サクライロノセカイ/リリカルなのはなお話

えびえもん兼いかじゅんのブログです。リリカルなのはの二次創作などを書いています。

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魔法少女リリカルなのは バレンタイン記念小説・中編 『なのはの天秤』


圧倒的なデータ量を解析し、高町なのははデータの海を掻き分けて行く。その中で、彼女の中の過去の記憶が流れ、ビジョンとして映し出されていく。

スパルタ教育のさくらとの、少し特殊な方法での修行。ゼスト・グランガイツとの死闘。様々な事件の記憶。

どれも、瞳を閉じれば昨日のことのように蘇る記憶――

『皆が……もっと幸せに、安心して暮らせる世界になって欲しいね』

――忘れられない少女との“約束”。その想いを胸に、彼女は今を駆け抜ける。そして、データの奔流を抜け出し……光が弾け世界が構築された。

「…………」

ゆっくり、肉体を構築し白いコートのバリアジャケットを羽織り、高町なのはは夢の世界へと舞い降りた。

目の前に広がる光景は、見慣れた自分の故郷……極めて普通の生活を送る幼い自分――そう、朝の夢と同じ光景だ。

(じゃあ、朝の夢はユーノくんの……?)

いや、だがユーノには自分が学校に通っていたことなど教えていないし、ユーノが来た頃にこの姿になったので通うに通えず(別の理由もあるにはあるが)彼は学校の存在すら知らない筈である。

だから彼がこの夢を見るには、些か矛盾が生じる。まぁ、夢など所詮は矛盾だらけの物なのだが。

「……キミが初めてだよ、生身のままこの中に入って来たのは」

「そう。貴方は、随分と悪趣味なのね」

突如、夢の中で背中越しの声に反応し、さも当然と言うかの様に振り向くなのは。

――そこに居たのは、ユーノ・スクライアその人。

「勘違いしないで欲しいよ。この姿は、僕が望んで持った物じゃないんだ」

「何でもいいわよ、そんなこと」

いや、ユーノ・スクライアの身体を借りた“何か”というのが正しい。が、なのはにとってはどうでも良いのだ。まだ予測範囲内……目の前のユーノの皮を被った何かの正体も、大方の見当はついている。

「アンタ、このロストロギアの管理人格か何かかしら?」

「そうだよ。まぁ、持ってる権限なんて高が知れてるけどね」

なのはの冷ややかな瞳に見つめられても、彼は思いの外あっさりと自分の正体を認めた。

管制人格……かつて闇の書の管制人格であった、リインフォースを想像すれば早いだろう。ただ、このロストロギアは闇の書と違い暴走したから管制人格に殆ど権限がない、という訳ではなさそうだ。

「じゃあ、ユーノ君を解放する権限なんてのは……」

「無いね。この『ユメミノタマゴ』は、組み込まれたプログラムをただただ実行するだけさ。それに――この夢は、キミが望んだ夢だよ?」

ぴくり、となのはが瞼を動かし微かに反応を示す。

発動時、捕えた対象を夢の中に強引に引きずり込み、その人が持ってるうちに秘めた“願望”や“願い”を見せて、永遠の眠りにつかせるロストロギア――それがユメミノタマゴの筈だ。

しかし、今管理人格は“キミが望んだ夢”だと言った。

取り込んだユーノではなく、なのはの夢だと。尚も管理人格は、極めて冷静に言葉を続ける。

「いや、正確にはキミの意識がこの身体の人格とリンクし、キミの願望を叶えたいと望み……この世界が生まれたのさ」

「…………」

「つまり、ここはキミの心の願いが叶えられた世界。キミが望めば、ずっとこの世界で――」

――管制人格の言葉は、唐突に遮られる。かつて、時空管理局執務官のクロノ・ハラオウンですら反応できなかったライフルの閃光。その一陣が、ユーノ・スクライアのハニーブロンドの髪を揺らす。

真っ直ぐに、一瞬にして握られていた白いライフルを構え、なのはは冷徹な瞳で管理人格を睨む。

「くだらないわね。さっさと、ユーノ君を返してもらうわ」

「……何故だい? キミは自分の願望を叶えたくないと? そんな人間、普通はいないんだけどな」

「そうね。確かにここは、私の心の奥底を叶えた場所ね」

ただただ平凡に、今の様な争いの無い自分の世界。

――誰よりも戦いが“嫌い”な、高町なのはが心から望む世界、なのだろう。

けれども、それは彼女の奥底の話でしかないのだ。

「でもね、私にはやることがあるの……それに比べたら、私の人生も、願望も、命だろうと取るに足らないのよ」

「壊れてるね。そんな人間、普通はいないよ」

「あぁ、言ってなかったわね――」

そう、“高町なのは”は壊れている、歪んでいるのだ。本来は、甘くも優しく、自分の夢を持ち管理局にでも入っていたのかもしれない。

だが、そうはならなかった。それは、市丸ギンと出会った時か、それにより常人の数倍の速度で成長した時か、芳乃さくらと出会った時か、それとも力だけでは笑顔になど出来ないと分かった時か。

フッ、と微笑を浮かべ、彼女は冷徹な瞳で管理人格を見据える。

何処かが狂い、歪み、それでも突き進むと決めた時、今の彼女は誕生した。

そうだ、高町なのはが背負うべき業-カルマ-。その名が――

「私は『出来損ないの魔法使い』……高町 なのは。壊れてて、当たり前の存在なのよ」

人を笑顔にすら出来ない、力で人を助けることしか出来ない。だから彼女は――出来損ないの魔法使い、高町なのはだ。

なのはの言葉を理解したのか、それとも理解できなかったのか。それは彼にしか分からないが、管理人格は手を開き、言葉を紡ぎ出す。

「……そうか。ならば、管制人格の使命に従い、侵入者であるキミを排除するしかないね」

「へぇ、アンタが戦うの?」

「まぁね。言ったろう? “僕が持ってる権限なんて高が知れてる”って。だから、その数少ない権限を使わせてもらうよ」

言い、管制人格は手の平にエクスシアと色違いの翠色の宝石を浮かばせ、一瞬眩しい光を放ちデバイスを展開する。

そして、次の瞬間にあった光景に、なのはは目を見開き初めて動揺を表に現した。

「アンタ……それは!!」

「この子の中にあった記憶から、一番合いそうなのをここの魔力を使って組み立てて見たんだ。魔力だけは、無駄に余ってるからね」

なのはの動揺を尻目に、デバイスを展開した管制人格が緑のシールド型の遠隔防御兵器『ホルスタービット』を動かし、その内部から対になる遠隔殲滅兵器『ライフルビット』を一気に展開し――

「なかなか、面白い曲芸だろう?」

――緑色の閃光が、なのはの視界を覆い尽くした。

無数の閃光がビルのガラスを壁を、地面も無差別に貫き凄まじい砂ぼこりを上げる。

その殲滅力を目の当たりにして、しかし放たれた閃光を超える速度で飛翔したなのはが、古い記憶を掘り起こし、この場で作製されたというデバイスの原初を確かに確信していた。

「間違い、ないわね」

『Yes.Master. アレは、私の製作者である裏月が設計した、私の能力を連射砲撃面に特化したデバイス――デュナス』

つまり、エクスシアの兄弟機ともいえるデバイス。エクスシアの持つ超高速飛行能力を、短期かつ極限まで高めたのがシュテルの『ルシュフェリオン・シュロウガ』ならば……デュナスはエクスシアの遠距離殲滅砲撃能力を数をさらに増やすため、数十を超えるビットにて砲撃連射を極限まで高めたデバイスだ。

しかし、デュナスはなのはのエクスシアやシュテルによって日の目を見たシュロウガと違い、結局は設計されることがなかった。それは何故か? 答えは――

「!!」

『Master.!!』

エクスシアの警告よりも早く、なのはは翼を自分の身体の一部の様に扱い、圧倒的な速度で飛翔し離脱する。

だが、エクスシアの持つ圧倒的な速度の飛行能力を以ってしても、振り切れぬ程の閃光がなのはへと襲いかかる。

なのはの先を予測する様に放たれる閃光を、彼女は驚異的な空間認識能力と反応速度を以って旋回や上昇などを繰り返し回避……が、その回避した先にも無数の閃光が押し寄せる。

「こ……のぉ!!」

それを強引なターンで回避するが、尚も一人の魔導師を相手にしているとは思えぬ程の物量が迫ってくるため、足を止めている暇はない。

――エクスシアが比較的……と言っていいのか、一対一でも一対多数でも戦える様、戦局によって武装を変更できるバランスの取れたデバイスに対し、シュロウガ及びデュナスは完全に専用武装にて、極端に特化されたデバイスなのだ。
デュナスの場合は、圧倒的な物量にて接近などさせなければいい……そんな考えが浮かび上がる。

無論、デュナスに所持者が見つからなかったのは、使う為に必要な無茶苦茶な条件を満たさなければいけなかったからである。まず、これだけのビットを制御する為の情報処理能力と連射砲撃に必要な魔力量、そして空間認識能力だ。

――それが今、奇しくも満たされてしまった。

それぞれの得意分野、と言えるだろうか。空間認識能力という点ではなのはの方が優れるが、情報処理能力という点ではユーノ・スクライアの方が優れていると言える。魔力量は……管制人格が言う様に、有り余っているのだろうことが伺える。

本来、デュナスはなのはとユーノ、二人が揃って完成するデバイスなのかもしれない。

しかし今、なのはにそんな事を考えている余裕はない。段々と、此方が反撃できない為に詰め将棋の様に差が詰められて来ている。

これが加速力という点ではエクスシアより優れるシュロウガか、もしくはフルドライブを起動すれば振り切れるが、いくら魔力量がバカげているなのはと言えどユーノを助ける条件が分かっていない以上、出来るだけ魔力は温存しておきたい。

――と、そんな事を考えている間に、空間認識能力に優れる彼女がエクスシアより早く、迫る閃光に気付き速度を上げようとし……エクスシアの内部回路が、なのはの反応速度について行けず悲鳴をあげた。

「ッ!!」

『Master.!!』

以前の検証結果では、神羅を発動させたなのはの反応速度に、いずれエクスシアがついて行けなくなるという答えが出ていた。が、今は『神羅』を発動すらしていない反応速度ですらついて行けなくなっている。

その一瞬だが反応が鈍ったのが、戦場では致命的な差となる。ほんの少しだが、回避より閃光がなのはを貫く方が早い。足を止めて迎撃すれば、残りの閃光も全て防ぎ切らねばならない……なのはの選んだ答えは、エクスシアと同調した。

なのはを狙った一陣の閃光が、シールドの前に弾かれる。しかしそれは、彼女が展開した魔力フィールドではない。

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  1. 2013/03/21(木) 23:24:15|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 バレンタイン記念小説『なのはの最悪のバレンタイン』前編


ゆっくり、ゆっくりと空間が構築されていく。そこで、女性は目を覚ました。

(夢の中で、目を覚ましたってのもおかしい気がするけど……ね)

あぁ、もうこの感覚は解る。間違いなく“人の夢の中”だ。珍しく、自分の記憶が“再生”されなかったと思えばこれだ。

(これ、安眠妨害で訴えられないかしら?)

いや、その場合はプライバシーの侵害とやらで自分が訴えられてしまうのだろうか?と自分の能力に対して、非常に他人事の様に考える女性、高町なのは。

『他人の夢を見る』。この能力こそ、出来損ないの魔法使いである彼女が唯一持っている魔法にして、唯一制御できない魔法。

他人の夢ほど自分勝手な物もなく、他人の夢ほど見せられて暇な物はない、とこの能力を持って実感したなのは。

――さて、本日は誰の夢なのか……と、浮遊感のある身体で視線を巡らせて、

(……私?)

気付く。目の前に広がる光景は、見慣れた自分の故郷……そして、視線の先にいたのは――自分だったのだから。正確には、今の彼女より身長は遥かに低く、学生服を身に纏い、友人達と話をしながら通学しているという、今の彼女からすれば遠過ぎる“普通”の日常風景。

(って事は、この夢は私の知ってる人の夢か)

父か母か、兄か姉か、はたまた友人か。誰かは知らないが、随分とまぁ酔狂な夢を見ているなとは思う。

そうして、誰の夢かと思考を巡らせているうちに――彼女の意識は、現実世界へと回帰した。












魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 バレンタイン記念小説『なのはの最悪のバレンタイン』













◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「師匠、どうしたんですか? なんか考え込んでるみたいですけど……」

「なんでもないわフェイトちゃん。それと、師匠は止めなさいと何回言えば解るのかしら?」

あはは、すいませんと直す気が全くないフェイトを見て、一つため息を吐いて喫茶店の飲み物に口をつけるなのは。

彼女達にしては、珍しく二人揃った休日。なので、取り敢えず喫茶店で時間を潰してみたが……やはり、なのはの頭に浮かぶのは今日見た夢の内容ばかりだった。

誰があんな夢を見たのか、謎は深まるばかり……可能性としては、フェイトが見たとも考えられるのだが。

「ど、どうかしましたか師匠?」

「いや、立派に育ってくれておねーさんは嬉しいな。って思っただけよ?」

「そう思うなら、その全く笑ってない表情止めてくれません!?」

――無駄なところ(胸)ばかり育ちおって……と、極めて個人的な事情になってしまうので、考えるだけ無駄な様である。

そういえば、と彼女がガラスから外を見ると妙に女性達が浮き足だってるな、と先程から思っていた。そうして、彼女にしては珍しく今さらながらに気が付いた。

「そういえば、明日ってバレンタインだったっけ?」

「わ、忘れてたんですか? ユーノには……」

「何でユーノくんが出てくるのか知らないけど、互いに仕事入ってるんだから会う訳ないでしょ」

断言した途端、フェイトがガックリとうなだれた事に何故かイラッとするなのは。

何だか、みんな誤解している。なのはがユーノに持っているのか、個人的な興味のみだ。決して、皆が期待している様な物ではないと断言できる。

その“興味”という感情を理解しきれていないのは、彼女自身であると本人はまだ気が付いていない様だが。

――ユーノからの着信を携帯が示したのは、その時だった。

「ユーノくんから……?」

何だろう、彼は今日も仕事の筈だが……と、何やら期待した表情のフェイトの頭にチョップを入れて黙らせ、なのはは携帯の着信に出た。

『な、なのはさん!! 司書長が……司書長がぁ!!!!』

――ユーノからの着信なのに、聞こえてきたのは無限書庫の司書の声だった。なのはともよく話す、人当たりの良い司書の一人だ。

そんな司書が、ユーノの携帯を使ってなのはに切羽詰まった声で連絡を取る……なのはならば、異常があったのだと理解するのに一秒もかからなかった。

「――すぐに行きます。事情は移動しながらでお願いします」

すぐに立ち上がり、喫茶店の会計を手に走り出すなのは。彼女の表情を見たフェイトが、異常があったのだと理解し彼女に続く。

目指すは、ユーノ・スクライアが司書長を勤める『無限書庫』――どうやら、バレンタインの様に甘い1日にならないのは確かな様である。














◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「なんですか……あれ?」

フェイトが茫然自失と呟いた場所は、時空管理局が誇る情報機関『無限書庫』

その名の通り、無限とも思える本が収められているのだが……その空中で、真っ黒い巨大な“卵”の様な物が浮いていた。さらには、無重力空間である筈の無限書庫に、何故か重力が存在しており、フェイトと司書、そしてなのはは設置されている柱の上でそれを見下ろしていた。

ポツリ、卵を見たなのはが呟く。

「ロストロギア『ユメミノタマゴ』……また、面倒なのが出たものね」

「な、なんですかそれ……」

「発動時、捕えた対象を夢の中に強引に引きずり込み、その人が持ってるうちに秘めた“願望”や“願い”を見せて、永遠の眠りにつかせるロストロギア。相手の欲求を満たすだけあって、脱出できた例はなし。さらに、時間が経てば対象を完全に吸収し転移してジ・エンドってね」

極めてふざけた様子で答えるなのはだが、その目は全く笑っていない。今までの事例が確かなら、残された時間は少ない上に取り込まれたユーノは助からない可能性の方が……。

瞳を閉じて、また開くなのは。見据える先は、ユーノを助ける道のみだ。

「時間がありません。なんでこうなったかは後回しで、私が今すぐ突入して――無限書庫司書長・ユーノ・スクライアを救出します」

「で、出来るんですか!?」

「と、言うより、私にしか出来ないでしょう」

司書の驚きにも淡々と答え、突入準備の為にエクスシアの翼を展開して飛び立とうとするなのは。

正確には、彼女の構築体(マテリアル)であるシュテルも同じく強引に突入可能なのだろうが。今彼女を待っている時間は残念ながら無い。

「フェイトちゃんはこのまま待機。自己の判断で行動しなさい。ただし、攻撃したりしないこと」

「な、なら私も――」

「言ったでしょ。これは“私しか突入出来ない”のよ」

誰もが突入できるならば、助けられた事例くらいある筈だ。だが、それが無いのだから普通の人間は突入出来ない。本来は、彼女とて例外ではない。

――身体の半分以上がデータで構築されている、なんてふざけた身体でなければ。

「あと一時間もしないうちに突入できなくなって、ランダムに転移して誰かの手に渡ります。その前に、ユーノ・スクライア司書長を救出して――ユメミノタマゴを中から破壊します」

時間がない、その言葉通りになのはは機械的な翼を羽ばたかせ、一気にユメミノタマゴへ突撃する。

後ろからフェイトの「師匠!!」と叫ぶ声を聞き流し、ユメミノタマゴに触れ――己の身体を操り、中へ強制的に入り込んだ。

――どうやら、人生最悪のバレンタインになりそうだ、と思いながら、出来損ないの魔法使いは夢の中へと侵入する。

歪んだ物語が、また加速した。














────────────────────

なんで前編なのかって?書き始めたのがほんの二時間前で、これ絶対間に合わんだろって思ったから先に上げただけですよ(←ダメ人間)

てな訳で、バレンタイン記念小説……バレンタイン関係なくねな話になりました(←バカ)

お話はなのは、そして前編では名前だけ出てきたユーノがメインになります。ぶっちゃけ、書きたい話が全部後編に回ってしまったというね()

まあ、最初の夢の話も伏線とし、ロストロギアの中に突入したなのはを後編では描きたいと思います。そしてユーノと……?

では、感想等々もお待ちしています。次回をお楽しみに!!
  1. 2013/02/14(木) 16:47:19|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第30話

人には誰しも、物事に対する“慣れ”と言う物が存在する。本人が絶対に慣れないと思っていても、案外簡単に慣れてしまう物なのだ。

海に没した街並。普通なら常識を逸した光景なのだが、この世界では常識となる世界の風景。

では、そんな世界のビルの上でテーブルを置き、平然と茶を飲む市丸ギンと言う人物がここに居る事は、果たしてこの世界の日常風景なのだろうか?

――そんな訳はない。そんな訳はないのだが……。

(……なぜ、こんなにも心が乱されるのか)

自分で自問自答しても、答えは出ない。大体、生前では男とこんなにも話した事はなかったのだ、仕方がないではないか、と相変わらず顔を隠す真紅のフードを被る女性、緋炎は動揺を表す様に、フードの下の灼眼の瞳を知らず知らずに揺らす。

――無視すればいいだろうに。

言葉が頭を過るが、それが出来たら苦労はしていない。無論、最初は彼の事など無視していた。が、勝手に人の世界に入り込んで勝手に話して勝手に居座る人に、そんな事では通用しない。

そうして、許可もなく勝手に上がり込んで来る彼に、いちいちいちいち注意していたら……まぁなし崩しこういう事になっていると言う訳だ。

「まぁでも、ここに来るのも久しぶりやなぁ。元気にしとった?」

「……久しぶり、と言うのは長い時間が経過している事を言います。貴方の久しぶりは、たった1日程度来ない事なのですか? 市丸ギン」

「いやぁ、緋炎先生の享受は頼りになるなぁ」

ほら、自分が皮肉を言ってもヘラヘラとした笑顔で返されてしまう。

――その笑顔の下に、一体どんな過去を秘めているのだろうか?

向かい合い、こうして茶の湯を共にしても皆目見当もつかない。別に興味がある訳でも……。

「そう言うたら、緋炎ちゃんはこの前まで何しとったん?」

――なかったのに、先に訊かれてしまった場合はどうすれば良いのだろうか? とりあえず、言葉を濁すことにする。

「……どういった意味で?」

「そのまんまの意味、やね。別に無理に聞こうとは思わんけど」

だが、それも彼にはお見通しなのだろう。そういう処が、気に入らないのだ。勝手に、スルリスルリと人の心に潜り込んで来るのに、自分の心はなかなか明かそうとはしない。

やはり、こういったタイプは初めてだからか、大分やりにくい。けれど、なかなか嫌いにはなれないのは、自分が思いの外他人との関わりが苦手ではなかったのか、それでも彼だからなのか……これも、考えても解らないことだった。

が、一応質問には答えねばなるまい。別段、隠す様な事でもないのだから。

「……聖職者ですよ、こんなんでも」

「聖職者って……シスター? なんや、緋炎ちゃんって何か崇めてたん?」

「いいえ。私は神様も信じていませんよ」

は? と流石のギンもこれには面食らう。シスターは基本的に何か……例えばその宗教の“神様”などを崇めている印象なのだが、緋炎は聖職者なのに神様すら信じていないと言っている。まことに、不思議な事も在るものである。

「じゃあ、緋炎ちゃんは何を信じてたん?」

「『愛』ですかね。親愛、敬愛……まぁいろいろと在りますが、未だに“恋愛”のファクターは不確定で興味深い物があります」

信じるのは、己の『愛』のみ……とでも言った処か。何にせよ、彼女がこの『天鎖斬月・緋炎』を宿す人物になった理由も、そこにあるのかもしれない。

かなり冷めてしまった茶を啜り、ギンはその事について尋ねてみる事にした。

「キミがこの天鎖斬月を宿す者に選ばれたんも、それが原因?」

「さぁ? 私を選んだのは蒼天ですから、今すぐ彼女に訊きに行けばよろしいのではないでしょうか」

さらっと、さっさと出ていけと遠回しに言った緋炎だったが、ギンは相変わらず飄々と答えた。

「うーん、ボクが気軽に出入りして話しとるのなんて、緋炎ちゃんくらいやしなぁ」

ピクリ、とギンにも解らないくらい微かに指を動かし動揺した緋炎だったが、それを気取らせない様に平然と茶を飲み干し話を続けた。

「言っておきますが、私とてこれだけの時間話をしたのは生前を含め貴方が初めてですよ」

――いや、あんまり動揺を隠せていなかった様である。これでは、貴方は“特別”ですよと言っている様な物だ。それに気付き、フードの下の顔を真っ赤に染める緋炎。
しかし幸い(?)にも、ギンはそれに気付く事なく、別の話題が気に掛かったらしい。

「初めてって……話し相手とかいなかったん?」

「……私がいたのは確か“聖王”とやらを崇める教会でしたが、そういう物を信じていない、などと言えば近づく人間はいないに決まっているでしょう」

確か、と曖昧に記憶している時点で本当に神様に興味がなかったのだろう。ただまぁ、聖王もギン達からすれば所詮はただの“人間”でしかないのだから、神様のように崇めているのは未だに違和感がある。

それはそれとして、要は彼女は煙たがられていたのだろう。そりゃあ、ある意味で聖王を侮辱しているのだから、そこに所属する聖職者としては大問題である。

「せやけど、何で信じてもない教会にいたん?」

「一応、拾ってくださった親代わりのシスターがいた教会でしたので」

「教会への恩返し?」

「いえまったく。一応教会で育ちましたが、生憎あの教会は好きでもなかったので」

……言いたい放題である。しょうがない、好きじゃない物は好きじゃないのだ。嫌いな物を今すぐ好きになれなど、到底無理な話だ。

――とはいえ、別に嫌なことばかりではなかったのだが。

「先程、話し相手はいなかったのか、と貴方は問いましたね?」

「言ったけど……なんや、誰かいたん?」

「まぁいるにはいました。彼女が勝手に話し掛けて来ていただけ……でしたが」

それに、付き人の様な少女には嫌われていた――まぁ、教会で自分を知っている人間は大半自分を嫌っていたが――ので、話し掛ける度に注意されていたが。

しかしまぁ、教会の異端児だった自分が、今やその教会で神聖化されている武具の内部人格。一方的に話し掛けて来たその少女は、今や教会の偉い人になっているときた。

運命とは、いやはや不思議な物だと思う。それを言ったら、こんなに長い間、陰口以外で男性の話を聞く事など前は思いもしなかった。
まぁただ、決して心地が悪い物ではないと――

「まぁでも、ボクはあの教会嫌いやないよ。美人さん多いし」

――その時、この世界の温度が一気に冷え込んだと言う。凍り付く空気。緋炎と言う名とは真逆に、彼女の周りは氷点下までまで冷え込みそうな勢いである。

(……あれ?)

ある意味その状況を作り出したギンが、ようやく雰囲気が変わった事に気付いた。特に、目の前の女性は何だか初対面の時より好感度が低くなった気がする。つか、好感度ってなに?

「あの、緋炎ちゃん?」

「知りません」

「は? なに――」

「知りません」

「え、いや」

「知りません」

「……もしかして拗ねとる?」

「知りません」

「や、冗談よ冗談。緋炎ちゃんが可愛いのは事実やけど」

「この――うるさいうるさいうるさぁぁぁぁぁいッ!!!!」

キレた。結局めんどくさくなったのかキレた。

ダン!!と拳をテーブルに叩きつけ、彼女にしては珍しく感情を表に出して叫んだ。

「そもそもお前はもう私に訊く事なんて無いでしょ!? もう心配事は解消されたんだから、さっさと帰りなさいよ!!」

「あ、やっと素になってくれた。見た時から猫被ってるって思うとおたんよ」

「うるさいうるさいうるさい!! 聖職者は色々とめんどくさいの!! お前は何回不法侵入してると思ってるの!?」

「聞きたい? しっかり数えとるけど」

「……いい」

――こうして、僅かばかりの平和な時間が過ぎて行く……。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

暴れ狂う雷撃。既に半壊状態の訓練場を破壊し、それでも尚止まる気配を見せない。いや、本人が止めていないのだ。

「っ……うぁ!!」

狂う雷の中心の少女……フェイト・テスタロッサが制御しようと必死に思考を動かすが、電撃は制御するどころかさらに暴れ狂い、一人の男へと強力な一筋の雷が向かい――何かに阻まれたように弾かれ、男は……クーゴは平然とフェイトに向かって叫んだ。

「さっきから言ってんだろ、頭で制御しようとすんな!! 先ずはお前自身の力に慣れろ。話はそっからだ!!」

「は、はい!!」

――その二人を中心に、遥か後方。出入口の近くに立つ、背の高い女性と年齢の割に背の低い……ゲフンゲフン、些か育ちが悪い少年がその異常な光景を普通に会話しながら見学していた。

「……こういった光景に短期間で慣れると、些か悲しくなるな」

「そうかしら、良い経験になるわよ。クロノ君」

時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンと処刑人(エグゼキューター)、高町なのは。

まぁ、あんな命懸けの事を経験すれば嫌でも慣れるだろう……一生涯、慣れたくはない物だが。

……あの誰にも知られることのなかった騒ぎから、既に一週間が経過しようとしていた。その間に、短い期間とはいえ物事は次々と変化を続けていた。

「で、クロノ君はこの前のことはどう上に説明するつもりかしら?」

この前のこと、とは勿論“闇の書事件”の最中に起こった『時空の翼』による出来事――一つ選択を間違えれば、なのはを含めた強大な戦力全てを敵に回すことに成りかねないことだ。

だが、クロノは平然と……当たり前のようにその問い掛けに答えた。

「何のことだ? ただ僕達は消えようとしていた人ひとりの命を助けようとし、無事に救出を完了。その中で“何故か”守護騎士の一人が協力をしてくれた……が、この出来事には証拠がなに一つとして無い。事実確認が出来ない“空想”は、報告する物ではないさ」

「……待ちなさい。あの翼のエネルギーは次元が違い過ぎて遠くからじゃ観測不能だけど、アースラの機器はエラーとはいえ観測していた筈よ?」

確かに、他にも結界内部にてクロノとなのはが守護騎士を追い詰めたが、彼らが観測不能の“何かを使い”あと一歩の所で取り逃がした、とでも“空想”を言えば言い訳は利く。

しかし、アースラのデータには言い訳できないレベルの理解不能なデータが残っている。明らかに守護騎士の仕業ではない上に魔法技術ですらないそれを、一体どうやって言い訳するのか。

するとクロノは困った様に肩を竦ませ、こればかりはどうしようも無いとばかりに言葉を放った。

「それがな、この一週間いろいろと忙しかったから言っていなかったが、あの時のアースラのデータは綺麗さっぱり消えていた」

「それって……」

「勿論、僕ではないさ。そんな権限は僕にはない。だが確かに、あの日の出来事のデータが、“まるで最初からなかったかのように”綺麗さっぱり消えていた。するつもりも無いが、僕がいくら声を荒げたところで、上の誰も信じないだろうな」

――時空管理局が誇る技術の結晶たるアースラの機器が、何の形跡も無く侵入され、剰えデータまでいじくり回されていた。

無論、そんな事を出来る人間は殆どいない。なのはが知ってる中でまず候補に上がるのは、管理局の技術者の誰一人として叶うものはいないと言われる天才、裏月だが……彼は個人的な案件で忙しいらしく、この一件には無関係だろう。 続きを読む
  1. 2012/12/29(土) 03:53:33|
  2. 烈火の翼
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第29話

イメージOP、嵐『Face Down』
────────────────────






世界は回る。例え、世界の危機が迫ろうとも、起ころうとも、世界は変わらず回り続ける。

物語は動く、歪んだ形だろうと、確かに終曲へと旋律を奏でる。ただ、確かなのは――物語は終わりと始まりを繰り返す。まるで『ダ・カーポ』の様に、繰り返す旋律‐物語‐。

物語の終わりと、物語の始まりは、すぐそこに迫っていた。その事を知っている者は、ほとんどいない。

だが確かに――歪んだ物語は、ゆっくりと加速していた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

「主、もう10時ですよ」

「……頭痛いから、もうちょっとねかせてよ~」

ちなみにこのやりとり、家ではなく病院の病室内でのやり取りである。

季節が季節なので仕方ないが、病院の毛布を離さず潜る様は、いつもの彼からは想像も出来ない姿である。毛布の所為で姿は見えないが、誰かは言わなくても解るであろう。現在進行形でアイドルと付き合っていると言う、冷静に考えると凄いことをしている、ヒナギクだったりする。

そんな布団の中の彼を、まぁあんな事があったのだから仕方がないか、とお見舞いの花を花瓶に生けながら考え、微笑みと共に見つめる女性は、先日までとはどこか雰囲気の違う魔法使い、芳乃シグナム。

たまには、寝坊助な主と言うのも良いのだろうが、どのみち次の一言で勢い良く起きるのだろうと彼女は“推理”していた。

「そうですか……ですが、そろそろ雪華が見舞いに訪れる頃ですよ」

アイツは今日、オフの日ですから――とシグナムが言葉を放つ頃には、毛布とシーツは既に整えられた後。その間にも、恐るべき速度で髪を整え身嗜みをしっかりと整え……ともかく、雪華が来ることに万全の状態で備えていた。

ちなみに、雪華が朝一で来ない理由はおそらく、見舞いの品をどうするか迷っているのだろうとシグナムには容易に想像が出来た。

なんだか初々しい二人の姿に、無意識のうちに笑みがこぼれてくる。
そんな彼女の雰囲気に見て、この前から疑問に思っていたのか、ヒナギクが少し考える仕草をしてから、言った。

「シグナム、なんか雰囲気変わった?」

その問いに、花を整える手を止めて僅かに瞳を見開き驚きを表すシグナム。

あの後、彼に付きっきりだったとはいえ、気付かれるとは思っていなかった。と言うより、思った以上に自分は顔に出やすい性格なのか……どちらにしろ、隠し通すことでは無いが、かといって言い振らすことでもない。

――せっかくなので、曖昧に答えて誤魔化して見ようか。

「……まぁ、変わったと言えば、変わりましたよ」

変わったと言うより、“戻った”と言う方が正しいかもしれない。それでも、姉にまで“変わった”と言われてしまったのだが。

明らかにはぐらかした返答にも、ヒナギクはふーんと特に気にした様子もない。何にしろ、シグナムはシグナムだと思っているのだろう。要は信頼しているのだ。

――さて、それはそうと。一つ、一応だが言って置こうと思い、扉を開く前に口を開いた。

「主、雪華が来ますから私はそろそろ帰りますが――病院では、昼間に“そういった事”は出来るだけお控えくださいね?」

「へ――えぇ!? そ、そそそんな雪華ちゃんとなんて私!!」

「おや、私は雪華とは言っていませんよ」

「ッ……う、うるさいうるさいうるさい!!!! さっさと行きなさい!!」

墓穴を掘ったヒナギクが顔を真っ赤にし、まるでツンデレの様な台詞――おそらく、中にいる人間の影響――を吐いてシグナムを追い出した。

明るくなったものだな、と扉を閉めて可笑しそうに……いや、嬉しそうにシグナムは微笑む。

――変わった。そう言いたかったのは、寧ろシグナムの方だった。明るくなった、何かを吹っ切ったと言う様にも思える。

それもこれも、命をかけて主を救ってくれた“友人”のお陰……そう考えた時、ふと気が付いた。

(……そういえば、友人が出来たのは初めてだったな)

記憶がなかった時は不思議にも思わなかったが、こう姉と過ごした十年近くの記憶が全て戻ると、なんだか不思議な気分になる。

――天才少女の“妹”。流石はあの人の“妹”……そんな言葉を聞かなかったのは、本当に久しぶりだったから。

「……さて」

記憶の戻った自分の想いに浸るのは、ここまでにしておこう。ふと彼女は桜色の髪を揺らして――不審者三名の後ろに回ることにした。

……不審者三名。赤毛の少女、守護騎士ヴォルケンリッター鉄槌の騎士、ヴィータ。まぁ彼女はいい。

頭に帽子を被った男、盾の守護獣、ザフィーラ。まぁ彼もいい。帽子は犬耳(?)を隠す為の物だろう。

しかし、しかしだ。コートとサングラス……明らかに間違った刑事知識を持ったヴォルケンリッターの最後の一人、湖の騎士、シャマル。

――目立つ。少なくとも病院の人々に怪しい目で見られるくらいには、凄い目立っている。

階段近くの壁辺りに隠れているつもりだろうが、全く隠れていない。そして、一番目立っているであろう人物が、全くそれを自覚していないと言うのが、一番厄介な事だろう。

「……ザフィーラ、やっぱお前シャマル連れて帰れ。アタシ一人で行く」

「だが……」

「お前ヒナギクと面識ないだろ、余計混乱させるだけだ。シャマルは……いると目立つ」

「え? 完璧な変装だと思うんだけど……」

それで完璧な変装なら、全国で変装を必要としている方々は苦労していないだろう。って言うか、楽になってもらっても困るのだが。

もう時間がない筈の守護騎士が、何故三人揃ってこの場にいるかと言えば――

「それで? お前達は何の用だ?」

「何の用って……ちょっと余裕が出来たから、この前の事をヒナギクに謝りに……」

「そうか、殊勝な事だな」

言いながら、ヴィータは気付いた。待て、今話しているのは一体誰だ、と。ザフィーラは勿論、いなかったシャマルにも事情は話している。

本来ここに来る余裕はなかったのだが、イレギュラーな事態があった事で余裕が出来た。

話を戻そう、今自分と話していたのは誰だ? いや、問う迄もない。その声を聞き間違う筈もないし、答えは目の前にあった。

桜色の髪をポニーテールに、彼女の意思の強さを現す様な、透き通る美しい瞳。何処か不思議な雰囲気を纏った彼女は、もう名前を問う迄もない。

「な、なな、なんでお前がここにいんだよ!?」

「主が入院しているからな。大体、私が病院にいて何が悪い」

それは、いつかと同じヴィータの問いかけ。が、シリアスの欠片もなく、あっさりとシグナムの正論によって切り捨てられた。

問いかけたヴィータも、冷静になるとそりゃそうだよな、と思ってしまう辺り、やはりシリアスの欠片もない。

そんなヴィータを尻目に、シグナムは酷く驚いているシャマルとザフィーラに視線を向け、そして再びヴィータに視線を戻しながら言った。

「……ザフィーラにシャマル、それにヴィータ、で合っているか?」

「合っているかって……貴方、“思い出した”んじゃなかったの?」

「思い出した、と言うのは語弊がある。私の記憶にない記録を、外部から叩き込まれた様な物だからな」

シグナムの言葉を聞いてもちんぷんかんぷん、といった風の三人。そりゃそうだ、これは彼女と記憶を封じる『魔法』を使った“姉”にしか分からない。

『……キミが全てを思い出した時、この記憶……いや、記録がキミの中に流れ込む。その時どうするかは、キミ次第だよ』

流れ込んだ記録は、そう多い物ではない。“前の自分”が目の前の三人とどういう関係だったのか、そして“夜天の魔導書”と言う本。

――だからといって、別にどうこうする気はない。自分は『烈火の魔法使い』。そして何より、あの方の“妹”である『芳乃シグナム』なのだ。

今の自分の記憶は、確かにそう。例え姉やおばあ様に会う前、どういう状態だったとしても、残酷な言い方だがまったく関係ない。

――烈火の魔法使いは、今まで確かにこの世界で姉と共に生きてたのだから。そしてこれからも、芳乃シグナムとして生きていく。流れ込んだ記録を見ても、シグナムは意志を変えず、そう選択したのだから。

(しかしまぁ、思い返すと姉さんも役者だな……)

何が自分では解けない、だ。掛けた本人が解けない訳ないし、さらっとおばあ様に責任を転嫁していた。まぁおばあ様もそう言われても仕方のないことをしているし、記憶が戻ったらすぐにバレる嘘だったのだから、よしとする事にしよう。

「それはそうと、主は今取り込み中……いや、取り込み中になる処か」

「は?」

「ほら、あれだ」

シグナムに顔の動きだけで促され、三人は揃ってヒナギクの病室を見た。

……そこに居たのは、一人の超絶美少女。帽子を被っていても、そのオーラは消せはしない。

そしてヴィータは、彼女に見覚えがあった。緋色の髪をなびかせ、業火の中から現れた彼女の姿を忘れる訳もなく、それ以前に“テレビで見た”記憶が――

「あぁ!! もしかして藤原ゆき――ふがっ」

「はいはい、言いたいことは分かるし、最近忘れていた正しい反応だが、病院では静かにな」

彼女の名を思わず叫ぼうとしたヴィータの口を、すぐさまシグナムが手で塞ぐ。

確かに、普通に身近にいるので忘れていたが、藤原 雪華とは今をときめく現役トップアイドル。本来テレビの向こうの人物なのだ。ヴィータの反応は凄く正しいし、ここで騒ぎが起きないことの方が奇跡に近い。

まぁそこは、使用する人達のマナーの良さ故だろう。病院の先生やナースの人に、サインを求められたりはしたが。

バシバシ、とシグナムの手を叩くヴィータ。分かったと言うことなのだろう、シグナムも大人しく手を離してヴィータを自由にしてやる。そこで当然の如くテレビの前での雪華を知るシャマル(はやてと揃ってファンだったりする。ちなみに口数が少ないザフィーラも)が、部外者の人間からすれば当たり前の疑問を持ち出した。

「な、なんで雪華ちゃんがその……ヒナギクさんの病室に?」

「なんでと言われてもな……主の“彼女”であるアイツが、見舞いに来てはいけない理由があるのか?」

沈黙、そして三人揃って目を見開き超絶の驚愕。なんだか、シグナムが目の前に現れた時より驚いている気がする。いや、確かに現役トップアイドルが現れて、果てには目的の人物の彼女などと言われれば、当然の反応かもしれない。

シグナムにとっては今さらだし、アイドルである以前に雪華個人の友人であるので、特に問題はない。
二回言うが、今さらなのである。

その当本人、藤原雪華はもう何回目かの手鏡を取り身嗜みをチェック。そして見舞いの品だろう物を持ちながら、入った時のシミュレーション。そこから再び身嗜みを――ループに入っていた。

が、そんな事をしている間に後ろにいた少年が迷わず扉を開き、雪華を強引に押し込んで手早く扉を閉めた。

まさに早業。そして目が物語っている……なんでこんな事してんだろ俺、と。静かに黄昏る少年……冬獅郎がシグナムの存在に気が付き、ふらりとシグナム達の下へ到達した。

「お疲れ様です、冬獅郎殿」

「なんで俺がこんな事……つうかお前がやれよめんどくせぇ」

「いえいえ、冬獅郎殿が一番適任でしょうから」

にこやかにそう告げるシグナムは、冬獅郎はめんどくさそうに、そうかよ、と言って静かに諦める。まぁ仕方がない。二人の会話に付き合う必要がないだけマシだろう。 続きを読む
  1. 2012/12/17(月) 17:49:03|
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魔法少女リリカルなのは 烈火の翼 第28話

推奨ED、ポルノグラフィティ『ゆきのいろ』


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何もない、暗闇の世界。どこかも解らぬ、闇一色の世界。その世界に二人の同じ、しかし違う人間が相対した。

片や、今にも泣きそうな表情で相手を見上げる……ヒナギク。片や、まるで迷子の相手をする様にしゃがみ視線を合わせる……紅 刹那。

同じ容姿なのに、どこか雰囲気が全く違う、不思議な二人。当たり前だ――既に、別の道を歩み始めているのだから。

「貴方が悩んでる理由、当てて見せましょうか?」

ふと、刹那が立ち上がりヒナギクを見下ろし、今度は悪戯っ子の様な笑みを浮かべる。そうして、今ヒナギクがここから出ようとしない“もう一つの理由”を簡単に言い当てた。

「大事な人に嘘ついたこと、後悔してるんでしょ?」

「ッ!?」

途端、酷く驚き、そして居たたまれない様な……そんな表情になるヒナギク。明らかに、図星のようである。

後悔、かは解らない。でも、あの時嘘をつき、今尚その事を心の奥底に隠していた。

――嫌われてしまったかもしれない。そんな、少年の様な悩みを表に出さないまま抱え込み、今の様な引きこもった状態になってしまっている。

通常なら、普通の彼ならばこうはならない。だが、それを可能にしてしまうのが“翼”の力。

自分から漏れだした“一部”の力でこれなのだから、困ったものだと内心ため息を吐く刹那。しかし、いつまでもこんな状態にしておく訳にはいかない。何せ、もう外に“迎え”が来ているし、自分が抑えて置くのにも限度と言う物がある。

――かったるい事は、あまりしたくないのに。

「仕方ないなぁ。じゃあまず感情の整理からね」

「?」

「烈火の魔法使い……あぁ、貴方には烈火の騎士か。彼女の事は、どう思ってるの?」

烈火の騎士、シグナムの事だろうか? 彼女の事……ずっと、一緒にいてくれると言ってくれた、大切な、大切な――

「……家族。よく、解らないけど、そんな気がする」

「そっか」

なんだか、目の前の人物に会ってから自分の気持ちが定まっていく……しっかりとした“自分”になっていく、そんな不思議な気持ちをヒナギクは感じた。

対して刹那は、その答えを聞いて“何故か”とても安心した様な安堵の表情を浮かべる。その理由は、やはり刹那にしか解らない。

「じゃあ……あの子は? 雪華ちゃんは?」

「……雪華ちゃん」

あの子への、想い。真っ直ぐで、天真爛漫で、でも仕事の事になると凄く必死で、凄く輝いてて。

そんな少女を、自分はどう思っているのか? 嘘偽りの無い、確固とした今の自分の気持ち、想い。

家族? いや、確かに一緒に暮らしてはいるが、何かが違う。友人? いや、これも何かが違う。じゃあ、一体何が――

『アンタ、その二人に恋してるんじゃね?』

(……あぁ、そっか)

もう、答えならとっくに出ていたのかもしれない。

出逢い、彼女の輝きを見た時、彼女と接した時間が刻まれた時、既にもう。

漸く、感情の整理がついたヒナギクが、ゆっくりと、自分にも言い聞かせていくように……言葉を紡いだ。


「――好き。私は、雪華ちゃんが……好きなんだ」


――それが彼の、彼だけの答え。出逢った時から、恋い焦がれていた。

その答えを聞き、美しく優しげな笑みを溢し、刹那はまた言葉を紡いだ。

「なら、こんな所にいないで、さっさと往きなさい。自分に嘘をつくのは、もうお終い。きっと、彼女は貴方の全てを受け止めてくれる」

「刹那、さん」

「私やさくらさん、烈火の魔法使いの『魔法』は奇跡を起こせるけど、決して万能じゃない」

そうだ、なのは達の使う魔法とは別物の『奇跡』を起こせる魔法とはいえ、決して万能などではない。
けど――

「でもね――愛や恋は、結構万能だから」

もう、彼らは大丈夫だろう。その想いさえ在れば、きっと何でも乗り越えて往ける。

だから後は……。

「でも、私は……」

「記憶がないって? 在るでしょ、ここに」

自然に、刹那が手を置いたのはヒナギクの胸。そこに詰まった、大切な物。

「なのはちゃんやさくらさん、桃子さんや士郎さん、烈火の魔法使いや……雪華ちゃん。皆との、大切な思い出はもうここに。貴方だけの、私とは違う大切な記憶が在るでしょう?」

「あ――」

そうだ、大切な記憶もう……ここに在ったのだ。何よりも大切な、皆との記憶。

もう大丈夫そうかな、と刹那は立ち上がり――純白の翼を、広げた。闇夜を照らす、純白の光はヒナギクを包み込み、外への道を繋げる。

「刹那さん……?」

「全部が終わった後でいいから、士郎さんと桃子さんの話もちゃんと考えなさいよ? さぁ――お別れです」

「待って!! 貴方は――」

「貴方に――蒼天の幸運を」

瞬間、ヒナギクは光と羽に包み込まれ――彼の“心”は、外の空間へと回帰した。

また、闇一色の世界の中で彼は一人になる。そして一つ、呟いた。

「そろそろ……潮時かな」

――その言葉を意味を知る者は、まだいない。彼の姿は暗闇へと消え失せ……歪んだ物語は、双天の魔法使いをも巻き込み加速を始めた。









◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

ドクン、ドクンと“翼”が作り出した空間が酷く震え――爆発的な衝撃が、真っ直ぐ響いた。

「くっ……!!」

咄嗟に動いたのは、やはり最強の魔導師と名高い女性、高町なのは。急ぎクロノ、そして本来は敵であるヴィータもわざわざ引き寄せて、広範囲に強力な防御フィールドを展開するワイドエリアプロテクションを作り出した。

次の瞬間、時空の翼を展開するヒナギクの更に後方。その空間に、確かな亀裂が走り――爆発的な紅蓮の業火が、一瞬にして辺り一帯を埋め尽くした。

「なっ……」
「シグナムかっ!?」

クロノが、ヴィータがその業火を見て驚きで目を見開くが、彼らの元にも炎が行き届く。そして、ワイドエリアプロテクションと炎が衝突――一瞬で、プロテクションを圧し込んだ。

(ッ……もうちょっと、加減してくださいよシグナムさん!!)

急ぎさらなる魔力を込め、辺りを包み込む炎から身を守りながら、未だ姿を見せない技を放った本人に文句を言う。

が、これでも加減は“している”のだ。この強固な歪みの結界をいとも簡単に破壊し、多少なりとも威力が落ちている筈なのに、高町なのはの鉄壁の防壁を圧し、尚広範囲に広がる業火。

――瞬発的な威力が一体どれ程であったのか、あまり知りたくはないことである。

だが、まだ終わりではない。何かが、信じられないことに業火の広がる亀裂の内部を突き進み、突入してくる。そんな馬鹿げた事を出来るのは、撃った本人を含め限りなく少ない。

だから、力の波動も含め、そして“氷結する炎”の光景を見て、誰が来たかは直ぐに理解できた。亀裂が、さらに広がる。そして、残り火とも言える業火をも氷結させ――姫君が姿を現した。

「――ヒナッ!!」

なびく“緋色”の髪。彼女そのものを表現するかのような、灼熱の炎髪。そして、己の師の名前を叫んだ事でやはりと思った。

氷雪系最強の刀、『大紅蓮氷輪丸』を展開し、氷華の翼で飛翔する氷の姫君――藤原 雪華。

残り火とはいえ、あの炎の中を突っ切って来るとは、全く予想外の登場の仕方だ。しかし、そんな事を考えている時間も惜しい。直ぐ様彼女に師の事を頼もうとし――急速に何かの力が強まって行くのをなのはは感じ取った。

「まさか……!!」

「このタイミングでか!?」

同じく、クロノも気が付いた。歪みを生み出していた力が、急速に翼へと集い出した。このままでは数秒もしない間に――この空間は、消滅する。

瞬時にそれを感じ取ったのだろう、雪華がヒナギクの元へと一気に飛翔する。が、それよりも速く……力の解放が始まった。

「雪華さん!! くっ!?」

衝撃がなのは達の元へも響き、変わらずプロテクションを解く事は出来ない。今プロテクションを解けば、自分達はたちまち吹き飛ばされてしまうだろう。

だが、雪華はその衝撃を何の防御も無しに、それどころか勢いを殺さずに迷いなく突っ込む。

当然、それによって――

「ッ!!」

『雪華!!』

雪華の受けるダメージは、その分増していく。けど――知ったことか。

氷華の翼が砕け、辺りに氷が散る――知ったことか。

衝撃に打たれ、口に血の味がする――知ったことか。

「関係……ない!!!!」

腕を伸ばす。その腕からも、血が溢れ出る――知ったことか!!

今は、目の前にいる大切な人の事だけを考える。こんな状態の自分を見たら、彼は泣くだろうか? でも、それでも、彼を救けたいから。だから、叫ぶ。

大好きな人の、名を。



「ッ……ヒナァァァァァアアアア――――――!!!!!」



……彼の表情が、辛うじて見える。驚きに染まった表情。そして、自分を見た彼の瞳は“確かな光を宿し”て――彼女の名を、呼んだ。

「ゆきか……ちゃん」

――刹那、安堵の表情を浮かべる雪華の指にヒナギクの指が触れ――強く、強く互いの身を抱き締めた。

翼が散る。二人が、そのまま離脱していく中、分離した力は……まだ生きていた。光が球体上の形となり、未だ強い光と衝撃を放っている。

「なのは!!」

「さっきよりマズいわ……このままじゃ、見境なく空間を破壊して現実空間にまで影響を及ぼしかねない!!」

ならどうする、と言うクロノの視線だけの言葉には答えず、神羅によって恐ろしく迅い思考速度を限界まで加速させる。

“アレ”を止める手段……ダメだ、今の自分達にその手段は存在しない。ならばせめて、“彼女”がたどり着くまでの時間稼ぎ――無理だ。

何か強い威力を持った力……それが在れば、僅かでも時間を稼ぐ事が出来るだろう。“彼女”が到着する、その僅か足りない時間を。

だが――手がない。今にも突撃していきそうな守護騎士のヴィータ……無理だ、彼女の攻撃が一番威力を発揮できるのは、おそらく接近戦。この障壁を常に展開していなければいけない状態では、とてもではないが接近は不可能。

クロノも、同じく無理だ。彼の場合、衝撃を貫いて尚時間を稼げる様な“火力”が足りない。

ならばその火力を持つ彼女自身――やれる物なら、とっくにやっている。

(この……己の未熟が恨めしい!!)

この空間に侵入する時に使った、転移用の魔力。さらに『ディバインバスター・エクスキューションシフト』で、温存していた魔力の半分以上を失い……今のこのプロテクション、想像以上に魔力を消費している。いや、彼女でなければとっくに崩れている、と言う方が正しいか。

衝撃を防ぎ切るだけのプロテクション、それを三人を囲み切るだけの範囲で、さらに長時間展開している。魔力が底を尽き掛け、障壁を圧し込まれ感覚が無くなり掛けている右腕を左腕で支え、そんな状態でも尚高速で動く思考を止めない。

破棄、破棄、破棄。思考しては、立案したプランを破棄して……彼女の気持ちとは裏腹に、無情にも光は輝きを増し――

「月……牙ッ!!」

刹那、響き渡るは運命を変える魔法使いの叫び。また空間に亀裂が奔り――真紅のドレス甲冑を身に纏った、芳乃シグナムが姿を現す。
天鎖斬月・緋炎から溢れる、灼熱の炎。それは、今までの牙とは比べ物にならない――烈火の刃。

鈴の音が鳴り、烈火の翼が、羽撃たく。


「天――衝ォ!!!!」


振り下ろされた刃から、真紅の牙が飛翔する。爆熱の炎が、光と激突し衝撃で空間が悲鳴を上げ――桜が包み込む。 続きを読む
  1. 2012/11/30(金) 04:04:03|
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