼も本気で困惑しているのが読み取れたりする。

そりゃあ、彼だって男の子(説得力ゼロ)だ。雪華の様な美人で可愛い女の子――しかも彼の好みど真ん中とくれば、先の雪華の発言は嬉しいと言えば嬉しい。が、ヒナギク“は”その場しのぎの言い訳だろうと思っているので、何か複雑である。

で、何が起こったのか黒服の男達がいきなり現れて、雪華と捕らえ様と接近……と、ヒナギクが雪華を抱えて今に至るという事だ。去り際に見た老人の困惑の表情を見るに、この男達は彼の意図しない人物たちなのだろうか。

どのみち、ヒナギクには逃げる以外の選択肢は無い。無いのだが――

「……ヒナ。もしかしなくても、楽しんでるでしょ?」

「さて、何の事です?」

ここで一度考えて見よう。男達が追っている人物は“あの”高町なのはの師匠。しかも、ギンに本気が出せれば白河家当主……つまり今は斬月くらいしか拮抗できる人間がいない、とまで言わせる実力を持つ人物だ。

そんな人物が、只の一般人に追い付かれるとお思いか? 否、例え今の様にヒナギクにハンデがあろうとも、何度繰り返そうとも、ヒナギクが彼らに捕まる事など永劫ない。

そのヒナギクからすれば、これは鬼ごっこの様な物だが……後ろを見ていい加減、飽きたな~、何て考える程に余裕があったりする。

ふと彼が前方を見て、表情を変える。それを見た雪華が何かと前方を見ると……まだ少し距離があるが、見慣れた銀髪の髪が見えて、彼女の表情が微笑みに変わった。
そしてすれ違う瞬間――

「ごめんね」

「気にすんな。いつもの事だ」

雪華と冬獅郎は、たったそれだけ言葉を交わした。それだけで、二人には十分だった。

……冬獅郎の隣でさくらが頬を膨らませているのは、まぁ余り関係ないだろう、多分。

さて、ここで彼らの持つ刀について少し説明しよう。

彼らの持つ刀は基本的に――天鎖斬月の様な特異的な例外を除き――通常解放状態と完全解放状態がある。例えば冬獅郎の『氷輪丸』……この名前は通常解放状態の物。それでも他を圧倒する力があるが、さらにその上をいくのが完全解放状態、つまりその刀の“本来”の姿な訳だ。

ここで一つ補足。冬獅郎の氷輪丸の様な『属性』の付いた刀の持ち主は、通常解放などが無くともある程度の力が使える。

まぁ何が言いたいかと言えば――

「「「「ぶべらっ!?!」」」」

――道を滑り易いように凍らすなど、冬獅郎にとっては造作も無い事だという事だ。見事なまでに揃ってすっ転んだ男達を見て冬獅郎はいつもと変わらぬ表情を、さくらは苦笑を浮かべながら主たちを追ってその場を離れるのだった。

「で、改めてここは何処だ?」

所変わってミッドチルダ。そんな異世界の地で誰に言うわけでも無く呟いたのは、言葉とは裏腹に冷静な表情をしたシグナムだ。

前回、勢い良く撤退したシグナムだったが、当然ながら彼女が異世界の土地勘を持っている筈も無く、こうして途方に暮れている訳である。

まぁとりあえず、とシグナムは一つのお店に足を向けて……

「すみませーん。この『ミッドせんべい』を一つください」

「はいよー!!」

買い食いをする事にした。全く持って、冷静と言うかマイペースなシグナムである。因みに、何で彼女がミッドチルダのお金を持っているかと言うと、なのはがもしもミッドに機会があった時の為に、彼女の身分証明書とミッドのお金を渡して置いたのだ。

まぁ、流石にこんな形で来ることになるとは、当たり前だがシグナムも思っていなかった。

そんな感じで、煎餅を食べながら歩くシグナム。見たところ、地球で言うと都会のような光景に近いようだ。そりゃあ、地球より発達している所などはある。

だが、同じ様な所も多いのだ。

例えば、銀行のような所に地球で言うと警察っぽいのが集まっていて、その近くには強盗っぽいのがいたり――

「……いやいや。おかしいだろう」

思わずツッコミを入れるシグナム。まぁ、気持ちは解らなくも無い。
と言うか、異世界に来てもこんな光景を見ることになれば、誰でもツッコミたくなるだろう。

そんなシグナムの思いを強盗っぽいのが聞いている訳も無く、勝手に事態は進んで行く。

「こ、コイツを殺されたくなきゃ、動くんじゃねぇぞ!!」

「くっ……!」

青い髪の少女を人質に取った強盗が、そう言いながら後ろに下がって行く。それを悔しそうに拳を握りしめ見る女性は……人質の少し長い髪をした少女の母親なのだろうか? そのくらい、人質の少女と女性は似ていた。

それはともかく、このままでは犯人に逃げられてしまうだろう。そう思ったシグナムは――動いた。

「よし……」

少女を抱えたまま下がる犯人は、完全に安堵していた。銀行に強盗に入った時、管理局員が居たのは全くの予想外だったが、その局員の子供の一人を一瞬の隙を突いて人質に取れたのは幸運だった。

目的の金は山程奪った。後は人質を利用して逃げ切るだけ……いや、この人質をさらに利用して金をむしりとるのも良いかもしれない。

そんな自分の未来に思考を巡らせる犯人だったが、その瞬間、自分が抱えていた筈の人質の少女が……消えた。

突然の事に驚き、焦る犯人だったが――

「お探しの人質は、この子か?」

「なにぃ!?」

突如後ろから聞こえた声に急いで振り返ると、何とそこには自分が先程まで人質に取っていた少女を一人の女性が左手で抱えているではないか。

焦った犯人が殆ど反射でデバイスを構えて、魔力弾を放つ……が、それよりも早くシグナムは動いていた。

魔力弾の軌道を予測し、屈みながら犯人に向かって突進。そして犯人が二射目の照準を定める前に、男の腹に掌底を叩き込んで、男の意識をあっさりと刈り取った。

倒れ伏せる犯人を尻目に、シグナムは青い髪の女の子を地面に降ろして、言う。

「もう大丈夫だ。よく頑張ったな」

「あ……あ、ありがとうございました!!」

……こんな状況でも律儀に頭を下げながら礼を少女が言うとほぼ同時に、まるで止まっていた時が動き出すかのように局員たちが犯人を捕らえたり銀行の被害状況などを把握し始めた。どうやら、漸く状況を理解したらしい。

暫くシグナムがその場にとどまっていると、先程の少女の母親なのだろう局員が彼女に話し掛けて来た。

「あの、娘を助けていただいてありがとうございます。私はクイント・ナカジマ。貴方は?」

恐らく事情聴取などを行うのだろう。そう考えたシグナムの行動は……極めて単純明快だ。

何せ彼女は――

「私はシグナムと申します。それとついでに、道を教えてくださらないでしょうか?」

――絶賛異世界迷子中、なのだから。と言うか、どこのキャッチコピーだよ……そんなツッコミが聞こえて来そうな状況なシグナムなのであった。

「これ、脅迫文というより……」

「テロ予告、やねぇ」

聖王教会。そこは簡単に言えば古代に存在した『聖王』という王を崇める場所。

そんな祈りを捧げる場所で、明らかにその様な物とは無縁そうな二人、なのはとギンが見ていたのは一枚の教会宛ての手紙。

中身は、二人の言う通りこの教会を破壊するという犯行予告。目的は不明。そして実行日は……何と明日だったりする。

「で、もしもの時の為に私を呼んだと……私じゃなくても裏月さんか秋翔(あきと)さんで良かったのでは?」

「その、秋翔さんは今ちょうど留守にしていて、お兄様は何かあった時は貴方に頼れと……」

まだ少女とも言える年頃だが、この教会の主とも呼べるカリム・グラシアが少し困った表情でそう言う。

それを訊いたなのはは、あぁ成程、とさほど気にした様子も無く呟く。実際、大して気にしていないのだろう。それは隣にいるギンも同じなのか、平然と差し出された紅茶を飲んでいた。

「まぁそんな事はどうでも良いとして……いい加減、秋翔さんとの仲は進みましたか?」

「へ……えぇっ!? べ、べべべ別に秋翔さんと私はそういう間柄ではありません!!」

(分かりやすい動揺の仕方やなぁ)

ギンの思っている通り、なのはの質問を理解した瞬間にカリムは顔を真っ赤にしてとんでもなく分かりやすく動揺する。

そうしている間にも、楽しいオモチャを見つけたな~、見たいな感じでカリムを弄りまくるなのは。

こうして見ると、普通の女の子の会話に見えるのだろう。しかし、それでもなのはは年相応には見えない。精神的にも、そして肉体的にもそう思わざるを得ない。

――なのはの“さらに身長が伸びた”身体を見ながら、ギンは本当にそう思った。その事をよく解っているのは、何より自分となのはだと言うのに。

それを少女が受け入れ、自分も止めなかった事だとしても……そう思わずにはいられなかった。

「そういう訳で、シグナムは絶賛異世界迷子中……と」

「にゃはは、簡単に言うとそうなっちゃうよねぇ。それで、どうするのお兄ちゃん?」

裏月から聞いた事の経緯を話したさくらが、ヒナギクに行動の選択を促す。いつものヒナギクなら、即答で自らが迎えに行く、と言っただろう。が、今のヒナギクは少し迷いがあった。それはシグナム本人ではなく、その転移した場所……つまりは聖王教会というところに問題がある。

今シグナムが教会にいるかは解らない、しかしいないとも限らないのだ。どちらにしろ、恐らく教会の近くにいる事は確か……彼は教会に行くどころか、余り近づきたくも無いのだ。

彼にとって教会は居心地が悪い。 続きを読む
  1. 2012/03/23(金) 22:03:39|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第12話

地球、海鳴町。幻想‐願い‐の宝石が降り注いだ町は、とりあえずは平和になった。それは、一時的なのかもしれないし、一部の場所だけなのかもしれない。

高町家、朝6時のリビング。そこのテレビからアナウンサーの声が響く。

『3月生まれの貴方!! 気になる人の好感度を上げる為には、髪型を変えると良いでしょう!!』

その瞬間、自身の妹の耳がピクン、と動くのを高町恭也は見た。

朝7時、なぜか高町家に住んでいる少年、ユーノ・スクライアは寝ぼけ眼で高町なのはを見て、何だか違和感を感じた。何か昨日までの彼女と違う気がする……と、ユーノはまじまじ少女を見て、漸く気が付いた。

「なのは、もしかして髪型変えた?」

「まぁね。変かな?」

そう、彼女の髪型だ。今までの様なめんどくささそうに止めていた短いツインテールでは無く、布とリボンでちょこんっと小さく丁寧に左右で止められた、いわゆるお団子頭な髪型。

そして、何時もと変わらぬ表情で言うなのはに対して、ユーノは慌てて言葉を否定した。

「ううん! 凄く似合ってるよ!!」

「そう……良かった」

ユーノの言葉にほんの少しだけ笑みを浮かべたなのはだったが、素早く彼の隣を通り過ぎて何処かへ行ってしまう。恐らく、仕事でもあるのだろうが、何で彼女が髪型を変えたかまだ幼いユーノにはさっぱりだった。

「ふーん……珍しい事もあるんやね」

「わぁっ!? ちょ、ちょっとギンさん! いきなり後ろに立たないでくださいよ!!」

で、そんな惚けるユーノの後ろに相変わらず神出鬼没なギンが独り言の様に呟いた。一体、何が珍しいのだろうか。そうユーノは思い彼に訊こうとしたが、その前にギンが彼の肩にポンっと手を置き、そして――

「キミ、今から乙女心を学ばんと、将来苦労するかもなぁ」

「はい?」

言うなり、ギンはなのはの後を追うように何処かに行ってしまうが、残されたユーノは頭に疑問を浮かべるばかり。

……因みに、彼の勘は近いうちに的中することになったりする。主ともども、本当に勘が良いギンであった。

それと、なぜユーノが高町家に絶賛居候しているかと言うと、行くとこ無いなら来れば? となのはが半ば強引に連れてきたからだ。

余談だが、1人分の生活費を余裕に賄える金額が高町家にいつの間にか振込まれており、それを桃子が知った時になのはと桃子の視線だけの激闘が繰り広げられたのだが……まぁ残りの面々がまた始まった、という感じの表情をしていたので問題ないだろう、多分。

「うにゃあ……」

所変わってヒナギクの家。お茶を飲みながら猫の様な声を出すのは、金髪のツーサイドアップの髪にサファイアブルーの瞳。

本人は否定するだろうが、何処からどう見ても小学生にしか見えない少女、さくらだ。

今はそれを気にした様子も無く、自分以外は誰もいない家で寛いでいる。

ヒナギクは買い物、シグナムは裏月が呼び出しているので、彼女が自然と家でお留守番、みたいな感じになるのだ。

そんな全力で寛ぐさくらを呼ぶ様に、家のチャイムがピンポーンという音を鳴らす。無論、家への来客を示す音だ。多分宅配か何かだろう。そう結論付けたさくらは、返事をしながら玄関に向かい、鍵を開けて扉を開くと……そこにいたのは彼女が予想したものとは全く違う人物だった。

「……冬獅郎?」

「よう、さくら」

銀色の髪、少年の様な体型。しかし、とても少年とは思えない冷静さを持つ者、冬獅郎。そんな彼が、何とも言えない表情で家の玄関に立っていた。

「……何だこれは?」

唐突にそう呟く女性、シグナムの視線の先には純白の宝石がある。何だかんだで場所は裏月の家。何かの用事があったのか、シグナムはリビングで待たされていた。で、テーブルの上にポツンと置かれたその宝石に目が行ったという訳だが……人って、気になる物には触っちゃう人種です。まぁそんなこんなで、彼女はその宝石に触り――瞬間、光に包まれて消えた。

「ん? アイツどこ行った?」

数秒後、タッチの差で裏月がリビングに入って来た。その後ろには、居候中の斬月もいる。辺りを見舞わす裏月だが、当然シグナムはいない。そしてテーブルに置いてある宝石を見て……すごーく嫌な予感がした。

「おい斬月――」

「待たせていた者なら、先ほど気配が消えたぞ」

「気付いてたんなら言えよっ!?」

「なに、お前のイタズラかと思ってな」

「こんな面倒なイタズラするかっ!?」

ごもっともである。大体、裏月はそこまでイタズラ好きでは無い。ただ、そんな事より彼には気になる事があった。

「多分、あの宝石だろうが……何で発動したんだ? 完全にロックが掛かってるはずなんだが」

「恐らく、触れた拍子でロックが外れたのではないか?」

「……そうだとしたら、どんだけ運が悪いんだよアイツ」

完全に呆れた表情で呟く裏月だが、実は斬月の予想は当たっていたりする。ほんの触れた拍子、とんでもなく低い確率でしか外れないロックが外れたのだ。

――詰まる所、シグナムは自覚が無いが変なところで運が悪いらしい。

そんな事より、と斬月が前置き言って裏月に言葉を掛ける。

「彼女がどこに飛ばされたか、解るのか?」

「アレは俺の所縁のある場所に転移するから、多分――」

「教会……か?」

全く同じ時、飛ばされたシグナムが呟きながら見ていたのは、かなりの大きさを誇る教会。その庭の様な場所に、シグナムは飛ばされていた。

それにしても随分と大きいな……等とシグナムは冷静に考える。見知らぬ土地に飛ばされてこの思考……冷静なのかマイペースなのか、よく解らない。

「何者です!?」

「ん?」

とまぁ冷静に立ち尽くすシグナムだったが、急に足音と怒声が聞こえて其方に視線を向ける。

そこにはシスター服……いや、瞬間的に騎士甲冑になった少女がいた。なにやら妙に殺気だっており、何者だと訊いておきながらいきなり跳躍し、両手のトンファー(の様な物)をシグナムに向かって振るう。

かなり高速なフットワークだ。が、相手はまだ少女……シグナムにとっては幾ら速くとも捌くのは容易い。

素早く短刀を取り出し、振るわれたトンファーをあっさり弾きながら、一瞬にして天鎖斬月を解放して距離を取った。解放した時点で少女を斬ることは容易かったが、今のシグナムは戦闘をする事が目的では無いので、距離を取るという選択肢を彼女は選んだのだ。

攻撃をあっさり躱された少女は驚愕するが……シグナムの持つ刀を見て、その表情がさらに驚きに変わった。

「な、なぜ貴方がその刀を――って、待ちなさい!!」

「待てと言われて待つ者はいない」

先程も言ったように、今のシグナムの目的は戦闘ではない。そんなシグナムが少女の隙を見逃す筈も無く、定番のセリフを残して速攻で撤退する。

幾ら速かろうが、相手は『天鎖斬月』の所持者。魔導師が追い付け無いのが解っているのか、少女は諦めた表情で追い掛ける事をしなかった。

――それに、今この教会は緊急事態なのだ。

同時刻、再びヒナギクの家。突然の訪問にも、さくらは冬獅郎を家に招き入れてお茶まで出していた。
まぁ、二人からすれば当然だったりするのだが。そして、お茶を出したさくらが、何かを思い付いた顔で冬獅郎に言う。

「ねぇ冬獅郎、何か食べたい物ある?」

「甘納豆」

「うにゃあ……ボク、果物しか出せないって、冬獅郎は知ってるよね?」

「冗談だ。リンゴで良いよ」

笑みを浮かべて言う冬獅郎に、さくらは笑顔で頷き、そして手をギュッと握り、頭の中にリンゴのイメージを浮かべて……手をパッと開く。

すると、ポンっという音が付きそうな感じで、何とリンゴが突然出現した。さくらはそのリンゴを冬獅郎に渡し、彼も大して驚く様子も無くリンゴを受け取り、食べ始めた。

「しっかし、相変わらず変わった『魔法』だよな。手から果物が出せるって」

「ボクに言われても困るんだけどね……だってこれ、おばあちゃんがくれた魔法だもん。それに、自分のカロリー消費するから、ボクが使っても意味ないし。まぁそんな事より、冬獅郎はボクに何か用なの?」

さくらの言葉に、冬獅郎は目的を半分忘れていたのか、ああそうだったな、と言いながらさくらを真剣に見て――

「頼むさくら。この家に住まわせてくれ」

笑顔のさくら固まる一言を言ってのける。固まったさくらは、次の瞬間誰もが驚く勢いでイチゴの様に真っ赤になった。

冬獅郎はどこに赤くなる要素があるのか、と思ったが……敢えて言おう、端折り過ぎであると。

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  1. 2012/03/23(金) 20:56:49|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第11話(無印編エピローグ)

死天‐そらしに‐

その凄まじい人知を超えた光は、離れていたアースラも観測していた。

時の庭園を覆い尽くし、まるで浄化するような光には色が無い……正確に言えば、ヒトには理解できない色だった。

やがて光は収まり、圧倒的な輝きを放っていたモニターは静けさに支配される。それはアースラの中に居る魔導師組も同じで、もう何も映っていないモニターを見ながら沈黙する。それだけ、衝撃的な光景だったのだろう。

なにせ、世界の一つや二つなど簡単に消し飛ばすジュエルシードを、いとも簡単に消滅させたのだ。

しかし、その沈黙を破ったのも……それを行った人物だった。

「終わったぜ」

「見れば分かる」

魔導師組が焦って声のした方を向くと、そこには蒼の髪をした裏月がどうやってか丁度アースラに降り立ったっていた。アースラのシステムをどうやって潜り抜けたんだ……という疑問を口にする間もなく、斬月の返しを受けながら裏月が一度光を放つ。

その光が消えると、裏月は何時も通りのオレンジ色の髪に戻っていた。そして何事もなかったかの様に話を始める。

「さぁて、これで今回の依頼は終了だな」

「そうですね。まぁ後は依頼金額の交渉くらいです」

「……加減してやれよ?」

「さぁ? お金はあって困る物じゃないですから」

……加減するつもりなど微塵も無い様な、なのははさて置きだ。先程の光景から漸く回復したクロノが、何も説明する気がないらしい裏月たちに向かって叫ぶ。

「ちょっと待て!! とりあえず、さっきの事を説明しろ!!」

「蒼天と俺が融合して、単純にエネルギーを放った。以上」

「はしょり過ぎだろう!?」

すかさず叫ぶクロノだが……実ははしょりも何も無く、単純にその通りの事を裏月は言っているのだが、天鎖斬月の知識が無いクロノに理解しろというのは無理な話だろう。

因みに、なのははもう既にリンディ相手に金額交渉を行っていたりする。で、未だに叫ぶクロノに――ポスン、と一人の女の子をヒナギクが渡した。

「へ?」

「その子、ちゃんとお墓を作って上げてね?」

ヒナギクが渡した少女……今は事情聴取を受けているプレシアが見れば仰天しているであろう、フェイトと瓜二つの少女、アリシアだ。
アリシアの遺体をなぜヒナギクが救出していたかと言えば……驚異の直感で解放した千本桜でトンネルを作り、そこからアリシアの遺体を連れ出して脱出したという感じでだったりする。

――どこまでもハイスペックな美少女少年、それがヒナギクである。まぁそれを成した彼も説明する気は無く、背を向けてアースラブリッジの出口に向かって歩き出しながら裏月に声を掛けた。

「じゃあ裏月くん、私は帰るから。あんまり長居するとなのはに怒られそうですしね」

「ああ。俺も、後でシグナムとかを連れて一緒に帰る」

「あ! 今は次元断層の影響で転送は――って、あれ?」

エイミィがその言葉を言い終えるころには、もうヒナギクはアースラブリッジから姿を消している。なんとも不思議な気分になるエイミィを見て、ふと裏月が誰にも聞こえない程度の声量で呟いた。

「神様の真似事……か。もし神様がいるなら、アイツほど神様に愛されながらも愛されていない奴も珍しいな」

……その呟きを偶然耳にしていたシグナムが、その意味を完全に理解する時は来るのだろうか? まぁ、それは彼女次第と言ったところだろう。







◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

高町家の屋根の上。深夜の時間に、その場所でグラスに注いだ飲み物を飲みながら美しく浮かぶ星を見上げる人物が居た。

またゆっくりとグラスを口に運び、それによってグラスの中の氷がカラン、という音を立てる。と、同時にもう一人誰かが屋根の上に立った。

「まーたお酒飲んでるん?」

「良いでしょ別に。私の勝手なんだし」

現れた青年、ギンの言葉をまるで気にする様子も無く、再びグラスに口をつけるなのは。対するギンも、特に気にすることなく彼女の隣に腰を掛けた。どうやら、先程の言葉は特に気にしてはいなかったようだ。

そして隣に座るなのはを見て彼は思う――また背が伸びているな、と。だが、そんな思いをおくびにも出さずに会話を始める。

「今回の依頼、どうやった?」

「そうだね……やっぱり、改めて分かったよ」

「何が?」

「――人は己の願いの為なら、どこまでも残酷に成れる……って」
それが、自分の大切な人なら、なおさら……そう少女は呟いた。そうだ、ヒトは大切なものの為ならば、どこまでも残酷に成れる生き物。例え、それが決して取り戻せないものだと解っていても。

プレシアはフェイト・テスタロッサという存在があったからこそ、なんとか戻ってこれた。歪んだ願いを想うのがヒトならば、それを止めるのもまたヒト、という事なのだろう。

「それがヒトやから……ね」

「……そう、なんだろうね」

なんとも言えない表情で、またグラスに口をつけるなのは。ヒトは、願う。叶わぬことを知らず、己の器の小ささすら理解できない者もいる。

――ヒトがどれだけ小さいかを、ちゃんと解っている人はどれだけいるんだろう?

「まぁでも、事件は一応解決したんやし、もうゆっくりしてええんちゃう?」

「どうかな? ……そのうち、また厄介事が舞い込んで来そうだけどね」

「……キミの予感は良う当たるんよなぁ」

そんな苦笑気味のギンの言葉を聞きながら、少女は屋根の上で立ち上がる。その手には、空になった酒瓶があった。どうやら、酒が無くなったらしい。

「お酒取りに行くん?」

「それも有るけど……そろそろ、お墓参りに行きたいなぁ」

「――そっか。ええんやないの。頻繁に行っても、あの子は喜ぶやろうし」

勿論、今すぐ行くわけじゃないけど、となのはは苦笑気味に付け足す。それに対してもギンは、少し優しげな笑みを返した。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

――パタン。渇いた音を立てて、誰かが書物を閉じる。その誰かが、背の一対二枚の純白の翼……そして“金色”の髪をなびかせ、立ち上がった。

「これは、まだ始まり。長い物語の始まり(プロローグ)だよ」

必然で始まった物語。しかし、まだ何も解っていない。なぜ、高町なのはは『出来損ないの魔法使い』を名乗るのか。

何を想い、刀たちは彼らと共に居るのか。その中でも、さくらと冬獅郎、それにギンの関係は何なのか。

なぜ――烈火の騎士は彼の元に現れたのか。

「誰も知らない物語……って言っても、私は知ってるんだけどね」

彼は、綺麗な“蒼の瞳”を見せながら楽しげに笑う。

――烈火の翼が羽撃たくのは何時なのか……それはまだ解らない。

「さて、観てみよっか。烈火の翼が羽撃たく……物語の続きを。数多の願いが交錯する――歪んだ運命を」

彼の手には、いつの間にかカードが煌めいていた。

何かのラインが入ったカード。それを手に持って、彼は扉に向かう。
何処からか、笛の音のような音楽が聞こえた。

――扉が開く。全ての願いが交錯し、誰も知らない物語が始まる。

始まり(プロローグ)はお終いだ。歪んだ物語の役者は揃いつつある。
さぁ……何処へ向かうかも解らない歪んだ運命が織り成す物語の――開演だ。
  1. 2012/03/22(木) 22:24:49|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第10話・後編

裏月と斬月が合流したのと時を同じくして、侵入者を殲滅する為に放たれた数百の傀儡兵。それの一部が、たった一人の標的を撃墜するべく幾つかある一方通行の通路に集結していた。

その標的が壁を破壊しながら侵入してきたのを感知し、傀儡兵が一斉に砲撃を放ち出した。しかし、侵入者――高町なのはは翼と自身の動体視力と反応速度を以って、空中で無駄の無いダンスを踊る様に避け、手に持ったマギリングライフルのトリガーを引き、次々に傀儡兵を掃討していく。さらには、自身のデバイスと会話までする始末だ。

「そういえばエクスシア。裏月さんが、新しい武装を追加してくれたんだっけ?」

『はい。使用しますか、マスター?』

訊きながら、なのはは両腰の武装を跳ね上げ、レールガンで傀儡兵を狙い撃ち、続いて両肩のプラズマブラスターで傀儡兵を爆散させる。

そしてお返しとばかりに向かって来る熱線の束を、アクロバティックな動きで回避して、何事もなかったかの様に口を開いた。

「う~ん……別に使わなくて良いかな。触ってもいない武装を、いきなり実戦で使うのもあれだし、何より名前が私には似合わないよ。普通にルシファーの方がお似合い――」

『ドライブ・オン。武装コード、ソードブラスター『メサイア』起動』

「エクスシア……」

困った表情のマスターを完全無視で、エクスシアは武装を起動した。それは、エクスシアなりの気遣いと信頼なのかもしれない。

なのはの持っていたマギリングライフルが送還され、代わりに巨大な武装がエクスシアから転送されてくる。

その武装は、名前の通り剣銃という形状だった。上段部には砲撃を放つ為の砲門、下方部には純白のクリスタルの刃があり、持ち手の下には手を護る様に彼女用にカラーリングされた白いシールド部分もある。

「へぇ、ルシファーの接近戦仕様を刃に変えたみたいな感じだね?」

『マスターが、砲撃仕様を無視して『ルシファー』で突撃するからです。そもそも接近戦仕様も何もありませんよ、ルシファーは』

「あはは、気にしない気にしない」

なのはがそう笑いながら、ソードブラスター『メサイア』を構え、翼をエクセリオンモードに移行させて……一気に加速し、敵陣の真っ只中に突撃した。

「処刑人‐エグゼキューター‐、高町なのは!! 目標を殲滅します!!」

『――言った傍から突撃しないでください、マスター!!』

そりゃあもう、エクスシアの叫びは虚しく響き、次の瞬間には大量の爆発音が辺りに谺した。

「あれか……」

桜色の髪をポニーテールに括り、手に持った天鎖斬月によって、凛々しいという言葉が良く似合う女性、シグナムが目的の場所に到達した。

彼女の目に映っているのは、球体上の部屋の中心に浮かぶ巨大なコア。時の庭園を動かす為の魔力コアだ。

当然、そんな重要な物が剥き出しで置かれている訳が無く、しっかりと強力な魔力防壁で覆われている。

流石にこれを壊すのは難しいだろう、とアースラのオペレーターがシグナムに通信を繋ぐ。

『あの、流石にその魔力防壁を力ずくで壊すのは厳しいと思うので、今から言う停止方法を――』

『シグナム。裏月からの伝言だ。面倒だから跡形もなくぶっ飛ばせ、だそうだ』

だが、そんなもの余計なお世話だと言わんばかりに、月天が通信を割り込ませてシグナムに言葉を伝えた。

それに対してシグナムは……左手で顔を覆いながら応える。

「要はアレを壊せば良いのだろう? 往くぞ、天鎖斬月――虚化(ホロウか)」

……瞬間、シグナムを純白の奔流が覆い尽くす。それだけで、強烈な重圧が部屋を支配していく。救いは、この部屋にシグナムしかいなかったことか。

奔流が晴れる。そこに居るシグナムは、一枚の仮面を顔に被っていた。シンプルな髑髏状の仮面は、左半分が血の紋様で染まっていて……見る者に恐怖を与える様な仮面。それに応じてか、眼球が黒、瞳が真紅に変わる。

そして事実、アースラクルーはモニター越しにそれを見ただけで、言い様の無い恐怖を感じた。そしてシグナムは天鎖斬月を……振るった。

「『月牙……天衝』」

声がダブって聞こえるのは、アースラクルーがモニター越しに見ているからだろうか? それは解らない……しかし、ダブった声が聞こえた時には、強烈な爆音が響き――次の瞬間には、駆動炉のコアが跡形もなく消し飛んでいた。

……が、それによって唐突に警戒音が鳴り響き、大量の傀儡兵が開いた扉から吐き出されて来る。

恐らく、駆動炉が攻撃された時の為の緊急トラップなのだろう。対応しようとシグナムが天鎖斬月を構えると、今度は聞き慣れた声が念話で聞こえてくる。

【シグナム。その部屋から退避して】

【主? 何をするおつもりで?】

【……面倒ですから、部屋ごと消し飛ばします】

その言葉を聞いた時には、シグナムは球体上の部屋から退避していた。あの主の言葉はマジだ。本気と書いてマジと読むくらいマジだ。
部屋から退避したシグナムが見たのは、球体上の形をした部屋の外装を……残らず全て覆い尽くす数億を超える桜の刃だった。

そして――近くにいたヒナギクが部屋に背を向け、告げる。

「吭景(ごうけい)・千本桜景厳」

見た人間はそろってこう言うだろう。『スケールが違う』……と。この時点で、時の庭園から駆動炉のあった部屋が、跡形もなく斬砕された。

先程のコアの爆発すら越える衝撃に、玉座の間でもプレシアが何事かと調べて……表情を唖然とさせる。

「ねぇ……駆動炉が跡形もなく消滅してるんだけど?」

「「ヒナ(ヒナギク)だからな」」

いや、ヒナギクってだれよ? そもそもどこまでデタラメなのよ、貴方たちは? という考えがプレシアの頭の中を過るが、もう過ぎたことだと思考を切り替えて裏月と斬月の二人を見る。

因みに、真子は雑魚を片付けてくるわ~、とか言ってどこかに行ってしまったいたりする。

「で、まだ続けるのか? プレシア・テスタロッサさんよ」

「あら、貴方に名前を知られているなんて光栄ね。その天才的な頭脳で『神童』とまで呼ばれた人間……裏月くんにね」

「それで呼ばれるのも、久しぶりだな」

「貴方も、私の事を否定するのかしら?」

その言葉の意味は、もちろん彼女が行おうとしている死者蘇生。多分、否定するのだろうとプレシアは思う。彼らに自分の願いが理解できるとも思えない。だからこそ、彼らはここに乗り込んで来たのだろう……と。

しかし、裏月が放った言葉は、プレシアの予想を覆す言葉だった。

「別にアンタを否定するつもりは無ぇよ。俺には、そんな資格は無いしな」

「どういう事かしら?」

「俺も……少し違えばアンタと同じ場所に居たかもしれない、って事だよ」

それは……彼も自分と同じ願いを持っているという事なのだろうか? なら、なおのこと解らない。なぜ、なぜ――

「ならなぜ、貴方は自分の願いを叶えないのっ!? 貴方なら出来る筈よっ!! 神童とすら呼ばれた事のある、貴方なら!!」

「出来ねぇよ」

「なぜ!? 貴方なら――」

「違う」

叫ぶプレシアの言葉を遮り、裏月が静かに言葉を紡ぐ。静かだが、その言葉には彼女を止めるだけの力強さがあった。

そのまま、彼は言葉を続ける。

「アンタの聡明な頭なら解るだろ? 俺はしないんじゃない、出来ないんだよ」

「なに……を……」

「……何度も、何度も方法を探したさ。それでも、死者を蘇らす事なんて、出来やしなかった」

彼は願った。大切な人を生き返らせたい、と。でも、それはまさに叶わぬ“ユメ”でしかなかった。

「俺は人間だ。たった一人のちっぽけな人間なんだよ。幾ら天才と呼ばれようが、それは変わらない。神様でもなんでも無いんだ」

「私は……」

「こいつは受け売りなんだがな……人ってのはさ、いつ死ぬか解らないんだ。だから、今日を、明日を全力で生きる。それにさ……もう休ませてやれよ、娘さんをよ」

「どういう、意味かしら?」

裏月の問いに、プレシアが理解できないという風に返す。それに応えたのは裏月ではなく、口を出さずに佇んでいた斬月だった。

「お前のその強い願い。それが、お前の娘の魂をこの世に縛り付けているという事だ」

「そんな非科学的な事が――」

「あるんですよ、実際にね」

言葉を遮ったのは、少女の声と天井を撃ち抜く砲撃音だった。それと共に、翼から粒子を撒き散らして少女が着地する。

「……随分と、知った様な口を聞くのね? 処刑人(エグゼキューター)、高町なのは」

「まぁ、私にもいろいろ有りますからね。それに、貴方の都合で他人を巻き込まれると迷惑なんですよ。そうだよね、ハラオウン執務官」

その問いかけに、瓦礫を吹き飛ばしながら侵入する三人の人物の内の一人――クロノ・ハラオウンが全力で応えた。

「ああ!! 世界は何時だってこんなはずじゃないことばかりだよ!! 昔から何時だって、誰だってそうなんだ!! 不幸から逃げるか戦うかは個人の自由だが、他人を巻き込む権利は誰にも無い!!!!」
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  1. 2012/03/22(木) 22:18:43|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第10話・前編

「……久しぶりね。今は、斬月だったかしら?」

「ほぅ、お前が知っているのは意外だな」

「少しでも外に出れば、貴方の名前くらいすぐに聞くわよ。有名人なんだから」

まるで世間話の様に会話をする、プレシアと斬月。だが、状況はとてもではないが世間話をしていられる状態ではない。

プレシアの手で暴走させたジュエルシードが、今も変わらず激しい光を放っているのだ。にもかかわらず、二人は何ともないように会話を続ける。大物というか何というか……。

「それで、貴方どうやってここに来たのよ? 結構面倒な座標にしておいた筈なんだけど?」

「なに、優秀な道先案内人が居たのでな」

「誰が道先案内人だい!!」

斬月が何ともない風に言った瞬間、彼の服のフードに隠れていた小犬――アルフが顔を出した。それを見たプレシアは、なるほどね、と呟いて魔法陣を展開する。

どうやら、自分は微妙なところで詰めが甘いらしい。彼が手紙を出しただけで、ここまで行動する人間だとは少し予想外だったし、まさかアルフがその彼に出会うのも予想外だった。けど、今は時間がないのだ。

「悪いわね。あんまり話をしている時間は……ないのよっ!!」

プレシアの叫びと同時に、前方に展開された魔法陣から巨大な雷撃が放たれる。それは、彼女の娘のフェイトですら比べ物にならない程に巨大な雷。

それなのに、フェイトの半分もチャージをしたようにも見えない。だが、たったそれだけでこの威力をなしえるのは、彼女が大魔導師と呼ばれる所以の一つだろう。が、その巨大な雷撃は……標的に到達する前に“斬り払われた”。物理的に斬り払われた雷撃は、辺りを包む爆炎へと変わる。しかし、それすらも斬り払い姿を現す者――斬月が居た。もはや、ちょっとやそっとの事では驚けない気がするアルフも、健在だ。

あっさりと雷撃を斬り払った彼の手には、先程まではなかった刀がある。柄頭の途切れた鎖に卍型の鍔……全てが漆黒に彩られたその長刀は、持ち主の『強き信念』を支える為の刀に他ならない。

「……貴方、本当にデタラメね。白河家当主の名は伊達じゃない、ってことかしらね」

「お褒めいただき光栄だ。それと、時間が無いならケンカでもしながら喋るとしよう」

「えぇ……そうさせてもらうわよっ!!」

瞬間、様々な方向から雷撃が放たれ、それら全てを刀で斬月が斬り払う。

――今、Sランクオーバー、大魔導師プレシア・テスタロッサと白河家当主にして最強の援軍、斬月のケンカが……始まった。

それを待っていたかの様に、時の庭園の防衛システムが作動する。それを素早く観測したのは、二人をモニターしていたアースラだった。

「庭園内に魔力反応を複数確認、いずれもAクラス。数は……何これ!? 三百、三百五十、どんどん増えていきます!!」

凄まじい勢いで増えて行く、魔力反応。これには、執務官のクロノも驚きを隠せない。一体、どれだけの戦力を用意していたのか、と。
まだ増え続ける反応に、アースラもどう動けば良いか行動に迷う。流石に、アースラの戦力であの軍勢の中に突っ込む事など不可能だ。
そんな状況の中で……アースラのブリッジに入っていた裏月が、動いた。

「邪魔だ。ちょっと退け」

「えっ、貴方なんです……か?」

邪魔とまで言われたエイミィの言葉の疑問は、最終的に彼に向けられた物ではなかった。正確には、彼の行動に向けられた物。

エイミィを退かした裏月が、キーボードを左手だけで叩く。が、その叩く速度が問題だ。少なくとも、自分が出来る速度の数倍。それを彼は“片手”でキーを叩いている。この行動に驚くな、という方が無理だろう。

その行動によって、アースラのモニター全体に見取り図の様な物が映し出された。それを見たなのはが、この地図が何なのかを素早く理解した。

「裏月さん、これってこの庭園の地図ですよね?」

「ああ。あっちのシステムに介入して映し出した。あとさ……何かヒナが庭園に侵入してるみたいだぜ?」

その行動はまさに電光石火。裏月の言葉を聞いた瞬間、なのはの耳には携帯電話が当てられている。その行動は、少なくともアースラクルーに見えた者はいなかったとか。

ほどなくしてコール音が鳴り止み――代わりになのはの怒声がアースラ艦内に鳴り響いた。

「ちょっと師匠!! なに普通に突撃してるんですかっ!? え、レジィおじさんの依頼? いや、師匠は自分の――」

言い掛けて、気付いた。ここには、まだ自分の師の状態を知らない人……シグナムが居るのだ。事実、かなり不思議な目で自分を見るシグナムが見えた。

これ以上会話を進めると、何か彼女に悟られてしまうかもしれない。なら……多少は妥協するしかないだろう。

「――10分。10分で戦闘を切り上げて、さくらにバトンタッチしてください。良いですね?」

そう言って、なのはは電話を切って携帯をしまう。その電話の相手、ヒナギクも同じく電話を切って携帯をしまった。彼が居る場所は、時の庭園の巨大な通路。当然、その近くには凄まじい数の傀儡兵が迫っている……のだが、ヒナギクとさくらに冬獅郎の三人は全く焦った様子が見られない。

「さてと、変な機械が大量に来てるみたいですけど、これってタイミング良かったんですかね?」

「良かったんじゃねぇか? 遠慮なく叩き潰せるしな」

「うん。じゃあ始めようよお兄ちゃん」

言いながら、さくらは自分を見つめる視線に気付いて、冬獅郎に視線を向ける。自分に向けられた視線からは、彼らしい心配の気持ちが感じ取れた。

そんな彼に多少苦笑しながらも、しっかりと安心させるように笑顔で言葉を掛けた。

「大丈夫だよ、冬獅郎。ボクは……大丈夫だから」

「――そうか」

一言、それだけ言って冬獅郎は反対側の傀儡兵を駆逐する為に移動する。その姿に、ヒナギクは何かを察する。この二人には、自分も知らない何かがあるのだな、と。

でも、大して訊く気もなかった。どうやら自分が入り込める関係ではないようだし、さくらがやはり話したくなったら話してもらえばいい。

「お兄ちゃん」

「うん、分かってるよ。さくら」

ヒナギクとさくらが向かい合う。と、その中心には一本の刀――千本桜が刺さっていて、辺りの空間がまるで二人だけの物の様に錯覚させられる。それを二人が……優しくゆっくりと掴む。

すると、さくらがまるでヒナギクの中に入り込むように……消えた。
それと同時、数百を越える傀儡兵が壁を破壊して攻撃対象、ヒナギクに向かって突撃する。

冷ややかにそれを見る彼が、逆手に構えた刀を地面に――離した。

「乱れ咲け、桜の華――」

刀は地面に吸い込まれるように消え、同時に足元から立ち昇るのは圧倒的な千本の刀身の葬列。

彼方がたった数百のくだらない傀儡兵なら、ヒナギクは……数億を超える美しき桜の刃を司る。

ヒナギクが瞳を開く――その瞳の色が、美しい蒼から、まるで魔女のような紅に変化していた。

「卍解(ばんかい)――千本桜景厳(せんぼんざくらかげよし)」

直後、全ての刀身が舞い散る。それを認識したものの辿る運命は、“格”の違いを見せ付けられ……悉く塵となって消え失せるのみ。
一方通路の反対側、そこにも数百を超える傀儡兵が壁を破壊しながら突撃し……瞬間、先行して突撃していた傀儡兵が氷結した。

「乱れ咲け、雪の華――」

それを成した人物、冬獅郎が静かに呟く。持った刀――氷輪丸から圧倒的な冷気が溢れ出し、それだけで彼の周りが凍り付く。

――対象、危険、破壊。

傀儡兵のシステムはその言葉で埋め尽くされ、一斉に砲撃を放つ。

その行動が無駄な足掻きとは……機械には認識できないだろう。

「卍解――大紅蓮氷輪丸(だいぐれんひょうりんまる)」

瞬間、砲撃の全てが凍り付いた。いや、傀儡兵の半分以上も氷結する。

氷の龍が融合した。言葉にすれば、そうだろう。刀身の鍔が微妙に変化し、元々の鍔に少しずらした鍔が重なっているような形状となっていて、その刀を持つ腕から連なる様に巨大な翼を持つ西洋風の氷の龍を、冬獅郎自身が纏っているかのようになる。

最後に――まるで彼を護るように背後に三つの氷華が浮かんでいた。

「さぁて、ヒナ達も暴れ出したみたいだし、俺たちも行くか?」

「当然です。シグナムさんは駆動炉を適当にぶっ壊してください。裏月さんは――」

「真子と一緒に斬月の所に行く。月天、後は任せる」

「わーてるよ。おもいっきり暴れて来い」

月天……一つの本だった筈の彼が、なぜか人間の姿になってアースラのシステムを操作していた。それも、裏月と瓜二つ。違うところは、髪が白くなっているのと前鐔の付いている帽子を被っているところか。

まぁ、そんな事を気にするメンバーは彼らの中には……アースラクルーくらいしかいない。が、今はそんな事を気にしている場合ではないと、忙しく動き出す。しかし、その中で何もせずに動かないのは――フェイトだ。

もう、何をしていいのか分からない。

――私は、何のために生まれてきたのかな?

座り込んだ少女の前に誰が立ち、明かりを遮って影を差す。


「君……は」

「ここで終わるの? フェイトちゃん」

処刑人(エグゼキューター)、出来損ないの魔法使い、高町なのは。

「良いの、このままで?」

「私、何をしていいか分からないよ……」

「…………」

「私は――何のために生まれたのかな?」

答えなど、期待していない。でも、虚ろな瞳でそう問い掛けてしまう。

彼女に答えられる筈が無い……だが、彼女は唐突に切り出した。

「意味の無い生命(いのち)なんて無い。それを否定することを――私は認めない」

「え……?」

フェイトが顔を上げる。そうだ、自分は認めない。意味の無い生命など、有る訳が無い。

それに……少女はまだ始まってすらいないのだ。

「変わろうよ、フェイトちゃん」

「変わ……る?」

「フェイトちゃんは、まだ始めてすらいない。お母さんに何も言えてないでしょ?」

まだ始めてすらいないなら、始める為に変わればいい。それが許されるのが、ヒトなのだから。

なのはが後ろを向き、歩きだす。が、一度だけ立ち止まり、言葉を放った。

「フェイトちゃんが変わった先には……きっと、お母さんがいるよ」

時の庭園、玉座の間。そこで激しい雷光が輝き、地面が割れ壁が砕け散る。

それは戦闘の激しさを物語っている……筈だった。そう、その筈なのだが、玉座の間の中央には斬月が佇んでいた――無傷で。

「はぁ、はぁ……あ、貴方、本当の本当にデタラメね」

「お褒めいただき光栄だ」

「貶してるのよっ!!」

頭に怒りマークが付きそうな勢いで、プレシアが斬月に向かって叫ぶ。

まぁ、気持ちは解らなくもない。彼女は仮にもSランクオーバー、限定的にならSSランクの魔導師だ。その彼女の雷撃を、斬月は全て“斬り払って”いるのだ。

しかも――

「それに貴方、その刀の力……微塵も使ってないわね?」

「む、流石にバレたか?」

「当たり前よ。私を誰だと思ってるのよ」

彼の持つ漆黒の刀、天鎖斬月の力を斬月は全く使っていない。単純な技量のみでSランクオーバーの魔導師の攻撃を残らず斬り払う。もはや神業とかそんなレベルではないことを、彼は涼しい表情であっさりとやってのけている。

もう、呆れるとかを超越してるなー、とかアルフは遠い目で思っていたりするが、気にする事は無い。
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  1. 2012/03/22(木) 22:12:34|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第9話・後編

なのはとフェイトが戦いを始めたのと同じ時、一匹の小さな犬が人気の無い公園で倒れていた。どこも怪我をした様子はないが……必死に動かない身体を動かそうとするのは、たった今戦闘開始したフェイトの使い魔、アルフだ。

何時もとは違う姿なのは、極力魔力の消費を抑える為。しかし、自身のマスターとのリンクを切られた状態では、とてもでは無いが魔力の回復は間に合わない。

万事休す……そう思った瞬間、自分の身体が誰かに抱えられる感覚をアルフは感じた。

「無事か? ……この残留魔力の感じ、プレシアだな」

「あ……アンタ、プレシアを知っているのかい?」

「まぁ、一応友人と言ったところか」

「だったら頼むよ……フェイトを……プレシアを助けてくれっ!!」

「――ああ、任せておけ」

アルフの必死の頼みに迷いなく青年――斬月は頷く。また一人、役者は舞台に出揃い始める。

少し時間は進み、一人の美少女に見える少年――ヒナギクが繋いでいた電話を切って、携帯をしまい呟く。

「さて、私の弟子には悪いですけど、そろそろ派手に動きましょうか……ん、貴方は」

「冬獅郎?」

近づいてきた人物の状態……を本人が名乗る前にヒナギクの近くに居たさくらが当てる。

当てられた少年――冬獅郎が微妙な表情をしながら口を開いた。

「……たくっ、俺の主も人使いが荒い。お前らを手伝ってやれ、だってよ」

「あら、雪華ちゃんにはバレてました?」

「そこは、俺の主がちょっと変わってるって思ってくれ」

「うにゃあ、それは言って良いの、冬獅郎?」

……因みに、彼が自分の主が直接行こうとしたのを必死に止めたのは別の話だ。

「てめえ、自分の職業考えろよっ!? 怪我したらどうすんだ!?」とか「――もしかして、アイツに惚れたのか?」とか言って頑張って説得したとだけ、彼の頑張りを報告しておこう。

「じゃあ、そろそろ行きますか」

「どうやって行くんだ?」

「知り合いの一人でも居れば、大雑把でも転移できるんですよ、私は」

言いながら、彼は背中から“翼”を生やす。一対、二枚の純白の翼。その翼が、願いを受けて光輝く。

運命を背負う者……ヒナギクも舞台へ上がる。後は――幕が上がるの待つだけだ。

時間は戻り、空中に舞台を移し海上で白と金の軌跡を描きながら互いの得物で斬り合う、なのはとフェイト。

だが、その表情は対照的。フェイトは厳しい表情を浮かべ、なのはは終始軽い表情を浮かべている。

フェイトが先端に魔力刃を成形した形態、サイズフォームのバルディッシュを横凪ぎに振るう。が、それは身体を一回転させながら刃を躱し、その勢いを殺さずにマギリングサーベルを振るった。

「ほらほら、もっと上手く避けないと当たっちゃうよ?」

「くっ……このっ!!」

ギリギリで避けたフェイトを嘲笑うかの様に、なのはは余裕の表情だ。
そんな少女の態度に苛立ちながらも、何とか冷静さと保ち距離を取り、体の周囲に発射体(フォトンスフィア)を成形し攻撃に転じる。

「フォトンランサー! ファイ」

「遅い」

しかし、その四つのスフィアから放たれる筈だった物は、放たれなかった。なのはの左手には、スフィアを一瞬にして全て撃ち抜いたマギリングライフルがある。

フェイトは再び驚愕を隠せない。今の魔法は、自分の中でも信頼の置ける物だ。それをあっさり対処されただけでなく、遅いとまで断じられるなんて。

接近もダメ遠距離もダメ。ならばどうするのか? 少女の頭では必死に戦略を練っては、すぐに無駄だと破棄していく。

「どうしたの? まさか、もうお終いじゃないよね?」

「っ……はああああぁぁぁぁっ!!!!」

「――へぇ。まだやれる見たいだね」

当然だ。自分は敗ける訳にはいかないんだ。少女は、自分の魔力を込められるだけ魔力刃に込めていく。

同時に、瞬間的に加速できる状態にもする。自分が今からするのは、策も何も有ったようなものではない。だが、相手の少女に対して策が無いなら、真っ正面から力で勝負を挑むしかない。

フェイトは――一気に加速、バルディッシュを全力で振り下ろした。
対するなのはは、ライフルをしまった左腕で三角形のシールド、ラウンドシールドを成形してそれを防ぐ……が、全力で魔力を込めた攻撃だ。シールドに刃が食い込み、どんどんと罅が入っていく。

――この距離なら砲撃は撃てない。いける!!

「ねぇフェイトちゃん、二つ良い事を教えて上げる」

「え……?」

だが、そんなフェイトの考えとは裏腹に、なのはの表情は全くの余裕。
フェイトはこの時点で気付くべきだった。なぜ、速くともこんな単調で事前予測が可能な攻撃を……彼女は“片手”で防いだのか。

「覚えといた方が良いよ。“最良の戦術を行う時こそが、最大の危機”そして――」

「なっ!?」

なのはの空いた右腕……それが、シールドの内側に魔力球を成形し、なのはが右腕を溜める様に引く。
それに反応したフェイトがすぐに後退しようとするが、食い込んだ刃の所為で一瞬だが行動が遅れる。

退避するフェイトに向かって……なのはは遠慮なく魔力球を“殴った”。

「私が砲撃を撃てるのは――エクスシアからだけだと思わないでよっ!!」

「くっ、ああああああぁぁぁぁっ!?!?」

殆ど零距離から放たれた砲撃。圧縮された桜色の魔力が、強引に展開したシールドごとフェイトを押し返していく。

なのはは一度魔力を圧縮、そして自身の拳でそれを爆発させる事によって砲撃を放つことが出来る。つまり、現時点で彼女オリジナルの砲撃魔法とも言える、ディバイン・バスターのカウンターバージョン。

当然、そんな物を零距離から喰らおうものなら只では済まない。ギリギリでシールドを張ったとはいえ、バリアジャケットは半壊状態になり何とか防ぎ切れたくらいだ。
そんな彼女の四肢体を……白い光の輪が拘束した。

「えっ!?」

レストリクトロック。バインド系統の魔法で、発動から完成までの間に指定区域内から脱出できなかった対象全てをその場に拘束するもの。なのはが指定したのは、フェイトが突撃した場所から自分の場所まで……つまり――

「ゲームオーバーだよ、フェイトちゃん」

エクセリオンモードの翼を展開し、なのはがフェイトを見下ろす。

言いながら、彼女が胸の前でパン、と両手を合わせる。それはまるで……神への祈りを捧げる様だった。

両手を合わせたなのはが、少しずつ合わせた手を放していく……その中心には、桜色の球体が魔力を凄まじい速度で吸収していた。

バインドで縛られたフェイトが、自然と震える声でその魔法の正体を言い当てる。

「集束……砲撃っ!?」

「ご明察。見せて上げるよ、私のとっておきをねっ!!」

大きく広げたなのはの手の間に、圧倒的な魔力の塊が集束していく。
スパーク音を鳴らし、圧倒的で暴力的な大きさと光を放つ魔力球。フェイトの目が確かなら、展開された翼が輝き……純白、そして“黄金”の輝きを放ち出す。

その姿は、見る者によっては天使にも悪魔にも見える。

「エグゼ――」

なのはが魔力球から手を離し、自分すら隠れる程に大きくなったそれに向かって拳を溜める。

だが確かなのは――彼女が相手を断罪する様にも見えるという事だ。

――なのはが拳を叩きつける……同時に、圧倒的な光が爆発した。

「――キュータァァァァァァァ――――ッ!!!!」

解放された光は、先ほどの砲撃とは比べ物にならない程の大きさでフェイトの視界を覆い尽くし――断罪の光が、少女の意識をも呑み込んだ。

「か、仮にもAAA相当の魔導師を相手に、全くの無傷で勝利するなんて……」

「まぁ、彼女が噂どおりの処刑人(エグゼキューター)なら、当然の結果とも言えるかもしれないな」

「……ねぇクロノ君。この前から思ってたんだけど、自分より年下の女の子相手に、その呼び方は酷いんじゃない?」

映されたなのはとフェイトの映像を見て言うクロノに、オペレーターのエイミィは苦言の様にそう言った。

だが、それを聞いたクロノにとっては違うのだ。そう、馬鹿馬鹿しいと自分でも思うが、彼女は……高町なのはとてもでは無いが年下には見えない。

「僕にとって、彼女は年下のようには感じられないんだ。彼女と話していると……まるで自分より年上と話しているように思えてならない」

「ははは、そんなバカなことが――」

「ふーん、まぁ当たらずとも遠からず、ちゅう感じやな」

唐突に聞こえる第三者の声。その声に二人が急いで振り替えると、そこには薄笑いを浮かべる青年、市丸ギンが気配も無く佇んでいた。

「き、キミは誰だ!?」

「なのはちゃんの言う通り、本当に定番の返ししかせいへんのね。あ、ボクはなのはちゃんの相棒ってとこやな。ちゃんと艦長さんに許可とっとるよ。って言うかええの? 何か雷落っこちて来とるけど」

「ああっ!? い、急いで逆探知しなくちゃっ!!」

映し出されたモニターには、丁度バルディッシュが取り出したジュエルシードが、空に吸い寄せられる様に消えていく。それをしたのは、もちろんフェイトの母親であるプレシア。彼女の行動に、何とか意識を取り戻していたフェイトは動揺を隠せない。

そんな少女を掴んで、なのはは迷わずアースラの艦内に転移した。転移先で待っていたのは、つい先程までクロノ達と居た筈のギンだ。自分の相棒の自由奔放さは何時もの事なので、特に驚きもせずになのはは彼に状況を訊く。

「状況は?」

「座標の逆探知に成功。武装局員が乗り込んだとこやね」

「そう……行くよ、ギン」

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  1. 2012/03/21(水) 21:44:02|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第9話・前編

時の庭園。それは、高次空間内に存在する文字どおり“庭園”だ。魔法技術によって作られており、次元間航行も可能な移動庭園となっている。

今現在、この庭園に出入り出来る人間は多くない。ここに出入り出来る人間……一つの方法としては、この庭園の座標軸を知っている人間に案内してもらう事。もう一つは――その知っている人間が直接転移する事だ。

「プレシアッ!!」

大きな音を立て、一般家庭ではあり得ない玉座の間に入って来たのは、今はぐっすりと眠っているフェイトの使い魔、アルフだった。何やら、かなり焦った様子だが……そんなアルフに名前を呼ばれて振り返ったのは、フェイトの母親であるプレシア・テスタロッサ。

振り向いた彼女からしてみれば、なぜ娘の使い魔であるアルフがここにいるのか理解できなかったが、次の彼女の叫びで漸く理由が分かった。

「頼むよ! フェイトを止めておくれっ!! あの子、このままじゃ管理局に直接戦いを挑んじまう!!」

「なっ……あの子、そんな事を……」

そう、残りのジュエルシードが管理局の手に――正確に言えば、なのはの手に――ある以上、もはや管理局に戦いを挑むしか方法は無い。
確かに、これはもう自分に頼むしかないだろう。アルフがここに来たという事は、彼女ではフェイトを止められなかったという事だ。ならば、言い出した自分が言うしか、方法は無い。

だが――

「……ごめんなさい、アルフ。それは出来ないわ」

プレシアは、小さく首を左右に振って、しかし確かに拒否をする。自分の願いを……叶える為に。

「どうしてさ!? あの子がどうなっても良いのかい!?」

「それは――っ、ゴホッ!! ゴホッ!!」

「プレシア!?」

プレシアが何か言葉を言う前に、彼女が突然咳き込みながら倒れこんでしまう。倒れこんだプレシアを驚きながらもアルフは支える……が、プレシアが吐き出した物を見て、その表情は更に驚愕に染まる。

彼女が吐き出した物――それは、真っ赤な血だった。

「アンタ、これ……ぐっ!?」

驚愕を隠せないアルフがプレシアを問いただそうとした時、彼女は全身から力が抜けていくのを感じた。魔力が吸い取られている……そう理解した時には、もう腕も動かせない程の状態になっていた。同時に、フェイトとのリンクも強制切断され、アルフの下には魔法陣が展開される。

これを行った人物、プレシアは弱々しい笑みを浮かべながら、申し訳なさそうに言葉を紡ぐ。

「ごめんなさいね、アルフ。私が言うのもおかしいかもしれないけど……全部が終わった後、フェイトをよろしくね」

「プ……レ、シ……ア――」

何かを言おうとしたのかもしれない。アルフは、腕を必死に伸ばしてプレシアを掴もうとする……しかし、それが彼女に到達する前に、アルフはプレシアが行使した転移魔法により、何処かへ転送された……。

「もう、戻れないわね」

一人になった自分。口元の血を拭いながら、呟く。だが、同時に何を今さらと考える。

そうだ、もう戻れないのだ。この選択をした瞬間に、その事は決まっていたのだから。

――決して取り戻せないもの、それが過去。それでも、失ったものを取り戻そうとする者を……一体、誰が責められるのだろうか? その答えは、誰にも解らないのかもしれない……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

戦艦アースラ艦内。そこはまぁ微妙な空気に包まれていた。見事なまでな笑顔でリンディと対面するなのは。そのなのはを、嫌な予感しかしないという風な表情で見るリンディ。

その他と言えば、自分の母が普通のお茶を飲むなんてっ!? という感じで驚愕しているクロノ。差し出されたお茶とお菓子を至福の表情で食すシグナムと、少し遠慮しながらも同じ様に食べるユーノが居たりする。

そんな状態の中、なのはがあっさりと話を切り出した。

「さて、ハラオウン執務官は何で私がさっきの件に手を出したか、知りたがってしましたよね?」

「え……あ、ああ」

突如自分に話を振られて反応が遅れたクロノだったが、それでも出来るだけ平然を装って頷く。

それを見たなのはは、じゃあ応えて上げる、としっかり前置きをして言葉を放った。

「それが私の受けた『依頼』だからだよ、クロノ・ハラオウン執務官」

「依頼……?」

「そ。誰から受けたかは伏せさせてもらうけど、『ジュエルシードの回収』を私は請け負ったの。当然、管理局の関係者からね」

だから私はあの場に介入した。暗にそう、なのはは言っているのだろう。

彼女は一度そこで言葉を切り、わざわざ自分で入れたお茶を口に含み一休みする。が、その行動を終えると、なのははリンディが驚く一言を付け加えた。

「ああ。因みに、依頼の報酬額がアースラ……まぁぶっちゃければリンディ提督にツケられてますから。依頼終了後、キッチリ払ってくださいね。もちろん、ビタ一文も負けませんから」

「……えぇっ!?」

「む、この菓子は美味いな。食べるか、スクライア?」

「あ、はい。いただきます」

下の発言二つは無視するが、なのはの言葉にはリンディだけではなくクロノも口を出してくる。まぁ、そりゃいきなりこんな事を言われれば反論したくもなるだろう。

「ちょっと待て!! ツケとは何だツケとは!?」

「そのまんまだよ。大体、貴方たちに任せてると、地球が吹き飛びそうだから私が居るんだよ? それくらいは、しっかり払ってくれないとね」

「それはどういう――」

「この船、大した戦力無いでしょ?」

なのはの言葉に、クロノとリンディがピタリと動きを止めた。それを見たなのはは、やっぱりね、という表情になってまるで二人を追い詰める様に再び言葉を紡ぎ出す。

「まともな戦力と言えば、ハラオウン執務官と提督の二人くらい。残りは、せいぜいAランクが居るかどうかかな? 確かに、あの子と使い魔を捕まえるだけなら、『アースラの切り札』と呼ばれるハラオウン執務官が居れば十分だと思う。けど、次元干渉で空間攻撃を可能とする魔導師がいるなら、話は別。相手の目的がジュエルシードなら、それを抑えられるハラオウン提督は前線には出れない。そして、私の予想では空間攻撃をした魔導師はSランク、もしくはSSオーバー。そんな相手を執務官一人で抑えられる……と?」

「それは……」

「確かに、解決するだけなら平気かもしれない。けれど、それで被害を増大させて隣接する次元を消し飛ばすのと、変な虚勢を張らずに私“たち”に協力を求めるの……どちらにします、リンディ・ハラオウン提督?」

静かにリンディを見据えるなのは。その真意を読み取る事は、クロノには出来なかった。

暫く沈黙と緊張感が辺りを支配する……が、唐突にリンディがため息を吐き出し、諦めた様な言葉を口にした。

「分かりました。正式に貴方たちに協力を要請します。どうせ、私へのツケも彼方のささやかな嫌がらせでしょうし」

「あら、よくご存じで。でも良かったですね。ハラオウン提督の依頼だったら、報酬金額が五割増しでしたよ」

「あ、あははは……感謝しておくわ」

なのはの言っている事は……まぁガチだろう。っていうか、目が冗談を言っていない目だ。

話はまとまった。なら、残るはこれからの事だ。これからの事……つまり、フェイト達の事だろう。事実、なのはの口から出てきた言葉は、彼女たちの事だった。

「さて、問題のジュエルシードは、あの子たちが持っている物以外は私たちが回収しました。恐らく、明日にでもあの子たちは真っ正面から勝負を仕掛けてくるでしょうね」

「その根拠は?」

「あの子たち、多分そんなに余裕が無いんですよ。今回強引にジュエルシードを回収しようとしたのが、その証拠です。だったら、こっちが何か仕掛ける前にあっちから勝負を掛けてきますよ」

まぁ、あの天然少女がそこまで考えているかは微妙だけど、となのはは頭の中で付け加えた。

確かに余裕が無いのは確実だ。これはなのはの知る由では無いが、直接勝負を挑むとフェイトが言い、アルフが焦ってプレシアの所に行ったのが良い証拠だ。

「とりあえず、あの子は私が担当します。敗けるつもりは微塵も無いですけど、どちらが勝とうが控えた魔導師が手を出してくると思いますので、座標の逆探知、お願いしますね」

「了解したわ」

「――じゃ、私たちはそろそろ帰ります。シグナムさん、あとユーノ君も帰るよ」

「む、漸く終わったか。ああ、ついでにこの菓子はもらっていく」

「え、遠慮が無いですね……って、僕も?」

「どうせ行く場所ないでしょ? どうせ明日には仕掛けてくるんだし、丁度良いからね」

全く遠慮を知らないシグナムはさて置き、呼ばれたことに疑問を感じるユーノをあっさりと説き伏せるなのは。

どうやら、かなりユーノの事を気に入ったらしい。本人にその自覚があるかは、本人にしか解らないが。

兎に角、本日の対談は終了。残るは……少し長めの始まり(プロローグ)の終わりを……始めるだけだ。


翌日、時は明け方。そんな普通の人間はまだ寝ていそうな時間に、ベッドで何かを考えながら天井を見つめるオレンジ髪の青年――裏月は起きていた。

「なぁ、月天(げってん)」

少しそうして居ただろうか、彼は自分以外に誰も居ない筈なのに誰かの名前を呼ぶ。

『何だよ、相棒』

だが、そんな声に応える誰かが居た。それが聞こえた場所には、一つの本がある。真っ白な色に表面には半月の紋様が描かれた本。

それが確かに返事をしたのだ。当然ながら話し掛けた彼、裏月は驚くことなどなく話を続ける。

「ぼ……俺もさ、斬月やお前がいなかったら……プレシアみたいになってたのかな?」

『さぁな。所詮IF……もしもの話だ。俺には解らねぇよ』

「そっか――んじゃ、往くか?」

言いながら、ベッドから降りて月天と呼ばれた白い本――魔導書――を持つ。その口振りは、もはや決定事項の様なニュアンスだった。
それを聞いた月天は……もし彼が人間の姿ならば、当然という表情を浮かべていただろう。

そんな二人の前に――いきなり扉を開けてオカッパ髪の青年が入って来る。その人物を見た裏月は……途端に呆れた様な表情になった。

「お前、何でここに居るんだよ、真子」

「いやな、何か面白そうな事が起こりそうやったから、来てもうた」

「来てもうた、じゃねぇよ。まぁ良いか……往くぞ」

返事は無い。だが無くとも解る。それだけ長い付き合いという事だ。
まぁ、こんないきなりな事態にもさらっと対応できるようになったのは……裏月にとって嬉しいのか嬉しくないのか。それはともかく、遂に彼らも動き出した。役者は――揃いつつある。

「フェイトちゃん、出てくれば? 居るんでしょ?」

同時刻、海鳴臨海公園。そこで言葉を放つのは、高町なのはだ。その言葉に反応してか、電灯の上に黒衣のバリアジャケットを纏った少女、フェイトが現れる。

そのフェイトを見据えるなのはの表情は、少女には何を考えているかは解らない……だが。

「ジュエルシードを――」

「私に勝ったら、全部上げるよ」

「――え?」

自分の言葉を遮った少女の言葉に、フェイトはポカンという表情になる。が、少女がデバイスを起動して前に見た武装を展開したのを見て、急いで表情を引き締める。

「ふふ、ちょっと遊んで上げる。――かかって来なさい」

「……はぁっ!!」
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  1. 2012/03/21(水) 21:31:25|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第8話・後編

なのはの飛翔とほぼ同じ時、フェイト達の行動を感知したアースラでは、局員が忙しなく動いていた。その中では、かなり冷静な表情でモニターを見ていたのは、執務官のクロノ。しかし、その隣にいる艦長のリンディは、遣る瀬ない表情だった。

「艦長、彼女たちが力を使い果たす、もしくは自滅した時を狙う……これで良いですね?」

「……えぇ。悪いわねクロノ、嫌な役を押し付けて」

「……いえ、僕は僕の仕事をこなすだけです」気遣う様なリンディの言葉にも、クロノは首を振って応える。
先に、なのはが考えた予想は見事的中していた。彼らは、完全に静観に決め込んだらしい。確かに、戦術的に見れば、これは正しい選択なのかもしれない。

――だが、それを認めない人物というものは、いるものなのだろう。

「か、艦長!! 結界内に反応……これは、ジュエルシード発見者、ユーノ・スクライアのものです!!」

その報告と同時に見えたのは、暴走によって引き起こされた竜巻をバインドで縛る、ユーノの姿だった。なぜ彼があの場所に……そんな考えが二人の頭に過るが、事態はさらに急変する。

二度目の警戒音が、艦内に鳴り響いたのだ。

「今度は何だっ!?」

「け、結界内に突入する反応を感知!! 通常飛行魔法の……約三倍!? 今も加速してます! 魔導師……いや、速い!!」

「何なのっ!?」

アースラでも捉えきれない速度で、何かが結界内に突入した。そんな彼らの焦りを知ることもなく、フェイトは既に限界に達していた。
ユーノが参戦した事により、持ち直したと思われた戦況だったが、もう彼女の魔力は底を尽きかけている。そんな状態でも、暴走したジュエルシードは容赦なくフェイトに襲い掛かった。

「ああっ!!?」

「「フェイトっ!?」」

放たれた雷撃が、一瞬だが気を抜いたフェイトに直撃した。只でさえ防御が薄い彼女が、魔力を殆ど無くした状態で耐えられる筈がない。

為す術もなく墜ちていくフェイトを助ける為、アルフが必死に飛ぶが……それよりも早く、墜ちる少女に向かって止めとばかりの雷撃が左右から迫りくる。

間に合わない……もはや打つ手なし。そう思われた――が、その事実をあっさりと覆す存在が、半瞬前に行動を起こしていた。

「キャアッ!!」

「な!? ――フェイト!!」

左右から迫る雷撃が“何か”が放った攻撃により消滅した。

数瞬前……結界に突入した“何か”――高町なのはは、状況を一瞬にして理解し、表情を引き締め動いた。一度旋回しながら射角を変更、そこからウイングを展開……エクセリオンモードにて姿勢制御を行い、両腰の武装をはね上げ、そこから魔力式亜音速弾頭加速砲‐レールガン‐を放った。

僅か半瞬、その間になのははこれだけの事をやってのけたのだ。放たれた二つの弾丸は、一瞬にして正確に雷撃と衝突、爆炎を上げる。その衝撃でフェイトは吹き飛ばされたが、それはアルフが上手く受けとめた。

そして、二人を護る様に前に現れたのは……神業とも呼べるものをあっさりとやってのけた、高町なのはだ。少し二人を見て、その行動によって顔が見えたフェイトは、表情を驚きに変える。

「な、何で……」

「また会ったね、フェイトちゃん――っと」

挨拶をする暇もなく、なのはは手に持ったライフルのトリガーを射角を変更しながら、三度連続で引く。それに反応して放たれた桜色の熱線は、迫っていた雷撃を全て打ち落とした。これには、フェイトもだがアルフとバインドで竜巻を抑えていたユーノも驚愕する。

今まで自分たちが手間取っていた物を、目の前の少女は何ともない様に対処して見せたのだ。

「ん、これじゃあ落ち着いて話も出来ないね……ちょっと黙らせようか」

「黙らせるって……どうやってさ!?」

「ギン」

『はいはい、人使い荒いなぁ』

アルフ問いには応えず、変わりに誰かの名前を呟くなのは。すると、どこからか声が聞こえる。それにより、またもやフェイト達は驚愕の表情になるが……次の瞬間、さらに自分たちの理解の範疇を超えた事が起きた。

『死(ころ)せ――神殺鎗(かみしにのやり)』

刹那。言葉にすればそれだけだ。たったそれだけの時間で……ジュエルシードによって作り出された無数の竜巻が、物理的に真ん中からたたっ斬られた。フェイトとアルフには、何が起こったから理解できない。辛うじて、ユーノが見たのは竜巻を斬った“刀”だ。それも本当に一瞬、次の瞬間には消え失せていて、とんでもない衝撃波が解放されただけだった。

その理解の範疇を超えた事を起こした人物、市丸ギンは先ほどまでなのはが居た遥か後方の丘に佇んでいた。その隣には刀を背負った少年、冬獅郎もいる。

「これ、キミが海ごと氷らせた方が早かったんちゃう?」

「めんどくせぇ。てか、良いのかよ、まだ復活しそうだぜ?」

「平気や。なんたって――ボクの主やからね」

そう言い、笑うギンから読み取れる物は……強い信頼。ここまでコイツが信頼を示すのも珍しいな、なんて冬獅郎が考えてしまう辺り付き合いの長さが伺える。

まぁ、コイツがここまで言うのだから問題ないだろう……それに、もう一人近づいているしな、と冬獅郎は視線を向ける。その視線の先には――飛翔する烈火の騎士が見えていた。

「来た……」

「来たって何が……ってうおっ!?」

竜巻が物理的に斬られただけでも訳が分からないのに、今度は近くに強い衝撃が出る。誰かが、空中に着地したのだ。もう、アルフからすれば何がなんだか分からない。

そして、衝撃が晴れた時そこに居たのは……アルフとフェイトには見覚えがある、在り過ぎる人物だった。

「あ、貴方は……」

「全く、私は自分の力量を弁えろと言った筈だがな」

卍型の鍔を持つ刀を持ち、呆れを含んだ表情でそう言うのは、ヒナギクの騎士、シグナムだ。

何でここに居るのか……そう言いたそうなフェイトの表情に気付いたシグナムは、更に呆れた表情になった。

「バカ者。これだけ大暴れすれば、私でなくとも気付く。学習能力が無いのか、お前たちは?」

「うぅ……確かにそうですけどって、学習能力はありますよっ!?」

「どうだか。この光景を見るだけで、説得力が無いな」

本当に、この二人は敵対しているのだろうか、という疑問が浮かびそうな程に仲が良さげに会話をするシグナムとフェイト。この光景には、フェイトを抱えるアルフと近くに来ていたユーノも呆気に取られる。

とまぁ放っておくとまだ続きそうな会話を止めたのは、極めて冷静ななのはだった。

「シグナムさん。そういう話は後回しで、とりあえずアレを黙らせましょう」

なのはが言いながら指を差した先では……先ほど寄りも激しく暴れているジュエルシードがあった。どうやら、機嫌を損ねてしまったらしい。

「ふむ、加減の必要は……無いらしいな」

「当然。往きますよ」

シグナムが天鎖斬月を前に構える。溢れるのは、単純な斬撃と呼べるもの。

なのはが翼を展開する。更に、翼の上段に装備された白い砲門、プラズマブラスターを両肩にシフト、両腰のレールガンも再びはね上げ、ライフルと合わせてチャージを開始する。前方に集束を開始した魔力の塊……それはあっという間に膨れ上がり、なのはの数倍は在ろうかという桜色の球体を作り出した。

準備は出来た。ならば、後はやるだけだ。シグナムが天鎖斬月を振り上げ――おもいっきり振り下ろす。放つは、斬撃そのもの。
なのはがライフルのトリガーを引き――圧倒的な魔力の塊を解放した。

「月牙――天衝ッ!!」

「ディバインバスター・ハイパーバーストモードッ!!!」
『解放』

砲撃と斬撃……その二つが放たれる。それを見たフェイトの頭に過った言葉は……圧倒的という文字だけ。

暴走した竜巻と衝突した二つの“力”は、一瞬鬩ぎ合いになり――とてつもない衝撃と共に大爆発を起こした。

「……あ」

衝撃で思わず目を閉じていたフェイトが、目を開けた時に見えたのは静けさを取り戻した海と……六個の青い宝石、ジュエルシードが浮かんでいる光景だった。

「な、何て出鱈目な……」

「そお? 単純に“力”をぶつけただけ。まったく、我ながら芸が無いよ。さて、と」

ユーノの呟きにも、何ともない風に応えるなのはがいつの間にか手に持っていた六枚のカードを一気に投げた。
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  1. 2012/03/21(水) 14:59:07|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第8話・前編

「『出来損ないの魔法使い』……だって?」

「…………」

クロノの呟きとも疑問とも思える言葉を聞いても、なのはは何も言わない。ただ、冷ややかな表情でクロノを見るだけ。

そしてその少年、クロノはまさに信じられないといった表情だ。しかし、それも当然なのかもしれない。目の前の少女が“あの”エグゼキューターならば、出来損ないな筈がない……少年が言いたいのはそういう事だろう。

――そんな事を考えている時点で、的外れも良いところなのだが……少年には、いや、殆どの人には理解できないだろう。理解できるのは、少女の事をよく知る人間、もしくは少女の“信念”を読み取る事の出来る人間だけだ。

最も、前者はともかく後者に属する者はたった一人、“彼”しか今のところいないのだが。まぁ、二人目が現れるとも思えないし、今は関係がない事だ。とにかく、それを理解できないクロノは、思わずなのはに向かって叫んでしまう。

「ふざけないでくれ!! 君がエグゼキューターなら……出来損ないなんて言える筈がないだろう!!」

処刑人(エグゼキューター)。そう呼ばれるだけの“実力は”なのはにはある。だが、こんなものは少女が欲しいものではないし、エグゼキューターだからそう……など勝手な価値観の押し付けだ。……人は、そういう生き物なのだろうが。

まぁクロノの気持ちが、少女に理解できない訳ではない。恐らく、無意識のうちに悔しい、という感情が少年の心に渦巻いている。仮にも、彼は執務官だ。それなりのプライドがあるのだと思う。
それが、目の前の少女の方が格上だと認めるのを拒んでいる――いやまぁ、身長で圧倒的に負けているので、真面目な話それもあるのかもしれないが、いちいちそれを指摘してやるほど少女は少年に興味を持てない。それどころか、もう興味を失いかけているくらいだ。

「別に貴方に理解できるとは思えないし、理解してもらいたいとも思わないよ」

言いながら、なのはは武装を解除してクロノに背を向けて歩きだしてしまった。思わず、クロノは追い掛ける為に駆け出しそうになるが、ふとなのはが立ち止まって、もう一度だけ振り向く。

「言ってなかったけど、私達は依頼うんぬん関係なしに、今回は単独で行動させてもらいますから。ハラオウン提督にもそう伝えておいてくれます?」

「な、何を――」

「貴方達がさっきの子やジュエルシードをどうしようが勝手ですけど、何かあった時はこっちも勝手に動きますよ、って事だよ。二度は言わないから、きっちりと伝えてね」

当然返答など聞かない。言うなり、なのはは今度こそ振り替えることなく歩きだした。さて、これで管理局……と言うか、戦艦アースラの艦長、リンディ・ハラオウン提督はこっちにちょっかい掛けてくる事はないだろう。彼方から直接依頼が来れば別だが、それはそれで貯金が増えるので構わない。

ま、それは殆ど無い可能性だ。――なのはの予想では、恐らく解決“だけなら”アースラメンバーでも出来るだろう。が、そうなると自分たちの町やあの少女が無事に済むかは……残念ながら保証できない。

まぁそういう訳だから、こっちはこっちで適当にやるとするか、という事である。それに、そろそろ頼れる最強の増援も到着する頃だろうから。

そう考えを巡らせながら、なのははその場を後にした。

所変わって、場所はこの前の車椅子の少女が住んでいる家。冬獅郎とさくらが手傷を負わせた仮面の二人が仕掛けた結界は、当然ながらとっくのとうに解除されている。
さて、ではそんな家の中には誰が居るかと言うと……

「ま、また負けた……」

「にゃはは、18連鎖って……」

「えげつねぇな……」

「まぁ、裏月くんにこの手のゲームで挑むこと自体、間違ってるんちゃう?」

「はっ、百年早えぇんだよ」

何故か、裏月と車椅子の少女、八神はやてがぷよ〇よで勝負していた。因みに、ただいまはやてが絶賛20連敗中である。何でこんな事態になっているかと言えば……数日前、つまり仮面の二人が逃亡してからの話に遡る。

「逃がして良かったん?」

「良いって訳じゃねぇが、今無理に捕まえる必要も無いだろ。今はジュエルシードの回収……いや、プレシア・テスタロッサの方を優先したいしな」

市丸の質問に、裏月は何ともない風に応える。事実、裏月にとって優先したいのはジュエルシードの問題だろう。仮面の二人の問題は、極力同時進行でやっていけばいい。

天鎖斬月を手放して、服装を元に戻しながら裏月はこの場を離れようとした。既に結界は解かれているので、長居は無用だ……が、どうやらもう少し長居をしなければならないらしい。

「あ、お兄さんみーっけ!」

「あ?」

そんな声を聞いて、裏月は何事かと後ろを向く……と、彼の額に汗が垂れるのを市丸は見た。そこに居たのは、先ほど裏月が別れた筈の車椅子の少女だ。

ここで、二人が別れる時の会話を思い出して欲しい。裏月と少女がした条件……もうあっさりと満たされているのである。

さらっと裏月の服を掴み、かなり良い笑顔で少女は、言う。

「私の勝ちやな、お兄さん」

「……ああ、俺の負けだよ」

こんな事だったら、もっと面倒な条件にしておくんだった、何て思っても後の祭り。結局、少女の誘いを受けて今現在に至るという訳である。

何で他の面々まで居るかって? 全員そろって「面白そう」の一言でついて来ましたが、何か?

「さてと、ちょっとトイレでも言ってくるから、誰か変わってろよ」

「じゃあボク。ボクがやるよっ!!」

「よし、勝負やさくらちゃん!!」

名乗り出たさくらにコントローラーを渡し、裏月は立ち上がって部屋を出る。何か後ろから、はやての叫び声が聞こえるが……多分気のせいでは無い。

部屋を出た裏月が目指す先はトイレ……ではなく、別な部屋の前で立ち止まった。彼は部屋の扉を迷いなく開き、そこからも迷いなく歩いて本棚の前で再び立ち止まった。

「コイツか……変な魔力出してんのは」

立ち止まった彼が見つけたのは、まるで封じられているかの様に鎖に縛られた、一冊の本。微力だが、魔力を出している事から、恐らく裏月の相棒と同じ魔導書の類なのだろう。

何の反応も無い魔導書に対して、裏月は目を閉じて腕を静かに翳す。その彼の翳した手から、何か薄い光の様な物が魔導書を包み込むように溢れた。

(……成程な。強引にシステムに介入しようとすれば、仕掛けられたシステムトラップが発動する仕組みか。コイツは、迂闊に手が出せない訳だ)

今、彼は魔導書に干渉して何が在るかを単純に探っている。これは彼の特有の能力……この手の物に対しての『干渉』だ。それを使って、魔導書の情報や機能を的確に読み取って行く。

プログラムに介入してシステムを動かすのではなく、システムに干渉して情報を読み取るのだから、裏月が発見したシステムトラップが発動しない、という仕組みだ。

読み取って行くにつれ、なぜ仮面の二人がわざわざ少女の家を“監視”するだけに止めていたかが、これで何となく裏月には解った。発動して何が起こるかまではまだ解らないが、発動まで手出しが全く出来ないとは……厄介な魔導書だな、と裏月は考える。

もう少し情報を読み取ろう、そう考えて裏月が深く干渉した瞬間……彼の表情が少し歪む。

「中に……誰か居るのか?」

干渉を行っていた裏月が小さく呟く。今、彼が読み取ったのは情報じゃない……“ヒト”の心だった。

(これは、深い悲しみ? それだけじゃねぇ……強い怒り。それも他人じゃなく、自分に向けられた物。そして何より――)

ここまで強く引き込まれると、もう裏月の意志では止まらない。勝手に中の人物の感情が、彼に向かって流れ込んで来る。

深い悲しみ、強い怒り。そんな感情がストレートにぶつけられる。だが、もう一つ。隠して押さえ込んでいる感情が伝わる。瞬間、裏月の瞳から……一筋の涙が流れ、それを皮切りにとめどなく涙が溢れだす。

止まらない、止められない。何時ぶりだろうか、こんなにも涙を流すのは。最後の感情それは、

――孤独。

始まりの終わりを待たずして始まる……新たな物語の始まりの合図なのかもしれない。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「む、無茶だよフェイト!! ジュエルシードを強制的に暴走させるなんてっ!!」

「だけど……もう時間がない。管理局が来た以上、もう迂闊に動けない。だったら、残りを一気に回収するしかないから」

「そ、それはそうかもだけどさ……」

マンションの一室、そこではフェイトと使い魔のアルフが口論を繰り広げていた。と言っても、反対していたアルフはあっさり言葉に詰まってしまう。

彼女たちが話しているのは、残りのジュエルシードの事。彼女たちのジュエルシード回収は、シグナムとヒナギクが一度妨害を行った事以外は、極めて順調と言えた。が、今は管理局が来たことにより状況は逆転した。恐らく、自分たちが回収し損ねているジュエルシードは、殆ど回収されてしまっている。

ならばどうするか、答えは簡単だ。残りのジュエルシード……今まで手が出せなかった海の中のジュエルシードを一気に回収すれば良い。

「ごめんアルフ。でも、もう決めたことだから……」

「ああ、もう!! わかったよフェイト。アタシも協力する」

「……ありがとう、アルフ」

自分の使い魔に微笑み、フェイトはマンションの扉を開ける。海の中のジュエルシードを強制的に暴走させて、まとめて封印。言葉にするのは簡単だが、実行するのは無茶と言えた。

何せ、封印するジュエルシードは全部で六個。暴走させる為に使う魔力を計算に入れると、とてもでは無いが少女の魔力でも足りない。それでも少女はやるのだろう、母の願いを叶える為に。

しかし、そのために自分を犠牲にするなど、絶対に少女の使い魔としては許容できない。だから、アルフは少しでも負担を減らす為に言葉を放った。

「ねぇ、フェイト。ユーノに協力してもらおうよっ!!」

「――ダメだよ。ユーノはまだ万全じゃない。それに……迷惑はかけられないから」

「フェイト……」

だが、それも全く功を成さない。確かに、ユーノに協力を頼めば負担は減るだろう。けれど、今の彼は本調子ではない。アルフが治療したとはいえ、魔力まで回復した訳ではないのだ。今も、睡眠をとっているのがその証拠だ。

結局、アルフの意見もこれ以上出ないまま……フェイトは賭けを実行した。


二人の会話に少し遅れ、場所は戦艦アースラ内部。そこでは、執務官のクロノとアースラの艦長であるリンディが会話をしていた。その内容は……この前のなのはの話だ。

「全く、貴方も厄介な人の機嫌を損ねてくれたわね……」

「う、すいません」

「いいえ、良いのよ。彼女がまさかあの少女に接触していたなんて、誰も予想できなかったんだから」

「……その少女の行方は、まだ掴めませんね。一体、何の目的でジュエルシードを回収しているのか……」

あの時、クロノがフェイトに接触したのは、完全に狙っての行動だった。彼らがここに到達した時、偶然アースラが彼女たちがジュエルシードを回収する映像を捉えていたのだ。

だからこそ、一度目の接触で事情を訊いてしまいたかったのだが……それはなのはによって妨害されている。

「ふぅ、失敗したわね。あれ以降、彼女たちは目立った行動に出ていない。もう少し冷静に行けば良かったわ……まさか、あの子が関わっているなんて」
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  1. 2012/03/21(水) 14:58:02|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第7話

別々の場所で展開される、二つの戦い。どちらも結界が展開され、内部では違いがあれども二人の天鎖斬月の所持者が戦闘を行っている。

まぁ何が言いたいかと言うと……そんなドが付くほどに派手な戦闘を行っていれば、ヒナギクが気が付かない訳がない、という事だ。

「あ、これなんかどうかな?」

「え~、でもこっちも良さそう何ですよね~」

お前らはどこの女子高生だ、と言いたくなるような会話を雪華と服を選びながらするヒナギクだが、その思考は服だけでなく戦闘の方にも向いている。と言っても、彼自身が戦闘に向かう訳にはいかない、ならばどうするか……。答えは簡単、彼の半身とも呼べる刀に頼めば良い話だ。

【さくら。聞こえる、さくら?】

【うにゃ。聞こえるよ、お兄ちゃん】

これは、彼らにしか聞こえない会話。しかし、他の人間が聞けたと仮定すると、驚くところはヒナギクをお兄ちゃんと呼ぶその声が、“自称”平凡な小学生、高町なのはと全く同じ声という事だろう。

ヒナギクにとって、この声は聞き慣れた物……なのだが。

【ねぇさくら。やっぱりその“お兄ちゃん”って言うのは……なのはと同じ声で言われると、恥ずかしいというか何と言うか……】

【にゃはは、お兄ちゃんはお兄ちゃんでしょ? それより、ボクは適当に援護に向かえば良いのかな?】

【うん。お願いね、さくら】

【了解だよ、お兄ちゃん】

あ、やっぱりお兄ちゃんは止めてくれないんだ……とか思いつつ、二人は会話を終えた。まぁ、彼女がどちらに向かうにしろ、多分これで大丈夫だろう。それくらい、ヒナギクはさくらに信頼を置いていた。それは、当然ながらシグナムやなのはにもだが。

「さて……」

そう静かに呟いたのは、天鎖斬月・蒼天を構えた裏月。呟くなり、裏月は掛けている自分の眼鏡を取り、しまい込む。どうせ、本来掛ける必要がないだて眼鏡だし、戦闘では必要ない物だからだ。

そんな無防備な行動をする裏月だったが、相対する仮面の二人は迂闊に動く事ができなかった。今、彼女らの頭には裏月と戦う等という考えはない。如何にして撤退するか、その考えしか彼女らにはなかった。

――しかし、そんな彼女らの考えを嘲笑うかのように、戦場に声が響いた。

「行け――群鳥氷柱(ぐんちょうつらら)」

響くと同時に、戦場に変化は訪れる。仮面の二人の周りに、幾つもの氷柱が突き刺さった。無論、ただの氷柱ではない。突き刺さった氷柱から冷気が溢れ、地面を氷結させていく。つまり、この攻撃は逃げ道を塞ぐ為の物。さらに、もう一つ変化が起きる。

「なにっ!?」

「くっ……」

舞い散るは桜。まるで、仮面の二人の逃げ道を塞ぐ様に、桜の刃が美しく舞う。氷と桜、相容れない筈の二つが、仮面の二人の逃げ道を塞ぐ。その光景は、どこか美しい芸術にも見えた。

「動かない方が良いよ? 動くと……綺麗な桜が、真っ赤な血で美しく染まる事になると思うから」

また別の声が響く。今度は、その姿を見る事が出来た。近くの建物の上、そこには刃の無い刀を持った少女が仮面の二人を冷たく見下ろしている。

少女の容姿は、高町なのはと瓜二つ。違いは、髪色と髪型が金髪のツーサイドアップになっている事や、背がなのはより5㎝ほど低いことか。低いと言っても、なのはの背が“なぜか”普通の小学3年生より高いので、140㎝はあるのだが。

その少女に合わせるかの様に、仮面の二人の後ろのは少し長めの刀――氷輪丸――を持った少年が、退路を断つ様に現れた。最後にもう一人……その一人は、裏月の近くに降り立った。

「なんや、ボクの出番がないやないの」

「市丸……お前ら尾行中じゃなかったか?」

「雰囲気ぶち壊しやなぁ」

ごもっともである。まぁただ、裏月に市丸と呼ばれた糸目の青年が来た時点で微妙に空気が崩れていた気がするが。それでも、天鎖斬月の切っ先を少しもずらさないのは流石と言える。

一方その頃……もう一つの結界内。つまり、なのはが展開した結界の内部では、ひたすら轟音が鳴り響いていた。その轟音が鳴る度に、破砕片が空中に飛び散り、時には破片と呼ぶには大き過ぎる程の砕かれた破砕も吹き飛ばされている。

そんな光景を一太刀で生み出していく相手と斬り合っている女性、シグナムは舌打ちを禁じ得ない。

技量や速度だけ見れば、天鎖斬月を持ったシグナムに分があると見ていいだろう。だが、彼女のコピーはそれを補うだけの圧倒的な力があった。ここまで一太刀でふざけた威力を出せる相手に、真っ正面から斬り掛かる等という愚策を取る筈がないシグナムは、自身の技量と天鎖斬月を用いて斬撃を受け流していく。

何度目かの攻防……自身のコピーの斬撃をいなしたシグナムが一度距離を取り後退し、天鎖斬月を構え直した。

「埒が明かない……か」

相対する相手――無表情の自分――を見据えながら、シグナムはポツリと呟く。その呟きは、事実問題を的確に表していた。結界内とはいえ、物を壊し過ぎるというのは少々気が引ける。

とは言っても、決して手がないわけでは無い。奥の手、なのは風に言えばとっておきが残っているし……何より試したい事もある。しかし、奥の手があるのはシグナムだけではなかったらしい。

――コピーのシグナムが、動いた。長剣の刀身の付け根にあるダクトパーツがスライドし、何かを排出する。

「あれは……!」

少し離れた場所で、その光景を見ていたなのはが排出された物の正体に気付く。排出された何か……弾薬の薬莢の様な物が地面に落ちて、乾いた音を立てる。瞬間、コピーのシグナムの魔力がいきなり上昇した。

(あの弾丸が魔力を瞬発的に上昇させた……間違いない。ベルカ式のカートリッジシステム)

なのはも資料でしか見た事がなかったが、あの特長からして間違いないのだろう。それだけの確信を少女は持っていた。そして、それは全く間違っていない。

「レヴァンティン……」
『Schlangeform.』

コピーのシグナムが初めて言葉を発する。恐らくは、手に持った長剣の名前なのだろう。レヴァンティンと呼ばれた長剣も、その声に反応し……変化する。

「くっ……チィッ!!」

今度こそ、シグナムは舌打ちを隠すつもりなどなかった。魔力を瞬発的に上げた相手に対抗するかの様に、シグナムも瞬発的に速度を上昇、一気に常人には捉えられない速力で移動する。

そんなシグナムが一瞬前まで居た場所に叩きつけられたのは、まるで蛇の様になった刃……レヴァンティンのもう一つの姿、連結刃だ。
その蛇の様な変則的な動きで、圧倒的な速力を叩きだすシグナムを攻める。だが、その不規則な動きをもシグナムは己の動体視力を持って全て見切り、その身体能力を持って全て避ける。

シグナムが避けた事で、ビルに連結刃が叩きつけられる。それにより、蛇の刃の動きが一瞬だけ止まる。たった一瞬、しかしこの戦いにはその一瞬が重要だった。

純白の天鎖斬月の刀身からチリ、という音を皮切りに刀身の色と同じ何かが溢れ出す。

そして、連結刃の根元……つまりはコピー体に向かって空中から――

「月牙天衝――」

天鎖斬月を一陣振るう。放たれたのは純白の――何物にも染まっていない――月牙天衝。純白の斬撃が、凄まじい速度でコピー体に迫る……が、コピー体は強引に連結刃を引き戻し、その場を飛び退く。結果、標的を無くした月牙天衝は純白の斬撃の柱を作るだけに留まる。しかし、そんな事は予測済だ……飛び退いたコピー体に向け射角を変更し――

「――双牙ァ!!」

シグナムが天鎖斬月を斬り戻す。その結果放たれるのは、もう一陣の月牙。文字どおり斬撃そのものがコピー体に向かって飛び……着弾と同時に、その姿を覆い隠した。

(直撃……いや)

(外したか……)

なのはとシグナムの思考が、同じ答えに辿り着く。一見、直撃した様に見えた月牙天衝。しかし、コピー体はギリギリで連結刃を戻し、月牙から強引に逃れた。が、当然ながら月牙天衝をその程度で避け切れる筈がない。

シグナムがビルを背に着地するのとほぼ同時……煙を払いながら額から血を流したコピー体が現れた。
全く、我ながらタフなものだな、などとシグナムは他人事の様に考えたが、直ぐ様思考を引き戻す。連結刃を戻した事で、再び長剣の状態に戻ったレヴァンティンが、もう一度カートリッジをロードした。

「炎……」

「紫電……一閃」

まるでシグナムの呟きに応えるかの様に、コピー体が何かを呟く。紫電一閃、その名前を聞いた瞬間、何故かシグナムは何か懐かしい感覚を感じ取った。

カートリッジがロードされたと同時に、レヴァンティンの刀身は真紅の炎に包まれた。

紫電一閃――その刃が振り下ろされる時、敵はその閃く一瞬の光を見る事も叶わず、ただ地に墜ちるのみ。
そして、それを再現するかのようにコピー体が突撃、さらに地をおもいっきり蹴って飛び――その刃を振り下ろした。

「な……っ!?」

同時刻、裏月たちの居る結界内では大きな揺れが起きた。ただの揺れではない……巨大な魔力の衝突によって起きる、謂わば共鳴反応の様な現象。

しかし、普通の魔力の共鳴現象ならば、いくら巨大でも違う結界内に影響を及ぼす事などあり得ない――原因の一つとして考えられるのは、裏月の持つ天鎖斬月・蒼天が一瞬だが反応……つまりこれは魔力の共鳴現象ではなく、天鎖斬月の共鳴現象という事だ。

その事が裏月の動揺を呼び、それを見逃さなかった仮面の戦士のうち一人が素早く地面に手をつけ、転移魔法を起動させた。

「逃がすかよ!!」

だがそれと同時、少年が叫びながら氷輪丸を振るい、氷結の斬撃で動きを封じ様とし、千本桜の刃を控えさせていたさくらは本体の刀を振るって千の刃全てを仮面の二人に向かって放つ。

二人の攻撃が同時に到達……した瞬間、光が辺りを包み込んだ。その光が晴れた時、残っていたのは氷結の後と――残された血の跡だけ。

「うにゃあ……逃がしちゃったね、冬獅郎(とうしろう)」

「ああ、手応えはあったが……上手く逃げられたな」

いつの間にか少年の近くに来ていたさくらが、指を可愛らしく口に添えながら彼の名前を呼ぶ。少年……冬獅郎もそれに応えて事実だけを言うが、その表情に失望などの感情は見られない。

手応えや血の跡を見るかぎり、決して浅くはない手傷を負わせた、それで十分だろう。それより……

「さっきの地震、どうやらもう一本の天鎖斬月の方で何かあったみたいだな。決着が付いたか……それとも」

「どっちにしても、あの子どんどん天鎖斬月を自分のものにしてるよ。流石は、お兄ちゃんの騎士を名乗るだけはあるよね~」

さくらの言葉は、見事に的を得ていた。彼女は驚異的なスピードで、天鎖斬月の力を引き出し始めている。先程の振動が、何よりの証だろう。

なのはが展開した結界内部……そこでは、見た人が呆れる様な光景があった。ひび割れるどころか、完全に砕けているシグナムの足下。しかしそんな状況でも、シグナムは天鎖斬月を両手で握りしめ、その刃でレヴァンティンを“受け止めていた”。そう、ジュエルシードによって引き出されたふざけた力と、カートリッジによって底上げされた斬撃を……彼女は真っ正面から受け止めるという、バカみたいな事をやってのけたのだ。

「な、なんつー無茶を……」

衝撃から顔を守るために、手で顔を庇っていたなのはが、かなり呆れを含んだ声でそう呟く。
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  1. 2012/03/20(火) 21:18:34|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第6話

……果てない空。どこまでも続くとも思える、美しい空。そんな空が夕焼け――赤音色に染まっている。見る人によっては、美しいと思えるそれだったが、背を向け合う一人の少年と一人の少女にとっては、まるで世界の終わりを告げるような風景。

――二人の世界が終わりを迎える。

「ねぇ、黒崎(くろさき)くん」

「……なんだよ」

互いに背を向けた状態でも、自分の声に彼はぶっきらぼうに応えててくれる。彼はぶっきらぼうだけど、自分は知っている。そんな彼の優しさを、純粋さを。

……だからこれは、自分のささやかな願い。きっと、これくらいは叶えてくれる筈だから。

――これは夢。彼の記憶に刻まれた“ユメ”。忘れる時など永劫ないであろう、彼の中に納められた『永遠の愛』

「名前で……呼んでも、良いかな?」

「何回、同じこと言わせんだよ? 俺は何度も名前で呼べって言った。知ってんだろ、俺は同じことを何度も言うのは……嫌いなんだよ」

……そんな願い、幾らでも叶えてやる。だから、そんなに悲しそうに言うんじゃねぇよ。

二人は心が繋がっているかのように、思考の中でも会話をする。お互いに分かってるかは定かではないが、お互いがどんな表情をしてるかくらい、二人にはもう分かってるのだろう。……しかし、そんなものは慰めにもならない。

柵に寄りかかった少女が、少年の応えに顔を綻ばせた――その瞳から、涙を流しながら。

「そっか。ありがとう、私のわがままを聞いてくれて」

「この程度、わがままの内に入らねぇよ。もっと大きな願い持って来い、幾らでも叶えてやる」

少年は今すぐにでも振り返り、そして少女を抱き締めたかった。けど、それは少女の願いから外れることだから、出来ない。

少女は今すぐにでも振り返り、少年の向かって駆け寄りたかった。けど、そうしてしまうと、自分の泣き顔を見せてしまうから、出来ない。

――でもね、私の一番のお願いは……もう叶ってるんだ。

「大きな願いかぁ……デートがしたかったな。一緒に買い物したり、映画を見たり、他にもいろんな事を――したかったよ」

「ッ……!! したかった、じゃなくてするんだよっ!! 何度言えば分かるんだよ……俺は、同じこと言うのが嫌いなんだっ!!!! だから……だから!!」

何を言いたいのか、それは少年自身にも分からなくなっていた。
けれど、その瞳からは少女と同じく涙がとめどなく溢れていた。

認めたくなかった、終わりなど信じたくない。だが、それはもう間近に迫る真実――ユメは終わりを告げる。

少女が振り向く、少年も振り返る。そして……少女が紡ぐ言葉は、ずっと少年に伝えたかった言葉――しかしそれは、ユメに終わりを告げる言葉にもなった。

「さよならだね……大好きだよ――裏月くん」

それは、彼が一番聞きたかった言葉であると同時に、決して聞きたくはなかった言葉。両立できない願い、二律背反。

彼が悲しみと引き換えに得た物は――



「また……この夢か」

目を覚ました彼、裏月が放った第一声はうんざりした、という感じのニュアンスだった。もう何度目になるだろう? そう思っても、裏月は忘れることなどできない。いや、忘れることなどしない。

あんな夢を見せられてしまうと、当たり前だが目が覚めてしまう。で、彼が起きてリビングに行くと……さらに目が覚める光景を目にすることになった。

「あ、裏月さん。朝ご飯できてますよ~」

「……ああ。サンキューな」

因みに、時刻はまだ六時半。いくらゴールデンウィーク真っ只中とはいえ、小学生がこの時間に起きていて、尚且つ人の家で朝ご飯を作る時間ではない。

だが、忘れてはいけない。少女、高町 なのはは“自称”、平凡な小学3年だ。自称の部分を強調するのは、もちろん本人の自称でしかないので、平凡な小学生は伸びる刀を持っていたり、科学の延長上とはいえ魔法を使えたりしないのでご注意を。

少々の間固まってしまった裏月だったが、休みの日はいつもこうだったな、と行動を再開した。まぁ彼が行動を停止した理由は、今日なのはが来ているとは思っていなかったからだが。

二人はいつも通りと言った感じで、食事をしながら会話をする。

「なのは、お前士郎さん達の温泉旅行に着いて行かなかったのか?」

「その予定だったんですけどね。ちょっとした予定が入ってしまいまして……裏月さんは? いつも通り情報集めとかですか?」

「……いや、今日はゆっくり散歩でもする事にした」

あんな夢を見た後では、確実にことに身が入らないだろう。だったら、散歩していた方がまだ有意義だ。何なら、真子(しんじ)達を呼んでも良いかもしれない。そんな事を考えていた裏月だったが、ふと思った事を口に出した。

「そういやお前、士郎さん達との旅行を断るって、いったい何の用事だよ?」

「う~ん、何というかまぁ……師匠のフラグ乱立の影響?」

「は?」

まぁ、なのはの言葉は強ち間違ってもいない。彼らの朝ご飯から約3時間くらい、天気はゴールデンウィークの連休に相応しい晴れ模様。

そんな外出にぴったりな日に、二人のデートは決行された。

「あ、ヒナ! ごめん、待った?」

「全然。それに、まだ待ち合わせ時間より前だから……?」

「どうかした?」

「あ、ううん。じゃあ行こうか」

デートに定番な感じのやりとりをした二人が、予定を決めていたのか迷う事なく並んで歩き出す。その会話の間に、ヒナギクが何か違和感を感じたようだが、雪華が居るので深く探ることはしなかった。

さて、このヒナギクの違和感の正体は……後方、約五百メートルの地点にあった。

「あの子、今こっちに気付きかけたんちゃう?」

「ん、やっぱり五百メートルくらいがギリギリの距離だね。これ以上近づくと確実にバレますよ、シグナムさん」

と、なのはは隣に立つポニーテールの女性に言葉をかけたが、女性の方はなにやら微妙な表情で五百メートル先――正確にはここは、五百メートルと六百メートルの境目くらいなのだが――を見ていた。

それを見たなのはが、呆れた様な表情になりながら言った。

「って言うかシグナムさん、気になるなら詳しく師匠に訊けばよかったのに……」

「はっはっは、何を言うんだなのは――気になってなどいないさ、絶対に! 気になってなどいない!!」

「キミ、それ気になっとるって言うてる様なもんやで?」

「てか、怪し過ぎだろ俺達……」

的確なツッコミありがとうございます、と言いたくなる様なツッコミを入れたのは、糸目の青年と一緒に居る少年。なぜ少年までこんな尾行に付き合っているかと言えば、自身の主の“初”デートを見たかったからだ。もっと詳しく言えば、いい加減、彼氏の一人くらいつくんねぇかなぁ、とか思っていたりする。

そしてシグナムは……あまりにもそわそわしたシグナムを見たなのはが、じゃあ尾行でもすれば良いじゃないですか、という発言をマジで実行したからである。ついでに言えば、なのははヒナギクにさらっと雪華のサインを頼んでいるあたり、まったく抜け目がない。さらに言えば、デートの情報元はなのはだ。流石(?)はヒナギクの弟子である。

こんな感じで尾行をする四人はさて置き、裏月は普通に道を散歩していた。その歩く道の下にあるグラウンドでは、子ども達が元気よくサッカーをしていた……が、裏月の目に入ったのはその光景ではなかった。

道と草木の坂のギリギリの場所、そこに居る車椅子の少女が目に入っていた。茶髪のショートヘアーに変わった髪止めを使っている、車椅子に乗った少女。そんな少女の視線の先は、サッカーをしている少年達。その視線に込められた物は……憧れなどの感情だと裏月には思えた。

「げ……」

いきなり裏月がうめいたのは、少女が車椅子をさらに押したから……先ほども言ったように、少女が居る場所は坂の境目ギリギリの所だ。そんな所で車椅子を進めれば――

「ひゃ!!」

当然、車椅子の少女は坂にはみ出して落ちる。あらがうすべを持たない少女は、重力に従って落ちるしかない……と思われたが、少女の車椅子が突然停止した。

「……へ?」

「お前、バカか?」

「あ、あははは……」

車椅子を片手で掴んで止めた人物、裏月が少女に遠慮のない言葉をぶつける。一応、言っておくが、裏月と少女は初対面である。それでも遠慮なく言葉をぶつけるのは、裏月の性格ゆえなのか単純に呆れているだけなのか……まぁ両方と言ったところか。

こんな微妙な出逢い……だがこれも、歪んだ運命の中での出逢い。そして、彼と悲しみに泣く彼女が出会うのは――そこまで遠くないのかもしれない。


同時刻、その出逢いに呼応するかのように鎖で縛られた一冊の本が震え出す……いや、本だけではない。本の有る部屋の外の庭、そこに落ちている青い宝石が輝き出した。

宝石が光りを纏い、形を成した。それは一人の女性の形――シグナムと瓜二つな女性の形に。普通と違うのは、全身が黒く染まっていることだろう。言うなれば、影が形を成したか、まるでデータの欠片の様な……。

それの目の前に、一本の片刃の長剣が浮かび……迷わずそれは長剣を手に取った。

その瞬間、彼女――シグナムは異変を感じ取った。

「っ! ……なのは、後は任せた!!」

「は? ちょ、ちょっとシグナムさん!?」

突然走り出したシグナムに反応して、糸目の青年に後を任せながら、なのはは彼女を追い掛ける。初動の反応が良かったお陰で、何とかシグナムに追い付き言葉を放った。その間も、二人は走ることを止めない。

「ちょっとシグナムさん!? いきなり、どうしたんですか!?」

「……なのは、結界を張ってくれ。戦闘に支障をきたさない程度の大きさでいい。何かが……近づいて来る」

「――分かりました」

何か釈然としないなのはだったが、シグナムの表情を見て冗談ではない事は分かるので、素早く結界を構築した。結界で包まれた空間から人が消えて、シグナムとなのはしかいなくなる。それとほぼ同時に、シグナムが立ち止まった。

立ち止まった場所は、もともと人通りは少ないが、狭くはない場所だ。そんな場所の道路のど真ん中で立ち止まったシグナムの前に……何かが舞い降りた。

降り立った者の姿を見た瞬間、なのはは息を呑み、シグナムは表情をさらに険しくした。

「あれは……」

「シグナムさんと……瓜二つ」

シグナムの前に降り立ったのは、青い宝石が構築した影だったもの。先程と違うのは、完全にシグナムと瓜二つになっていることだ。違いは、手に持った長剣と、その身に纏った騎士服と……感情が見られない表情のみ。

そんな自分と同じ容姿の相手を前にして、シグナムは一歩前に出て手に卍型の鍔をした短刀を握る。

「下がっていろ、なのは。私がやる」

少女の応えを聞く前に、シグナムは短刀を斜めに振り上げ、告げる。

「煌めけ、天鎖斬月」

瞬間、シグナムを白い奔流が包み込み、そしてシグナムが奔流を斬り払うかのように刀を振り下ろした。

払われた白い奔流から見えたシグナムの姿は、巫女服を纏い白い卍型の鍔をした長刀、天鎖斬月を手にした姿に変わっていた。その姿を後ろから見つめるなのはは、このままシグナムに任せて良いのだろうか? という考えが頭をよぎっていた。

シグナムには謎が多い。まず、なぜヒナギクの下に現れ、そしてヒナギクの騎士を名乗っているかすら分かっていない。本人の記憶も曖昧だ。

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  1. 2012/03/19(月) 20:54:15|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第5話

「へぇ~、ヒナギクって言うんだ。男の子なのに、珍しい名前だね?」

「まぁよく言われます……あれ?」

自分の自己紹介を終えて、自分の名前の感想を言われて普通に返してしまったが、唇に指を当てて彼は雪華の言葉に疑問を感じる。

――私、男だなんて言ってないですよね?

少なくとも、自分の性別を一撃で見抜いた人なんて今まで一人もいない。珍しいのレベルじゃないですね……と、それほど他人に興味を持たない彼にしては珍しく、少女に興味を持った。

「どうしたの?」

「ううん、何でもないですよ。それより、どこか行く予定とかだったんじゃないんですか?」

「――あぁっ!! 変なのに追い掛けられた所為でもう時間だよ!! どうしよう……足の怪我があるから、これ以上無理をするわけにもいかないし……」

どうやら、先ほどの男二人にかなりしつこく追い掛けられていたらしく、右足の怪我が悪化してしまったようだ。

彼女の仕事上、これ以上足の怪我を悪化させる事はできない。どうしようか迷っている雪華に、何かを考えていたヒナギクが質問をする。

「あの、目的の場所って走れば間に合いますか?」

「う、うん。今から走れれば……」

「じゃあ、私が貴方を背負って行きますよ」

「へ? い、良いの?」

雪華の言葉に含まれるものは、恐らく初対面なのにそこまでお世話になっていいのか……と言う感じだろう。が、ヒナギクがそんな事を気にする筈がない。

「良いですよ。どうせ暇でしたから」

「じゃ、じゃあ遠慮なく……」

雪華がヒナギクの背中に乗り、ヒナギクも手慣れた様子で彼女を背負う。まぁヒナギク的には、お姫様抱っこの方が楽なのだが……理由としては、楽なの以外にも彼女のふくよかな胸が背中に――

「――いま、エッチな事考えてたでしょ?」

「……さ、さぁ。何のことですか?」

考えが読まれた事を誤魔化すように、ヒナギクは一気に走りだした。

この子かなり鋭い。下手に変な事は考えられないらしい――まぁ、単純に鋭いだけではないのだが……。

と、言うわけで走ること20分くらい。二人がたどり着いた場所は海鳴市で一番大きいドームだ。

そこには、グッズを買ったりなどしている人がかなり居て、デカデカとドームの入り口に取り付けられた看板は、ヒナギクが背負って来た少女の仕事を知るには十分な物だった。

「雪華ちゃんって、アイドルだったんですね……」

「ん、まぁ一応ね。とりあえず、はいこれ」

「ふぇ?」

ヒナギクの背中から降りた雪華が、彼にさらっと何かを手渡した。それを見てみると、首に掛けるタイプの通行証らしい。

「何かお礼したいから、一緒に中に入って待っててくれる? ついでに私のライブも見れるから♪」

「私は別にお礼なんて……」

「良いから良いから、早く行きましょ!」

ヒナギクが遠慮する暇もなく、雪華が彼の腕を取ってずんずん引っ張って行ってしまう。遠慮しようと思ったヒナギクも、どうやら雪華の勢いには逆らえないらしい。まぁ彼自身、彼女に興味を持っているのでやぶさかではないのだが。

二人揃って会場の裏口から入ると、そこは大勢のスタッフが居て、準備の真っ最中のようだ。そのスタッフの内の一人に、雪華がためらいもなく話し掛けた。

「すいません、遅れましたっ!!」

「おお雪華ちゃん。まだ大丈夫だよ……ってそっちの子は? 見ない顔だけど」

「あ、彼は――」

「初めまして。新しく入った、雪華ちゃんの手伝いの者です。今日はよろしくお願いします」

雪華が何かを言う前に、ヒナギクがとんでもないことを言って遮った。

その発言に驚いたのは、勿論のこと雪華だ。手伝い何てさせる為に、彼をここに呼んだ訳ではないので当然だが、スタッフは疑うことなく、そうかそうか、じゃあよろしく頼むよ!! 何て言って準備に戻ってしまった。

「ちょ、ちょっと! 私は別に手伝いなんて頼んでないよっ!?」

「良いんですよ。どうせ暇ですから」
そう言って、ヒナギクはあっという間にスタッフに混じって手伝いを始めてしまう。それを見ながら、雪華は大丈夫かなぁ、何て心配になってしまったが……その心配は良い意味で裏切られた。

「おーいキミ、こっちも頼むー」

「キミキミ、こっちも頼めるかい?」

「はい、よろこんで♪」

一体どこでこんなスキルを修得したのか――まぁ本人にも分からないが――凄まじい働きを見せて、ヒナギクは絶賛大活躍である。

そんな平然と手伝いをこなすヒナギクだったが、何か奇妙な視線を感じていた。何が奇妙かと言えば、別に悪意のある視線でもなく、何かを見極める様な物……加えて、人ではない何かの視線だ。

彼が集中して気配を探ると、やはり人とは違う気配を感じる……そう、自分の千本桜が具象化した時と同じ気配だ。まぁ、別に何かする訳でもないらしいので、放っておいても平気だろう、と彼は手伝いに集中する。

「アイツ……俺の気配を感じとったのか?」

奇妙な視線の主。その人物は天井の柱の上に立ちながら、決して小さくない驚きを見せていた。

背は九歳程度の子どもと同じくらいだが、銀髪で翡翠の瞳に少し長めの刀を背中に背負って居るため明らかに普通の子どもではない。

「凄いやろ? あの子、ボク達の気配も正確に解るんよ」

「――げ……何でてめえがここに……」

少年が振り向くと同時に、かなり彼の表情が嫌そうに変わった。いつのまにか彼の後ろに居たのは、一切の濁りがない真っ白な服を身に纏って、その糸目と薄ら笑いの様な表情からは恐らく親しい者でしか考えを読み取れない……そう思わせる人物だった。

その人物は、ゆったりとした動きで柱に座り、大きな袖に手を入れて漸く口を開いた。

「何や、久しぶりの再会やのに、その反応は酷いなぁ」

「俺はてめえに会いたいとは、微塵にも思ってなかったからな」

彼らの関係は、かなり親しい関係のようだ。少年の方は憎まれ口を叩きながらも、どこかその表情は穏やかで、薄ら笑いを浮かべている彼もどこか楽しげだ。まぁ言うなれば、腐れ縁と言う感じか。

「で、アイツ一体何者だ? 気配を殺したのに、アイツは正確に感じ取ってきた。こんな事、俺たちそれぞれの主じゃねぇと普通は無理だ」

「単純に関係だけなら、ボクの可愛い主の師匠や」

「――実力は?」

少年の問いに彼は自分の目を少し開き、その少年からはほんの少し見え程度の、しかし鋭く光る深紅の瞳で少年を見据えながら、言う。

「本気を“出せるんやったら”、白河(しらかわ)家の当主様でもないと、あの子とまともに戦う事も出来へんやろうな」

「なるほど……な。天鎖斬月の所有者で、やっとか」

「それも、完全に使いこなせんとアカンからなぁ」

「……とりあえず知りたい事は分かったが、お前いい加減そのエセ京都弁やめろよ」

少年によっていきなり話が切り替わり、二人の間に流れていた静かな空気が霧散する。彼もそれに合わせるように、再び糸目になり笑みをこぼした。

「ボクは気に入っとるんやけどなぁ。キミこそ、主の記憶使わんとその姿やない」

「それはお前も同じだろうが。俺達と同じく、資格者を見つけた他の三人はどうなんだよ? さくらの奴は俺も会ったけどな」

「んー、みんな自由気ままにやっとるよ。まぁ、姿が変わっとらんのは、ボク達とさくらちゃんくらいなもんやけどな。ああ、そうそう、新しい子も増えたんよ。もうえらいツンデレさんでな」

「何だそりゃ? ……俺はもう行くぜ」

訳が分からん、と言った風な少年だったが、何かを感じ取って青年に背を向ける。

「あらら、もしかしてあの変な石を拾いに行くん?」

「ああ。俺の主の仕事をあんなくだらないもんに、邪魔させる訳にはいかねぇしな」

「主思いなんね」

「…………うっせ」

瞬間的にその場から居なくなる時、少年の顔が耳まで真っ赤になったのは気のせいではないだろう。事実、青年の方は面白いものを見た、っていう感じの表情だし。

因みに青年の方は、さてさて小さな主さんの場所に戻ろうか……やっぱり、もうちょい探検しよか~、とか思っている辺り、主を困らせるくらい自由人だったりする。

時間は過ぎ去っていき、あっという間にライブ開始の直前。ステージの裏側では、当然だがもう既に雪華がスタンバイしていた。……そんな雪華を心配して見つめるのは、ヒナギクだ。

「ん、どうしたの?」

「……足の怪我、大丈夫なんですか?」

「へーきだよ。それじゃ行って来るね――ヒナ」

ヒナギクに見せたのは、誰もが見惚れるだろうとびっきりの笑顔。それは……ヒナギクとて例外ではなかった。

始まったライブ……その空気に、ヒナギクは一瞬にして呑まれた。

「みんなーー!! 盛り上がって行くよ――!!!!」

〈おおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!〉

素人でも分かる、これが本物かどうかなど。一瞬にして観客を魅力し、足の怪我など全く感じさせない動き。

ヒナギクは雪華から目が離せなくなる、何も言えなくなる、ここまで女の子相手に見惚れてしまうのは……まぁ、シグナムが現れたとき以来と言った感じか。

そんな魅入られたヒナギクを元に戻したのは――彼にとっては不快でしかない物だった。

何かが弾ける様な感覚、ジュエルシードの発動だ。しかし、ヒナギクにとって重要なのはそこではない。

ジュエルシードが発動した瞬間、ほんの少しだが雪華がそれに反応した、それが彼にとっては重要だった。

(あの子……ジュエルシードの発動に気付いてる)

それに気が付いたヒナギクの行動は早かった。発動したジュエルシードの数は、全部で三つ。距離は三つそれぞれ近い場所に在るが、個別の発動らしい。

瞬時に術式を組み、結界を展開する。そして、発動した場所に向かって一気に走りだした。

同時刻、ジュエルシード発動を感知したなのはが走る。一緒に来ていた筈のシグナムがいない理由は、なのはが無理やり置いて来たからだ。緊急時の為にとか、無理な理由をつけて。

「っていうか、本当にもう一つの方は心配ないの?」

「へーきや。ボクの知り合いが、ちょうど近くに居るんよ」

なのはの隣を走る、糸目の青年が確信があるといった風に言う。なのはがシグナムを待機させた理由の一つは、彼女の隣を走る青年が人手は足りている、と教えてくれたから。

もう一つの理由……これは自分の師が望んでいる事だから、今は関係ないだろう。

「なら良いけど。まぁ今回は早く済ませたいから、お願いできる?」

「ハイハイ。了解や」

言うなり、青年の姿が消えた。その代わりなのだろうか、なのはの服装が青年と同じ真っ白な服に――違いは大きさくらい――なり、服の腹辺りには脇差の様な刀が差してある。

服装が変わったなのはは、さらに走る速度を上げた。それと同じ時、既にヒナギクはジュエルシード暴走体と相対していた。

相手は、ジュエルシードを取り込んだ巨大な鳥……怪鳥だ。それが通常の魔導師より遥かに迅い速度で飛翔している――そう、通常の魔導師ならば、かなり苦戦するだろう。通常より迅い魔導師、例えばシグナムと戦ったフェイト・テスタロッサならば、多少の苦戦程度だろう。

ならば……ヒナギクが苦戦する道理など、どこにもない。彼が手に持った刀の刃が、散って行く。

舞い散る千の刃、それら全てがヒナギクの背に集まり、型を成して行く。

それは桜色の翼となり――一瞬にして“純白”に変わった。一対二枚の純白の翼……ヒナギクの姿は、まるで天使を思わせる程に美しい。
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  1. 2012/03/18(日) 23:35:02|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第4話

「刃が消えた……? 何のつもりだい、それは!?」

相対するヒナギクとアルフ。その身に何かも分からない重圧を受けながら、アルフは叫んだ。彼が何を言った途端、刀の刃が消えた。アルフからすれば、自分が舐められているとでも思ったのだろうか?

対するヒナギクは、何も言わない。いや、言わないのではない。何も言う必要がないのだ。

舞い散る桜の刃……それが見切れていない時点で彼女の敗北は――すでに決まっているのだから。

その変化は、一瞬で起こった。無数に枝分かれした、千本桜の刃。それが月の光を浴びて、名の通り桜色に輝く。その刃が、まるで風が吹くように、アルフの体を通り過ぎた。

その瞬間……アルフの体に突然衝撃が走り、急速に意識が遠退いていく。

(なん……だい……)

声に出す事すらできない。彼女の体が傾く。だが、ヒナギクはそれを見ずにその身を翻した。もう、アルフに興味がないとばかりに。
アルフの拳は、一度もヒナギクに届くことはなかった。二人の物理的な距離は近い……しかし、絶対的な距離がある。

まさに“格”が違う、と言わんばかりに、アルフは地に墜ちながら意識を失い、ヒナギクは悠然と歩きだし、千本桜の刃は刀の刀身に戻った。

「っ……!!」

だが、突如ヒナギクが咳き込み始める。少しして収まったが、口を押さえていた手のひらには、彼の騎士にはとても見せられない……血が吐き出されていた。

「今日は一段と、調子が悪いですね……」

まだ十分程度しか戦ってないはずなのに、と付け足して彼は呟く。まぁ、自分の弟子からは五分がギリギリ許容範囲、と念を押されていたので当然だが。

少々遊びが過ぎましたね……と、全く本気を出していないらしい事をヒナギクは思った。事実、全く本気を出していなかったのだが。
さて、私の騎士様はどうなりましたかね。などと、ヒナギクは自分の体を一切気にしていない様な事を考えているヒナギクだった。彼の弟子が聞けば、怒り狂いそうな考えだが。

そんな彼の騎士はというと、その手に白い刀、『天鎖斬月』を持ちフェイトと相対していた。

彼女自身もそうだが、彼女の持つ天鎖斬月は本来の力ではないにしろ、圧倒的な存在感を放っている。

そんな彼女と相対するフェイトは、一瞬たりとも目が離せない。離してしまえば、自分は一瞬にして敗北してしまうだろうと、直感で理解していたからだ。その為、自身の使い魔が敗北したことにも、全く気が付かなかった。

自分と同格と見る、何てことはおこがましい。完全に格上として見なければ……確実にやられる。

――そんな事を考えている時点で、甘過ぎる事に彼女は気が付かない。

フェイトからすれば本当に突然、シグナムの姿が消えた。フェイトには、消えたようにしか見えなかった。

「どこに……っ!?」

反応できたのは、奇跡的だっただろう。彼女の黒い斧状のデバイスである『バルディッシュ』ですら、防壁を張る事は愚か反応すらできなかったそれを、フェイトはバルディッシュの本体で受け止めた。

だが、受け止めただけで衝撃は殺し切れずフェイトは吹き飛ばされた。彼女が受け止めたのは、彼女の右側から振るわれた天鎖斬月……つまりはシグナムが振るったものだ。

刀を受け止められたシグナムは、少々驚いたようだ。今の一撃があの少女に反応されるとは、思っていなかったのだろう。

――これは、少しは楽しめるかもな。

そんなシグナムの少々嬉しそうな笑みを、フェイトは見る間もなく飛行魔法を行使して空中へ舞い上がった。

近距離は不味い……そんな考えでフェイトは距離を取った――彼女からすれば、だが。残念ながら……シグナムからすれば、この程度は距離を取った事にはならないことを、フェイトは次の瞬間に思い知る。

「なっ!?」

――距離を取った筈のフェイトの目の前に、天鎖斬月を振るうシグナムが現れた事で。

その天鎖斬月を辛うじてバルディッシュで受け止める……が、半秒足らずでバルディッシュが展開した障壁に、何かが衝突する。障壁が展開されている場所は、自分の左脇。何が起こっているか理解できないフェイトだったが、その目が大きく見開かれた。

「う……そ……」

少女の目に映っているのは、天鎖斬月を持ったシグナム“達”だった。何が起こっているか理解できない……だが、少女の頭脳が何とか答えを導き出す。

(残像っ!? それもこれだけの数を……しかも、魔力を使ってない!? そんな事、あり得ないっ!?)

少女の混乱も無理はないだろう。何せ、自分を上回る速度を叩きだしているにも関わらず、一切の魔力反応を感知できないのだから。

そんな少女の混乱を気にも止めずに、シグナムは一気に少女を攻め立てる。天鎖斬月を叩きつけ、少女に防がれればまた別な場所に叩きつけ、それが防壁に阻まれたのなら、さらに速度を上昇させながら天鎖斬月を振るった。

少女がこの猛攻に耐えられているのは、一重に自分のデバイスがギリギリのラインで防壁を自動展開してくれているからだ。それがなければ、少女はとっくにやられていた。

――しかし、その行動は数秒も持たなかった。

「はあっ!!」

「くうっ!?」

ほんの一瞬、少女の集中力が途切れ、その動きが少しブレたところに、シグナムの蹴りが少女の右脇腹に直撃したのだ。

直撃したのは普通の蹴り。しかし、こんな超速の中で繰り出された蹴りだ。普通の威力な筈がない。

少女の体は簡単に吹き飛ばされ、近くのビルに叩きつけられた。
幸い、装甲が薄いとはいえバリアジャケットを纏っていたので、大したダメージにはならなかった。しかし少女にとって、そんな事は慰めにもならない。

相手は自分よりも遥かに格上。自分の得意とする筈のスピード勝負では話にならない上に、相手はまだ全力を出しているようには見えない。

……勝てない。私はこの人には勝てない。そんな考えがフェイトの頭を過るが、それを振り払うかのように術式を展開し始める。

私は敗けられない。大好きな母の為にも、絶対に。少女は自分が今最短で術式を組めて、なおかつ威力の高い術に自身の魔力を込めるだけ叩き込む。

最大術でなくていい、今の僅かな時間で彼女の防御を越えられるだけの術を行使する。そして、防御を越えた瞬間を狙って一撃で撃破する。それしか方法はない。

「撃ち抜け、轟雷ッ!!」

『Thunder Smasher.』

術式の展開完了と同時に、少女は自身の持てる全て出して、一気に急加速。彼女の居る高度に到達した瞬間、強引に急停止をかけ――バルディッシュを横凪ぎに振るった。

「サンダー……スマッシャー――――!!!!」

シグナムに向かって放たれたのは、巨大な魔力の雷撃。轟音をならしながら、その圧倒的な筈の雷撃がシグナムに迫る。

そうだ。圧倒的な筈なのに……シグナムは全く顔色を変えない。それどころか、一切逃げるつもりもない。

「その心意気はよし――しかし、次からは自分の力量を弁えてかかってくるのだな」

その瞬間、シグナムの持つ天鎖斬月から魔力ではない何かが溢れる。

シグナムが天鎖斬月を両手で持ち、構える。それだけの動作なのに、とても美しい、とフェイトは思えた。

「月牙――」

シグナムが轟音の中でも、なぜかはっきりと聞き取れる声で言う。ただそれだけで、溢れ出る何かが力を増す。

この時点でフェイトは分かっていただろう。自分では勝てない、と。それでもまだ、諦めずに雷撃に魔力を込める。

ついに渾身の雷撃がシグナムに到達しようか……その時に、彼女は天鎖斬月を振り下ろした。

「――天衝ッ!!」

放たれたのは、斬撃“そのもの”。天を衝く月の牙が、雷撃を食らい尽くす。

放たれた白い斬撃は雷撃と衝突――その刹那、斬撃は雷撃をいとも簡単に押し返し、

「母……さん……」

その勢いのままにフェイトを飲み込み、意識をも簡単に刈り取った。

決して、彼女達が弱い訳ではなかった……しかし、相手が悪すぎた、と言っておこう。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「もしもし。どうした、父上?」

『うむ。久しぶりだな、斬月』

場所は変わり、なのは達の地球からすれば異世界、ミッドチルダ。そして、そんな場所で電話に出ているのが彼――ミッドだとかなり有名な家系の現当主、斬月だ。

彼の言葉から分かるだろうが、電話の相手は彼の父親だ。……察しの良い斬月は、何かまた面倒事になっているのだろう、と思い自分が訊きたいことを先に言った。

「先に訊くが父上。あのじゃじゃ馬がどこに行ったか、分かったのか?」

『いや、まったくだ。まぁだが、三本の内、二本の『天鎖斬月』……さらには『千本桜』と『神鎗』。果てにはあのじゃじゃ馬の『氷輪丸』まで持ち主を見つけるとは……かなり異常と言えるな』

二人の会話から分かる通り、斬月の家系は様々な刀を受け継いでいる。

その中でも、天鎖斬月は家系の中でもかなり特殊な刀であり、家系に伝わる刀としては代名詞と言った感じで扱われるが……他の刀も十分に特殊である。

そもそも、デバイスと違い機械ですらない刀が、人格を持っているのだ。特殊でなければ何なのだろう?

まぁ、斬月の父親が異常と言っているのはそこではない。一世代にここまで継承者が現れる、それが異常と言えるのだ。

「しかも、持ち主が分からない『氷輪丸』以外は全て私の知り合い」

『ああ。そして、残った最後の『天鎖斬月』。すでに蒼天の持ち主が現れている……これはもしかすると――』

『お父さんの……バカあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!!』

唐突に電話から響く、よく知る叫び声。電話からでも十分に響くその声に、思わず斬月は携帯を耳から離してしまう。

まぁ彼の予想通り、また変な面倒事になっているな、と思わず頭を抱える斬月。

『うおっ! な、じゃない。ざ、斬月!! 早く帰って来てくれっ! 私ではどうにも――まてまて!! フライパンは投げる物ではないだろう!?』

『バカバカバカバカバカっ!! お父さんのバカあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!』

「ああ、分かった。出来るだけ、早く戻るようにする」

もはや、聞こえていないだろうと思いながらも、斬月はそう言って電話を切った。

全く、あれが自分の妹だと思うと……ついでに言えば、どこも私に似ていないしな。

因みに、彼は容姿は父親似、性格は母親似。彼の妹はその真逆。似ていないのも当然と言えた。

さて、家の為にもさっさと解決しなければな。そう思い、彼は再び足を進める。

――歪んだ物語の中で、一つの街に刀の継承者達が集結していることを……まだ彼は知らない。そして、彼と最後の一人が揃う時に何が起こるのか――まだ、誰にも分からない。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「はぁ……」

先ほど話していた刀の継承者、その中の一つ『千本桜』の継承者である彼、ヒナギクはため息を吐いていた。

昨日の夜のいざこざは――別に小さくはないが、軽く解決した。あの二人も、適当に軽いバインドで縛って置いたので、意識を取り戻したら勝手に解けるだろうから心配ない。

いつも彼に付き添っているシグナムは、ただいま彼の弟子であるなのはが、とあるアイドルのライブに行くための付き添いで居ないのだが、彼のため息の理由はそれでもない。

彼のため息の理由、それは――

「ちょっとまてよ!! 俺たちと遊ぼうぜぇ!!」

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  1. 2012/03/17(土) 21:59:38|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第3話

「テスタロッサ? ……本当にそう名乗ったのか?」

「はい。裏月さん、知っているんですか?」

「ああ、まぁ正確にはそいつの親だな」

なのはの言葉に裏月は一度頷き、自分の前にあるパソコンのキーボードを高速で叩き始めた。

この間の出来事、フェイト・テスタロッサとの邂逅時、なのはが彼女の名前を問うた理由は2つ。一つは、なのは自身が彼女に興味を持ったから。もう一つは、知識が豊富な彼が、このように何かを知っている可能性があったからだ。

たとえ少女自身が有名でなくとも、その親が有名という可能性はある。相手が魔導師ならなおさらだ。
数秒もしない間に、パソコンの画面に誰かの顔が映った。なのはが画面を覗くと、それには一人の女性が映し出されている。

「裏月さん、この人がフェイトちゃんの母親ですか?」

「そ。プレシア・テスタロッサ。ミッドじゃかなり有名な魔導師“だった”らしいな」

「だった……ですか」

裏月の言い方だと、どうやら有名だったのは昔の話らしい。今はどうしているのか……なのはの疑問に答える為に、裏月はパソコンの画面を切り替える。そこに乗っているデータを彼女が読んでいくと、その表情はみるみる不快感を顕にしていった。

それも当然だろう。何せ、その情報は少女にとって……いや、普通の人なら不快な物でしかないのだから。

「これ、自分たちの失敗を、全部プレシアさんに押し付けたって訳ですか」

「ああ。プレシアが危険だと判断した実験を強硬。結果、事故によって死者が出ちまった。しかも、その責任を全てプレシアに押し付けた……まぁ、これはプレシアが行方をくらました後、捜査によってこいつの責任じゃないって分かったんだが――重要なのはそこじゃない」

彼がさらに画面を切り替える。そして、そこに映っている人物を見て、なのはは目を見開いた。

「なに……これ。この人、フェイトちゃんと瓜二つ……」

「やっぱりな。アリシア・テスタロッサ。十年前、さっきの事故で死亡したプレシアの“一人娘”だ」

「一人娘!? 父親は――」

「とっくに死んでる。しかも、アリシアの事はかなり溺愛していたらしいな。たった一人の家族……かなり精神的にきただろうぜ」

――おかしい。まず、アリシアとフェイトの関係。容姿が瓜二つなのは、双子という事ならば説明がつくが、一人娘なのだからそれはほぼあり得ない。

そして、さらにおかしいのはフェイトの年齢だ。フェイトの容姿からして、せいぜいなのはと同じくらいだろう。だからおかしい。

事故が起こったのは十年前。少なくとも、その頃にはフェイトは生まれてすらいない筈だ。つまり、最低でもそこから一年か二年以内にフェイトは生まれた計算になる。
父親は既に死に、プレシアは精神的に不安定な状態で、アリシアと瓜二つ――偶然にしては出来過ぎている。

ここで少女の頭脳は、一つの可能性を導き出した。ただ、それはなのはにとってはあって欲しくない可能性だ。

だが、それでも訊かなければならない。自分が思い付くのだ、彼がこの可能性を配慮していない筈がない。

「裏月さん……ミッドにクローンの技術って、ありますか?」

「――結論だけ言うなら、ある。違法行為だが、技術的には完全なクローンを生み出せる。お前なら、俺に訊くまでも無いだろ」

……普通ならば、クローンなど何をバカな、と切って捨てる人間が殆どだろう。だが、少なくともこの地球にとっては異常な魔法世界の技術を使えば、可能性はあった。
そしてその可能性は、裏月によって完全に肯定されてしまった。まだ確定ではないが、それでも可能性としてはあり得る話だ。

これについても調べておくか……と、裏月か自分のメガネを指で上げて位置を直し、突然話を変える。確かにフェイトの事も大事だが、忘れてはいけない事は他にもあるのだ。

「問題は他にもある。プレシアが居るという前提で、フェイトがジュエルシードを集める理由だ」

「願いの宝石、クローン……アリシアちゃんとフェイトちゃん。このキーワードから導き出される可能性は――まさか……!」

……ここまでキーワードが揃えば、なのはは彼女の目的が確信はないが予想できた。

しかし、裏月にとっては完全に確信していた。それは彼自身が、彼女に近い――大切な人を突然失う――事を体験しているからだ。

失った人の関係の違いがあろうとも、同じことを願うだろう。それは、裏月とて例外ではなかった。

恐らく、今のプレシアと過去の裏月の目的は同じだろう。下手をすれば、今も裏月はプレシアと同じことを願っていたかもしれない。

――それは、あらゆる人が願い、そして叶わぬ“ユメ”。かつては裏月も追い求め、だがその天才的な頭脳を持ってしても叶わなかった願い。

彼女はその叶わぬ“ユメ”を叶えようとしている。そんな事は、幻想でしかないだろうに……。

彼女が追い求めるもの……それは――

「……死者を生き返らせる。それが――」

「それがお前の願いか、プレシア」

裏月の言葉を引き継ぐかのように、全く別の場所で彼の親友がそう呟いた。

彼の手には一通の手紙があり、彼はそれを強く握りしめる。

「あのバカ者が……!!」

彼の呟いた言葉に込められたものは、手紙を送った人間に対しての怒りや悲しみが含まれているように思えた。

――だからこそ、彼も動き出す。向かう先は……自身の親友が居る場所。

「早まるな……早まるなよ、プレシア!!」

この歪んだ物語はさらに加速し、誰にも止められない。さまざまな願いの先には……何が在るのだろうか?









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「あれか……」

時間と場所が変わり、ビル等が立ち並ぶ市街地。そこに人影は一切ない。いくら夜と言えども、かなり異常な光景だった。

それも当然。何故なら、この場所一帯には魔法によって結界が張られているのだから。

そして、空中に浮かぶ魔法を帯びた宝石……ジュエルシードを見つめるのはシグナム――と、その主のヒナギクだ。

「へぇ~、なかなか綺麗ですね」

「はぁ……」

どうしてこうなったのだろう? その問いの答えは、シグナムが一番知っているのだが、そう思わずにはいられなかった。

まぁ、シグナムでも気付く近場でのジュエルシードの発動。それをヒナギクが気付かないわけがない。で、彼がこんな物をシグナムに任せて放っておくわけがなく、こうして一緒に来てしまった、という事だ。実際、シグナムでは結界を張れないので助かったと言えば助かったのだが。

さて、さっさと封印してしまうか、とシグナムは何処からかカードを取り出し、それをジュエルシードに投げつけた。そのカードはやけにあっさりジュエルシードに刺さり、あっという間に青い宝石を取り込んでシグナムの手元に戻ってきた。

本当にあっさり済んだな……シグナムはそう思ったが、すぐに思考を切り替えた。

どうやら、相手は気配を隠す気など毛頭ないらしい。結界内に誰かが侵入したのはとっくに気付いていたが、ここまで隠す気がないとはな。

暗闇の中から、二人の侵入者が姿を現した。一人は金髪の少女、もう一人は犬耳の様な物が付いている女性だった。

「……それを渡してください」

「断る、と言ったら?」

「無理にでも、奪います」

「ケガしたくなかったら、とっととそれを渡しなっ!!」

シグナムは一度、諦めた様にため息を吐いた。これは、一切話を聞くつもりなど無い。特に使い魔――シグナムからすれば守護獣――の方はすぐにでも襲い掛かって来そうだ。

これはもう、選択肢が無さそうだな……できれば主は巻き込みたくなかったのだがな、とシグナムは考えたが――

「シグナム、そっちの子は任せます」

「なっ!?」

「あ、アルフっ!?」

まさに早業。ヒナギクが転移魔法を起動、シグナムの返事を聞く間もなくアルフを連れてどこかへ転移してしまった。

シグナムは……今度は頭を抱えながらため息を吐いた。まぁ彼にとっては、シグナム一人に任せるという選択肢はないので当然と言えば当然なのだが。

こうなってしまったら、仕方がないな。そう思いシグナムは目の前の少女に意識を集中させた。

「どうやら、お前と私の一騎打ちらしいな」

「構いません。私もアルフも敗けませんから」

「大した自信だな」

だが、少しは自分達の力量を弁えた方がいい。確かにフェイト達の力量は、普通の魔導師に比べれば高い方だろう。

しかし、この二人は普通の魔導師の枠には収まらない。いや、魔導師ですら無い。

――それに、あの程度の輩に私の主が敗ける筈がないからな。

シグナムにはその自信があった。
だからこそ、自分は目の前の少女に集中できる。

既に目の前の少女は、己の武器を構えて戦闘態勢をとっていた。

ならば自分も、それに応えよう。シグナムは卍型の白い小刀を取り出し、それを前へ突き出した。

それだけ、たったそれだけの事なのに、少女はいきなり自分の体に重圧が掛かった様に思えた。

(なに……これ……)

(何なんだい! コイツはっ!?)

時を同じくして、少女の使い魔が戸惑いを感じていた。転移してすぐに、彼女は自身の主の下に戻る為にヒナギクに攻撃を仕掛けたのだが――その攻撃は一切当たらない。

使い魔、アルフの得意な距離である筈の接近戦が、全て通用しないのだ。あり得ない、自身の力量を理解しているアルフはそう思ったが、現実にそれが起こっているのだ。

対して攻撃を避けるヒナギクは……意気がった割りにはこの程度か、と失望にも似た感情を抱いていた。

これならば、自分の弟子と戯れ方が数倍楽しい。別に自分はバトルマニアでも何でもないが、こんな時でもないと、自分の弟子にまともに戦わせてもらえないので多少は期待していたのだが……期待外れもいいところだ。

それに――とヒナギクの表情がほんの一瞬だが歪む。それは、自分の胸に痛みが走ったからだ。

そろそろ、時間的にキツい頃ですね。相変わらず不便な体です……そう考えたヒナギクは、動いた。

「ッ!?」

次の瞬間、殴り掛かろうとしていたアルフは、本能的に後ろに跳んだ。避けるだけだったヒナギクの手には……一瞬前まではなかった一本の刀が握られていた。もし、退くのが少しでも遅ければ、アルフの意識は刈り取られていただろう。

ヒナギクが刀を顔の前に構え、その瞳をゆっくりと閉じる。

(ま、後でさくらに怒られるでしょうから――さっさと決着つけますか)

シグナムが左手を刀を構える右手に添え、さらに力を込める。

(さて……まだ記憶はまったく戻らんが、顔も解らない“姉さん”に恥をかかせぬ戦いをせねばな)

一見無防備に見えるが……相対している二人だから解る。下手なことをすれば、自分たちは一瞬でやられてしまう、と。

ヒナギクとシグナム。二人の魔力ではない何かの力が膨れ上がっていく。

「散って――」

ヒナギクの刀の刃が、その姿を散らし月の光を受けながら舞う。

「煌めけ――」

シグナムを白い光が包み込み、その光の奔流から少しづつ刀が姿を現す。

「――『千本桜』」

月の光を受けた刃が、桜のように美しく舞い散る。

「――『天鎖斬月』」

巫女の姿をした彼女の持つ刀が、一切の汚れなく白く煌めく。

今、姫と騎士が……歪んだ運命を斬り開く刃を振り下ろす。
  1. 2012/03/17(土) 21:31:39|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第2話

今さらながら言いますが、この小説はBLEACHとのクロス要素を含んでいます。ただ、一部BLEACHのキャラや武器を出してBLEACHの設定に改変要素を加えているだけです。そういう物が苦手な方は閲覧をオススメ出来ません。

では、第2話をどうぞ。








────────────────────

その日、様々な人間の運命を歪める21の宝石が……海鳴に降り注いだ。

運命をねじ曲げられた者は、果たして幸せなのだろうか? それは、その者にしか分からないだろう。もしくは、同じ願いを持った者にしか。

だが、確かに幻想(ねがい)の宝石はこの町に降り注ぐ。まるで、それが必然とでも言うかのように。

「くそっ……ま、だだ……」

そしてここにも、己の運命をねじ曲げられた人間がいた。いや、この出来事も必然なのかもしれない。
彼が――ユーノ・スクライアが、自身のボロボロな体に鞭を打ち、霞む視界をはっきりさせる。彼の目の前には異形の姿をした者……例えて見るならば、毛玉の化け物だろうか?

それに向かって、少年は術式を組み上げていき、魔法陣を展開して封印を開始する。翠の帯が化け物に絡み付いていく――しかし彼の努力も虚しく、化け物は帯を引きちぎり何処かへ消えてしまった。

「うわっ!?」

同時に、その余波を受けたユーノが吹き飛ばされ、何度か転がったところで漸く止まった。

だが、その姿は誰がどう見ても満身創痍。動く事などできないだろう。が、それでもユーノは必死に体を動かそうとする。

(ダメ……だ。今、アレを逃がすわけに……は……)

そんなユーノの願いも、今の彼の体では叶えてくれない。その意識が途絶える直前、彼の体は光に包まれ、その光が収まると彼の姿はフェレットの様な動物に変化した。
恐らく無意識下だったのだろう。次の瞬間、彼の意識は途切れた。

……そんな彼に誰が近づいて来る。まだあどけない少女で、己の金髪の髪をツインテールに括っている。

少女は小動物の状態の彼を、ゆっくり優しくその胸に抱き上げる。

「フェイト、ごめん! アイツ予想以上にすばしっこくて……ん? なんだい、そいつは?」

「この子……今は動物の姿だけど、危険な状態だからこうなってるんだと思う。治療できる? アルフ」

「まぁ、できるけどさ……」

目的の物をほったらかして、いきなりこんなんで良いのかねぇ……。と、フェイトと呼ばれた少女の使い魔、アルフは考えたが、こういうところが自分の主の良いところだね、と思って目的の物を後回しに傷ついた彼の治療を開始した。

――歪んだ運命の中で、少女と少年は……こうして出会った。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

空き地などが多い、人気の無い場所。そこに異形の何かが降り立った。

その異形は、ユーノが封印し損ねた毛玉の化け物。そいつは、まだ暴れ足りない、とばかりに標的を探して視線を彷徨わせる。

「…………!?」

――しかし、それも終わりが来た。毛玉の化け物の体に、桜色をした三本の熱線が次々に突き刺さり、その巨体を揺るがせる。

さらに先ほどより大きい、止めと言わんばかりの赤い帯状の熱線が二本、化け物に直撃。巨体が音を立てて地面に倒れ込んだ。

そして、何処から投げられたカードが巨体に突き刺さり……そのカードに吸い込まれていく。

それが起こったのとほぼ同時に、化け物の近くに誰が降り立つ。
機械的な蒼い翼から粒子を撒き散らし、少女が地面に着地するのを見計らったかのように、化け物を完全に吸い込んだカードが少女の手に宙を舞いながら戻り、少女がそれを掴み取った。

「シリアルⅩⅩⅠ……か」

掴んだカードの中身を見て、少女がそう呟く。カードの中には蒼い宝石が描かれ、それは完全に封印されているらしい。

少女は腰のカードホルスターにそれをしまい、展開していた蒼い翼と武装を解除して――高町なのははその場を立ち去った。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

朝早く、高町家の道場ではいつも鍛練が行われている。だが、それが例外的に行われない日がある。

およそ三ヶ月前……そう、シグナムがヒナの下に現れた時からだ。以前からヒナは高町家に泊りにくることがあったが、シグナムが現れてからは当然ながら彼女も、自身の主であるヒナについて来る。

事の始まりは、最初に泊りに来た時に高町家の道場をシグナムが見た事からだ。道場を見た彼女が、ここを使わせて欲しい……と士郎たちに言い、それを士郎たちも快く了承した。

最初は、士郎たちも近くで鍛練していたが――すぐに止めた。これは邪魔をしてはいけない……と、彼らも感じとったのかもしれない。

そのシグナムは今、道場で座禅を組んでいた。服装は……何故か巫女服。まぁ理由は――単純に、彼女の主(ヒナギク)の趣味である。なに、気にすることは無い。だって本人も気にしてないし、寧ろ気に入ってそうだし。

さて、話を戻す。巫女服で座禅を組むシグナムの膝の上には、一本の長刀が置かれている。
長さは、日本刀より少し長い程度。色は全てが白に彩られ、卍型の鍔、柄頭には途切れた鎖……など、明らかに普通の刀とは違うと解るそれに、シグナムは全神経を集中――延いては心を刀一つに絞る。

シグナムがこの状態になって――実に二時間になる。その影響なのか、それともこの状態になると常なのか、彼女の周りの空間はどこか近寄り難い……言うなれば彼女の空間が出来上がっていた。

この状態でいる意味は2つある。一つは……この刀に必要な物、集中力や精神力を鍛える為。

もう一つは――刀との対話の為だ。

前者はシグナムは最初、何をいまさら……と思ったが、やって見て解る。これは思っている以上に、キツい。だが、そこは剣の騎士。三ヶ月間で、今の様に優に二時間はこの状態を保っていられるようになった。

後者に関しては、どうやらシグナムは一度も対話に入れてすらいないようだ。まぁ、これはしょうがない。

そもそも、裏月が再現した物とはいえ、オリジナルと対等な刀だ。

恐らくこの刀を受け継ぐ家の現当主から言わせれば、たった三ヶ月でここまで出来る者はそういない、とでも言われるだろう。

そんなシグナムでさえ、まだ刀との対話に至れないのだから、どれほど難しい事かが解る。まぁ、単純にこの方法で鍛えたからといって、対話を行えるわけではないのだが。

――実際、シグナムの持つ刀がツンデレなので仕方がない。

それはさて置き、シグナムは閉じていた目をゆっくりと開き、今日はここまでにするか、と考えて自身の膝にある刀を手に取り立ち上がった。

と、それと殆ど同時に、道場の中に誰が入って来る。恐らく、シグナムがこの修行を終えたのが分かったのだろう。

「シグナムさん。朝ご飯、できましたよ~」

「ああ。……なのは、どうでも良いのだが、いつまで主にくっついているんだ?」

「別に私がくっついてるわけじゃないんですけど……っていうか、師匠が離してくれないんですよ」

まぁ楽な事は楽なんだけど、この状態だと朝の鍛練ができないんだよね~、となのはは心の中で付け加えた。

そんななのはの現在の状態は……寝呆け眼のヒナギクに胸の辺りで抱き抱えられてる。ぶっちゃけて言えば、人間抱き枕的な状態だ。
一応弁解をさせてもらうと、もともとヒナギクはそこまで朝は弱くない。寧ろ、かなり強い部類に入るだろう。

ただ、それが高町家での泊りになると話は別だ。泊りになると、ヒナギクとなのはは一緒に寝るのだが……なのはの抱き心地がいいのか単純に暖かいからなのかは不明だが、確実にヒナギクはなのはを抱きしめて寝る。

そして、なのはは起きてもそんな状態なので、仕方なく寝呆けたヒナギクに指示を出してなのはは動く訳である。

以上が、シグナムとヒナギクが高町家に泊りに来た時、朝に起こる現象なのである。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

さて、高町なのはは一応、というか“自称”平凡な小学三年生である。まぁ成績優秀スポーツ万能、おまけ(?)に魔法まで使える時点で説得力は皆無に等しいのだが、気にしてはいけない。

そんな“自称”平凡な小学生、高町なのはの登校手段は距離の問題もありバスだ。で、そのバスで彼女のほぼ定位置となっているのが、一番後ろの席の右端だ。

今日もいつも通りこの場所を陣取り、目を閉じた。もちろん、これは睡眠をとるためではない。

――システム、脳とのリンク完了。指定項目とデバイス名を、どうぞ。

――指定項目は戦闘シミュレーション。デバイス名……ん?

ふと、なのはは閉じていた目を開き、横を見る。すると、そこには見知った顔の少女が一人……いや、ついでにもう一人いた。

「おはよう、なのはちゃん。もしかして起こしちゃったかな?」

「ううん。別に寝てなかったから。おはよう、月村さん」

「ちゃんとすずか!! 何でそんな奴に話し掛けてんのよっ!!」
「バニングスさん? そんなにバカみたいに叫ぶと、もっとバカになるよ」

「誰の所為だと思ってんのよーーーーー!!!!」

……バカの部分は否定しないんだ。

さてさて、別に説明の必要はないと思うが一応。なのはに好意的に話し掛けてきたのは、月村すずか。なのはに突っ掛かってきた方が、アリサ・バニングスである。

この二人となのはの関係を表すと、すずかが普通の友達。アリサが腐れ縁と言った感じか。

すずかが、時間が合えば彼女から話し掛ける様な関係。アリサは……まぁ見ての通り、アリサが突っ掛かって、なのはが偶に毒を吐きながらからかったりスルーしたりする関係だ。

二人が座った後も、なのはとアリサはすずかを挟む形で口論(アリサが一方的に)繰り広げている。ここまでは偶に起こる日常――だが、そこにいつもとは違う事柄が入り込んだ。

突然、なのはの首に掛かった蒼白い宝石がキラリと光った。それを見たなのはは……いきなりサボり確定かぁ、と隣にいるすずかにこそこそ~っと何かを伝え、すずかもそれを了承した。

一体何を伝えたのか、それが分かったのは朝のホームルームで行われる出席確認の時だった。

「高町~。ん? 高町はどうした?」

「先生~。なのはちゃんは、口から血を吐いた人の看病に行きました~」

「そうか。なら仕方ないな」

この瞬間、すずかと教師を除いてクラス全員がずっこけたのは、言うまでもない。

まぁ、ある意味なのはが教師に信頼されている証なのだが。

その頃、なのはは町の神社に来ていた。その手には、なのはが封印した物と同じ八面体の青い結晶がある。さぼった理由は、これを自分のデバイスが感知したからだ。

サボりの言い訳は……うん、別に嘘はついてない。だって前にあったし、これからもあるかもしれないから。

彼女がこの宝石――ジュエルシードを回収しているのには、ちょっとした訳があった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「ジュエルシード? それがこの町に落ちてきたんですか?」

「ああ。入ってきた情報だと、どうやら輸送中の事故らしい」

二日前……彼女のデバイスが何かを感知し、それを裏月に確かめてもらうと、どうやら彼も知っていたらしく軽く説明してくれた。

『ジュエルシード』。裏月が言うには、スクライアという民族が発掘した物なのだが、それが輸送中の事故で――何故かピンポイントで、この海鳴市に21個全てが落ちてきたらしい。

「なんか……この町、呪われてるんじゃないですか? 21個全部が落っこちてくるなんて」

「で、できれば否定したいところなんだがな。まぁ、そのうち管理局が回収に来るだろうが、流石にそれまでほっとく訳にもいかねぇ。とりあえず俺はこのまま情報を集めっから、お前は回収を頼めるか?」

「了解です」

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  1. 2012/03/17(土) 21:15:19|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第1話


「あの……結局、あなたは誰なんですか?」

「私は主を守護する騎士。シグナムです」

とりあえず、突然現れた彼の騎士を名乗る女性――シグナムから話を訊くために、彼は自分の部屋からリビングに移動していた。

一つ目の質問は、彼女が現れた時と変わらず、自分の騎士と名乗っている。まぁ、これで予備知識がないなら訳がわからないのだろうが、彼女が出現した時に展開された魔法陣……あれは自分や弟子と友達も知る魔法と同じ物だろう。

何か変な事になったな~とか思いつつも、彼女をほっぽり出すわけにもいかないので、彼は質問を続ける。

「私の騎士ですか。じゃあ、何で私の所に?」

「いえ、それがその……」

シグナムが突然、先ほどからのキリキリした表情から一変して少し困った様な表情に変化した。

彼は彼女の変化を不思議に思ったが、思考を働かせて原因を考える。と、すぐにある可能性にたどり着いた。

「もしかして……分からないんですか? あなたが私の下に来た理由」

「は、はい。恥ずかしながら……」

今度は、ちょっと困った事になったな~とか彼は考えていた。来た理由さえ聞ければ、自分の友人に頼んで何が原因かを調べられたのだが……まぁ分からないものは仕方がない。

シグナムが嘘をついている様にも見えない。と言うか、嘘をつける性格では無いよね、というのは話をしていて何となく分かった。
ふと彼は時計を見て思う。そういえば、そろそろ夕飯の時間だった。

「まぁ、分からないものは仕方ないですね。とりあえず準備してた夕飯でも出しますから、ちょっと待っててください」

「あ、いえ主。私は別に食事を取る必要は――」

ない、と言い掛けてその場に「くぅ~~~~~」という大きく可愛らしい音が聞こえた。とたん、シグナムの顔が真っ赤に染まる。

どうやら、彼女のお腹の音だったらしい。その音を聞いた彼が笑いを堪え、それを見たシグナムがさらに顔を赤くする。

用意していた夕飯は、彼女の胃袋の中に全て消えてしまいそうだった。

「お、美味しいですっ!!」

「そう。よかった」

結局、夕飯を食べる事になったシグナムだったが、予想どおり用意していた夕飯を全て食い尽くす勢いで箸を進めていた。とはいえ、夕飯自体をあまり用意していた訳ではなかったので、某腹ペコ騎士王ほどの勢いではないので悪しからず。

それを笑顔で見ていた彼だったが、ちょっとした事に気が付く。

「そうだ! まだ私の名前、教えてなかったですよね。私、ヒナギク。みんなは“ヒナ”って呼ぶんですけどね」

「ヒナギク……ですか?」

食事をしていたシグナムが、ちょっと不思議な顔をする。それもしょうがないか……と思いヒナは苦笑する。

自分が男だと教えているから、女性の様な名前を不思議に思ってもしょうがない。

「変だよね。男なのにヒナギクなんて名前で」

「い、いえっ!! そんな事はありませんっ!!」

「――あのね、私は……昔の記憶がないの」

「え――?」

唐突な自分の主の告白に、シグナムは絶句してしまう。

何故だろう、話すつもりはなかったのに、ヒナは自分の事を口に出してしまう。

「このヒナギクって名前も、私がヒナギクの花を見て、何となくつけた名前。だから、私は自分の本当の名前は知らない。両親の顔も、そもそも両親が生きているかすら分からないの」

「主……」

ヒナギクは自分の生まれなど知らない。気が付いたらこの町にいて、何も思い出せないままこの町にとどまっている。

けど彼は、自分では幸運な方だと思っている。何も思い出せないけど、なのはを含めた高町家の人たちに会えたし、友人もできた。

だけど、やっぱり独りはどうしても不安になる。だから……っていう訳ではないけど。

「ねぇ、シグナム。もし良かったら……私と一緒に居てくれないかな? 独りは……どうしても不安になるから――」

ただ、そんなに長く一緒には居られないと思う……とは、続けられなかった。

そして、ヒナの願いにシグナムの答えは――

「主、私はあなたの騎士です。あなたが望むなら、いつまでも共に歩みます」

そんなもの、訊く前から決まっていただろう。シグナムの誓いを聞き、ヒナは無邪気な笑顔を浮かべる。
この日から……シグナムとヒナギクの共同生活が始まった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「事の経緯としては、こんな感じですね~」

「それで急に、女性の服を選んでください、何て私に言ってきたわけですか」

高町なのはの両親が経営している店『翠屋』。そこでは、なのはがやっと事の顛末を理解できた、といった感じだった。

ヒナから掛けられてきた電話で、いきなり女性の服を選ぶのを手伝ってくれ、と言われた時は思わずついに正しい性別に目覚めたか、とかなり失礼な事を考えたなのはだったが、待ち合わせ場所にいたシグナムの服を選び、そして翠屋で説明を聞いて理解できたらしい。

因みに、その話題のシグナムは……翠屋特製のシュークリームをパクついていた。これで三つ目……やっぱり栄養は胸にいくのかな? とかなのはは純粋に失礼な事を考える。

そういえば、師匠の話だとシグナムさんは魔法陣から出てきたって言ってたよね……。あっさり思考を切り替えたなのはは、ちょっとした疑問を口にした。

「シグナムさん。そういえばデバイスって持ってるんですか?」

「デバイスか……その、前は有ったと思うのだが……」

「前はって、今は無いんですか?」

「すまない。記憶が曖昧なんだ」

シグナムは本当にすまなそうに、表情をシュンとさせる。ただ、手に持ったシュークリームがかなりシュールだ。

質問したなのは的には、ここまで真面目に返されるのは予想外だったのか、少し焦った様子で言葉を返す。

「ああ、別にいいですから!! でもデバイスが無いなら、裏月(りげつ)さんに相談してみますか?」

「裏月?」

「一言で言えば、私達のド〇えもんですね。まぁ普通に人間ですけど。とりあえず会いに行きましょう」

シグナムの疑問に対して実に単純な返答をしたヒナが、席から立ち上がった。それに続いてなのはとシュークリームを持ったシグナムが立ち上がろうとして――パァン、という銃声音が店に響いた。

何事かと店の入り口を見ると……そこにはジャンパーにジーパンに覆面の三人組が居て、三人の手にはそろってトカレフの拳銃が握られていた。

「全員動くんじゃねぇ!!」

どこからどうみても、完全に強盗である。翠屋の中にいた客は騒然となり、シグナムは瞬間的に戦闘態勢をとるが……ヒナとなのはを見ると、この人たちバカでしょ、という表情をしていた。

――そもそも、この強盗達は致命的な失敗をしている。

何故わざわざ喫茶店を襲ったのだろう? まぁ普通の喫茶店なら良かったかもしれないが……生憎、襲った店が悪すぎた。

強盗の一人が騒ぐ客を黙らせようと、拳銃の引き金を引こうとして――自分の拳銃が無くなっている事に気が付いた。

「お客様。店内にこういった危険物の持ち込みはご法度です」

すると、男の隣にはいつの間にか拳銃をその手に奪い取り、笑顔で強盗にそう告げる翠屋の店主……高町士郎が居た。

「なっ!? テメ、ごぁっ!?」

「そこまでだ」

ようやく士郎に気が付いた強盗の一人が彼に銃を向けたが……今度はなのはの兄、高町恭也が強盗の体をいとも簡単に押さえ込んだ。

さすがにと言うか今さらと言うか……焦りを感じたのか、人質を取ろうと走り、そして計画どおり人質を取ったが――どうやらこの強盗、とことんな迄に運が無いらしい。

「う、動くなぁ!! 動くとこいつを撃つぞっ!!」

「あ、主っ!!」

その強盗が人質に取ったのは、シグナムとなのはからほんの少し離れた場所に居た、ヒナギクだった。

だが、なのはの表情は、先ほどよりこの人バカでしょ、と言う表情になっていた。一方シグナムは、自分が居ながら不甲斐ないと思ったが、ヒナが常人には認識できない速度で強盗の銃に何かしたのを見た。

当然、焦っている強盗は気が付かない。同じくそれを見ていたなのはが、せめてもの情けと思い……まぁ無駄だとは思うが一応忠告を出した。

「あー強盗さん? もう諦めた方が良いと思いますよー」

「うるせぇ! このガキ――って、あれ?」

強盗がなのはを黙らせようと、銃を向けて威嚇射撃を放とうとし……何故か引き金が引けない。何度引こうとしても、引き金はガチ、と音を立てるだけだった。

「一応教えてあげますけど、トカレフは撃鉄を軽く起こして中間で止めると、安全装置がかかるんですよ。まぁでも――」

「これくらい、強盗をやる前に勉強しておいた方がいいよ?」

ヒナの言葉を引き継いだなのはの姉、高町美由希の言葉は……恐らく聞こえなかっただろう。なぜなら、その美由希の手によって気絶させられ、地面に崩れ落ちたからだ。

昔の物ならともかく、トカレフ銃のセーフティはヒナがやったように、意外と簡単にかかる。そもそも、銃を手に入れた時に説明を見なかったのだろうか?

何はともあれ、所有時間は僅か一分足らず。知識と運が足りなかった強盗は、遭えなく御用となった。

「――いや……っていうかヒナちゃんなら、人質になる前にこんな素人くらい簡単に倒せたよね?」

「美由希さん。か弱い私にそんな事、出来るわけ無いじゃないですか~」

「師匠、笑顔で嘘を吐かないでください。まぁここは、お兄ちゃん達に任せましょう。じゃあお母さん、行ってきます!!」

「はいはい。行ってらっしゃい」

今さっき強盗に襲われていたのに、あっさり娘を送り出すのは、一重に高町桃子が家族を信頼しているからなのだろう。実際この家族、そんじょそこらの強盗なら瞬殺できるし。

そして、主についていくシグナムは思った……自分は、いろんな意味でとんでもない人を主にしたのだな、と。











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  1. 2012/03/17(土) 17:08:14|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 プロローグ

このお話は魔法少女リリカルなのはの二次創作です。かなり原作崩壊で、主にシグナムとなのはが主人公で展開されます。

そういう事が了承できる方のみ、どうぞ閲覧ください。














────────────────────

世界は無限に存在する。その時、誰が何を……どんな選択をしたかで『可能性』という物は、無数に広がっていく。

様々な願い、様々な出逢い、様々な選択肢。

たった一つの選択で未来が変わり、たった一つの選択で悲劇が生まれる。

一つの部屋にいる彼が、何処からか一冊の書物を取り出す。それを膝の上に置き、ゆっくりと書物を開く。

「――あり得るかも知れない未来の一つ。無数に枝分かれた可能性。近い物はあるかもしれない。だけど、全く同じ物は決してない。これから始まる物語も、それに当て嵌まるよ。さて、観てみよっか? これから始まる、物語を……」

書物のページから光が放たれる。

これは『IF』だ。もし、不屈の少女が翡翠の少年と出会う以前に、魔法の力と出会っていたら?

そして――夜天の少女と出会う筈の烈火の騎士が、別な人間の下に現れていたら?

――偶然など無い。これから始まる物語は、すべて必然なのだから。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

何時の時代か、何処の世界かも解らない場所で閃光が瞬き、爆炎が次々と舞い上がる。

一体それを、何度繰り返しただろうか。ついに、戦いの音が鳴り止む。幾千の人間が倒れ伏せ、幾千の武器が砕け散り……この戦場を静けさだけが支配していた。

そんな中で、ただ一人女性が戦場の中心で“立っていた”。決して軽くは無いだろう、怪我による己の血を溢れさせ、持っていた筈の得物も無くし、満身創痍。

しかし、それでも彼女は“立っていた”。全く色を失わない、桜色の髪を風になびかせ……己の足で立っているのだ。

迫りくる幾千の敵を退け、彼女は――『夜天の騎士』はこの戦いに勝利した。いや、今の彼女はもう『夜天の騎士』ですら無い。この戦いが始まる前に、その証を失っている。自ら、“仲間”との絆を守る為に捨てたのだ。

だから、もはや立っている意味は無い。もう、迫りくる敵もいないのだから。

ゆっくり、ゆっくりと桜色の髪が舞い、彼女は地面に崩れ落ちた。

「おやおや、暇潰しに跳んでみれば、派手にやらかしたみたいだねぇ」

それとほぼ同時、戦場に似合わない軽い口調で誰かが現れる。突然現れたのは、一人の老婆。だが、杖なども使う様子もなくヒョイ、ヒョイっと倒れた人間を避けて歩いていく。

その先には――地面に崩れ落ちた女性。

「へぇ……この子一人で、ここいらの奴らを全員倒したのかい。凄いねぇ――おや?」

今まで見ていたかの様に、この戦場の結果を把握する老婆。そんな彼女にも、予想外の事が起きる。

老婆の目の前で倒れいる女性が、突如光りに包まれた。と思っていると、光りが弾け、彼女の姿は先程とはまるで違った姿になった。

彼女は満身創痍の大ケガだった筈なのに、ケガ一つ無い状態になっていたのだ。それだけでは無い――彼女のその肉体が、小さくなっていた。

先程までは成人に近い身体をしていた女性だったが、今は精々8、9歳程度と言ったところか。

どういう原理かは知らないが、ケガが治った代りに幼くなったらしい。

「――あらあら、面白い子だねぇ」

本当に、面白い事を見つけた……そう言いたげな老婆は、優しく幼くなった女性を抱き上げ――その戦場から姿を消した。



……これが全ての始まり。この物語の――始まりの出来事だった。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「~~~~~♪」

まだ雪も溶けない1月の下旬。そんな肌寒い日に、鼻歌を歌いながら上機嫌で歩いている少女がいた。
ツインテールに纏められた茶色の髪は、今にも動き出しそうだ。
今は青いマフラーに隠れているが、彼女の首には主の感情に呼応するかのように光る蒼白い宝石が掛かっている。
そんな彼女が、アレ? と呟きながら首を傾げた。何かを不思議に思って首を傾げたのだろうか……?

「……はぁ」

いや、どうやら違うらしい。少女の表情は呆れに近い感じ、またか、と言いたげな表情になった。ため息を吐く彼女の視線の先には、店から出てくる一人の人物が居る。
髪は金髪の腰まで掛かるロングストレート。何よりその容姿は、誰もが見惚れてしまいそうなほど――美しい。

まぁ、確かにその容姿にも目が行くが……その腕には抱き枕にも使用できるだろう、巨大な熊のぬいぐるみが抱き締められていた。

で、そんな容姿も持ち物も目立つ人物に、少女は走って近づいて行き、隣に追い付いて少女に気付いた人物に向かって言葉を放つ。

「師匠――本当に何個、ぬいぐるみを買うつもりですか?」

「こ、これを買ったら何か思い出せそうだったから……」

「その言い訳はもう聞き飽きましたっ!!」

「あ、あはははは……」

少女の説教の様な叫びに、相手は半笑い気味に誤魔化す。これは、彼女らの通常会話のようだ。

「全く、師匠は自分の部屋をぬいぐるみで埋め尽くすつもりですか?」

「むぅ。そんなに買ってませんよ」

「師匠は、いつかやりそうなんですっ!! って言うか、本当に生まれてくる性別……間違えてませんか?」

「まぁ、それは否定できないですね。あ、でも何か思い出せば男っぽくなるかも!!」

「――いや。それはそれで違和感しかないので、私としては止めてもらいたいです」

そんな会話をしながら、二人は歩いて行く。話を聞くに、どうやら金髪の彼は……信じがたい事に男のようだ。

そして少女は彼が男っぽくなったのを想像……できない。そんな事、師匠が何かを思い出してもあり得ないかも、とかちょっと失礼な事を少女は考えていたりする。

「ねぇ、なのは。私に対して結構失礼な事、考えてませんか?」

「気のせいです。気のせいったら気のせいです」

自分の思考を読まれて誤魔化しながらも、相変わらずふざけスペックだなぁ、とか再び失礼な事を考える少女、高町なのは だった。

そんな感じで話ながら歩いていた二人が、そろって立ち止まった。二人の目の前には、立派な一戸建ての家がある。その家の鍵を開けたのは、なのはに師匠と呼ばれている彼だ。どうやら、ここは彼の家らしい。

「じゃあなのは、私はこれで」

「ししょー。私の家に泊まらないんですか?」

「そんなに何度もお世話になれませんよ~」

なのはのさりげない泊まりの誘いを、彼はやんわりと断り家の中に入る。

家に入った彼は、真っ直ぐリビングに入り、ちょうどテレビが見れる位置にあるソファーに座る。

暫くそうしていたが、抱き締めているぬいぐるみにちょっと顔を埋め、一言呟いた。

「……寂しい」

まぁ呟いても、彼の言葉に反応して言葉を返してくれる人はいない。沈黙だけが辺りを支配するだけである。

やっぱり泊まりに行けばよかったかも……とか思っても後の祭り。と言っても、なのはにメール一通入れればあっという間に飛んでくるだろうが。

寂しい気持ちを押さえ込み、彼は自分しかいない家を移動して、ぬいぐるみだらけの自分の部屋のベッドにポスン、と倒れ込んだ。

「寂しいなぁ。どうせ、短い命なんだから――誰か一緒に居てくれないかなぁ」

随分とネガティブな発言だが、強ち間違ってもいない。彼は家族がいない……いや、彼自身が分からないのだ。自分の家族が生きているかすら。

そして、そんな彼の命すら……。だが、彼の願いが誰かに届いたのか……それは分からない。

「ふぇ?」

しかし確かに、彼の願いは叶う。誰かが仕組んだのか、それとも何かの運命か、それも分からない。確かな事は物事に偶然などない。
何が切っ掛けでも、これは彼が望み、どんな形であれ――それに彼女が応えた。全ては……必然で起こる出来事だ。

――真紅の三角形の魔法陣が、部屋の真ん中に展開され、そこから一人の女性が姿を現す。

一言で彼女を現すなら、凛々しい、という言葉がとても似合うだろう。桜色の髪をポニーテールに纏めているのも、凛々しさに拍車を掛けている。

その女性の姿に、彼は目を奪われた。もう、見惚れてしまったいると言っても、過言ではない。

「剣(つるぎ)の騎士――シグナム。主の騎士として……ここに在り」

二人の物語は、もう始まっている。剣の騎士シグナムと彼の……ヒナの物語は――必然なのだから。
  1. 2012/03/16(金) 23:08:51|
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